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1172.転売屋はリンゴを食べる
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毎朝教会に出向きルフと一緒にゴミ拾いするのが最近の日課になっている。
毎日掃除してもゴミが出るというのは悲しい事だが、袋いっぱい拾えれば金になるので今だけは有難いとさえ思ってしまう。
それから冒険者ギルドに顔を出して下水道でのスライム駆除や、地下墓地のアンデット退治などを引き受けつつ夜のうちに仕込んでおいた聖糸を売りに出す日々。
これはこれで充実感があるのだがやはり俺には冒険者という職業は向いていないなぁと思ってしまう。
まず稼ぎが少ない。
これに関しては実力不足に加えて街の外に出られないことが原因だが、それでも命の危険がある魔物との戦闘で得られる金額が転売で得られる儲けよりも明らかに少ないんだよなぁ。
次に拘束時間が長い。
比較的弱い魔物なので退治することに時間はかからないのだが、それでも隅々まで歩き回るとどうしても時間がかかってしまう。
ダンジョンであればその道中で宝箱を見つけたり薬草を拾ったりとプラスアルファの儲けを出す可能性があるが、地下墓地ではもちろんそんなものは手に入らないし下水道で手に入る物は大抵ゴミだ。
前に掃除をした時は貴金属なども落ちていたが、そういったものは長い年月をかけて積みあがっただけで早々手に入る物ではない。
なにより臭いがきついんだよなぁ、やっぱり。
ルフを連れて行くのは可哀想なので屋敷で待機してもらっているが、下水に入った日は近づいてこないしどれだけ洗っても臭いが取れず、致し方なくフェルさんから譲ってもらった香水で何とかごまかしたぐらいだ。
そういう意味でも自分の頭とスキルで稼げる今の仕事がやはり向いているんだろう。
「ん、これはシナモンか?」
「私達はカシュアと呼んでいる香木の一種です。良い香りですよね。」
朝食後、フェルさんが自慢げに持ってきた木の枝からは嗅いだことのある香りがしてきた。
香木といっても色々とあるのだが、こいつは紛れもなくシナモン。
でも元の世界では木の皮か何かだったと思うのだが、まぁ見た感じはほとんど同じか。
『カシュア。南方に自生する植物の一種で、生木からはさほど匂いはしないのだが乾燥させた物からは甘みのある香りが強くする。香木として主に部屋の香りづけなどに用いられるが南方では臭い消しとしても重宝されている。最近の平均取引価格は銀貨5枚。最安値銀貨3枚差高値銀貨7枚、最終取引日は10日前と記録されています。』
「確かにいい香りだが・・・ぶっちゃけ腹が減ってくるなぁ。」
「え、食べるんですか?」
「え、食べないのか?」
お菓子から料理まで様々なものに使われる香辛料の一種なのだが、どうやらこの世界では食用に使う事は無いようだ。
南方で手に入るらしく最近イザベラが南方に嵌っているので、その流れで手に入れた物だと教えてくれた。
そうか、食べないのか。
残念だ。
「確かに香りはいいですが、まさかこれを食べるんじゃないですよね。」
「いやいや、それはさすがに食わないって。このまま料理に使う事もあるけど大抵は香り付けだな。それか粉末にして軽くまぶすぐらいだ。」
「確かにいい香りではありますが・・・、やはりシロウさんは私達に知らないことをたくさんご存じですね。」
「やめてくれ、この前南方に旅行した時に教えてもらった知識をひけらかしているだけだから。」
本当は元の世界の知識だがそういう事にしていた方が何かと都合がいい。
「それを白状するのがシロウさんですよねぇ。良かったらたくさんありますので遠慮なくご使用ください。」
「たくさんって、こっちじゃ珍しい物だろ?浪費癖付けると大変だぞ。」
「それで彼女が幸せならそれでいいんです。」
