アベレーション・ライフ

あきしつ

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四月:終わりの始まり

第14話:復習と復讐

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本郷白兎が引き起こした誘拐事件が二十三家によって解決されたその日の夜、暴走する本郷を鎮めた男・鳥束翼は横浜港に来ていた。
「相変わらず周りくどいな君は」
鳥束は外灯の光の当たらない影に話しかける。姿は見えない。うっすらとシルエットが見えるのみだ。
「なぜ私がここにいると?」
「分かるさ、あの日から君は僕の生きる理由になってくれた」
鳥束はいつもと同じ口調で話す。その影に向かって。
「本郷に誘拐を頼んだのは君だろ?」
「正解です。温度を操る異能力ちから、実に興味深いのでね」
男の口調は冷淡だった。人の命など、糞にも思っていない。そんな雰囲気が感じられる。
「本気で異能力を奪えると?それが可能であればあの事件もその計画の一端かい?」
「ええ、もちろん。お目当てはあなたとあなたの親友の二人だった。だが彼らはそこらの砂利の分際で私の邪魔をした。そのせいで唯一その場にいた彼女の力を奪えなかった。だから殺した」
彼女、恐らくは目当ての異能力者の一人で、鳥束の親友と呼ばれた者だ。
「死んだのは自分のせいだと?」
「ええ、私の邪魔をするからです。勝てないと分かっていながら尚立ち向かう、英雄的行動。下らない」
鳥束は拳を握り、掌から血が流れる。
「ふざけるな、死んだのは自分自身のせい?馬鹿なことを言うな!だからお前は間違っているんだよ!彼らの遺族の気持ちや!生き残ってしまった僕らの気持ち!考えたことないのかよ!」
「理解に及びません。あなたは地べたに散らばる砂利の気持ちをいちいち考えながら歩くのですか?」
鳥束は強化に強化を重ねた脚を一歩前に踏み出す。地面が抉れ、海の海面が音を立てて暴れる。
「お前えええええええええぇぇぇぇ!!!」
鳥束は人外とも言える脚力で男に飛びかかる。
「全く…残念です。あなたもまた、愚者の一人。弱者の分際で」
鳥束の拳は男を捉える。普通であれば押さえられたとしても振りきられ、受けた側は無傷ではすまないレベルのパワーだ。だが男は軽々とゴムボールでも受け止めるように鳥束の拳を押さえる。
「私に歯向かうな」
鳥束の拳を握り潰し、もう片方の手で鳥束の腹に一撃を加える。
「ぐほぁっ…」
その拳は鳥束の腹部を完全に貫いていた。無論、鳥束も敵わないことは知っていた。
(ここまでやるとは…)
「理解しましたか?あなたもまた彼らと同様です。私は強者であり、あなた方は弱者だ」
「そうかもしれないね。確かに…僕らなんて君にとってはカスみたいなものかもしれない。でも覚えておきなよ…強者というポジションで偉そうにしている天狗は、いずれ弱者に脚を掬われる」
「肝に命じておきましょう、ではまたどこかで」
「ふ……」
鳥束は左手で貫通した腹を押さえる。右手は粉砕され、最早原形を止めていない。
やがて出血と痛みで視界が曇る。足の感覚もなくなっていく。鳥束はその場に崩れ落ちる。
「ハア…ハア…ふふ…ごめんね二人共……」
月明かりは鳥束を照らすことなく闇へと返した。空には三つの流れ星が流れている。たった一つだけ、途中で軌道の逸れた奇妙な流れ星だった。



次の日の朝、波乱万丈な先日とはうって変わり、待っているのは日常だった。
「おはよー快、昨日はたいふぇんだっふぁねー」
怜奈があくびを混ぜながら言う。
「何言ってんのか分かんねえよ。おはよ」
朝の会話はテンプレだ。それ以上のこともそれ以下のことも特には話したりはしない。互いに挨拶を交わすのみ。周りからはバカップルだの、早よ付き合えだの言われるが快自身、そんな風に怜奈を見たことはない。多分。

