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30.その名前がここで来たか!
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悪路(下町)の場末の酒場に似合わぬ姿で、妙に馴染んでいる貴族が入っていった。
「いらっしゃい!」
「スペンサー子爵様!?」
「スペンサー様、大丈夫でしたか? 逮捕されたと聞きましたが?」
「おぉ、カザツか!? 俺は何か悪いことをしたか?」
「何かって、商人を襲うように炊き付けた罪で警邏隊に捕まったと聞きました」
「炊き付けたとは何たる誤解だ。俺は恥を恥と知らん強欲貴族に鉄槌が下ればいいと正当な主張をしただけだ。そうであろう」
「まぁ~、そうでございますな!」
「大通りの向こうにある商人の倉庫街には大量の小麦がある。小麦は商人らに買われ、相場は10倍に上がっている。我らはパンを食べることもできん。然るに、聖女などと言われていても1粒の小麦を売ろうとせん。相場より高い値を付けた者のみに売ると言うではないか。神の鉄槌が下って何の不思議がある」
「まったくでございます。悪党中の悪党でございます」
「そうであろう。酒を!」
女中がエールをテーブルに置いた。
スペンサー元子爵は扇動罪で警邏隊に呼び出しを受け、堂々と向かい合った。
そして、警邏の取り調べ官を相手に同じことを言ってきた。
置かれたエールをスペンサー元子爵は一気に飲み干す。
「何が自重して頂きたいだ。取り調べるべきはヴォワザン家であろう。50年前も仕える王を裏切って、この王国に寝返った一族だぞ。何が第5家だ。守銭奴の家を取り締まり、倉を開けろと言ってやった」
「おぉ、流石、スペンサー子爵に乾杯!」
「スペンサー子爵が正義だ」
「そうだ、そうだ!」
「ははは、亭主。皆に酒を奢ってやれ!」
へい、亭主は短く答えて、皆に酒を振る舞ってゆく。
スペンサー元子爵は10日前から急に羽振りがよくなった。
よく奢ってくれる気前のいい貴族様と持ち上げられていたが、まるでタガが外れたように驕り出した。
「俺は悪徳商人を投げ飛ばしたぞ!」
「よくやった。酒を奢ろう。好きなものを頼め!」
「俺は店に怒鳴り込んできたぞ」
「褒めて遣わそう。この袋から好きなだけ銅貨を持って帰れ! 妻がいるなら土産でも買ってやれ!」
「ありがとうございます」
鉄槌を下したと主張する者に気前よく奢った。
その驕りに在りつこうと夕方から店に来る客が多くなった。
タダで酒が飲めて飯も付く。
落ち零れた貴族様にとって、悪党の大貴族が困っているだけで胸がすくらしい。
それが警邏の調査官が上げた調査書である。
スペンサー元子爵の主張は悪路(下町)のおおむねの評判であり、それを罪とするなら悪路(下町)の住人をすべて捕えなければならない。
「調査官の調べを聞いた隊長が釈放を決めたようです」
「まぁ、そうなるわね」
「姉様、小麦を買い合付けて不当に値を吊り上げたという主張は言い過ぎではないでしょうか?」
「アンドラ、それは嘘じゃないでしょう!」
「しかし、今年に入って小麦を買っておりません」
「そうよ、不当に値を吊り上げたのは去年のこと。去年は安くなるハズの小麦を買い漁ったので高くなってしまった。スペンサー元子爵は今年と言っていない。つまり、事実じゃない」
「誤解です」
「前にも言ったでしょう。そうであって欲しいと思うことを言う人の言葉を信じるのよ」
シャイロックも汚い手を考える。
落ち零れた貴族に金を持たせて、酒場で愚痴を嘆いて金を配らせた。
自慢合戦もエスカレートさせて荒くれ者も扇動させた。
デモをするエキストラ(雇われた桜客)と、扇動された荒くれ者が商人の店の前で騒いだ。
パンも手に入らなくなった庶民はある意味で必死だ。
暴動にいつ発展しても不思議ではない。
そして、小さな暴発が起こった。
庶民なら確実に有罪にできるが、貴族は教会で裁判を起こすことができる。
教会が有罪と言ってくれればいいが無罪などとなれば、警邏隊の隊長の首が飛ぶ。
スペンサー元子爵は酒場で騒いでいただけだ。
商人風情の為に自分の首を掛けるか?
いないわ、そんな正義感に溢れた下級貴族なんて!
スペンサー元子爵は貴族学園で問題を起こして退学となり、役職に就けなかった可哀想な貴族だ。
憐れに思った親の資産を渡して家から出されたが、兵からのし上がる根性もなく、商人に落ちぶれるのもプライドが許さなかった。
金を使い果たして、悪路(下町)に行き付いた。
シャイロックは小金を渡してスペンサー元子爵を飼っていた。
場末の酒場で呑み遊ぶ金くらいなら安いだろう。
扇動に貴族を使えば、警邏隊ではどうしようもない。
シャイロックは頭がいい!
このスペンサー元子爵には子息がいる。
その名をウォルター・スペンサーという。
マリアを助ける騎士見習だ。
ウォルターは瞳がグレーで小麦色の赤みのある黄色い金髪の好青年だ。美少年のキラキラ感がないが見立ては悪くない。
正義感が強く、悪事を極度に嫌がり、落ち零れた父親が嫌いで、何としても貴族に返り咲きたいと願う青年だった。
貴族に妙な理想を抱いて、エリザベートと対立した騎士見習いだ。
アンドラと同じく、初期の段階で攻略可能なチョロキャラだった。
その名前がここで来たか!
