ムゲンセカイ - 異世界ゲームでサポートジョブに転生した俺の冒険譚 -

ろうでい

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五章『ムークラウドの街の いへん』

五十三話『人間との たたかい』

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――― …

果てしない草原。ひざ下までの緑色の草が一面に生い茂り、旅人たちを時として優しく包み、時として足枷のように絡まる。
日の光は明るくその緑を照らし、青空の青と絡まった美しい風景が地平線の向こうまで続いていた。

その中の、岩場。
ゴロゴロと人間の身体よりも大きな岩が左右に広がり道を築き、自然に発生した道が出来た地帯があった。

その岩場に身を隠し… 僧侶の青年と、ハーフ獣人の少女を狙う3人の影があった。


「… おい、ガキ2人だぜ。あんなの相手にするのかよ…!」
「仕方ねえだろ、金も食料も底を尽いたんだ。身ぐるみ剥がしてでも奪い取るしかねえ…」
「見ろよ。あの杖、教会のモンだ。なんであんな僧侶のガキが…? なんにしても、いい値で売れそうだぜ…!」

どうやら、ムークラウド周辺を根城にしている盗賊のようだ。
バンダナで頭を包み、マフラーで鼻と口元を隠し、顔が割れないように盗賊たちは襲撃の準備を始める。
3人の男はどの男も人相が悪く、鷹のような鋭い目つきで岩場の道を歩いている青年と少女を狙っていた。
2本のダガーを持つ男。少し錆の入った切れ味の悪そうなカタナを持つ男。そして、シャムシールと呼ばれる曲剣を持つ男。
それぞれの武器を構えて…。

「こ、殺すのかよ…!なにも殺さなくたって脅かすだけでも…!」
「四の五の言ってられるかよ。逃げられたら元も子もねえ。…やるんだ、いいな…!」

2人を殺す事に抵抗のあるカタナの男とは対照的に、ダガーの男もシャムシールの男も、相手を殺す事を自分に言い聞かせていた。

「…俺はダガーであの女のガキを殺る。お前はシャムシールで距離をとりながら、僧侶のガキを殺すんだ。…お前は何かあったらどちらかに加勢しろ。いいな…!」

「おう、任せとけ」
「… … …」

シャムシールを構える男とは対照的に、カタナの男は返事もせず、手に持ったカタナの柄をぎゅっと握った。


――― …


「… マコトさん」

「… ああ、分かってる」

俺もカエデも、岩場の陰で動く気配に気づいている。
コソコソ隠れているのを考えるに、恐らくは… 人間。何故こちらを監視するように動いているのかは謎だが… 俺達に着かず離れず、同じように岩場を移動している。

…そのうちに、こちらに発せられる殺気も感じられるようになった。
微かだが、刃が岩に触れる音。先ほどよりもこちらに近づく足音。そして… 感じ取る、その気配。

おそらく敵は3人。足音で判断する。俺達の背後… 両方の岩場から、俺達に攻撃をするつもりだ。

現実世界ではまずビビッて逃げ出していたであろう状況だが… ステータスの上昇からだろうか。気配を感じられ、敵を察知し… そしてそれに、脅えなくなっている自分がいる。

負けない。人間の相手3人なら、まず――― !


「うおおおおーーッ!!」
「だりゃああああーーーッ!!」

「―――ッ!!」
「マコトさん!!きます!!」

勢いよく岩場から飛び出してきたのは、バンダナを巻いた男2人。野盗だろうか。
2人の男は俺とカエデに分散して襲い掛かってきて、俺の方には2本のダガーを持った男。カエデの方には曲がりくねった… シャムシールといったか。曲剣使いの男が襲い掛かってきた!


「おらあッ!!」

「!」

2本のダガーを交差させ、俺の頭に思いきり斬りつけてくるダガー使い。俺はバックステップでそれを避ける。

「なに、ッ…!」

「止めておけ。不意打ちが見切られるようじゃ、勝ち目がない事くらい分かるだろ?」

「く… この、ガキがぁああ!!!」

逆上したダガー使いは、我武者羅にダガーを振り回して俺に突進してきた。
野盗というと素早く、武器の扱いには俺より長けているイメージだったが… レベル差のせいだろうか。攻撃はあっさり見切れる。
右、左、斜め上から斬り上げ、振り返って突き…。 俺程度の素早さでもその攻撃は見極められていた。掠りもしない。

「なにが、目的なんだ、よッ…! だから、勝てない事くらい… 分かる、だろッ…!!」

俺は攻撃を避けながら盗賊にそう語り掛ける。しかし盗賊は更に怒り、攻撃が無茶苦茶になってくる。こうなると、余計攻撃が避けやすくなるのに相手も気付かないようだ。

「うるせえッ…! ガキがあああ!! 盗賊に目的もクソもねええ!!さっさとくたばって金目のモン奪い取るだけだあああ!!!」

「この…!!」

相手の恨みを買った覚えはない。その身勝手な理由に、俺も少し怒ってしまう。

とはいえ、銀の杖を叩き付けるわけにはいかない。恐らくこの敵… 特殊効果を使うと、燃えてしまう。レベル差があるのは歴然だ。
…盗賊とはいえ、相手は同じ人間、か。それならば…。

俺は杖を反対に持って… 持ち手の方を、思いきり隙だらけの相手の腹に突き出した!!