「けっ、嫁さんに会えない俺に対する当て付けかよ。行こうぜ、ルフ。」
ブンブン。
カシュアの入った革小袋一つで銀貨三枚。
一生懸命ゴミ拾いをしてもこれ一つを買う事も出来ないのか。
それを大量に所有して持て余すなんて、これだから金持ちは・・・なんて、この前までの俺がまさしく同じような感じだったんだよな。
金に糸目をつけず必要なものを必要なだけ買いつけることが出来たのだが、今となっては過去の話だ。
もちろんそうなれるようにこうやって毎日頑張っているわけだが先は長い。
屋敷を出てルフと共に教会へ向かって日課をこなし今度は冒険者ギルドへ。
しかしながら今日はいい感じの依頼が無く作っておいた聖糸の取引も行っていないとの事だったので、早々に引き上げて市場を探索することにした。
さすが国一番の市場と言われるだけあって多種多様なものがたくさん売られている。
いくつか面白そうな物を見つけたのだが、どれも金貨を必要とする値段がつけられており手を出すことはできなかった。
うーむ、こういう時今までとの違いを実感するなぁ。
これを右から左に転がすだけでやり方次第では倍の値段でも売れるかもしれないのに、仕入れの段階で躓いてしまうんだから困ったもんだ。
今日は市場でも当たりを見つけることが出来ず、気付けば昼過ぎ。
ルフもそろそろ腹が減ってくることだろうけど、どうしたもんかなぁ。
「ん?」
食べ物の並ぶ一角を避けて歩いていると、ふと見覚えのある果物が大量に積み上げてあるのに気が付いた。
そういえばこれも冬の食べ物だったか。
港町付近の果樹園では栽培されていなかったからあまり縁が無かったのだが、こっちではそうでもないらしい。
「イラッシャイ、北で採れた美味しいアプルだよ。一つ食べていくかい?」
「かなりの量だな、売れてるのか?」
「そこそこだな。うちのは少し酸味が強いからそのまま食べるのには向いてないんだ。」
そう言いながら店主のオッちゃんが山のように積まれたアプルを一つ投げてよこす。
それ受け取り袖で軽くふいてから皮のままかぶりついた。
『アプルの実。主に北方で栽培されている冬の果実。甘みの強い物から酸味の強いものまで様々あるが、酸味の強い物は主にジャムなどに加工されて流通している。生食は主に春先までで、夏以降はジャムでのみ食べることが出来る。最近の平均取引価格は銅貨5枚、最安値銅貨4枚最高値銅貨8枚、最終取引日は本日と記録されています。』
微かな甘みを感じたと思ったら脳天を突き破るぐらいの酸味が一気に襲ってきて、思わずブルブルと震えながら背筋が伸びてしまう。
少しってレベルじゃないと思うんだが。
あー、すっぱ。
「これは・・・中々だな。」
「ははは、当たりを引いたな。」
「とか言って全部こうじゃないのか?」
「全部じゃないんだが・・・まぁ、それなりにな。」
「なるほどそりゃ加工用になるわけだ。」
確かにこの酸味では生食に向かないし、かといってジャムにするとしても手間と時間がかかる。
砂糖がすぐに手に入る環境ならいいが、何でも手に入るとはいえそこに運ばれるだけのコストはかかるわけで。
戦争の影響はあるだろうけど、それでも調味料関係が今までの三割増しぐらいの値段で取引されているのに驚いた。
それを使えば必然的に値段は上がるしおいそれと作ろうとは思わないよなぁ。
「一つ銅貨5枚、10個買ってくれるなら40枚でもいいぞ。頼む、買ってくれ!」
「買ってくれって言われてもなぁ。そんなにたくさん買ったって俺じゃ加工できないって。」
「そこを何とか、頼むよ。」
うーむ、そう言われてもこんな酸っぱいのを食べるのは大変だし、かといって加工するにも場所も道具も人もない。
いや、教会にお願いすれば前のように人手は確保できるだろうけど道具が無ければ始まらないわけで。
せめてもう少し甘みがあれば美味しくいただけそうなものだが・・・。
「わふ?」
何かを感じたのかルフが不思議そうに俺の方を見る。
