かつて最強と呼ばれた男は前世の知識と共にTSお嬢様を満喫するようで

赤木林檎

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第九話 手の内を知るのは神のみか

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 膝に手をやってどうにか立ち上がり、自分の体を確認する。腕に擦り傷をしてしまった程度だ。ノルンの体の方も、多少の擦り傷はあるがそこまで大した外傷は無い。一安心といったところである。そうはいうもののノルンの表情は次第に曇っていき、今にも泣き出しそうである。
 こんなことで泣くなといってやりたいが、まあ4歳なので仕方ないのだろうか。いやしかし、お隣さんがこんな泣き虫では困る。ノルンにはもっと強くなってもらいたいものだ。
 そう悩んでいる間にもノルンはどんどん涙目になっていき……

「わたしは、こんなことでなかない」

 私は情けないノルンにそう宣言した。3歳の少女が泣かないのだから、お前もなくな。メリダ家の男として強くなれ。かつての俺みたいに。
 ノルンは一瞬はっとした表情をした後に目を擦ってわずかな涙をかき消した。そして、まだまだ泣きそうな顔ではあるが、その涙をグッと堪えている。
 そう、それでいい。お前はしっかり強くなるんだ。

「ノルン様、お怪我はございませんか! ステラ様も大丈夫ですか」

 ノルンの執事カルトラはノルンに駆け寄りノルンを確認している。
 そして、少し遅れてアルカの方も駆け寄ってきた。

「ステラ様、急に飛び出さないでください。あと一緒にこけるなら支えないでください」
「それは、ごめん」

 アルカは慌てた表情で私の体を隅々までチェックする。私の方も大慌てで体の再チェックである。うむ、せいぜい子どもがこけた程度だ。怪我は一部を除いてしていない。

「というか、怪我していませんよね! 手を見せてください」
「それは、すこしまって」

 急いで手を背中の後ろに隠す。先ほどこけた際に手に怪我をしている。しかし、これをアルカにみられるのはまずい。正確にいうと、お母様にみられるのがとてもまずい事態である。しかし、手を隠し切るのは非常にむずかしい。どうするものか。
 まあ解決方法はひとつしかないのだが、できるかはわからない。なんとなく今ならできる気がするがどうだろうか。

「……絶対怪我しましたよね。ちょっと見せてください」
「ほんのすこし、まってくださいまし」
「早く見せてくださいー」
「いめーじするからもうすこしだけまって」
「何言っているんですか。もういいです。無理矢理みます」

 アルカから手を隠すのはもうそろそろ限界だ。間に合っているといいのだが。
 アルカは無理矢理私の手をとってみた。しかし、私の手についているのは土のみ。決して傷跡などはない。

 はたして、私の作戦、というより賭けは成功したというわけだ

「だからいった。なにもない」

 ドヤ顔で返して見せる。当然、額は冷や汗でいっぱいだが。アルカはというとひとまずは一安心といった表情だ。しかし、すぐに表情を冷静沈着モードに戻して私の服についた砂をはらった。

「とりあえず、帰って手を洗って服を着替えましょう。今の服は……まあなんとかしましょう」
「えー、もう帰っちゃうの?ステラちゃんにアルカちゃん」
「すみません! 今日じつはお忍びで散歩しているんです。というわけでお母様がくる前に帰らないとなんです」

 カルトラにも事情を伝えて内密にしておくよう言っておいた。そして、挨拶を手短に伝え、私たちが帰ろうとした時だった。

「あの! ステラさん!」

 チャラ男ではない、男の声。正確には、男の子の声が聞こえる。振り返るとそこにはノルンが大きな声で私を呼びかけている姿が見えた。

「さ……さっき助けてくれてありがとう」

 ノルンは人見知りなのだろう。そういえば今日は一言もしゃべっていない。そんな彼が勇気を出して伝えてくれている。だから私も真摯に答えよう。

「どういたしまして。わたくしのなまえ、ステラよ」
「は、はい。僕の名前はノルンです!」
「これからもよろしく、ノルンさま」
「は、はい! よろしくお願いします!」

 ――――――――

 ノルンとの会話も終えて、帰路に着く。帰ってからは、服を着替えるなりなんなりして、その後はアルカが色々と証拠隠蔽に駆け回っていた。

『あの一瞬で回復魔術なんて、やるねー勇者。そんな練習してたっけ』

 どこからともなく神様の声が聞こえる。初めの方は聞こえるたびにびっくりしていたが、今となってはもう驚くことはない。

「いいや、あれはぶっつけ本番だった。というより無詠唱ができるようになったのも今日だし」

 そう、私は手を隠したまま回復魔術を使った。自己回復魔術はかなり簡単な方の魔術であるが、無詠唱で見えない部分に使うのはそう容易ではない。本来なら感覚を取り戻すための訓練をする予定だった。

 どうやら、無意識に走り出したあの瞬間に副作用で色々と感覚を取り戻したようだ。

『まあ、人を助けるときに覚醒するって、いかにも勇者らしいよねー』
「私、一緒にこけただけですけれどね」
『確かに。そろそろ体も鍛えたら?』

 神様のいうこともごもっともである。しっかり3歳になったことだし、そろそろ体も鍛え始めることにしよう。

 手始めに腕立て1000回屈伸1000回腹筋1000回が目標ということで。

『無理だと思うよ』
「全くもって同意ですわ」

 何事も順序が大切ですわね。


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