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閑話、智のラファウと力のルドヴィク。
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アール王国の歴史はそれほど古くない。
300年前にプロイス帝国が分裂して辺境伯であった祖先が独立を宣言した。
プロイス帝国は兄弟や親族が王国を名乗り、統治する能力を失って分裂した。
皇帝には造反した貴族を討伐する力を失っており、自ら宗主国であった帝国をプロイス王国に名を改め、兄弟国、家臣の独立を認めた。
否、認めるしかなかった。
何故なら帝国の剣である騎士団が叛乱を起こしてプー王国を建国したからだ。
プロイス王をすべての元凶であるプー王国の打倒を掲げて戦争を続けた。
お家騒動から始まった叛乱戦争は300年間も続けている。
宗主国プロイス王国と同盟を結んだ辺境伯は、プロイス王より王の称号を頂いてアール王となった。
だが、小王国アール王国がプー王国に侵略を許し、敗戦に敗戦を重ねて東に追いやられた。
アール王国は東に森の民ラーコーツィ族、海の民セーチェー族(亜魔人族)と接していた。
森の民ラーコーツィ族は、森の狂人と呼ばれる弓の名手を揃えた一族であり、西から追われた妖精族の末裔であり、森の中なら無敵であった。
海の民セーチェー族は船を自在に操って海を支配する者であった。
どちらも帝国民に恐れられていた民族であったが、アール王は和議を結び両部族に助けを求めた。
ラーコーツィ族は敵の側面から攻撃を仕掛け、プー王国の騎士団は分断を余儀なくされた。
セーチェー族は後背を襲って物資を滞らせた。
アール王はプー王国の騎士団の撃退に成功し、現在のアール王国の基礎を固めたのだ。
アール王国の建国以来の悲願は旧領地の奪還である。
たとえ、わずかな奪還であっても、旧土地を奪い返したカロリナ嬢が為したことは建国以来の偉業であり、カロリナ嬢は王の両脇に控える二頭の獅子『双獅章』という勲章も貰うことになった。
その最高の勲章は、ラーコーツィ侯爵・セーチェー侯爵の初代をはじめ、わずかな者しか受け取っていない。
「どうしましょう?」
「お嬢様、落ち着いて下さい」
「私は言われるままに指揮丈を振っただけよ」
「判っています」
「どうしてこんなことになったの?」
「お嬢様」
「どうして、どうして、どうして!」
「お嬢様」
「とにかく、クッキ―を持ってきなさい」
「判りました」
カロリナ嬢は人見知りしない不思議な魅力のある令嬢であった。
美しい容貌は例を見ない。
でも、軍才がある訳ではない。
気ままで、我儘で、身勝手で、自由奔放で食いしん坊な令嬢でしかない。
人前では猫をかぶっている。
そして、言われた通りにやっただけ?
