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五章『ムークラウドの街の いへん』
五十二話『親友との ちゃっと』
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洞窟を出ると、眩しい太陽が俺とカエデを歓迎した。
その外は、一面の草原。ムークラウドまで続く、長い、長い草原がどこまでも広がっている。
しかしそんな事を感動する暇もなく…。
頭の中に響いた声は、まるで数年ぶりに再会するように感じる、懐かしい後輩の声だった。
『センパイ!センパイなんですねっ!!』
「ゆ… 悠希…!? 悠希なんだよな、この声…!!」
間違いようがなかった。
何度も、何度も聞いた、後輩の声に違いない。
俺が戸惑っていると、頭の中に違う声が混ざってくる。
『真っ! 良かったぜ、ようやく通信が繋がった…! この野郎、心配させやがって…!!』
「け、敬一郎か…!2人とも、無事なんだな!」
俺も。そして通信の向こうの敬一郎も、歓喜の声を交わしながら、お互いに涙ぐんでいるのが分かる。
――― 生きていた! 悠希も、敬一郎も… 無事だった!
俺はその事実が分かっただけで、嬉しさが全身に広がる。
そしてそれは、悠希と敬一郎も同じ様子だった。
魔力船から落ちた俺。 そして、魔力船でグランドスの戦艦から無事に逃げて、生き延びたであろう悠希と敬一郎。
お互いに生存が確認できなかった者達の無事が、今確認できたのだ。 こんなに嬉しい事はないだろう。
ゲームでの死が、現実世界での死に繋がるムゲンセカイで、生き延びるというのはこれほどまでに有難いものなのだろうか。
俺達は、涙を啜りながら笑い、そして通信を続けた。
カエデが、俺のその様子を不思議そうな表情で見つめ… 恐る恐る聞いてくる。
「あの、マコトさん…」
俺は食い気味にカエデに言った。
「生きていたんだ! 俺の親友が! 今、魔法で俺の頭の中に喋ってくれてるんだ!」
「! ほ、本当ですか…!? ま、マコトさんのお仲間が…!」
その報告に、2人を知らないカエデも嬉しそうな表情をしてくれた。
『カエデ…? マコト、誰かそこに居るのか?』
「あ、ああ、ごめん…。 ええと、詳しい話は会ってからにしたいんだけど… 敬一郎達は今、ムークラウドから通信してるんだよな?」
『… いや、それが違うんだ。 そういう真は、何処にいるんだ?』
違う?どういう事だ? 魔力船はやはり墜落してしまったのだろうか。
「俺は… あのまま神樹の森の中に落ちてさ。 色々あったけれど、どうにか森から出る事が出来たんだ」
『… なるほど。電波障害みたいな事になってたワケか。 アレから何日か経ってるけど、俺も悠希も、毎日お前に向けて通信してたんだ』
『でも一向に繋がらないからまさか… と思っていたんだ。 でも、通信使いの人が言うには、魔法が届かない場所にいる可能性もある、って…』
『信じていて良かったぜ。さっき、急に通信が繋がったってワケさ。お前が生き延びる算段をしないであそこから落ちたなんて考えたくないからな』
…俺が生きていると信じて、ずっと語り掛けていてくれたわけか。その事実に、また涙を流しそうになる。
しかし、俺は疑問を口にした。
「通信使いって…どういう事だ?そういえばお前も悠希も、魔法は使えないワケだよな?今どうやって喋ってるんだ?」
「そもそもムークラウドにいないって… 今どこから話してるんだよ」
『ええとな。こっちも色々ワケありでさ。 … うおっ、わ、分かったよ…。 悠希に変わるわ』
頭の中の声が何やらバタバタすると、悠希の慌てた声が聞こえてきた。
『デブセンパイばっかりズルいっス!私にも喋らせてほしいっス!』
「は、はは… 分かったよ。 えーと、悠希… 事情を説明してくれるかな」
俺の言葉に、悠希は嬉しそうな鼻息を聞かせてくれた。 通信越しの表情が見えるようだ。