せっかくならあれを使おうじゃないか。
「それじゃあ100個貰おうか。」
「本当か!」
「その代わり追加が必要になったらその都度同じ値段で売ってくれ。それと、一つお願いがあるんだが。」
「買ってくれるなら何でも言ってくれ。」
「なんでもって言ったよな?」
ニヤリと笑う俺におっちゃんが少しおびえたような顔をするが、そんな事は気にしない。
善は急げと足りないものを手配するために屋敷に戻り、それでも手に入らなかったものを市場で買い集める。
全部で銀貨10枚程掛かってしまったが、それ以上売ればいいだけの話だ。
自分で稼ぐという高揚感。
さぁ、久々に頑張ってみるとするか。
「さぁさぁ、おなじみのアプルが今話題の南方風に早変わり。甘酸っぱくていい匂いのするバターアプル、一皿銅貨15枚で販売中だ。」
パンパンと手を叩いていつものように客の視線を集めていく。
おっちゃんの店の半分を使わせてもらって自分の店を開く事で露店の開設費用を節約しつつ、フェルさんの家に転がっていた古い棚の上に冒険者ギルドから借りて来た簡易コンロを設置。
その上にこれまたフェルさんとこの厨房から拝借してきたフライパンを置けば即席のお店の出来上がりだ。
オッちゃんが手慣れた手つきで16等分に切ったリンゴをバターを溶かしたフライパンの上に並べ、さらにその上から砂糖を振りかける。
バターの焦げる匂いに人々の足が止まるが、それだけではどこにでもあるお店と変わらない。
大儲けをする為にはさらに目を引くとっておきが必要だ。
「え、何この匂い。」
「何か甘そうな感じなのに辛そうな気もする、え?何これ。」
「あそこのお店からみたい。」
火が通ってしんなりしてきた焼きリンゴの上にフェルさんから頂戴したシナモンの粉末を軽く振りかけただけなのだが、嗅いだことのない香りに大勢の客が露店の前に集まって来た。
皿に取り分けてさらに半分に切り、爪楊枝代わりのピンブランチをさしてやる。
「良かったら試食してみるか?」
「え、いいんですか?」
「あぁ、南方で採れるカシュアを使ったお菓子だ。」
「頂きます!」
「あ、私も!」
一人が手に取ると自分も自分もと大勢の客が試食に群がり、あっという間になくなってしまった。
その間にも次のやつを仕込んで焼き始める。
三人前を一回作るのにおよそ五分かかるので、ノンストップでやれば一時間で36人前作れる計算だ。
銅貨15枚で販売して時給銀貨5.4枚、最初のリンゴ代を加えても三時間やれば元が取れてそれ以上売れば利益が出る計算だ。
売れば売るだけおっちゃんもりんごを消費できるし、俺は俺で儲けが出る。
いつもと違って複数人で対応できないので紙コップのようなカプルという植物の葉を使い捨ての皿にして、さっきのピンブランチを使えば皿を洗う手間も時間も短縮できる。
その分経費は掛かるが損して得取れというやつだな。
「二人前ください!」
「私も!」
「このいい匂いのやついっぱいかけてください!」
主に食いついたのは女性たち。
独特の香りなので受け入れられるか不安だったが、元の世界同様好きな人は好きなようだ。
もっとかけてほしいという要望には追いカシュア銅貨5枚のオプション価格で対応。
焼いても焼いても終わらない大盛況、それでもおっちゃんは半泣きになりながらリンゴを切り続けてくれた。
おかげで在庫の山は半分以上なくなり、加えてアプルの美味しさに興味を持った人がそれなりの数を買っていったので最後はお礼を言われたぐらいだしな。
こうして、久方ぶりの商売は大盛況の末幕を閉じたのだった。
本日の儲けは銀貨21枚程。
やっぱり俺には冒険者よりもこっちの方が性に合っているとあらためて気づかされたのだった。
毎日掃除してもゴミが出るというのは悲しい事だが、袋いっぱい拾えれば金になるので今だけは有難いとさえ思ってしまう。