『勇敢なる兵の諸君、傷つき逃れてきた民達よ。貴方達の屈辱は忘れない。貴方達の苦しみも忘れない。隣人を失った悲しみも忘れない。王国は負け続けている。だが、負けた訳ではない。最後に勝っていればいいのだ。私は約束しよう。貴方達の領地は必ず奪還してみせると。今は美味しいものを食べて英気を養いなさい。最後に勝つのは私達だ!』
凛々しく叫ぶカロリナ嬢に兵は魅了された。
敗れて逃げ帰った兵達に温かい食べ物を与え、ポーションで怪我を治療した後、現れた可憐な少女の鼓舞に勇気を貰ったのだ。
『私は宣言する。奪われたものをすべて取り戻すと』
その宣言は1ヶ月後に現実となった。
大地がひっくり返る新兵器は敵を圧倒し、奪われた衛星町を奪い返すと、敵の砦も陥落させて大河まで侵攻した。
戦場の先頭には、常にカロリナ嬢の姿があった。
王国建国以来の快挙に王国中が沸き立った。
南に赤髪の聖女が現れたのなら、東に金髪の女神が降臨してもおかしくない。
「カロリナ・ファン・ラーコーツィ、そなたに『双獅章』を与える」
「ありがたき幸せ!」
「王国の為に尽くせ!」
「畏まりました」
凛々しくカロリナ嬢は退場し、控え室に戻ってきた。
その瞬間に顔が崩れる。
怯えるようにおろおろした。
「勲章って、何?」
「お嬢様、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうじゃないわ。こんなものを貰ってどうするの? 卒業後は騎士団にとか言われたのよ。無理、無理、無理、剣なんて持ったこともないのよ」
「お嬢様は立派です」
「私はもう戦場なんていきたくないわ。あんな怖い所に行きたがるのはの? 美味しいものもないのよ」
「旦那様は馬車で騎士団の前で鼓舞をするようにと」
「嫌ぁ、嫌ぁ、嫌ぁ、帰ります」
カロリナ嬢は見た目の美しさとは違って、食い意地の張っただけのお嬢様であった。
力も、知恵もない。
レベルはパワーリングで上げただけであり、礼儀作法以外は皆無だった。
しかも怠けモノであり、美味しい物を食べるのが大好きで、理性も信念も根性もない令嬢であった。
コン、コン、扉がノックされた瞬間、カロリナ嬢の崩れた顔がきりっと絞まり、椅子に腰かけて優雅に扇子を仰ぎ始めた。
「パーティーに用意ができました」
「そう、ご苦労!」
カロリナ・ファン・ラーコーツィはとても見栄っ張りな女の子であった。
◇◇◇
時は8年前に遡る。
貴族学園に在籍するラーコーツィ一族と呼ばれる天才の元に、ラーコーツィ一家の令嬢であるカロリナ嬢が悪路(下町)に出現したという噂を聞き付けた。
「なぁ、どう思う」
「ふふふ、南に預言者が現れたなら、東に天使が舞い降りてもいいのではないか?」
「それは冗談か?」
「まさか、真実に行き着くまでは判らんな。とにかく情報を集めろ。どんな些細な情報もだ」
「君をファンクラブに入れるのは一苦労だ」
「俺は真実を知りたい。笑顔を振り回すだけの天使に興味はない」
「判った。調べて来よう」
「期待外れでないことを祈る」
カロリナ令嬢が町に訪れているという噂は聞いていた。
ご生母様に気に入られただけの容姿の美しい令嬢と思っていた。
しかし、そんな令嬢が悪路(下町)に足を向けるのか?
その日、はじめて銀色の瞳を持つ天才の興味を引いた。
しばらくすると、シャイロックという小悪党がアルコ商会という商人を使ってサポヤイ伯爵に金山の話を持っていったという話を聞く。
そのシャイロックの主人がカロリナ令嬢だという噂が流れた。
自分が知る能天気なカロリナ令嬢とは思えなかった。
7歳の時、王宮が二つに割れる危機を回避したのもカロリナ令嬢という噂が流れた。
単なる偶然と思っていたが、二度も続くと偶然では語れない。
「なぁ、カロリナ令嬢は我らすら騙していると思うか?」
