転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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1173.転売屋は呼び出しを受ける

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「シロウさん、悪いんだけど今日の外出は中止にしてもらえるかな。」

「どういうことだ?」

「つい今しがた君に呼び出しがかかったみたいでね、これを渡してくれるように頼まれたんだ。」

朝食後、いつものようにゴミ拾いをしに行こうかと思っていたらフェルさんから一枚の手紙を渡された。

差出人は何も書いていないが手紙の開封部には見覚えのある紋章の封蝋が押されていた。

送って来たのは王家の人間、それもあえて名前を出さないような人物となると一人しかない。

「陛下からの呼び出しか、そりゃ中止にするしかないな。」

「僕的にはもう少し早く連絡が来ると思っていたんだけど。馬車が用意してあるから準備ができ次第それに乗って向かってほしいそうだ。」

「もう貴族じゃないんだから別にそんなもの用意しなくてもいいのにな。」

「むしろ貴族じゃないから乗ってほしいんだと思うよ。一般人がおいそれと入ってもいい場所じゃないからね。」

「そういえばそうか。」

今まではあまり気にしていなかったが、普通に考えれば一般人がおいそれとあっていい人じゃないもんなぁ。

今までは名誉男爵だとかそれに見合う功績だとかで優遇されていたものの、国家反逆罪なんてたいそうな罪を背負ったやつを呼び出すのは中々に大変だろう。

だからこそ連絡が遅くなったのかもしれない。

前と違って正装的なものもないので、着の身着のままルフと共に屋敷前に止められた馬車に乗り込む。

静かに動き出した馬車はゆっくりと王城へと向かう・・・ことなく、そのまま大通りを抜けて一度外に抜けるとそのまま城壁に沿って城の方へ。

しばらく進むと何もない場所で馬車が停車した。

「どうぞお降りください。」

「ここで?」

「そう指示されただけですので。」

ふむ、あの封蝋的に誰かが嵌めようとしているってことはないだろうけどまさかこんなところで置き去りにされるとは。

戻っていく馬車を見送り、城壁にもたれかかるようにしてルフと共にその時を待つ。

北風が吹きつけてきて寒いので、その場にしゃがんでルフにもたれかかるようにして暖を取る。

あー、もふもふ暖かいなぁ。

「まったく、もう少し顔を引き締めたらどうだ?」

「うぉ!リングさんいったいどこから出てきたんだ?」

「王族だけが使える隠し通路だ、早く入れ。」

抱き着くような感じであったまっていると、突然上からリングさんが俺たちを覗き込んできた。

後ろは城壁しかないはず、と思いきやいつの間に人が一人通れるぐらいの穴が開いている。

すごいな、まるで忍者の隠し通路じゃないか。

転がり込むようにして中に入ると静かに扉が閉まり、代わりに魔灯が自動で輝き始めた。

「すごいな、こんな場所があったのか。」

「基本的に逃げるときにしか使われないはずだが、今回のように非公式の相手を招待するときはまれに使われている。」

「俺って非公式なんだな。」

「国家反逆罪の罪人を国王陛下が呼びつけるなど非公式以外の何物でもないだろう。まったく、仕組まれたとはいえ面倒なことに巻き込まれおって。」

「好きで巻き込まれたわけじゃないんだが。」

本当なら今頃のんびりと仕事を楽しんでいるはずが、気づけば王都にまで連れてこられて毎日ゴミ拾いの日々。

もちろんそれが嫌とは言わないが、巻き込まれなければこんなことになっていないのは事実だ。

盛大なため息をついたリングさんはその後何も言わずに通路を先行し、その後ろをルフと共に追いかける。

途中何度か通路から城のどこかへと出てきたが再び薄暗い通路に戻り、誰にも会わずにとある部屋へと案内された。

応接室というには窓もなく質素だが、それでも絨毯はふかふかだしソファーの座り心地は申し分ない。

「ここで少し待て、すぐに来られるはずだ。」

「リングさんは?」

「私はお前を連れてくるようにとしか言われておらん、残念ながら同席はできそうにない。」

「そうか。でもまぁしばらくは王都にいるしまた挨拶に行かせてもらってもいいか?」

「金貨3000枚もの罰金をしばらく滞在するだけで返済できると思っているのはお前ぐらいだろうな。」

