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最終章【ウドド運行列車破壊事件】
【2】「マルケリオンの手記」
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—————————————————————————————————————
【視野5】「キャリバン・ド・キャリバーン」
—————————————————————————————————————
マルケリオンを失ったショックから立ち直れないまま、
西部諸国での戦いから1週間が経とうとしていた。
しばらく、暇を言い渡された私は、
王城内に居場所を求めて、ふらふらとしている。
このままではいけない。
一度、現状の把握が必要だ。
───王国の内状は、かなり危うい。
王国兵団の主戦力は、大きく衰弱している。
虚神教団の襲撃を受ければ、簡単に瓦解する。
これには吉報があって、魔族側《アヌローヌ共和国》からの救援が、
近々送られる事になっている。
今回の戦いでは、アヌローヌ共和国にも大きな被害あった筈だが、
この配慮には脱帽の限りだ。
───反面、大賢者については辛い。
4人居た大賢者の内。
2名は死亡、
1名は、元より負傷により戦闘不能。
残ったのは、1人では主力魔法を使えない、この私だけ。
実質、完全に機能を失っている。
───救世主として期待されていた召喚者達は、
英雄マコトは、戦死したが、不明瞭な方法で後継者を作った為、一応は戦力にできる。
勇者アキヒロは、西部で何者かに襲われ行方不明、恐らくは死亡している。
聖女ナオは、西部から帰還した後、人知れず姿を消した…逃げたか…もしくは……
こちらも、期待できるとは言えない状況だ。
先の話し合いでは、これらを踏まえた上で、
現状で優先すべき事が、議論された。
───その結果、最優先となったのは、ウドド運行列車の速やかな復旧だった。
ウドド運行列車の復旧には、大きな意味がある。
そのキーワードは【悪意結界】だ。
~以下説明~【悪意結界】
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
悪意結界とは。
詳しい説明の必要がない程に、
文字通りの効能を持つ結界である。
『魔法源泉』に対し悪意を持った者の通過を許さず、
隠蔽の難しい「意思」を感知する事から、非常に優秀な結界。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
~以上説明終わり~
【悪意結界】は、ヘシオーム王国を護る最後の砦。
しかし【悪意結界】には、
その有用性とは裏腹に、ひとつの決定的な弱点がある。
それは、その強度に斑がある事だ。
『魔法源泉』からの魔力供給で、結界を発生させているので、
トマリン不足によって『魔法源泉』の出力を下げている現状では、
【悪意結界】は弱体化し、その強度が低くなっている。
もし、その隙を突かれて、
王国内に侵入されれば、
瞬く間に城下町は制圧され、
王城は包囲される。
そうなれば、もうお終い。
『魔法源泉』は、破壊される。
───敵側はきっと、そのタイミングを狙っているのだ。
そこで早急に求められたのが、件のウドド運行列車の復旧だ。
正確には、その貨物車両に、今も取り残されている
大量のトマリンを、いち早く『魔法源泉』に供給する事だ。
ウドド運行列車には、一年分のトマリンが積まれている。
トマリンの供給さえ達成できれば、
この先1年間は【悪意結界】は正常に機能し、
私達は、その期間を体制回復に使える。
───事実上、トマリンの補給が、私達の勝利条件となる。
ヘシオーム国王は、ウドド線襲撃の報告を受けた時から、
トマリン不足による【悪意結界】の弱体化を危惧していて
ウドド線の復旧工事は、早い段階で着手されていた。
今回、晴れて最優先事項になった事で、
ウドド線の改修工事は早急に進められ……
───結果。
ウドド運行列車は完全に復旧して、支障なく運行を開始した。
今こうしている間にも、
ウドド運行列車は、ウドド線の終点である
ヘシオーム王国へと着実に向かって来ている。
───勝利という名の積荷を載せて。
「本当に…そうなのだろうか……」
私は、何か腑に落ちない気持ちを払拭できない。
「本当に、こうして待ってるだけでいいのかな?」
何か、見落としているような感覚がある。
「これは、不安に思う気持ちの杞憂だよ。
そうだ…きっと」
私は、自分に言い聞かせるようにして、そう呟く。
ウドド運行列車は、今日の夕方にもヘシオーム王国の駅に到着する。
—————————————————————————————————————
私は、浮き足立つ気持ちを抑える為、
マルケリオンの書斎へと足を運んだ。
室内は、様々な資料が乱雑に散らばり
整理整頓がされていない。
これは几帳面で、理性的な彼の性格に反している。
以前この部屋を訪れた時は、こんな状態では無かった。
この部屋からは、彼とは別の気配がある。
「マルケリオン…どうして」
私の中で醜い感情が、ポタリと落ちた。
「…あ…これ……」
ふと、一箇所だけ、きれいに整頓された場所を見つけ、
その中心に置かれた、分厚い手記に目がいく。
以前、これを脇に抱えたマルケリオンを見た事がある。
「マルケリオン……読ませてもらうよ」
その手記を手に取り、丁寧に開いてみる。
マルケリオンの直筆した手記の内容は、
主に魔法理論に関する考察で構成されていて、
彼の勤勉さが垣間見えた。
しかし、途中から毛色が変わり始める。
