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788.転売屋は清酒に出会う
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カランカランと店のベルが鳴り扉が開く。
入ってきたのは冒険者ではなく、40ぐらいの中年男性。
小柄だが良く引き締まった体をしていた。
元の世界の俺と比べても一目瞭然。
あの時は運動しても腹に肉がついたからなぁ。
しっかり鍛えれば別だったのかもしれないがって今はそんなことを考えているときじゃない。
「いらっしゃい。」
「こちらは買取屋シロウ様のお店で間違いありませんか?」
「いかにも俺がシロウだが、あんたは?」
「よかった、私はジョウジといいます。」
「見た感じ冒険者じゃなさそうだが・・・、客なんだよな?」
両手どころか後ろにもそれらしいものは見あたらない。
話がしたいだけならまずは屋敷に行って欲しいところなのだが、名乗ってしまったので今更断るわけにも行かないわけで。
「シュウの紹介できました、シロウさんなら必ず気に入ってくださると思っています。」
「シュウの?ってことは西方の出か。」
「そのとおりです。失礼ですがシロウ様もそうなのでは?」
「正確に言うと違うがそういうことにしておいてくれ。で、何を持ってきたんだ?」
本当のことを言うわけにも行かないし、いろいろと面倒なので適当に濁しておく。
話を聞いてくれると分かったところでジョウジさんは一度店を出て、今度は風呂敷に包まれたブツを両手でしっかり抱えて戻ってきた。
筒状、いや違うなワインのビンみたいな感じだが結構デカイ。
どっちかって言うと醤油瓶みたいな感じだ。
というか一升瓶か?
「話に聞けば私どもの料理にも詳しいのだとか。であれば是非こちらを見ていただきたく遥々馳せ参上した次第です。」
「堅い話は結構だ。いくら遠方から来たとしても物が良くなければ買わないし、いい品なら買わせて貰う。西方の品なら何でもいいという王都の貴族と同じだと思わないことだ。」
「滅相もありません。ではどうぞご確認下さい。」
濃い紫色の風呂敷がまるで着物がはだけるようにほどけていく。
その下から出てきたのはやはり一升瓶。
しかしその中身は醤油のような濃い茶色ではなく、澄んだ透明の液体で満たされていた。
うそだろ。
「清酒か?」
「見ただけでお分かりになるとは、やはりこちらの出ではないのですか?」
「何でそう思う?」
「清酒はわが国でも門外不出に近い扱いを受けています。出荷量は制限されていますし出荷先もごく限られた場所のみ。こちらの王、エドワード様にも提供したことの無い品です。鑑定スキルを用いたのならともかく、それを見ただけで言い当てるなど、こちらの人間でなければ不可能です。」
ふむ、こちらでお目にかかれなかったのはそれが理由か。
エドワード陛下ですら手に入れたことの無い品が一般に流通しているはずが無い。
そりゃマスターも知らないわけだ。
「不可能ではないだろう。量は少ないながらもこちらの国に流通しているしなにより俺が言い当てた。どぶろくが入ってきて清酒が入ってこない理由は無いだろ。」
「あのような未成熟の酒と一緒にされるのは困りますが、確かにシロウ様はずばり言い当てられました。本当にこちらの出ではないのですよね?」
「なんだ、そっちの人間には売ってはいけない制限でもあるのか?」
「そういうわけではございませんが・・・。」
「さっきも言ったがいい品なら買うし、そうでないのなら買わない。で、あんたはこれをどうしたいんだ?」
美味いかどうかは不明だが、是非手に入れたいものではある。
だが、もったいぶってふっかけて来るようならそういう品であっても買うつもりは無い。
この国でも少量ながら流通しているという情報だけでも大収穫だ。
あるなら探せば言いだけのこと、シュウの紹介とはいえその辺は甘くするつもりは無い。
「お気を悪くさせたのであれば申し訳ありません。」
「気にしないでくれ。で、見ていいのか?」
「どうぞご覧下さい。」
許可が出たのでお待ちかねの品にそっと手を伸ばす。