それから冒険者ギルドに顔を出して下水道でのスライム駆除や、地下墓地のアンデット退治などを引き受けつつ夜のうちに仕込んでおいた聖糸を売りに出す日々。
これはこれで充実感があるのだがやはり俺には冒険者という職業は向いていないなぁと思ってしまう。
まず稼ぎが少ない。
これに関しては実力不足に加えて街の外に出られないことが原因だが、それでも命の危険がある魔物との戦闘で得られる金額が転売で得られる儲けよりも明らかに少ないんだよなぁ。
次に拘束時間が長い。
比較的弱い魔物なので退治することに時間はかからないのだが、それでも隅々まで歩き回るとどうしても時間がかかってしまう。
ダンジョンであればその道中で宝箱を見つけたり薬草を拾ったりとプラスアルファの儲けを出す可能性があるが、地下墓地ではもちろんそんなものは手に入らないし下水道で手に入る物は大抵ゴミだ。
前に掃除をした時は貴金属なども落ちていたが、そういったものは長い年月をかけて積みあがっただけで早々手に入る物ではない。
なにより臭いがきついんだよなぁ、やっぱり。
ルフを連れて行くのは可哀想なので屋敷で待機してもらっているが、下水に入った日は近づいてこないしどれだけ洗っても臭いが取れず、致し方なくフェルさんから譲ってもらった香水で何とかごまかしたぐらいだ。
そういう意味でも自分の頭とスキルで稼げる今の仕事がやはり向いているんだろう。
「ん、これはシナモンか?」
「私達はカシュアと呼んでいる香木の一種です。良い香りですよね。」
朝食後、フェルさんが自慢げに持ってきた木の枝からは嗅いだことのある香りがしてきた。
香木といっても色々とあるのだが、こいつは紛れもなくシナモン。
でも元の世界では木の皮か何かだったと思うのだが、まぁ見た感じはほとんど同じか。
『カシュア。南方に自生する植物の一種で、生木からはさほど匂いはしないのだが乾燥させた物からは甘みのある香りが強くする。香木として主に部屋の香りづけなどに用いられるが南方では臭い消しとしても重宝されている。最近の平均取引価格は銀貨5枚。最安値銀貨3枚差高値銀貨7枚、最終取引日は10日前と記録されています。』
「確かにいい香りだが・・・ぶっちゃけ腹が減ってくるなぁ。」
「え、食べるんですか?」
「え、食べないのか?」
お菓子から料理まで様々なものに使われる香辛料の一種なのだが、どうやらこの世界では食用に使う事は無いようだ。
南方で手に入るらしく最近イザベラが南方に嵌っているので、その流れで手に入れた物だと教えてくれた。
そうか、食べないのか。
残念だ。
「確かに香りはいいですが、まさかこれを食べるんじゃないですよね。」
「いやいや、それはさすがに食わないって。このまま料理に使う事もあるけど大抵は香り付けだな。それか粉末にして軽くまぶすぐらいだ。」
「確かにいい香りではありますが・・・、やはりシロウさんは私達に知らないことをたくさんご存じですね。」
「やめてくれ、この前南方に旅行した時に教えてもらった知識をひけらかしているだけだから。」
本当は元の世界の知識だがそういう事にしていた方が何かと都合がいい。
「それを白状するのがシロウさんですよねぇ。良かったらたくさんありますので遠慮なくご使用ください。」
「たくさんって、こっちじゃ珍しい物だろ?浪費癖付けると大変だぞ。」
「それで彼女が幸せならそれでいいんです。」
「けっ、嫁さんに会えない俺に対する当て付けかよ。行こうぜ、ルフ。」
ブンブン。
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一生懸命ゴミ拾いをしてもこれ一つを買う事も出来ないのか。
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金に糸目をつけず必要なものを必要なだけ買いつけることが出来たのだが、今となっては過去の話だ。
もちろんそうなれるようにこうやって毎日頑張っているわけだが先は長い。