手記に、何者かの筆跡が増え始める。
誰かと2人で、何かしらの魔法を研究している様だ。
「なんだこの複雑な階層構造は……
…こんな馬鹿げた魔法回路、見た事がない」
これは魔位25示を求める魔法の考察、
神格魔法、そう呼ばれる神の領域に踏み込む所業だ。
いったい、何の目的があってこんなものを……
ページを飛ばしながら読み進めると、
印象深い文字に、思わず目がとまった。
「…ウドド運行列車に関する考察?」
マルケリオンは、ウドド線の襲撃に立ち会ったと聞く、
その襲撃に対し、何か考える事があったのか…?
手記の中で彼は、ウドド線を止めた敵の思惑を考察していた。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『悪意結界の弱体化を狙っているのなら、
なぜ列車ごとトマリンを破壊しなかった?』
『目的は、悪意結界の弱体化ではない?』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「……敵の目的は…悪意結界じゃない?」
マルケリオンは、敵側が【悪意結界】の弱体化を狙っているという、
そもそもの前提にメスを入れている。
私は、答えを求めて手記を読み進める。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『ウドド線から盗まれた少量のトマリンは何に使用するのか?』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
盗まれたトマリン?
…確か、そんな報告もあったな
すっかりと忘れていた。
トマリン……魔法源泉の稼働に使用する魔石燃料。
あれは魔石とは名ばかりで、
魔力に還元する事はできないと聞くけど……。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『西部諸国での戦いは、私を葬る為の舞台だ』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「……え!?」
手記を持つ手が震える。
驚愕の事実だ。
マルケリオンは、西部で自分が死ぬ事を予見していたのだ。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『所で、キャリバン。人の手記を読むのは、あまり感心しないよ?』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
生きた言葉。
彼が私に宛てたメッセージが、そこにあった。
認めた文の末には、笑顔のイラスト。
「マルケリオン……私、貴方のそういう所が好きだよ」
喉の奥が、じんと痛い。
目の端に温かな感慨が溜まる。
マルケリオンは、自分の死後、
私が自分の手記を読む事を予想してメッセージを残していた。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『いいかい、キャリバン。多くは語れないから、端的に書くよ?
この文を読み終わった後に、冒険者ギルドに行きなさい
そこに、協力者を用意してある』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「冒険者ギルド?」
クエストを受注すれば、報酬に応じて依頼をこなす冒険者ギルド。
そこに何を依頼したというんだろう?
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『そして、直ぐにヘシオーム国王に進言したまえ。
ウドド運行列車を、王国に到着させてはならない』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「え?」
ウドド運行列車を、到着させてはならない?
いったい、どんな理由でそんな事を……
しかし、もしそれが事実なら、
それは由々しき事態だ。
すでに列車は、この王国に向かって出発している。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『敵側は、トマリンを使って【悪意結界】ごと、
『魔法源泉』を破壊するつもりだ』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
何という事だ。
私の中にあった「腑に落ちない気持ち」が、具体化してしまった。
マルケリオンの文からは、とある存在が示唆されている。
それは、神格魔法使いだ。
【悪意結界】ごと、『魔法源泉』を破壊できる魔法なんて、
この世界には一つしか無い。神格魔法だ。
西部諸国で見た、あの光景が蘇る。
あの、神格魔法『ゼネオゲゲブ』が、今度は王国に放たれるのだ。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『さぁ、行きたまえ。愛しのキャリバン。
大賢者として、私の死を乗り越えて』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
ああ、わかったよ。
後の事は、私に任せて。
愛しのマルケリオン。
—————————————————————————————————————
私は、直ぐに宰相とヘシオーム国王に、
マルケリオンの手記に書かれていた内容を伝えた。
彼らが、それをどう捉えるかは、わからない。
私は、私ができる事を、最大限にするだけだ。
もうひとつ。
最後に残った謎がある。
神格魔法【ゼネオゲゲブ】を行使するのは誰なのか?