『清酒。西方でのみ作られる米を用いて作られた酒。その製法は門外不出で国外に持ち出されることさえも稀な為、幻の酒とも呼ばれている。最近の平均取引価格は銀貨30枚。最安値銀貨15枚、最高値銀貨50枚、最終取引日は30日前と記録されています。』
やはり間違いではないようだ。
幻の酒というぐらいだから金貨1枚ぐらいで取引されているのかと思ったが案外良心的な価格なんだな。
最安値が国内流通価格、最高値がこっちって感じだろうか。
後は味だな。
「間違いないようだが、味見もせずに買う気はない。もちろん飲ませてくれるんだよな?」
「もちろんです。」
「ちょっと待ってくれ、今お猪口を持ってくる。」
日本酒を飲むならぐい飲みもありだが、味見程度だしお猪口で十分だろう。
屋敷にもどればシュウのグラスもあるのだが、確かここにも残していたはずだ。
かって知ったる台所の戸棚をあさり、お猪口を二つ確保する。
「やはりこちらの出ではありませんか?」
「しつこいな。これは港町で偶然買い付けただけだ、味見ならこの大きさでいいだろ。さぁ注いでくれ。」
「失礼します。」
ジョウジさんは一升瓶を手馴れた手つきで持ち上げ、差し出したお猪口に静かについで行く。
こぼれることも無く表面張力で保たれたそれをあわてることなく口に運んだ。
まず感じたのは米の香り。
口いっぱいに広がるアルコールと米の風味を堪能してからのどに流し込む。
スッキリとしたのど越しに遅れてくる強いアルコールの刺激。
これは美味い、いい酒だ。
甘ったるいわけでも辛すぎるわけでもなく、バランスが良く非常に飲みやすかった。
大吟醸だともう少しまろやかなんだろうけど、さすがにそれをここで飲むのは無理だろう。
「美味い。」
「いい飲みっぷりです。」
「辛口でのど越しもすっきりしているし、それでいて酒の香りが弱いわけでもない。これが飲みたかったんだ。」
「お気に召していただけたようで何よりです。」
「いくらだ?」
「ずばり一本銀貨ごじゅ・・・「買った。」」
「即決ですか。」
「エドワード陛下も飲んだことのない酒だぞ、安いぐらいだ。」
「安いですか。」
「何本あるかは知らないが俺なら金貨1枚ででも売る自信がある。とはいえこれは自分で飲みたいが・・・難しいところだな。」
この言葉は嘘でも適当でもない。
本気で金貨1枚で売る自信がある。
だって一升瓶で銀貨50枚だろ?
確か1.8リットル入っているはずだから180mlで10杯。
その半分ぐらいで一杯銀貨5枚取ったらこれでもう金貨1枚だ。
そこに付加価値を付ければもっと高く売れる。
希少性があればあるほど上乗せできる金額は跳ね上がるわけだな。
例えば陛下に献上したとして、他の貴族には陛下にも献上された幻の酒として倍で売りつけても売れるだろう。
三倍でもいけるかもしれない。
国内でほぼ流通していないという付加価値に、さらに陛下へ献上されたという価値を加え、陛下が喜んでいたのであればそういう情報もまた加えられる。
あれよあれよという間に値段はつりあがるなんてのはよくある話だ。
そしてそんな価値のある酒がたった銀貨50枚で手に入るなんて、あまりにも怪しすぎるんだよなぁ。
「そこまで買っていただけるとは思いませんでした。」
「味は悪くないし付加価値も申し分ない。だが今の話だけじゃ買うのはその瓶だけだ。」
「これだけですか。」
「陛下の口にすら入らないような希少な酒が、俺みたいな田舎の商人の所に持ち込まれるなんて裏があるに決まってるだろ。盗品か、それともそれに近しい物か。一般商人ではなく俺みたいな買取屋の所に持ち込まれるのも変な話だしな。シュウの名前を出せば安心するとは思わないことだ。」
「決してそのようなことはありません。是非シロウ様にと思いこうやって遠路遥々・・・。」
「だからそういうのが怪しいんだって。」
国外にはほぼ出ず出荷先も決まっている。
そんな特別な品が何でこんな場所に持ち込まれるんだよ。
いくら俺が名誉貴族だからって持ち込むべき先は他にもあるはずだ。
向こうも商売、わざわざ安く売る理由は無いだろ。
「どうすれば信じていただけますでしょうか。」
「そうだな・・・。」
第一印象は悪くない。
嘘をついている感じはしないし、シュウの名前を出してくるあたり本当に知り合いなんだろう。
嘘をつくならもっとすごい人の名前を出してくるはず。
