シュガー君は甘すぎる

白湯子

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シュガー君と無意味な行為

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ヌルリと口腔に侵入してきた熱い舌の感覚に肌が総毛立つ。危機感を感じ、シュガー君を蹴り上げようとするが足の間にシュガー君の足が入り込み、身動きがとれなくなってしまった。

焦る私をよそに、行為はどんどん激しさを増してゆく。酸素を全て吸い取られ意識が薄れてゆく中、脳内にチラリとシュガー君と可愛らしい彼女の姿が過ぎった。
あぁ、そうだ。この唇は……………


ガリッッ


「―いッ。」


あの子に触れたものだ。

いきなり入り込んでくる酸素にむせる。
あの別の生き物のように動き回っていたものが、離れていったのだ。

息が整わないまま目の前のシュガー君の様子を伺うと、私の口腔内を犯していた官能的な唇から一筋の赤い雫がこぼれ落ちた。


「……あっ……。」


痛みに可愛らしい顔を歪めるシュガー君。そして、私の口の中からじんわりと鉄の味が広がった。


(……か、噛んじゃった……。)


後悔しても遅い。もう事後だ。私は自分のしてしまったことに気付き、顔を青くする。


「ご、ごめ…ん……っ。」


ちゃんと謝りたいのに、私の口から出てきたものは、笑えるほどか細い声だった。
シュガー君は、ぼんやりと口からこぼれた雫を指で拭い、舐めとる。その動きが、どことなく艶かしく感じ、私の心臓をおかしくさせた。


「……うん、甘い。」


微かに口角を上げて呟くシュガー君に、得体のしれない恐怖が私を捕らえる。
彼は本当にシュガー君……?
私が知っているシュガー君は、いつもニコニコと笑っていて、私に穏やかな時間を与えてくれる。なのに……。


「唯子ちゃんは何しても甘いね。…クセになりそう。」


目の前にいるシュガー君は、怪しく光る眼差しで私を見下ろしていた。


「い、いやっ……。」


私は逃げようと必死に抵抗する。目の前に居るシュガー君が怖くて仕方が無いのだ。しかし、体格差ではシュガー君の方が勝っており、いとも簡単に私を押さえ込む。


「ねぇ、もっとキスしたい。」
「やだっ……んぅっ……!」


再びシュガー君は私の口を塞いできた。
さっきの荒々しい口付けとは違い、ゆっくりと撫で付けられる口付けに混乱する。
何故私にこんな無意味なことをするのだろう。何かの当て付けなのだろうか。

彼女が居るのに私に無理やり口付けをしてくるシュガー君は最低だ。だが、もっと最低なのは心のどこかで喜びを感じている私自身方だ。
抵抗するはずの手は縋るようにシュガー君の胸を掴み、拒もうとする舌は何時しかシュガー君に応えるように求めていた。

いつから自分はこんなに、ふしだらな女になってしまったのだろう。
そんな自分に嫌悪感を抱く。


「…ねぇ、好きって言って…?」


私の耳に唇を寄せ、吐息混じりに甘く囁きかける。
感じる吐息に身震いが走った。


「そうしたら嫌いって言ったこと、許してあげる。」


優しい甘さで私を追い込もうとするシュガー君。
言ったら楽になるのだろうか。
ぼんやりとしていく意識の中、そんな考えが浮かぶ。しきし、言ってしまったら自分が自分でいられなくなってしまいそうな気がするのだ。それが、たまらなく怖い。


「……き…ら…っふぅっ……。」


言い終わる前に言葉と共にシュガー君が己の唇で絡めとる。


「唯子ちゃんは……酷い。」


酷いのはそっちだ。


「気があるようなフリして。」


それもシュガー君の方だ。私は何もしていない。巻き込むな。


「甘やかし過ぎたのかな?」


そうだ。君は甘すぎる。私は元々甘いものが大嫌いだ。


何度も何度も淫らな口付けを繰り返し、私はとうとう自力で立っていられなくなっていた。
足の間にあるシュガー君の足のせいで、しゃがむことすら許されない。
抵抗する力すら吸い取られた私は、シュガー君にされるがままになっていた。


「……はぁ、唯子ちゃん……。」


やっと唇を離したシュガー君は艶っぽい声で呟きながら私の首筋に顔を埋め、ねっとりと舌を這わせてきた。


「やめ…て……っ。」


得体のしれない何かが込み上げてくる感覚に混乱する。こんなことやめてほしくて声をかえるが、シュガー君は私の話など聞かずに、肌を吸い上げた。


「いったっ……。」


いきなり感じた鋭い痛みに身体を強ばる。そんな私の身体をシュガー君の手は怪しく這わせ、その感触に私は息を呑んだ。


「たまんない……。ねぇ…、ここで、しよ?」


熱を含んだ声で私に問いかける。
聞いたこともない声に私の涙腺は完全に崩壊した。


「もっ……もう嫌だっ!!しゅ、シュガー君なんて嫌いっ!大嫌い……っ!うわぁぁぁぁぁあん!!」


子供のように泣きじゃくる私にシュガー君は動きを止めた。
力では敵わないと分かってはいるが、ひたすらシュガー君の胸を叩き続ける。


「ゆ、唯子ちゃん、落ち着いて……?」


シュガー君は私の口から肩に手を添え、ゆっくりと床に座らせてくれる。


「……お願いだから泣かないで。」


聞き慣れた声が聞こえた。目を開ければ困った笑みを浮たシュガー君が、私の涙を優しく拭ってくれた。そのいつもと変わらない優しさに、また涙が溢れる。


「ごめん。…ごめんね、唯子ちゃん……。」


子供をあやすように背中を撫でられる。
気付けば私はシュガー君にしがみついていた。

「ひどい!最低…っ!変態…!!」
「うん、ごめん。」
「悪魔っ!馬鹿!変態……っ!!」
「うん。……変態って2回言った?」
「うるさいっ!シュガー君なんて嫌いだっ!」
「嫌いはやだよ…。」
「ばかばかばか!!!」


私はシュガー君の胸に顔を埋めこんだまま暴言を吐きまくる。そんな私をシュガー君はしっかりと抱きしめるのであった。
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