寮での朝食を終えた快達は全員で本校舎へ向かう。寮から一キロ程移動し、森を抜けると本校舎がある。割りと最近できた帝英学園は校舎ももちろん寮も近未来だ。至って移動用の何かがあるわけではない。だが学校生活では不便することはほとんどない。まずは教室の扉が自動ドアであること。快的にはこの要素はあまり必要ない気もするが。
もう一つは三十人用のエレベーターがあることだ。階段の登り降りを死ぬほど憎んでいる快からすると天国のような設営だ。快は過去に階段でやらかしたことがある。何をとは言わないが。
他にも多くのユニバーサルデザイン?が施されている。
「さてと、皆おはよう。そしてお疲れ様」
朝のHR開始のその瞬間から全員が共通してそれを感じた。
(……何でこの教師包帯巻いてんの?)
「って顔してるね皆。いやーちょっと帰りにトラブルに巻き込まれてね。ただのチンピラかと思ったら異能力者でwww」
「アハハ…」
一同は苦笑いをする。ボケなのか真面目なのか全く分からない。それも鳥束の特徴だった。
「昨日の件だけど本郷は魂が抜けたようになっているらしい。事実は聞き出せそうにないと言っていたよ」
「!!」
一同は顔を見合わせる。薬の影響なのだろうか。今は分からなかった。
「赤道さん自身、自分がなぜ誘拐されたのか分からないらしい。だが君たちの話もあって犯人は本郷で確定している」
「昨日の最後の大暴れは何です?俺、先生が来たの朧げに覚えてます」
鳥束は首を傾げる。
「さあ?僕も呼ばれたから来ただけだよ」
快は自身の曇った記憶を呼び起こす。確かあの時…
──君は本当に腐った魚のような人間だ
確かにあの時鳥束はそう言っていた。あの口振りからして本郷をあるいは別の何かを知っているような言い方だった。快はそれを口に出そうとしたが、言ってはいけないような気がし、話題をすり替えた。
「へー、あの場にいなかったのに聞こえたんですね。つくづく凄い異能力です」
鳥束は本を閉じる様な動作をし、話題を変える。
「まあ、終わったことは置いておいてと、体育大会。結構迫っているらしいね。どんなことをするんだい?」
そう、あと三週間もすれば帝英学園の体育大会がある。
「午前中はスポーツメイン、野球サッカーバスケバレーこの四種目をやります。異能力ありの」
祐希が代表して答える。
「成る程ね、じゃあ午後からは何をやるの?」
「午後からは御前試合です。簡単なタイマン勝負」
午前の部で生徒を篩にかけ、選抜を選ぶ。そして午後の部で頂点を決める。それがルールだ。だがそれはあくまでものルールである。
「俺たちは午前の部には出ません。校長の指示で」
「それは君たちの強さたるが所以…かな?」
一同は頷く。一年生の時はそんなルールは無かった。だが、御前試合に出場した生徒が快達のみとなってしまい、それ以来、体育大会は他のクラスを蹴落として優勝しようぜではなく、二十三家共倒そうぜの催しとなっている。
「君たちの他クラスとの仲は承知している。トラブルが多いね。最も他クラスのチンピラが悪さしてるのを君たちが止めているだけのようだが」
鳥束は呆れ顔でガリと頬を人差し指と中指で掻く。
「ハッ、俺らも今さら有象無象共と汗掻いて青春エンジョイする気もねえわ」
運聖が耳をほじりながら言う。
「そう、僕はそういう人間が嫌いだ」
鳥束が黒板からチョークを三つ取り出し、掌に乗せる。
「僕は正義の心を持つ強者と、弱者であることを受け入れてそれでも強者に抗おうとする人は好きだ」
赤と青のチョークを元に戻す。掌に残るは真っ白いチョークだけだ。
「でも、弱者のくせして強者に難癖つける、傲慢な人間は嫌いだ。そんな人間には何も無い。空っぽの脳ミソと情の無い心を持つ真っ白な人間、そんな奴らはね」
残ったチョークを握り締め、力を入れる。バギッ、鈍い音がしてチョークは、無のチョークは粉砕する。
「砕くのみだ」
鳥束は手を開いてみせる。掌から白い破片がパラパラ落ち、鳥束はそれも踏み潰す。快は体が震えているのが分かった。
「運聖君、有象無象と遊ぶつもりはないと言ったね」
「え、あ、おう」
「今年の君たちの体育大会。僕が君たちを暇にはさせない」
鳥束は人差し指を立てて、妖しげに微笑む。
「課題だ。圧倒的力の差、見せつけてきなさい。これは遊びじゃない。復習だ」
退屈だった。自分より強いヤツに会えないと思っていた。その無力感が自分等を貶め、妬まれる理由になっていた。鳥束は今、それから解放させようとしている。
「この学園の王者は誰か、今一度有象無象に復習させてやれ。情けは無用だよ」
快達が一人として勝てない存在は目の前にいる。だから従うわけではない。もしかすると鳥束は本当に…
「呪縛を解く鍵は与えたよ。あとは壊せるかだ」
教室は、静まり返る。普通の人間ならそんな事ごめんだ、そう言うだろう。だが快達は違う。有象無象に興味は無い。だからこそ分かって欲しい、自分達を。
「……っし!面白い!やろう!連中に授業をしてやろう!」
快は立ちあがる。迷う必要は無い。快のそれを発火剤に全員が拳を突き挙げる。

「おーーーーーー!!!」
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