シュガー君は甘すぎる

白湯子

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シュガー君は甘すぎる

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「唯子ちゃん、落ち着いた?」
「……。」
「ねぇ、唯子ちゃんってば。」
「……。」
「ゆーいーこーちゃーん?」
「あーもうっ!うるさい!ってか、離してよっ!!」
「やだよ。せっかく抱き締めてるんだから、もうすこしこのままで居させて。」


シュガー君はそう言って私を抱きしめている腕にギュッと力を入れた。
私はこれ以上シュガー君と密着しないよう体と体の間に手を置くが、意味をなしていない。

私は子供みたいに大泣きした後、ずっとシュガー君に抱き締められている状態のままだ。
恥ずかしくて死にたい。
しかし、シュガー君の腕の中が居心地良く感じているのも事実で、この腕を離して欲しくないと、思ってしまう。
口では真逆なことを言っているのに、なんて傲慢なのだろう。
彼女が居るとわかってはいるが、一瞬でも二番目の女でも良いかな、なんて思ってしまう自分にこの上なく嫌気が差す。
私はこんなに浅ましい女だったのか。


「……シュガー君のばか…。」


いや、違う。馬鹿なのは私だ。
どうしようもない、馬鹿なのだ。

再び目頭が熱くなるのを感じた。最近、何故か涙脆いくていけない。歳のせいだろうか。まだ、大学生だろう?自分よ。早いよ。

鼻水が洪水のように流れ、目も妖怪のように赤く腫れ上がり、可愛らしさの欠片もない。
きっとシュガー君の彼女なら、愛らしく泣くのだろう。
‥‥私も可愛らしく泣けたら、あの子の元へ行かないでくれるのだろうか。
女々しい考えに苦笑いする。
なんてことだ。失恋して自分の気持ちに気づくなんて‥‥。


「‥‥なんで、また泣くの?」


シュガー君は慰めるような手付きで私の背中を撫でてくる。


「今日の唯子ちゃん、なんか変だよ。講義には来ないし、いきなり泣くし、‥‥俺の事、嫌いって言うし‥‥。」
「シュガー君の方が、変、だよ。」


あんなに可愛らしい彼女が居るくせに、私にキスをしてきたシュガー君。
この行動の意味がわからない。


「唯子ちゃんの方が変。」
「シュガー君だってば。」
「唯子ちゃん。」
「シュガー君っ。」
「……泣くほど俺が嫌いなの?」


シュガー君は私の肩に顔を埋め、今にも消えそうな声で呟いた。
その姿は必死に縋ってくる幼い子供のようで、何だか私が悪者のようになった気持になる。だが、悪いのはシュガー君だ。抱きしめ返そうとしてしまった手を必死に押さえ込む。


「……嫌い……じゃ、ない…。」


おかしいことに嫌いになれないのだ。無理やりあんなことされた後だというのに……。


「じゃあ、好きなんだね。」
「……は?」


嬉しそうに私の肩に頭をグリグリと押してくるシュガー君に殺意に似たものを感じてしまった。
彼女が居るくせに、好きしか許さないとか酷すぎる。
シュガー君にとって、私はなんなのだ。


「なんで嫌いだなんて心にもないようなことを言ったの?」


肩から顔を上げ、コテンと首を傾げ私を見つめる。
ちくしょう。可愛いな。
さっきまであった殺意は萎んでしまった。随分都合がいい女だな。呆れる。


「そ、れは……。」


シュガー君が私をおかしくさせるからだ、なんて恥ずかしくて言えない。
私の視線が泳いでいるのに気付いたシュガー君は、私の頬を両手で包み、強引に目線を合わせた。抱き合っていた体勢のままなため、驚くほどに顔が近い。私は、その可愛らしい顔を前にして息を呑んだ。
シュガー君の目は私をしっかりと捉え、『言って』と目が物語っている。


「………………。」
「唯子ちゃん。」
「……しゅ、シュガー君には…っ。」
「うん。」
「彼女が居るでしょ?」
「……は?」


シュガー君は驚くわけでもなく、ただ眉をひそめた。何を言っているのかわからないと、いうように…。
私はその顔にイラついた。
ここまできて何故そんな態度をとるのだろう。


「なのに、私に無理やりキ、キスしてきて最低だよ…っ。」


一度言ってしまえば、もう止まらない。


「シュガー君は酷い。毎日、お弁当作ってきてきれたり、髪や手に触れてきたりして…!」


おいおい、止まれよ私。シュガー君が困っちゃうでしょう?
こんなみっともないことをしたいわけじゃない。


「その気もないくせに、思わせ振りな態度しないで……っ!」


きっと私は涙で顔面崩壊になっているだろう。
最悪だ。
こんな私なんてほっといて、あの可愛らしい彼女のもとへ行ってくれ。
これ以上、私を哀れな女にしないでくれ。


「……つまり、俺に彼女が居ることに嫉妬して、それで俺のことを嫌いって言ったの?」


綺麗な目を見開き、首を傾げるシュガー君。
簡潔にまとめらせた台詞に顔に熱が集まる。


「なっ……!」
「唯子ちゃんは俺のこと、好きなんだね?嬉しい…。」


シュガー君は再び私を抱き締めようとするのを慌てて阻止する。


「え、ちょ、離して!彼女が居るのに最低!二股する気かっ!」
「ねぇ、さっきから彼女彼女って何?俺、彼女なんて居ないよ?」


その言葉に目を見開く。


「いや、だって私見たんだよ!」
「何を?」
「シュガー君がキ、スしているところ…。」
「え、何それ。一体誰と?」


シュガー君は不機嫌そうに眉間にシワをよせる。
惚けているようには見えない。
私は何だかわからなくなり、混乱した。


「フワフワしている超美少女と、旧校舎近くで……。」
「…確かに旧校舎近くで女の人に話しかけられたけど、ただそれだけだよ。」
「それだけって……。」
「女の人が転びそうになったとき、軽く受け止めたけど、本当にそれだけ。それに、好きでもない人にキスなんてするわけないでしょ?」


私はあの可愛らしい彼女とシュガー君の唇がくっついた所は見ていない。顔と顔が近づいたことに、てっきりキスをしたと勘違いしてしまったらしい。

なんて早とちり女だ!

居た堪れなくなり、私はシュガー君から逃げようとした。


「離れようとしないで。俺達、恋人同士なんだから。

「こい……っ!?」


なんだ、この急展開。
いつ、友達から恋人へシフトチェンジしたのだ。
混乱する私をよそに、シュガー君はことばを紡ぎ続ける。


「だってそうでしょう?唯子ちゃんは俺が好き。俺は唯子ちゃんが好き。ね?」


なにが、ね、だ。
そんなに嬉しそうに微笑まないでくれ。
可愛いな、ちくしょう。…あれ、デジャブ?


「よろしくね?唯子ちゃん。今日から俺が彼氏だよ。」


甘く甘く囁くシュガー君に顔が強ばる。
流されているのではないだろうか。
しっかりせねばと、気合を入れシュガー君を睨めば、熱を含んだ甘い視線とぶつかり合い、怯んでしまった。
あぁ、なんてこった……。


「……………不束者ですがよろしくお願い致します……。」


負けた。いや、初めから勝敗は決まっていたのだ。
ガクッと 項垂れて盛大に溜め息をついた私にシュガー君は満足そうに触れるだけの口づけをするのであった。




私は結局、このシュガー君に甘いのだ。










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