こっちむいて片桐くん!

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放課後、片桐に引っ張られて、学校の近くの繁華街まで連れて行かれた。
性的な嫌がらせを受ける時はいつも学校でだったので、外に連れ出されたのは初めてだった。

黙って後に付いて行くと、知らない男の人を紹介された。


「やあ」

――誰……?

「この方はシムカさん」

「はじめまして、君が向井くん?」

「は、はあ……」

シムカという人は、一見すると優しそうに見えた。
どちらかというとなよなよしてて、優男とかそんな感じだ。


「それにしても、大人しそうな顔して、君も物好きだね」








「…………AVに出たいなんて」

「へ……?」

「ホテル取ってあるんで、早く行きましょう」

「ホ、ホテル……?」

「なーにボケっとしてんの! 早く行くよ!」

「うわっ」


片桐に腕を引っ張られたが、俺はなんとか脚を踏ん張って抵抗する。
このまま連れていかれたらヤバイって、鈍い俺でも流石に察した。




「お、俺、い、行かない……!」

「ハァ? 友くんがどうしてもって言うから、俺が話つけてあげたんだよー?」

「片桐…… おかしいよ……」


俺が嫌いだからって、普通ここまでするか?
こんな人まで連れて来て、絶対コイツ普通じゃない……。


「相変わらずウルセェな。 早く来いっつってんだろ」

「うあ……」


片桐に強く腕を引かれ、踏ん張っていた足が動いてしまう。
無理やり引っ張られて、腕がもげそうだった。


「ま、待って…… 片桐……ッ」


ぐいぐい引っ張られて、俺は踏ん張りつつも少しずつ進んでしまう。
俺なんかよりずっと、片桐のほうが力が強かった。

もうこのまま従うしかないのかと思ったその時……



「……維弦?」



背後から、誰かの声がした。
反射的に振り向けば、そこには神崎が居た。




「ゆ、遊星……!?
 なんでここに……? 部活の連中と遊びに行くって言ってたのに……」

「え? だからこの近くで遊んでた。
 遊んでたら維弦と向井が見えた。
 なんか様子がおかしかったから来た」

「そ、そうなんだぁ~……」




「か、神崎……た、助けて……」


俺は声を振り絞って助けを求めた。
藁にもすがる思いだった。


「……虐めてたのか?」

「は? 違うよ? 俺達仲良しだもーん。ね? 向井?」

「無理やり引っ張ってるとこ見てた。 虐めてただろ」

「こんなのふざけてるだけじゃん」

「維弦はそうだったとしても、向井は本気で嫌がってる。
 それにその人だれ? 見たところ学生には見えないけど。
 なんかヤバイ人じゃないの?」

「遊星には関係ないじゃん。 行くよ、向井」

「待てってば!」


俺は、片手を片桐、もう片手を神崎に同時に引っ張られる形になった。



「虐めなら放っておけない!」

「虐めじゃないって!」

「維弦は昔からそういうところあった」

「小学生の時だって、中学生の時だって、いつも向井みたいなこういう気の弱い子虐めてた」

「……っ」

「向井の手、離せよ。離さないならお前とはもう絶交だ」

「なっ……!?」


片桐は、悔しそうに唇を噛み締めつつ、俺の腕をゆっくり離した。



「俺、維弦のそういうところだけは、昔から許せなかった。
 もう向井に近寄るなよ」

「くっ……」

「行こう、向井」


俺は、片桐を置いて、神崎に手を引かれるままに歩いた。
片桐の悔しそうな顔が、頭から離れなかった。
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