確かに普通には無理だろうけど、こんなところでくすぶって家族に会えないなんて嫌だからな。

リングさんも俺ならやるだろうと思っているから笑わずに返事をしてくれたんだろう。

また今度お土産を持ってうかがうとしよう。

リングさんが部屋を出ていき静寂が訪れる。

ルフは興味なさそうに足元で静かに体を伏せ、なんなら寝息まで立て始めた。

外が見えないので時間とかはわからないが王都にきてここまでのんびりとした時間を過ごすのは久々かもしれない。

ここ数日は一日中動き回っていたからなぁ。

そんな風に思うと俺までうとうとし始めてきた。

さっきリングさんに言われたところなのに、また眠気が襲ってきて・・・。

「シロウ、起きるがよい。」

「ん?ディーネか。」

「こんなところでも寝れるとは相変わらずの男よのぉ。まぁ、そこがいいんじゃが。」

「何がいいのかさっぱりわからないけど、緊張して何も考えられないよりかはいいだろうね。」

聞き覚えのある声に起こされ、目を開けると呆れ顔のディーネとガルグリンダム様が俺を見ていた。

大きく伸びをしてバキバキと音を立てながら体のコリをほぐしていく。

あー、すっきりした。

「ガルグリンダム様も一緒ってことは、戦争は本当に終わったんだな。」

「うむ、あの魔人が願いを叶えた途端にな。しかしあのような願いでいとも簡単に終わるとは思っていなかったが、操られていた兵士も正気に戻り被害も最小限で済んだようだし最善だったのだろう。」

「しかし強欲の壺が満たされる時が来るとはねぇ。しかもそれを満たしたのが君だなんて、何か作為的なものを感じるよ。」

「作為的って言われても俺は全財産をあいつに食われて、今じゃ借金生活だ。」

「それはご愁傷様。ちなみにその壺はどこにあるのかな、物が物だけに宝物庫に収蔵するという話も出ているんだけど。」

「それなら今も俺の部屋にあるぞ。ただ色々あって封印中だ。」

いや、マジで色々あったんだよ。

でも宝物庫に入れるという話は俺も賛成だ。

金次第でなんでも願いをかなえられるのは今回の一件で証明されている。

世界の破滅とかを願われることがないように、厳重に保管するべきだろう。

「おや、彼が来たみたいだ。その話はいずれまた。」

「エドワード陛下、入られます。」

ノックの音と同時に扉が開き、陛下がゆっくりとした足取りで部屋に入ってくる。

慌てて立ち上がり深々と頭を下げた。

今は義理の父でもなんでもない、ただの一般市民と国王だ。

気を付けないと。

「頭を上げよ。」

「はい。」

いつもよりも重たい声で顔を上げるように促される。

向こうからしてみれば可愛い息子・・・じゃなかった娘と離婚した相手になるわけで、そりゃあ厳しい声にもなるよなぁ。

怒鳴られるか殴られるか、そう覚悟して顔を上げた先には穏やかな顔をした陛下が立っていた。

「まったく、お前という男は・・・離婚をするという話を聞いた時は腰が抜けるかと思ったぞ。」

「この度はその、ご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした。」

「何を謝る必要がある。お前は西方の裏切り者に目をつけられたと思ったらロバートとシャルロットの身を守りつつそやつを捕縛した上に問題の戦争まで終結させてしまったのだぞ。しかも自分は身分を剥奪の上財産を没収され、更には金貨3000枚もの罰金を背負わされてなお国を恨むわけでもなくまじめに働いている。礼を言わねばならぬのは私の方だというのにお前の頑張りに何も報いることをできない私を許してくれ。」

そういうとさっきの俺のように深々と頭を下げるエドワード陛下。

いやいやいや、そういうのいいから。

マジでいいから。

「頭を上げてください、陛下。今回の件については色々なことが複雑に絡み合った結果ですし、戦争が終わったのも本当に偶然そうなっただけの事。なにより私の罪に関して減刑するよう働きかけて下さったとリンカーン議長よりうかがっています。処刑もあり得る状況で罰金刑だけで済み本当に感謝しています。」

「普通ならば今回の件についてもっと怒ってもよいのだぞ。」

「そうした所で何も変わりませんから。」

「相変わらず無欲な男だな。」

「無欲ではありません、むしろたくさんの打算があっての答えです。そういえばケイゴさんはどうしていますか?現国王と話をつけてくると言ってアニエスさんと出ていったままなのですが。」