『えーと、まず… ちょっとワケありで、今私達は、ムークラウドに戻れないんス。事情は合流してから喋りたいんですけれど… センパイはまさか、ムークラウドに向かってるんじゃ…?』
「あ、ああ。その予定だけど…」
『 ダメです!! 』
悠希の慌てた様子の大声が頭に響いた。
『という事は、ムークラウドには辿り着いてないんですよね?もし近くにいたら、すぐに離れてください!今、ムークラウドに行っちゃいけないっス!』
「え… どういう事だよ…!?今行っちゃいけないって…?」
おかしい。
俺達はムークラウドで合流する予定だったはずだ。それなのに、近づいちゃいけないって…。 あそこは安全な街なワケだし、周りにもスライミーしか魔物がいないから…。
しかし、悠希は鬼気迫る様子で俺に話し続ける。
『とにかく、合流してから話すっス。 センパイ、もしムークラウド方向に向かっていて神樹の森から出たのなら… 『イオット』という村がある筈なんです』
「! イオット。 そこに2人ともいるんだな?」
『ええ。あと魔力船の運転をしてくれていた町長の執事さんも一緒に。 …でも、この村… 魔法使い達が暮らしている隠れ里みたいなところでして、見つけるのがかなり難しくて… ええと、どうしよう…』
焦っている様子の悠希を落ち着かせるように、俺は通信で声を運んだ。
「大丈夫だ。 …カエデ、イオットの場所は分かるか?」
俺が振り返ると、カエデは何やら大きな紙を広げていた。 どうやらクヌギさんに書いてもらったこの辺りの地図らしい。
「えと… はい。 師匠の地図の通りなら、一日も経たずにイオットに到着できるハズです。マコトさんの魔力があれば、村の存在は視認できるらしいですし…」
「カエデ、ありがとう。 …悠希、一日経たずにそちらに到着できるそうだ」
『わあ、良かった! …ええと… なんか、誰かそこにいるんスか?』
「こっちの説明も合流してからするよ。仲間が出来たんだ。 イオットの村まで案内も出来るらしい」
『わー、早く会ってみたいっス!こっちも色々状況が変わったところで… とにかく、それじゃあイオットの村までは無事に着けるんスね』
「ああ。急いでそっちに行ってみるよ」
『了解っス!私もデブセンパイも、待ってますから! … 無事に着いてくださいよ、センパイ』
「任せとけ。…それじゃあ、またな」
『 … はい! 待ってるっス!』
少し名残惜しそうな声を残して、悠希と敬一郎との通信は切れた。
――― …
「… マコトさん!お仲間さん生きていて… 本当に良かったですね!」
カエデが猫耳をピョコピョコさせ、尻尾を振って嬉しそうに俺に言ってくれた。まるで自分の事のように喜んでいる。
「ああ… 本当にありがとう、カエデ。おかげ様で、合流できそうだよ。さっきも言った通り、イオットの村に今いるらしい」
「はい。どちらにしろ立ち寄る予定の場所でしたから良かったですね! …えと…」
カエデは再び大きな地図を広げて、草原の下に置くと小さなコンパスのような道具を持って方向を見定める。
「西南西の方向。徒歩で行けば…5、6時間歩けば村があるみたいですね。がんばりましょう」
「オッケー。…道中も一応魔物が出てくると思うし、気を引き締めていこう。 …すまないな、カエデ。俺の用事に付き合わせて」
「いえ。武者修行ですから!ボクはマコトさんについていくだけです」
文句の一つも言わずに、カエデは荷物を纏めて歩く支度をしてくれた。本当に、礼儀のできた弟子だ。師匠に感謝せねば。
徒歩で、5、6時間か。
普段の俺なら愚痴りたくなるくらい離れた距離だが… 今はそんな感情は微塵もない。
仲間と再会できる。
その喜びが全身に活力剤のように広がり、俺に足を進めさせた。
「それじゃあ… 行こう! イオットの村へ!」
「おーっ!」
俺と、猫耳の少女は、広い草原の中を、まだ見ぬ魔法使いの隠れ里に向けて歩き始めた。
――― …
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