私には、心当たりがある。
───姿を消した【聖女ナオ】だ。
あの娘は、マルケリオンと親しくしていた。
側から見れば、異性間の付き合いと思える程に。
もしも聖女に、マルケリオンを懐柔して利用する役割があったとしたら、
彼が手記の中で研究していた神格魔法こそが【ゼネオゲゲブ】なのでは?
彼は、それに気付き、彼女の目を盗み、
手記に私へのメッセージを書いたとしたら?
「…あの【聖女ナオ】は……ヨールーや魔女の仲間か!!」
何という事だ。
この仮説が本当なら、あの聖女は、とんだ食わせ物だ!!
—————————————————————————————————————
───冒険者ギルド。
王国の城下町に、酒場を併用した拠点を構える、古い組織。
そこへ足を運び、両開きの扉を弾いて中へと入る。
「失礼する。私はキャリバン・ド・キャリバーン
王国の大賢者で……」
名乗りの途中で言葉に詰まる。
大勢の屈強な男達と、
勝気そうな女達が、
一斉にこちらを見たからだ。
「ようやく来たか…野郎どもぉ!!
仕事の時間だぁッ!!!」
一斉に沸き立つギルドの冒険者達。
私は、その状況に唖然とした。
「マルケリオンの旦那から話は聞いている
俺たちに任せておけ、きっと依頼は達成する」
「彼は……いったいどんな依頼を?」
「何だぁ?知らねぇのか?
俺たちの依頼は……」
ウドド運行列車は、ヘシオーム王国へ向かって来ている。
勝利という名の積荷を載せて。
ただし、それは、私たちの勝利じゃなかった。
でも、それはきっと奪い返せる。
「俺たちの依頼は、ウドド運行列車をぶっ壊す事だ!!!」
【視野5】「キャリバン・ド・キャリバーン」
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マルケリオンを失ったショックから立ち直れないまま、
西部諸国での戦いから1週間が経とうとしていた。
しばらく、暇を言い渡された私は、
王城内に居場所を求めて、ふらふらとしている。
このままではいけない。
一度、現状の把握が必要だ。
───王国の内状は、かなり危うい。
王国兵団の主戦力は、大きく衰弱している。
虚神教団の襲撃を受ければ、簡単に瓦解する。
これには吉報があって、魔族側《アヌローヌ共和国》からの救援が、
近々送られる事になっている。
今回の戦いでは、アヌローヌ共和国にも大きな被害あった筈だが、
この配慮には脱帽の限りだ。
───反面、大賢者については辛い。
4人居た大賢者の内。
2名は死亡、
1名は、元より負傷により戦闘不能。
残ったのは、1人では主力魔法を使えない、この私だけ。
実質、完全に機能を失っている。
───救世主として期待されていた召喚者達は、
英雄マコトは、戦死したが、不明瞭な方法で後継者を作った為、一応は戦力にできる。
勇者アキヒロは、西部で何者かに襲われ行方不明、恐らくは死亡している。
聖女ナオは、西部から帰還した後、人知れず姿を消した…逃げたか…もしくは……
こちらも、期待できるとは言えない状況だ。
先の話し合いでは、これらを踏まえた上で、
現状で優先すべき事が、議論された。
───その結果、最優先となったのは、ウドド運行列車の速やかな復旧だった。
ウドド運行列車の復旧には、大きな意味がある。
そのキーワードは【悪意結界】だ。
~以下説明~【悪意結界】
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
悪意結界とは。
詳しい説明の必要がない程に、
文字通りの効能を持つ結界である。
『魔法源泉』に対し悪意を持った者の通過を許さず、
隠蔽の難しい「意思」を感知する事から、非常に優秀な結界。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
~以上説明終わり~
【悪意結界】は、ヘシオーム王国を護る最後の砦。
しかし【悪意結界】には、
その有用性とは裏腹に、ひとつの決定的な弱点がある。
それは、その強度に斑がある事だ。
『魔法源泉』からの魔力供給で、結界を発生させているので、
トマリン不足によって『魔法源泉』の出力を下げている現状では、
【悪意結界】は弱体化し、その強度が低くなっている。