「いらっしゃい!」
「スペンサー子爵様!?」
「スペンサー様、大丈夫でしたか? 逮捕されたと聞きましたが?」
「おぉ、カザツか!? 俺は何か悪いことをしたか?」
「何かって、商人を襲うように炊き付けた罪で警邏隊に捕まったと聞きました」
「炊き付けたとは何たる誤解だ。俺は恥を恥と知らん強欲貴族に鉄槌が下ればいいと正当な主張をしただけだ。そうであろう」
「まぁ~、そうでございますな!」
「大通りの向こうにある商人の倉庫街には大量の小麦がある。小麦は商人らに買われ、相場は10倍に上がっている。我らはパンを食べることもできん。然るに、聖女などと言われていても1粒の小麦を売ろうとせん。相場より高い値を付けた者のみに売ると言うではないか。神の鉄槌が下って何の不思議がある」
「まったくでございます。悪党中の悪党でございます」
「そうであろう。酒を!」
女中がエールをテーブルに置いた。
スペンサー元子爵は扇動罪で警邏隊に呼び出しを受け、堂々と向かい合った。
そして、警邏の取り調べ官を相手に同じことを言ってきた。
置かれたエールをスペンサー元子爵は一気に飲み干す。
「何が自重して頂きたいだ。取り調べるべきはヴォワザン家であろう。50年前も仕える王を裏切って、この王国に寝返った一族だぞ。何が第5家だ。守銭奴の家を取り締まり、倉を開けろと言ってやった」
「おぉ、流石、スペンサー子爵に乾杯!」
「スペンサー子爵が正義だ」
「そうだ、そうだ!」
「ははは、亭主。皆に酒を奢ってやれ!」
へい、亭主は短く答えて、皆に酒を振る舞ってゆく。
スペンサー元子爵は10日前から急に羽振りがよくなった。
よく奢ってくれる気前のいい貴族様と持ち上げられていたが、まるでタガが外れたように驕り出した。
「俺は悪徳商人を投げ飛ばしたぞ!」
「よくやった。酒を奢ろう。好きなものを頼め!」
「俺は店に怒鳴り込んできたぞ」
「褒めて遣わそう。この袋から好きなだけ銅貨を持って帰れ! 妻がいるなら土産でも買ってやれ!」
「ありがとうございます」
鉄槌を下したと主張する者に気前よく奢った。
その驕りに在りつこうと夕方から店に来る客が多くなった。
タダで酒が飲めて飯も付く。
落ち零れた貴族様にとって、悪党の大貴族が困っているだけで胸がすくらしい。
それが警邏の調査官が上げた調査書である。
スペンサー元子爵の主張は悪路(下町)のおおむねの評判であり、それを罪とするなら悪路(下町)の住人をすべて捕えなければならない。
「調査官の調べを聞いた隊長が釈放を決めたようです」
「まぁ、そうなるわね」
「姉様、小麦を買い合付けて不当に値を吊り上げたという主張は言い過ぎではないでしょうか?」
「アンドラ、それは嘘じゃないでしょう!」
「しかし、今年に入って小麦を買っておりません」
「そうよ、不当に値を吊り上げたのは去年のこと。去年は安くなるハズの小麦を買い漁ったので高くなってしまった。スペンサー元子爵は今年と言っていない。つまり、事実じゃない」
「誤解です」
「前にも言ったでしょう。そうであって欲しいと思うことを言う人の言葉を信じるのよ」
シャイロックも汚い手を考える。
落ち零れた貴族に金を持たせて、酒場で愚痴を嘆いて金を配らせた。
自慢合戦もエスカレートさせて荒くれ者も扇動させた。
デモをするエキストラ(雇われた桜客)と、扇動された荒くれ者が商人の店の前で騒いだ。
パンも手に入らなくなった庶民はある意味で必死だ。
暴動にいつ発展しても不思議ではない。
そして、小さな暴発が起こった。
庶民なら確実に有罪にできるが、貴族は教会で裁判を起こすことができる。
教会が有罪と言ってくれればいいが無罪などとなれば、警邏隊の隊長の首が飛ぶ。
スペンサー元子爵は酒場で騒いでいただけだ。
商人風情の為に自分の首を掛けるか?
いないわ、そんな正義感に溢れた下級貴族なんて!
スペンサー元子爵は貴族学園で問題を起こして退学となり、役職に就けなかった可哀想な貴族だ。
憐れに思った親の資産を渡して家から出されたが、兵からのし上がる根性もなく、商人に落ちぶれるのもプライドが許さなかった。
金を使い果たして、悪路(下町)に行き付いた。
シャイロックは小金を渡してスペンサー元子爵を飼っていた。
場末の酒場で呑み遊ぶ金くらいなら安いだろう。
扇動に貴族を使えば、警邏隊ではどうしようもない。
シャイロックは頭がいい!
このスペンサー元子爵には子息がいる。
その名をウォルター・スペンサーという。
マリアを助ける騎士見習だ。
ウォルターは瞳がグレーで小麦色の赤みのある黄色い金髪の好青年だ。美少年のキラキラ感がないが見立ては悪くない。
正義感が強く、悪事を極度に嫌がり、落ち零れた父親が嫌いで、何としても貴族に返り咲きたいと願う青年だった。
貴族に妙な理想を抱いて、エリザベートと対立した騎士見習いだ。
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その名前がここで来たか!
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