「まさか、カロリナ令嬢は純粋な天使だ」
「そうだな! 天使は時として残虐な仮面を被ることもある」
「純粋無垢な我らが天使を疑う余地などない」
「おまえはそれでいい。中々、面白い素材じゃなか!」
カロリナ令嬢はその人の良さから一族の者に愛されていた。
貴族学園の中にカロリナ守る会がひっそりと結成され、そこに銀色の瞳を持つ天才が入ったことで、ファンクラブのような集まりは親衛隊と言って過言でない青年将校の集まりに変わっていった。
その銀色の瞳を持つ天才は小麦事件のエリザベートを称賛した。
「カロリナ嬢のライバルであるエリザベートだ。遂に王国の聖女となったな!」
「カロリナ嬢も負けておらん」
「当然だ」
「カロリナ嬢が気に掛けておられたミクル商会が格安のポーションを売り出したぞ」
「なるほど、カロリナ嬢はこれを狙われていたのか!アルコ商会に言って手に入れるように段取りを付けろ、予算はこちらで何とかする」
「それとはどういうことだ」
「カロリナ嬢は以前よりミクル商会を気に掛けておられた。俺は探ってみたが、番頭の中にイースラの商人だった者がいた。そのことを知っておられたのだ」
「意味が判らん」
「よく聞け! イースラ諸王国連合はリル王国と交易をしている。イースラの商人だった者が手形を持っているなら交易がいつでもできる」
「それは違法ではないのか?」
「上納金さえ納めれば、合法になる」
「おぉ、カロリナ嬢はこれを見とおされておられたのか!」
「そうだ! カロリナ様の叡智はどこまでも先を見通しておられる」
「これは金山以来の大仕事だ」
「エリザベートのズル賢さを高く評価しよう。だが、我がカロリナ嬢の叡智も負けておらんぞ」
「そうだ!」
「そう言えば、大砲という新兵器はどうであった」
「カロリナ嬢もいたく感動されていた」
「あれも凄いぞ! 今までの戦いが変わる」
「それほどか!」
「カロリナ嬢、どこでそんな情報を手に入れたのか?」
「判らん」
「いいではないか」
「しかし、エリザベートもやはり恐ろしいな!」
「カロリナ嬢の方が恐ろしいほど可愛いぞ!」
「そうだ、可愛さは負けておらん」
「ライバルが強敵であるほど、我がカロリナ嬢は輝く!」
「そうだ!」
「我らが支えるぞ」
カロリナ嬢の親衛隊と参謀8人衆はカロリナ嬢の熱狂的な狂信者であった。
銀色の瞳を持つ天才が妙な解釈をするので神秘さが増し、加速度的に信者を増やした。
皆、裏の顔を一切見せないカロリナ嬢に魅了されていた。
本人はまったく知らない。
当然である。
そもそもシャイロックに指示を出していたのは、カロリナではない。
すべてエリザベートの策謀であった。
銀色の瞳を持つ天才も意外と節穴の目をしていた。
否、人は見たいものだけを見る。
その天才は『ポーションと大砲』から危機を察していた。
その二つから敵国の侵攻を予測し、入念に反撃の計画を立てていた。
敵国が侵攻してきた時、彼はこう言った。
「カロリナ嬢が予測された通りだな!」
「カロリナ嬢はこれを予測されていたというのか?」
「当然だ。その為に我々に対応する策を授けてくれた」
「その策とは?」
「倉庫を開け! ポーションを急いで領都に運べ」
「そうか、この為のポーションか!」
「そうだ、ポーションで兵力を回復し、兵力の再編をする」
「なるほど!」
「喜ぶな! 反撃の狼煙は大砲にある」
「あれか!」
「あれならいける」
「しかし、間に合うのか?」
「大丈夫だ。カロリナ嬢は船用に用意した大砲の在庫があると読まれている。交渉次第で回して貰えるハズだ」
「流石、カロリナ嬢の叡智は尽きぬな!」
「カロリナ嬢、万歳」
「カロリナ嬢、万歳」
「喜ぶのは早い。とにかく大砲だ。急ぐぞ!」
銀色の瞳を持つ天才は隣国の侵攻に素早く対応した。