品物も正直のどから手が出るほど欲しい品だけに慎重になってしまうんだよなぁ。
「で、ここに来たと。」
「酒ならマスターだろ。」
「あの、こちらの方は?」
「三日月亭の店主で、酒の事を何でも知っている俺が信頼している人だ。」
「そうだったのか?」
「おい。」
このタイミングでその反応はやめて欲しいんだが。
商談途中に突然こんな場所につれてこられてジョウジさんはなんともいえない顔をしている。
俺に売るつもりなのになんでこんな場所に?って感じなんだろう。
「冗談だって。で、俺は何をすればいいんだ?」
「クレイジーオイスター、まだあるよな?」
「あぁ。どこかの馬鹿が大当たりしたせいでビビッて売れ残っちまった。」
「あの時言ったよな、相応しい酒が欲しいって。」
「ってことは見つかったのか?」
「とりあえず三つ頼む、味付けは醤油で宜しく。」
大事な商談には酒だろう。
一番奥の席を陣取って待つこと十分。
巨大な岩牡蠣が三つ運ばれてきた。
「この香りは醤油ですね、それにこちらは味噌でしょうか。」
「さすがだな。」
「俺はレレモンのほうが好きだが、お前はどうする?」
「ジョウジさんはどっちがいい?」
「では味噌で。」
なら俺は醤油だ。
グラスには先に酒を注いである。
マスターは無言でグラスを持つと、静かに口に運んだ。
「これは、初めての味だ。」
「美味いだろ。」
「おい、そっちをよこせ。」
「あ、俺のだぞ。」
食べようと思っていた牡蠣をマスターが横から奪い取り口に運んでしまった。
そして一気に酒を飲み干す。
酒臭い大きなため息のあと、にらみつけるように俺達のほうを向いた。
「いくらだ?」
「一瓶金貨2枚。」
「高いが売れなくは無いな。半値なら言うことないんだが、どうだ?」
「その辺は今後の交渉次第だ。で、ジョウジさん。この反応を見て言うことは何かあるか?」
「ただ、来て良かったと思っています。」
感無量という表情をした後、自分も牡蠣を喰らい酒を飲み干す。
この人が悪人なら金貨2枚で売ろうとするだろう。
でも善人でさらには職人であるならば、マスターの反応を見て喜ばないはずが無い。
自分の酒が認められた瞬間だ。
それはすなわち自分自身が認められたようなもの。
どうやらこの人は後者だったようだ。
「さっきの値段で買うとして、全部で何本ある?」
「今回持ってきましたのは10本です。」
「全部買わせて貰おう。その代わり、どうしてここに来たのか酒を飲みながらじっくり聞かせてくれないか。」
「そうと決まればこれに合う料理の追加だな、ちょっとまってろ。」
どうやらマスターも腰をすえて話を聞く気のようだ。
この酒が何故陛下の所ではなく俺のところに持ち込まれたのか。
その話を聞くには少量の酒では足りなかったとだけ言っておこう。
入ってきたのは冒険者ではなく、40ぐらいの中年男性。
小柄だが良く引き締まった体をしていた。
元の世界の俺と比べても一目瞭然。
あの時は運動しても腹に肉がついたからなぁ。
しっかり鍛えれば別だったのかもしれないがって今はそんなことを考えているときじゃない。
「いらっしゃい。」
「こちらは買取屋シロウ様のお店で間違いありませんか?」
「いかにも俺がシロウだが、あんたは?」
「よかった、私はジョウジといいます。」
「見た感じ冒険者じゃなさそうだが・・・、客なんだよな?」
両手どころか後ろにもそれらしいものは見あたらない。
話がしたいだけならまずは屋敷に行って欲しいところなのだが、名乗ってしまったので今更断るわけにも行かないわけで。
「シュウの紹介できました、シロウさんなら必ず気に入ってくださると思っています。」
「シュウの?ってことは西方の出か。」
「そのとおりです。失礼ですがシロウ様もそうなのでは?」
「正確に言うと違うがそういうことにしておいてくれ。で、何を持ってきたんだ?」
本当のことを言うわけにも行かないし、いろいろと面倒なので適当に濁しておく。
話を聞いてくれると分かったところでジョウジさんは一度店を出て、今度は風呂敷に包まれたブツを両手でしっかり抱えて戻ってきた。
筒状、いや違うなワインのビンみたいな感じだが結構デカイ。
どっちかって言うと醤油瓶みたいな感じだ。
というか一升瓶か?