屋敷を出てルフと共に教会へ向かって日課をこなし今度は冒険者ギルドへ。
しかしながら今日はいい感じの依頼が無く作っておいた聖糸の取引も行っていないとの事だったので、早々に引き上げて市場を探索することにした。
さすが国一番の市場と言われるだけあって多種多様なものがたくさん売られている。
いくつか面白そうな物を見つけたのだが、どれも金貨を必要とする値段がつけられており手を出すことはできなかった。
うーむ、こういう時今までとの違いを実感するなぁ。
これを右から左に転がすだけでやり方次第では倍の値段でも売れるかもしれないのに、仕入れの段階で躓いてしまうんだから困ったもんだ。
今日は市場でも当たりを見つけることが出来ず、気付けば昼過ぎ。
ルフもそろそろ腹が減ってくることだろうけど、どうしたもんかなぁ。
「ん?」
食べ物の並ぶ一角を避けて歩いていると、ふと見覚えのある果物が大量に積み上げてあるのに気が付いた。
そういえばこれも冬の食べ物だったか。
港町付近の果樹園では栽培されていなかったからあまり縁が無かったのだが、こっちではそうでもないらしい。
「イラッシャイ、北で採れた美味しいアプルだよ。一つ食べていくかい?」
「かなりの量だな、売れてるのか?」
「そこそこだな。うちのは少し酸味が強いからそのまま食べるのには向いてないんだ。」
そう言いながら店主のオッちゃんが山のように積まれたアプルを一つ投げてよこす。
それ受け取り袖で軽くふいてから皮のままかぶりついた。
『アプルの実。主に北方で栽培されている冬の果実。甘みの強い物から酸味の強いものまで様々あるが、酸味の強い物は主にジャムなどに加工されて流通している。生食は主に春先までで、夏以降はジャムでのみ食べることが出来る。最近の平均取引価格は銅貨5枚、最安値銅貨4枚最高値銅貨8枚、最終取引日は本日と記録されています。』
微かな甘みを感じたと思ったら脳天を突き破るぐらいの酸味が一気に襲ってきて、思わずブルブルと震えながら背筋が伸びてしまう。
少しってレベルじゃないと思うんだが。
あー、すっぱ。
「これは・・・中々だな。」
「ははは、当たりを引いたな。」
「とか言って全部こうじゃないのか?」
「全部じゃないんだが・・・まぁ、それなりにな。」
「なるほどそりゃ加工用になるわけだ。」
確かにこの酸味では生食に向かないし、かといってジャムにするとしても手間と時間がかかる。
砂糖がすぐに手に入る環境ならいいが、何でも手に入るとはいえそこに運ばれるだけのコストはかかるわけで。
戦争の影響はあるだろうけど、それでも調味料関係が今までの三割増しぐらいの値段で取引されているのに驚いた。
それを使えば必然的に値段は上がるしおいそれと作ろうとは思わないよなぁ。
「一つ銅貨5枚、10個買ってくれるなら40枚でもいいぞ。頼む、買ってくれ!」
「買ってくれって言われてもなぁ。そんなにたくさん買ったって俺じゃ加工できないって。」
「そこを何とか、頼むよ。」
うーむ、そう言われてもこんな酸っぱいのを食べるのは大変だし、かといって加工するにも場所も道具も人もない。
いや、教会にお願いすれば前のように人手は確保できるだろうけど道具が無ければ始まらないわけで。
せめてもう少し甘みがあれば美味しくいただけそうなものだが・・・。
「わふ?」
何かを感じたのかルフが不思議そうに俺の方を見る。
せっかくならあれを使おうじゃないか。
「それじゃあ100個貰おうか。」
「本当か!」
「その代わり追加が必要になったらその都度同じ値段で売ってくれ。それと、一つお願いがあるんだが。」
「買ってくれるなら何でも言ってくれ。」
「なんでもって言ったよな?」
ニヤリと笑う俺におっちゃんが少しおびえたような顔をするが、そんな事は気にしない。
善は急げと足りないものを手配するために屋敷に戻り、それでも手に入らなかったものを市場で買い集める。