氷の造形を見るほど美しい容姿と銀色の瞳を持つ天才を青年参謀ラファウといい、がっちりした筋肉美と柔らか笑顔を持つ猛将ルドヴィクという。
ラファウの智謀は戦場を見渡し、ルドヴィクの果敢な攻めで勝利を捥ぎ取った。
彼らの活躍がカロリナ嬢を救国の英雄にのし上げた。
カロリナは勝利の『戦女神』と褒めて称えられ、歩兵隊が中心にした『旧領地奪還軍』を認めさせたのだ。
智のラファウと力のルドヴィク。
どちらも表紙を飾ってもおかしくない美少年だったが、ゲームに登場しないモブキャラをエリザベートが知る訳もなかった。
300年前にプロイス帝国が分裂して辺境伯であった祖先が独立を宣言した。
プロイス帝国は兄弟や親族が王国を名乗り、統治する能力を失って分裂した。
皇帝には造反した貴族を討伐する力を失っており、自ら宗主国であった帝国をプロイス王国に名を改め、兄弟国、家臣の独立を認めた。
否、認めるしかなかった。
何故なら帝国の剣である騎士団が叛乱を起こしてプー王国を建国したからだ。
プロイス王をすべての元凶であるプー王国の打倒を掲げて戦争を続けた。
お家騒動から始まった叛乱戦争は300年間も続けている。
宗主国プロイス王国と同盟を結んだ辺境伯は、プロイス王より王の称号を頂いてアール王となった。
だが、小王国アール王国がプー王国に侵略を許し、敗戦に敗戦を重ねて東に追いやられた。
アール王国は東に森の民ラーコーツィ族、海の民セーチェー族(亜魔人族)と接していた。
森の民ラーコーツィ族は、森の狂人と呼ばれる弓の名手を揃えた一族であり、西から追われた妖精族の末裔であり、森の中なら無敵であった。
海の民セーチェー族は船を自在に操って海を支配する者であった。
どちらも帝国民に恐れられていた民族であったが、アール王は和議を結び両部族に助けを求めた。
ラーコーツィ族は敵の側面から攻撃を仕掛け、プー王国の騎士団は分断を余儀なくされた。
セーチェー族は後背を襲って物資を滞らせた。
アール王はプー王国の騎士団の撃退に成功し、現在のアール王国の基礎を固めたのだ。
アール王国の建国以来の悲願は旧領地の奪還である。
たとえ、わずかな奪還であっても、旧土地を奪い返したカロリナ嬢が為したことは建国以来の偉業であり、カロリナ嬢は王の両脇に控える二頭の獅子『双獅章』という勲章も貰うことになった。
その最高の勲章は、ラーコーツィ侯爵・セーチェー侯爵の初代をはじめ、わずかな者しか受け取っていない。
「どうしましょう?」
「お嬢様、落ち着いて下さい」
「私は言われるままに指揮丈を振っただけよ」
「判っています」
「どうしてこんなことになったの?」
「お嬢様」
「どうして、どうして、どうして!」
「お嬢様」
「とにかく、クッキ―を持ってきなさい」
「判りました」
カロリナ嬢は人見知りしない不思議な魅力のある令嬢であった。
美しい容貌は例を見ない。
でも、軍才がある訳ではない。
気ままで、我儘で、身勝手で、自由奔放で食いしん坊な令嬢でしかない。
人前では猫をかぶっている。
そして、言われた通りにやっただけ?
『勇敢なる兵の諸君、傷つき逃れてきた民達よ。貴方達の屈辱は忘れない。貴方達の苦しみも忘れない。隣人を失った悲しみも忘れない。王国は負け続けている。だが、負けた訳ではない。最後に勝っていればいいのだ。私は約束しよう。貴方達の領地は必ず奪還してみせると。今は美味しいものを食べて英気を養いなさい。最後に勝つのは私達だ!』
凛々しく叫ぶカロリナ嬢に兵は魅了された。
敗れて逃げ帰った兵達に温かい食べ物を与え、ポーションで怪我を治療した後、現れた可憐な少女の鼓舞に勇気を貰ったのだ。
『私は宣言する。奪われたものをすべて取り戻すと』
その宣言は1ヶ月後に現実となった。