もし、その隙を突かれて、
王国内に侵入されれば、
瞬く間に城下町は制圧され、
王城は包囲される。
そうなれば、もうお終い。
『魔法源泉』は、破壊される。
───敵側はきっと、そのタイミングを狙っているのだ。
そこで早急に求められたのが、件のウドド運行列車の復旧だ。
正確には、その貨物車両に、今も取り残されている
大量のトマリンを、いち早く『魔法源泉』に供給する事だ。
ウドド運行列車には、一年分のトマリンが積まれている。
トマリンの供給さえ達成できれば、
この先1年間は【悪意結界】は正常に機能し、
私達は、その期間を体制回復に使える。
───事実上、トマリンの補給が、私達の勝利条件となる。
ヘシオーム国王は、ウドド線襲撃の報告を受けた時から、
トマリン不足による【悪意結界】の弱体化を危惧していて
ウドド線の復旧工事は、早い段階で着手されていた。
今回、晴れて最優先事項になった事で、
ウドド線の改修工事は早急に進められ……
───結果。
ウドド運行列車は完全に復旧して、支障なく運行を開始した。
今こうしている間にも、
ウドド運行列車は、ウドド線の終点である
ヘシオーム王国へと着実に向かって来ている。
───勝利という名の積荷を載せて。
「本当に…そうなのだろうか……」
私は、何か腑に落ちない気持ちを払拭できない。
「本当に、こうして待ってるだけでいいのかな?」
何か、見落としているような感覚がある。
「これは、不安に思う気持ちの杞憂だよ。
そうだ…きっと」
私は、自分に言い聞かせるようにして、そう呟く。
ウドド運行列車は、今日の夕方にもヘシオーム王国の駅に到着する。
—————————————————————————————————————
私は、浮き足立つ気持ちを抑える為、
マルケリオンの書斎へと足を運んだ。
室内は、様々な資料が乱雑に散らばり
整理整頓がされていない。
これは几帳面で、理性的な彼の性格に反している。
以前この部屋を訪れた時は、こんな状態では無かった。
この部屋からは、彼とは別の気配がある。
「マルケリオン…どうして」
私の中で醜い感情が、ポタリと落ちた。
「…あ…これ……」
ふと、一箇所だけ、きれいに整頓された場所を見つけ、
その中心に置かれた、分厚い手記に目がいく。
以前、これを脇に抱えたマルケリオンを見た事がある。
「マルケリオン……読ませてもらうよ」
その手記を手に取り、丁寧に開いてみる。
マルケリオンの直筆した手記の内容は、
主に魔法理論に関する考察で構成されていて、
彼の勤勉さが垣間見えた。
しかし、途中から毛色が変わり始める。
手記に、何者かの筆跡が増え始める。
誰かと2人で、何かしらの魔法を研究している様だ。
「なんだこの複雑な階層構造は……
…こんな馬鹿げた魔法回路、見た事がない」
これは魔位25示を求める魔法の考察、
神格魔法、そう呼ばれる神の領域に踏み込む所業だ。
いったい、何の目的があってこんなものを……
ページを飛ばしながら読み進めると、
印象深い文字に、思わず目がとまった。
「…ウドド運行列車に関する考察?」
マルケリオンは、ウドド線の襲撃に立ち会ったと聞く、
その襲撃に対し、何か考える事があったのか…?
手記の中で彼は、ウドド線を止めた敵の思惑を考察していた。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『悪意結界の弱体化を狙っているのなら、
なぜ列車ごとトマリンを破壊しなかった?』
『目的は、悪意結界の弱体化ではない?』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「……敵の目的は…悪意結界じゃない?」
マルケリオンは、敵側が【悪意結界】の弱体化を狙っているという、
そもそもの前提にメスを入れている。
私は、答えを求めて手記を読み進める。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『ウドド線から盗まれた少量のトマリンは何に使用するのか?』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
盗まれたトマリン?