「話に聞けば私どもの料理にも詳しいのだとか。であれば是非こちらを見ていただきたく遥々馳せ参上した次第です。」
「堅い話は結構だ。いくら遠方から来たとしても物が良くなければ買わないし、いい品なら買わせて貰う。西方の品なら何でもいいという王都の貴族と同じだと思わないことだ。」
「滅相もありません。ではどうぞご確認下さい。」
濃い紫色の風呂敷がまるで着物がはだけるようにほどけていく。
その下から出てきたのはやはり一升瓶。
しかしその中身は醤油のような濃い茶色ではなく、澄んだ透明の液体で満たされていた。
うそだろ。
「清酒か?」
「見ただけでお分かりになるとは、やはりこちらの出ではないのですか?」
「何でそう思う?」
「清酒はわが国でも門外不出に近い扱いを受けています。出荷量は制限されていますし出荷先もごく限られた場所のみ。こちらの王、エドワード様にも提供したことの無い品です。鑑定スキルを用いたのならともかく、それを見ただけで言い当てるなど、こちらの人間でなければ不可能です。」
ふむ、こちらでお目にかかれなかったのはそれが理由か。
エドワード陛下ですら手に入れたことの無い品が一般に流通しているはずが無い。
そりゃマスターも知らないわけだ。
「不可能ではないだろう。量は少ないながらもこちらの国に流通しているしなにより俺が言い当てた。どぶろくが入ってきて清酒が入ってこない理由は無いだろ。」
「あのような未成熟の酒と一緒にされるのは困りますが、確かにシロウ様はずばり言い当てられました。本当にこちらの出ではないのですよね?」
「なんだ、そっちの人間には売ってはいけない制限でもあるのか?」
「そういうわけではございませんが・・・。」
「さっきも言ったがいい品なら買うし、そうでないのなら買わない。で、あんたはこれをどうしたいんだ?」
美味いかどうかは不明だが、是非手に入れたいものではある。
だが、もったいぶってふっかけて来るようならそういう品であっても買うつもりは無い。
この国でも少量ながら流通しているという情報だけでも大収穫だ。
あるなら探せば言いだけのこと、シュウの紹介とはいえその辺は甘くするつもりは無い。
「お気を悪くさせたのであれば申し訳ありません。」
「気にしないでくれ。で、見ていいのか?」
「どうぞご覧下さい。」
許可が出たのでお待ちかねの品にそっと手を伸ばす。
『清酒。西方でのみ作られる米を用いて作られた酒。その製法は門外不出で国外に持ち出されることさえも稀な為、幻の酒とも呼ばれている。最近の平均取引価格は銀貨30枚。最安値銀貨15枚、最高値銀貨50枚、最終取引日は30日前と記録されています。』
やはり間違いではないようだ。
幻の酒というぐらいだから金貨1枚ぐらいで取引されているのかと思ったが案外良心的な価格なんだな。
最安値が国内流通価格、最高値がこっちって感じだろうか。
後は味だな。
「間違いないようだが、味見もせずに買う気はない。もちろん飲ませてくれるんだよな?」
「もちろんです。」
「ちょっと待ってくれ、今お猪口を持ってくる。」
日本酒を飲むならぐい飲みもありだが、味見程度だしお猪口で十分だろう。
屋敷にもどればシュウのグラスもあるのだが、確かここにも残していたはずだ。
かって知ったる台所の戸棚をあさり、お猪口を二つ確保する。
「やはりこちらの出ではありませんか?」
「しつこいな。これは港町で偶然買い付けただけだ、味見ならこの大きさでいいだろ。さぁ注いでくれ。」
「失礼します。」
ジョウジさんは一升瓶を手馴れた手つきで持ち上げ、差し出したお猪口に静かについで行く。
こぼれることも無く表面張力で保たれたそれをあわてることなく口に運んだ。
まず感じたのは米の香り。
口いっぱいに広がるアルコールと米の風味を堪能してからのどに流し込む。
スッキリとしたのど越しに遅れてくる強いアルコールの刺激。
これは美味い、いい酒だ。
甘ったるいわけでも辛すぎるわけでもなく、バランスが良く非常に飲みやすかった。
大吟醸だともう少しまろやかなんだろうけど、さすがにそれをここで飲むのは無理だろう。
「美味い。」
「いい飲みっぷりです。」
「辛口でのど越しもすっきりしているし、それでいて酒の香りが弱いわけでもない。これが飲みたかったんだ。」
「お気に召していただけたようで何よりです。」
「いくらだ?」
「ずばり一本銀貨ごじゅ・・・「買った。」」
「即決ですか。」
「エドワード陛下も飲んだことのない酒だぞ、安いぐらいだ。」
「安いですか。」
「何本あるかは知らないが俺なら金貨1枚ででも売る自信がある。とはいえこれは自分で飲みたいが・・・難しいところだな。」
この言葉は嘘でも適当でもない。
本気で金貨1枚で売る自信がある。
だって一升瓶で銀貨50枚だろ?