大地がひっくり返る新兵器は敵を圧倒し、奪われた衛星町を奪い返すと、敵の砦も陥落させて大河まで侵攻した。
戦場の先頭には、常にカロリナ嬢の姿があった。
王国建国以来の快挙に王国中が沸き立った。
南に赤髪の聖女が現れたのなら、東に金髪の女神が降臨してもおかしくない。
「カロリナ・ファン・ラーコーツィ、そなたに『双獅章』を与える」
「ありがたき幸せ!」
「王国の為に尽くせ!」
「畏まりました」
凛々しくカロリナ嬢は退場し、控え室に戻ってきた。
その瞬間に顔が崩れる。
怯えるようにおろおろした。
「勲章って、何?」
「お嬢様、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうじゃないわ。こんなものを貰ってどうするの? 卒業後は騎士団にとか言われたのよ。無理、無理、無理、剣なんて持ったこともないのよ」
「お嬢様は立派です」
「私はもう戦場なんていきたくないわ。あんな怖い所に行きたがるのはの? 美味しいものもないのよ」
「旦那様は馬車で騎士団の前で鼓舞をするようにと」
「嫌ぁ、嫌ぁ、嫌ぁ、帰ります」
カロリナ嬢は見た目の美しさとは違って、食い意地の張っただけのお嬢様であった。
力も、知恵もない。
レベルはパワーリングで上げただけであり、礼儀作法以外は皆無だった。
しかも怠けモノであり、美味しい物を食べるのが大好きで、理性も信念も根性もない令嬢であった。
コン、コン、扉がノックされた瞬間、カロリナ嬢の崩れた顔がきりっと絞まり、椅子に腰かけて優雅に扇子を仰ぎ始めた。
「パーティーに用意ができました」
「そう、ご苦労!」
カロリナ・ファン・ラーコーツィはとても見栄っ張りな女の子であった。
◇◇◇
時は8年前に遡る。
貴族学園に在籍するラーコーツィ一族と呼ばれる天才の元に、ラーコーツィ一家の令嬢であるカロリナ嬢が悪路(下町)に出現したという噂を聞き付けた。
「なぁ、どう思う」
「ふふふ、南に預言者が現れたなら、東に天使が舞い降りてもいいのではないか?」
「それは冗談か?」
「まさか、真実に行き着くまでは判らんな。とにかく情報を集めろ。どんな些細な情報もだ」
「君をファンクラブに入れるのは一苦労だ」
「俺は真実を知りたい。笑顔を振り回すだけの天使に興味はない」
「判った。調べて来よう」
「期待外れでないことを祈る」
カロリナ令嬢が町に訪れているという噂は聞いていた。
ご生母様に気に入られただけの容姿の美しい令嬢と思っていた。
しかし、そんな令嬢が悪路(下町)に足を向けるのか?
その日、はじめて銀色の瞳を持つ天才の興味を引いた。
しばらくすると、シャイロックという小悪党がアルコ商会という商人を使ってサポヤイ伯爵に金山の話を持っていったという話を聞く。
そのシャイロックの主人がカロリナ令嬢だという噂が流れた。
自分が知る能天気なカロリナ令嬢とは思えなかった。
7歳の時、王宮が二つに割れる危機を回避したのもカロリナ令嬢という噂が流れた。
単なる偶然と思っていたが、二度も続くと偶然では語れない。
「なぁ、カロリナ令嬢は我らすら騙していると思うか?」
「まさか、カロリナ令嬢は純粋な天使だ」
「そうだな! 天使は時として残虐な仮面を被ることもある」
「純粋無垢な我らが天使を疑う余地などない」
「おまえはそれでいい。中々、面白い素材じゃなか!」
カロリナ令嬢はその人の良さから一族の者に愛されていた。
貴族学園の中にカロリナ守る会がひっそりと結成され、そこに銀色の瞳を持つ天才が入ったことで、ファンクラブのような集まりは親衛隊と言って過言でない青年将校の集まりに変わっていった。
その銀色の瞳を持つ天才は小麦事件のエリザベートを称賛した。
「カロリナ嬢のライバルであるエリザベートだ。遂に王国の聖女となったな!」
「カロリナ嬢も負けておらん」