…確か、そんな報告もあったな
すっかりと忘れていた。
トマリン……魔法源泉の稼働に使用する魔石燃料。
あれは魔石とは名ばかりで、
魔力に還元する事はできないと聞くけど……。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『西部諸国での戦いは、私を葬る為の舞台だ』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「……え!?」
手記を持つ手が震える。
驚愕の事実だ。
マルケリオンは、西部で自分が死ぬ事を予見していたのだ。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『所で、キャリバン。人の手記を読むのは、あまり感心しないよ?』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
生きた言葉。
彼が私に宛てたメッセージが、そこにあった。
認めた文の末には、笑顔のイラスト。
「マルケリオン……私、貴方のそういう所が好きだよ」
喉の奥が、じんと痛い。
目の端に温かな感慨が溜まる。
マルケリオンは、自分の死後、
私が自分の手記を読む事を予想してメッセージを残していた。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『いいかい、キャリバン。多くは語れないから、端的に書くよ?
この文を読み終わった後に、冒険者ギルドに行きなさい
そこに、協力者を用意してある』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「冒険者ギルド?」
クエストを受注すれば、報酬に応じて依頼をこなす冒険者ギルド。
そこに何を依頼したというんだろう?
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『そして、直ぐにヘシオーム国王に進言したまえ。
ウドド運行列車を、王国に到着させてはならない』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
「え?」
ウドド運行列車を、到着させてはならない?
いったい、どんな理由でそんな事を……
しかし、もしそれが事実なら、
それは由々しき事態だ。
すでに列車は、この王国に向かって出発している。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『敵側は、トマリンを使って【悪意結界】ごと、
『魔法源泉』を破壊するつもりだ』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
何という事だ。
私の中にあった「腑に落ちない気持ち」が、具体化してしまった。
マルケリオンの文からは、とある存在が示唆されている。
それは、神格魔法使いだ。
【悪意結界】ごと、『魔法源泉』を破壊できる魔法なんて、
この世界には一つしか無い。神格魔法だ。
西部諸国で見た、あの光景が蘇る。
あの、神格魔法『ゼネオゲゲブ』が、今度は王国に放たれるのだ。
-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
『さぁ、行きたまえ。愛しのキャリバン。
大賢者として、私の死を乗り越えて』
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
ああ、わかったよ。
後の事は、私に任せて。
愛しのマルケリオン。
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私は、直ぐに宰相とヘシオーム国王に、
マルケリオンの手記に書かれていた内容を伝えた。
彼らが、それをどう捉えるかは、わからない。
私は、私ができる事を、最大限にするだけだ。
もうひとつ。
最後に残った謎がある。
神格魔法【ゼネオゲゲブ】を行使するのは誰なのか?
私には、心当たりがある。
───姿を消した【聖女ナオ】だ。
あの娘は、マルケリオンと親しくしていた。
側から見れば、異性間の付き合いと思える程に。
もしも聖女に、マルケリオンを懐柔して利用する役割があったとしたら、
彼が手記の中で研究していた神格魔法こそが【ゼネオゲゲブ】なのでは?
彼は、それに気付き、彼女の目を盗み、
手記に私へのメッセージを書いたとしたら?
「…あの【聖女ナオ】は……ヨールーや魔女の仲間か!!」
何という事だ。
この仮説が本当なら、あの聖女は、とんだ食わせ物だ!!
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───冒険者ギルド。
王国の城下町に、酒場を併用した拠点を構える、古い組織。
そこへ足を運び、両開きの扉を弾いて中へと入る。
「失礼する。私はキャリバン・ド・キャリバーン
王国の大賢者で……」
名乗りの途中で言葉に詰まる。
大勢の屈強な男達と、
勝気そうな女達が、
一斉にこちらを見たからだ。
「ようやく来たか…野郎どもぉ!!
仕事の時間だぁッ!!!」
一斉に沸き立つギルドの冒険者達。
私は、その状況に唖然とした。
「マルケリオンの旦那から話は聞いている
俺たちに任せておけ、きっと依頼は達成する」
「彼は……いったいどんな依頼を?」
「何だぁ?知らねぇのか?
俺たちの依頼は……」
ウドド運行列車は、ヘシオーム王国へ向かって来ている。
勝利という名の積荷を載せて。
ただし、それは、私たちの勝利じゃなかった。
でも、それはきっと奪い返せる。
「俺たちの依頼は、ウドド運行列車をぶっ壊す事だ!!!」
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哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
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