全部で銀貨10枚程掛かってしまったが、それ以上売ればいいだけの話だ。
自分で稼ぐという高揚感。
さぁ、久々に頑張ってみるとするか。
「さぁさぁ、おなじみのアプルが今話題の南方風に早変わり。甘酸っぱくていい匂いのするバターアプル、一皿銅貨15枚で販売中だ。」
パンパンと手を叩いていつものように客の視線を集めていく。
おっちゃんの店の半分を使わせてもらって自分の店を開く事で露店の開設費用を節約しつつ、フェルさんの家に転がっていた古い棚の上に冒険者ギルドから借りて来た簡易コンロを設置。
その上にこれまたフェルさんとこの厨房から拝借してきたフライパンを置けば即席のお店の出来上がりだ。
オッちゃんが手慣れた手つきで16等分に切ったリンゴをバターを溶かしたフライパンの上に並べ、さらにその上から砂糖を振りかける。
バターの焦げる匂いに人々の足が止まるが、それだけではどこにでもあるお店と変わらない。
大儲けをする為にはさらに目を引くとっておきが必要だ。
「え、何この匂い。」
「何か甘そうな感じなのに辛そうな気もする、え?何これ。」
「あそこのお店からみたい。」
火が通ってしんなりしてきた焼きリンゴの上にフェルさんから頂戴したシナモンの粉末を軽く振りかけただけなのだが、嗅いだことのない香りに大勢の客が露店の前に集まって来た。
皿に取り分けてさらに半分に切り、爪楊枝代わりのピンブランチをさしてやる。
「良かったら試食してみるか?」
「え、いいんですか?」
「あぁ、南方で採れるカシュアを使ったお菓子だ。」
「頂きます!」
「あ、私も!」
一人が手に取ると自分も自分もと大勢の客が試食に群がり、あっという間になくなってしまった。
その間にも次のやつを仕込んで焼き始める。
三人前を一回作るのにおよそ五分かかるので、ノンストップでやれば一時間で36人前作れる計算だ。
銅貨15枚で販売して時給銀貨5.4枚、最初のリンゴ代を加えても三時間やれば元が取れてそれ以上売れば利益が出る計算だ。
売れば売るだけおっちゃんもりんごを消費できるし、俺は俺で儲けが出る。
いつもと違って複数人で対応できないので紙コップのようなカプルという植物の葉を使い捨ての皿にして、さっきのピンブランチを使えば皿を洗う手間も時間も短縮できる。
その分経費は掛かるが損して得取れというやつだな。
「二人前ください!」
「私も!」
「このいい匂いのやついっぱいかけてください!」
主に食いついたのは女性たち。
独特の香りなので受け入れられるか不安だったが、元の世界同様好きな人は好きなようだ。
もっとかけてほしいという要望には追いカシュア銅貨5枚のオプション価格で対応。
焼いても焼いても終わらない大盛況、それでもおっちゃんは半泣きになりながらリンゴを切り続けてくれた。
おかげで在庫の山は半分以上なくなり、加えてアプルの美味しさに興味を持った人がそれなりの数を買っていったので最後はお礼を言われたぐらいだしな。
こうして、久方ぶりの商売は大盛況の末幕を閉じたのだった。
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気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
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気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
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そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
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