「当然だ」
「カロリナ嬢が気に掛けておられたミクル商会が格安のポーションを売り出したぞ」
「なるほど、カロリナ嬢はこれを狙われていたのか!アルコ商会に言って手に入れるように段取りを付けろ、予算はこちらで何とかする」
「それとはどういうことだ」
「カロリナ嬢は以前よりミクル商会を気に掛けておられた。俺は探ってみたが、番頭の中にイースラの商人だった者がいた。そのことを知っておられたのだ」
「意味が判らん」
「よく聞け! イースラ諸王国連合はリル王国と交易をしている。イースラの商人だった者が手形を持っているなら交易がいつでもできる」
「それは違法ではないのか?」
「上納金さえ納めれば、合法になる」
「おぉ、カロリナ嬢はこれを見とおされておられたのか!」
「そうだ! カロリナ様の叡智はどこまでも先を見通しておられる」
「これは金山以来の大仕事だ」
「エリザベートのズル賢さを高く評価しよう。だが、我がカロリナ嬢の叡智も負けておらんぞ」
「そうだ!」
「そう言えば、大砲という新兵器はどうであった」
「カロリナ嬢もいたく感動されていた」
「あれも凄いぞ! 今までの戦いが変わる」
「それほどか!」
「カロリナ嬢、どこでそんな情報を手に入れたのか?」
「判らん」
「いいではないか」
「しかし、エリザベートもやはり恐ろしいな!」
「カロリナ嬢の方が恐ろしいほど可愛いぞ!」
「そうだ、可愛さは負けておらん」
「ライバルが強敵であるほど、我がカロリナ嬢は輝く!」
「そうだ!」
「我らが支えるぞ」
カロリナ嬢の親衛隊と参謀8人衆はカロリナ嬢の熱狂的な狂信者であった。
銀色の瞳を持つ天才が妙な解釈をするので神秘さが増し、加速度的に信者を増やした。
皆、裏の顔を一切見せないカロリナ嬢に魅了されていた。
本人はまったく知らない。
当然である。
そもそもシャイロックに指示を出していたのは、カロリナではない。
すべてエリザベートの策謀であった。
銀色の瞳を持つ天才も意外と節穴の目をしていた。
否、人は見たいものだけを見る。
その天才は『ポーションと大砲』から危機を察していた。
その二つから敵国の侵攻を予測し、入念に反撃の計画を立てていた。
敵国が侵攻してきた時、彼はこう言った。
「カロリナ嬢が予測された通りだな!」
「カロリナ嬢はこれを予測されていたというのか?」
「当然だ。その為に我々に対応する策を授けてくれた」
「その策とは?」
「倉庫を開け! ポーションを急いで領都に運べ」
「そうか、この為のポーションか!」
「そうだ、ポーションで兵力を回復し、兵力の再編をする」
「なるほど!」
「喜ぶな! 反撃の狼煙は大砲にある」
「あれか!」
「あれならいける」
「しかし、間に合うのか?」
「大丈夫だ。カロリナ嬢は船用に用意した大砲の在庫があると読まれている。交渉次第で回して貰えるハズだ」
「流石、カロリナ嬢の叡智は尽きぬな!」
「カロリナ嬢、万歳」
「カロリナ嬢、万歳」
「喜ぶのは早い。とにかく大砲だ。急ぐぞ!」
銀色の瞳を持つ天才は隣国の侵攻に素早く対応した。
氷の造形を見るほど美しい容姿と銀色の瞳を持つ天才を青年参謀ラファウといい、がっちりした筋肉美と柔らか笑顔を持つ猛将ルドヴィクという。
ラファウの智謀は戦場を見渡し、ルドヴィクの果敢な攻めで勝利を捥ぎ取った。
彼らの活躍がカロリナ嬢を救国の英雄にのし上げた。
カロリナは勝利の『戦女神』と褒めて称えられ、歩兵隊が中心にした『旧領地奪還軍』を認めさせたのだ。
智のラファウと力のルドヴィク。
どちらも表紙を飾ってもおかしくない美少年だったが、ゲームに登場しないモブキャラをエリザベートが知る訳もなかった。
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