確か1.8リットル入っているはずだから180mlで10杯。
その半分ぐらいで一杯銀貨5枚取ったらこれでもう金貨1枚だ。
そこに付加価値を付ければもっと高く売れる。
希少性があればあるほど上乗せできる金額は跳ね上がるわけだな。
例えば陛下に献上したとして、他の貴族には陛下にも献上された幻の酒として倍で売りつけても売れるだろう。
三倍でもいけるかもしれない。
国内でほぼ流通していないという付加価値に、さらに陛下へ献上されたという価値を加え、陛下が喜んでいたのであればそういう情報もまた加えられる。
あれよあれよという間に値段はつりあがるなんてのはよくある話だ。
そしてそんな価値のある酒がたった銀貨50枚で手に入るなんて、あまりにも怪しすぎるんだよなぁ。
「そこまで買っていただけるとは思いませんでした。」
「味は悪くないし付加価値も申し分ない。だが今の話だけじゃ買うのはその瓶だけだ。」
「これだけですか。」
「陛下の口にすら入らないような希少な酒が、俺みたいな田舎の商人の所に持ち込まれるなんて裏があるに決まってるだろ。盗品か、それともそれに近しい物か。一般商人ではなく俺みたいな買取屋の所に持ち込まれるのも変な話だしな。シュウの名前を出せば安心するとは思わないことだ。」
「決してそのようなことはありません。是非シロウ様にと思いこうやって遠路遥々・・・。」
「だからそういうのが怪しいんだって。」
国外にはほぼ出ず出荷先も決まっている。
そんな特別な品が何でこんな場所に持ち込まれるんだよ。
いくら俺が名誉貴族だからって持ち込むべき先は他にもあるはずだ。
向こうも商売、わざわざ安く売る理由は無いだろ。
「どうすれば信じていただけますでしょうか。」
「そうだな・・・。」
第一印象は悪くない。
嘘をついている感じはしないし、シュウの名前を出してくるあたり本当に知り合いなんだろう。
嘘をつくならもっとすごい人の名前を出してくるはず。
品物も正直のどから手が出るほど欲しい品だけに慎重になってしまうんだよなぁ。
「で、ここに来たと。」
「酒ならマスターだろ。」
「あの、こちらの方は?」
「三日月亭の店主で、酒の事を何でも知っている俺が信頼している人だ。」
「そうだったのか?」
「おい。」
このタイミングでその反応はやめて欲しいんだが。
商談途中に突然こんな場所につれてこられてジョウジさんはなんともいえない顔をしている。
俺に売るつもりなのになんでこんな場所に?って感じなんだろう。
「冗談だって。で、俺は何をすればいいんだ?」
「クレイジーオイスター、まだあるよな?」
「あぁ。どこかの馬鹿が大当たりしたせいでビビッて売れ残っちまった。」
「あの時言ったよな、相応しい酒が欲しいって。」
「ってことは見つかったのか?」
「とりあえず三つ頼む、味付けは醤油で宜しく。」
大事な商談には酒だろう。
一番奥の席を陣取って待つこと十分。
巨大な岩牡蠣が三つ運ばれてきた。
「この香りは醤油ですね、それにこちらは味噌でしょうか。」
「さすがだな。」
「俺はレレモンのほうが好きだが、お前はどうする?」
「ジョウジさんはどっちがいい?」
「では味噌で。」
なら俺は醤油だ。
グラスには先に酒を注いである。
マスターは無言でグラスを持つと、静かに口に運んだ。
「これは、初めての味だ。」
「美味いだろ。」
「おい、そっちをよこせ。」
「あ、俺のだぞ。」
食べようと思っていた牡蠣をマスターが横から奪い取り口に運んでしまった。
そして一気に酒を飲み干す。
酒臭い大きなため息のあと、にらみつけるように俺達のほうを向いた。
「いくらだ?」
「一瓶金貨2枚。」
「高いが売れなくは無いな。半値なら言うことないんだが、どうだ?」
「その辺は今後の交渉次第だ。で、ジョウジさん。この反応を見て言うことは何かあるか?」
「ただ、来て良かったと思っています。」
感無量という表情をした後、自分も牡蠣を喰らい酒を飲み干す。
この人が悪人なら金貨2枚で売ろうとするだろう。
でも善人でさらには職人であるならば、マスターの反応を見て喜ばないはずが無い。
自分の酒が認められた瞬間だ。
それはすなわち自分自身が認められたようなもの。
どうやらこの人は後者だったようだ。
「さっきの値段で買うとして、全部で何本ある?」
「今回持ってきましたのは10本です。」
「全部買わせて貰おう。その代わり、どうしてここに来たのか酒を飲みながらじっくり聞かせてくれないか。」
「そうと決まればこれに合う料理の追加だな、ちょっとまってろ。」
どうやらマスターも腰をすえて話を聞く気のようだ。
この酒が何故陛下の所ではなく俺のところに持ち込まれたのか。
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