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17 最終回
しおりを挟む「お綺麗ですよ、お嬢様」
「ありがとう、ばあや」
テレサは感極まったのか涙ぐんでアイラを見ている。
アイラが娼館に売られた時、アイラ達の乗った馬車は娼館の裏口でアイラ達を降ろした。
アイラは教育部屋へと連れて行かれ、御者にしがみ付いていたテレサは何度も蹴られ、その場に放置された。
だが、それは不幸中の幸いだった。
テレサが放置されたのが、館の正面入り口だったならば、ウエンツの移転魔法のシールドで、テレサは吹き飛ばされ、命はなかったかもしれない。
テレサは蹴られた痛みで、その場に蹲っていたのを、アイラから乞われた獣人の騎士達が見つけ出し、救出された。
酷い打ち身を負っていたが、今では痛みなどは無くなっており、本人曰く完治したとのことだ。
あの日から、もう3カ月が経とうとしている。
あの日まで、アイラとウエンツの間には、思い込みと、思い違いと、考え違いがあった。
二人は、初めて話し合いをして、胸の内を伝えあったのだった。
そして、色々なことがあった。
ハウエル伯爵は宗主国国王の婚約者に危害を加えたとして、爵位を剥奪された上に処分された。ハウエル伯爵家は取り潰しとなり消滅した。
父親については、どのような処分が下されたのか、アイラに知らされることはなかった。
アイラとしては、自分を売った父親だ、恨みが無いとは言えない。だが、どこか遠い場所で、平穏に暮らしていてくれたらいいと思っている。
実際はウエンツの怒りは凄まじく、恩情など少しも無い罰が科せられている。
また、母親は一切関与していないことと、兄のヘンドリクはアイラを逃がそうとしたことにより、お咎め無しとなった。
ただハウエル伯爵家が無くなったことにより、ウエンツと結婚するのに、人族とはいえアイラが平民というのは如何なものかとなった。
アイラ達は母親の実家であるイートン伯爵家に入ることになった。
イートン伯爵家は、母親の兄が跡を継いでいる。
アイラ達を受け入れはするが、母親は領地の端にある小さな別邸で暮らし、イートン伯爵家のことには一切関与することは許されないことになった。
そしてアイラは、ウエンツからの再度のプロポーズに答える形で、視察団が国へ帰る時に、共にティーナダイ王国へと渡った。
その時は、まだ回復していなかったテレサだったが、無理やりアイラに付いて行くと言い張った。
ウエンツ側も、アイラの身の回りの世話を信頼して任せる相手が欲しかったので、テレサに来てもらうことを望んだ。移動は体調を慮っての別行程となった。
ヘンドリクは、ウエンツの計らいで、留学という形でティーナダイ王国へと渡ることになった。
もともとヘンドリクは学問好きだったことと、胸の内にシーシュ国への不満があったため、国を離れることを快諾した。
勉強がひと段落した後にはティーナダイ王国にそのまま残り、仕事に就き、両国の橋渡しとなり貢献しているとして、新しく爵位を受けることになっている。
アイラとヘンドリクは仲が良い。
ヘンドリクがシーシュ国に残ると、ヘンドリクに会うためにアイラがシーシュ国に行ってしまうかもしれないとウエンツは考えたのだ。
12年も会えずにいたのだ。アイラが少しでも自分の元から離れることは許せない。
「公爵くらい、いっちゃう?」
ヘンドリクに高位な爵位を与え、ティーナダイ王国に縛り付けようとしているウエンツのことを、ディダンが容赦なく殴っていた。
ヘンドリクの希望もあって、新しい苗字と伯爵位を授けることになった。
コンコンコン。
「アイラ、支度はできたかい?」
ノックの音と共に部屋の中にウエンツが入ってきた。
「ウエンツ様」
パッと顔を輝かせると、アイラは鏡台のスツールから立ち上がる。
アイラの着ているのは純白のウエディングドレス。
今日はアイラとウエンツの結婚式だ。
ティーナダイ王国に帰って来た時、ウエンツはすぐに結婚すると騒いだが、ディダンを筆頭に、それこそ周り全員が止めた。
国王の結婚が、そんなに簡単に行えるわけはない。最短でも1年後と言われたが、ウエンツに聞き耳は無かった。いつもはピンと立っている黒い耳は、反対意見は一言も聞こえないようだった。
それでも諸々の諸事情を考えろと説得されたことと、なによりアイラのウエディングドレスが用意できないと言われ、ウエンツは折れざるを得なかった。アイラにはウエディングドレスを着てほしい。
だが、それでも3ヶ月しか待てないと、無理を押し通した。
アイラのウエディングドレス作成を担当した王宮のお針子達は、それこそ寝る間も無い程に働かされることになったのだった。
「綺麗だ……」
そんなお針子達の渾身の作を身に付けたアイラを一目にて、ウエンツは感極まる。
ウエディングドレスを身にまとっているアイラは輝いている。
「ありがとうございます。ウエンツ様も、とても素敵です」
ウエンツの言葉に嬉しそうにアイラが近づいて来るが、支度の終わったアイラを抱きしめるわけにはいかない。
一度抱きしめてしまえば、キスもしたくなるし、放したくなくなるのは分かり切っている。
グッと堪えるしかない。
そんなウエンツへ、おかしそうな視線を向けると、そのままテレサは部屋から出て行ってしまった。
「私の番になってくれて、ありがとう。私を受け入れてくれて、ありがとう」
ウエンツはアイラの手を取り、そっと口づける。
話し合いをした時から、何度も言った言葉だ。
アイラは、シーシュ国に渡していた獣人の習慣(トリセツ)のこと知らされることなく、攫われるようにして番にされた。恨みこそすれ好かれることはない状況だったのだ。それなのにアイラはウエンツを受け入れ、結婚を承諾してくれた。
ウエンツにすれば、何度礼を言ってもいい足りないぐらいだ。
だがアイラは頭を振る。
「いいえ、ウエンツ様がお礼を言うのは間違っています。私の方こそウエンツ様の番になれたことが嬉しいのです」
今度はアイラがウエンツの手へと口づける。
「私のことを見つけて下さって、ありがとうございます。隊長様と初めてお会いした時からお慕いしておりました」
「アイラは憶えていたのか……」
12年前のアイラは、余りにも幼かった。まさか憶えているとはウエンツは思っていなかった。
「忘れたことなんてありません。あの時は幼くて、自分の思いが分かりませんでした。ですが今は分かっています。あの時から私の心は変わっていません。ウエンツのことを愛しています」
アイラはやっと自分の思いを口にすることができた。
ウエンツの婚約者と呼ばれていた時は辛かった。視察団が国から出て行く時に捨てられると思いこんでいたから。でも違った。ウエンツは本当にアイラのことを自分の婚約者だと言ってくれていた。
それ以外でも、ウエンツの言ったことは、何一つ偽りはなかった。
アイラは、これから先、何があってもウエンツを信じることができる。それは、ウエンツのことを愛し続けることと同じくらい、確信していることだった。
アイラからの告白に、感極まったウエンツはポロポロと涙を流し続けた。
式ではディダンから、お前は狼の獣人のはずなのに、その赤い目はなんだ。ウサギの獣人なのかよ。と、ツッコミを入れられていた。
――― ――― ―――
※ 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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