「それならば心配ない、今は西方国とのパイプ役として動いてもらっている。」

なるほど、確かにパイプ役としては最高の人材だろう。

まさか本人もこんなことになるとは思ってなかっただろうけど、いい形で丸く収まったのなら万々歳だ。

「一方的に戦争を仕掛け、更には一方的に戦争を終えてきたことについては賠償という形で納めることになるだろう。こちらとしてはガルグリンダム様やディネストリファ様のおかげで兵士の被害はなかったが、それなりに金もかかっている。特に国の物価を安定させるにはそれなりの時間がかかりそうだ。」

「それはそれはご苦労様です。」

「本当はお前の知恵を借りられたらよかったのだが、反逆者を迎え入れるわけにはいかんのでな。だが、力が必要なときは声をかけるつもりでいる。もちろんそれなりの報酬は出すつもりだ。」

「こちらとしても借金返済の助けになるのであればありがたい話です。」

自前で稼ぐには限界があるし、何かしらの形で大金が転がってくるのであればそれだけ早くみんなの所へ戻れることになる。

とはいえ、必要以上に金を動かすと陛下自身に疑惑の目を向けられることになるのでその辺はしっかりと自重してもらわないとな。

使える縁はたとえ国王陛下でも使うつもりだが、金をせびるつもりはさらさらない。

その辺はわきまえているし女達も理解してくれている事だろう。

そういえばそろそろ手紙が向こうに着くころだが、どんな返事が返ってくるだろうか。

「うむ、出来る限りの援助はしよう。今困っていることはないか?あまり大したことはできんが、出来る限りのことはするぞ。」

「今のところウィフさんのおかげで何とかなっています。資金も少しずつ増えていますし今の所は順調だと言えるでしょう。ですがもし可能であれば各ギルドの偉い方と話ができるような紹介状的なものをいただけますでしょうか。今までのように身分を使うことができませんから、あまり派手に稼いで目を付けられないようにしたいので。」

「その程度でよければ準備しよう。」

「ありがとうございます。」

「それと家族の方は心配するな、お前がいない間もローランドがしっかり見てくれている。」

「ありがとうございます。」

俺がいなくても大丈夫だとは思うが、ローランド様が上からしっかりと見守ってくれているのならば安心だ。

後は俺が稼げるだけ稼いでさっさと罰金を払えば問題ない。

動き回ったときのお守りも手に入るようだし、これで今まで以上に安心して商売ができそうだ。

権力最高。

「話は終わりか?それならば私はシロウと一緒に戻るぞ。」

「もう戻ってしまうのかい?もう少しゆっくりすればいいのに。」

「ガルといた所で面白いことはないからな。」

「ディーネには悪いがうちに来ても腹一杯食える保証はないぞ?」

「その時はその時で何とかする、気にするでない。」

「そう言ってもらえると助かる。」

朝食はともかく昼食以降は基本自分たちの金で賄っているのだが、ディーネの腹を満たすとなると一日で破産確定だ。

もしもの時は遠慮なくたかりに行ってもらうとしよう。

「こんな言い方をして悪いがお前とこうして王都で話ができてうれしく思っている。これからもよろしく頼むぞ、シロウ。」

「こちらこそよろしくお願いします、エドワード陛下。」

今回のようなことがなければ俺が王都に滞在し続けるなんてことはなかったわけだし、それをポジティブに考えればいいだろう。

俺はここでしっかりと稼いで人脈を作り、戻ってからも大きな利益を生み出すつもりでいる。

その為のお守りももらったし、それで今回の件は水に流そうじゃないか。

後は例の壺をどうするかだが・・・。

ま、それはそれでまた考えるとしよう。

「してシロウ、せっかくここまで来たのだから今日一日は私に付き合ってもらうぞ。お前の知識を借りたい案件が結構あるのだ、忌憚なき意見を聞かせてくれ。」

いや、そういうのは俺みたいな商人じゃなくてもっと学のある偉い人の話を聞くべきだろう。

そう思ったところで陛下が納得するはずもなく、結局その日は夜遅くまで陛下との話し合いが続けられたのだった。

あー、疲れた。
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