「が、ふッ…!」

ダガー使いは胃液を吐き出して、動きを止め… 気絶をしたようで、その場に倒れ込んだ。


「カエデ…!! …あ」

カエデの方は大丈夫か…!

と、思っていたが、心配する必要もなかったらしい。

既にシャムシールの男の頭に、カエデの鞘付きのカタナが叩き込まれていて… やがてダガーの男と同じように、その場に倒れた。

「… ふうっ。攻撃が無茶苦茶でしたね。剣のお稽古とか、してないみたいです、この人達…」

…傍から見て、中年に近いガタイのいい男が14歳の少女に一撃も当てられず気絶させられているのは… なんだか現実感がない光景だなあ。
これもゲームの、夢の世界ならでは、か。


「「 … さて 」」

俺とカエデは… 気絶した男たちの後ろにいる、カタナを震える手で持つ男に武器を構えた。

「ひ、ひえっ…!!」

「「 降参する(します)?? 」」

「… こ…」

「降参、します…!!」

男はカタナを地面に置いて、両手を上げた。

――― …

「… … …」

俺はカタナの盗賊から話を聞いて、顎に手を当てた。盗賊は、興味深い話をしてくれた。

「なるほど… それじゃ、ムークラウドに急に入れなくなっちゃって…仕方ないから野盗してたんだ」

カタナの盗賊は、正座をしながら俺の言葉に小さく頷いた。

「ああ… 普段はこの草原はスライミーしかいないから、門も普通に開いていて兵士が見守りをしていた。俺達は、普段はムークラウドの街中で空き巣や強盗をしている普通の泥棒だったんだ」

…普通の泥棒って、なんだ。

「だが、ある日ムークラウドの街の外に出て… 戻ってみると、東西南北の街の門、全てが塞がっていたんだ」
「だから街に入れなくなっちまって… 近くにイオットの村という場所があると聞いたんだが、見つからなくて… 仕方がねえから、ここを通りかかる旅人相手に、野盗をしようと…」

なるほどなあ。道理で戦い慣れしていないワケだ。
イオットの村は、クヌギさんやカエデが言うように、魔力がなければ視認できない村。この盗賊達に見つかる筈もなかった、と。

… しかし、ムークラウドの街に入れない…か。街の門を閉ざす事もまあ、あるのだろうが… 普段は開いているものが全て閉ざされているのには、嫌な予感がする。
悠希はムークラウドの街に戻るのは待て、と通信チャットで言っていた。恐らくは…その事と関係している。

「マコトさん、この人達… どうしますか?」

「ん、見逃してやろう。言っていたように、この辺にはスライミーしかいないし… 果物や野草を食べていれば、生き延びられる」
「さっきので戦いのセンスがないのが分かっただろ?これを機会に泥棒稼業からも足洗って出直しなよ。いい機会じゃないか」

「わ、分かりました…! 本当に、すいませんでした…!」

… なんて。なんだか正義のヒーローか時代劇のスターのような口上で、少し自分に酔いしれてしまった。
いかんいかん。己惚れて良い事はないぞ。

… 今はムークラウドの街の異常を調べなければ。 自分に酔っている暇なんか、ない。

盗賊達は、頭と、腹を抑えてそそくさとその場から立ち去っていった。


「… 優しいんですね、マコトさん。命の削り合いをした相手を、逃がすなんて…」

「…まあ、一応同族だしね。…たとえ盗賊でも」

「ボクは半分、ニンゲンの血も混ざってますけれど… 異種族でも同族でも、本気の戦いになったら…ひょっとしたら、相手を殺してしまうかもしれないです…」
「…逆に、殺されてしまうかもしれないから。それが怖くて… ボク…」

… 当たり前の感情だ。
自分の命を奪われるなら、相手を殺す。道理としては当たり前。生物として当然の行動だ。

さっきの相手はまだ、どうにかなるくらい弱かったけれど… 俺だって、近い実力の相手だったら、どうしていたか分からない。
そして相手に、殺意があるのならば…。

「… … … 先を急ごう、カエデ」

「… はい。 …あ!マコトさん。この岩場を抜けると、イオットの村があるそうです」

「え、もうそんな近くなの? …どれどれ?」

俺は岩場の終わりまで駆けていき、辺りの草原を見渡す。

すると…。

「… 見えた…」

蜃気楼のように、ぼやけてその村… 『イオット』は、草原の中に佇んでいた。
今いる岩場の辺りが丘になっていて、村は丘を下った先に、ポツンと存在している。
周りを塀で囲われた、藁の家々が数十。 しかし… 例えるならば、ゴーグル無しで水中で見る映像のように、その村の存在は霞んで、ボヤけて見えていた。

「ど、どこですか…?ボクにはさっぱり見えないです…!」

魔力のないカエデにはその村の存在は視認できないようだった。 …近づけば、確認できるだろうか?俺はカエデの手をとった。

「行こう。下っていけば、村まで着けるから」

「――― はい!」

俺はカエデと手を繋ぎ、はやる気持ちを抑えながら… 丘を下り、イオットの村を駆け足で目指した。

――― …
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