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638.転売屋はゴミを金に換える

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夕方。

積みあがった素材の山を腰に手を当てながら見上げていた。

いやー、出るわ出るわ。

まさかこんなにも集まるとは正直思っていなかった。

下水道の方もかなり片付いたようで、清掃局の偉い人がわざわざお礼を言いに来たぐらいだ。

つまりそうなのがわかっていても、金と時間が無い。

そんな言い訳だったが、そのおかげでおれはこれだけのお宝に巡り合えたわけだ。

礼を言うのは俺の方かもしれない。

「とりあえず貴金属や宝石類は持ち帰るとして、この山をどうするかだな。」

「加工に回せそうな素材に関しては冒険者ギルドより買取の申し出が出ています。ポイズンマウスの爪やダストコックローチの外皮などは色々と使い道がありますから。大量持ち込みという事で少し色を付けてくださるそうですので、後で明細を頂戴する予定です。」

「ぶっちゃけ買取ってくれるならいくらでもいいんだが、そういう申し出が出るのは有難い。これで一山片付いたとして、残りの二つをどうするか。」

「動物及び人間の骨に関しては埋葬するほかないと思います。一応アニエスさんを含め警備の皆さんが発見された骨の照合をしていますが、正直難しいそうです。魔素や遺留品が残っていれば判明する場合もあるそうですが、殆どが消化されていますからね。」

「とはいえ、アニエスさんがわざわざ下水道に向かったのはそれを確認するためだろ?ここにいないことを考えると何かあたりでも引いたか?」

「残念ながら発見には至りませんでした。」

「あ、お帰りなさい。お疲れさまでした。」

「いえ、皆様もマリー様オリンピア様のお相手有難うございました。」

深々と頭を下げるアニエスさん。

仕事終わりでお疲れだというのに礼儀正しいなぁ。

「見つかった宝飾品は持ち帰るから該当する物が無いかは向こうで見るといい。まずはゆっくり風呂でも入ってくれ。」

「臭いますか?」

「多少は臭うが気にするほどじゃない、ただ単に疲れを取ってほしいだけだよ。」

「そうですか、ではそうさせて頂きたいと思います。」

いつもなら大丈夫です!といいそうなところだが、やはりお疲れなのは間違いないようだ。

んじゃま、人骨並びに動物や魔物の骨は埋葬するとして、のこりをどうするか。

「まさかこんなに出て来るとはなぁ。」

「何か理由があるのでしょうか。」

「そうじゃないと説明がつかないんだよな。」

最後に残った素材の山が一番大きな山だ。

堆く積まれ、俺の身長に届きそうなぐらいにある。

『グラススラグの核。透明な体を持つグラススラグは、群れを成すことにより疑似的に巨大化し魔物人問わず襲い掛かることがある。その核は非常に美しく様々な色をしているのだが、その命が失われると同時にひび割れ内部の魔素が流出してしまう。最近の平均取引価格は銅貨5枚。最安値銅貨1枚最高値銅貨7枚最終取引日は本日と記録されています。』

大量に見つかったひび割れたビー玉。

そう表現するのが一番だろう。

確かに見た目は綺麗だが、その中心部分にはひびが入ってしまっている。

割れる心配は無いがやはり傷物。

魔素が入っているわけでもないので使い道のないまさにゴミだ。

そこそこ綺麗なのでガキ共がいくつかポケットにしまっているが、これに関しては咎めない。

好きに使えばいいさ。

「こんだけの核が転がっていたってことは、どこかに巣があるってことでしょうか。」

「そうかもしれないが下水道で遭遇したという報告は無い。過去にいたか、それとも大量に廃棄されたか。使い道があればいいんだがこれに限っては何にも使えないんだよなぁ。」

「やはり廃棄するしかなさそうですね。」

「当たりは引いているし全部が全部使えるとは思っていなかったが、うぅむ・・・。」

一つ手に取り夕暮れの空に透かして見る。

オレンジ色の光が日々で乱反射し、キラキラと輝いていた。

玩具にはいいかもしれないが、所詮はその程度。

収納しておく費用と販売費用を考えても大赤字の商材だ。

大人しく捨てるのしかないだろう。

「とりあえず明日までここに置いておいて、処分はまた考えよう。欲しいやつは好きに持って帰るだろうさ。」

「綺麗なんですけどね。」

「まぁなぁ。」

いくら綺麗でも使い道が無かったらただのゴミ。

何か価値を与えることが出来ればそれもまた変わるんだろうけどなぁ。

「アナタ、皆さんへの支払いは終わりました。」

「お、ご苦労さん。いくらかかった?」

「おおよそですけど金貨4枚程です。」

「昨日の分も合わせて金貨6枚と後は冒険者への支払いがどのぐらいかだなぁ。」

「素材の販売分が差し引かれますのでそんなにかからないとは思います。」

「ま、多く見積もっても金貨2枚って所だろう。総額金貨8枚なら安いもんだ。」

金貨10枚ぐらいは覚悟していたがその程度で済んだのか。

それならもう少し色を付けてやってもよかったかもしれない。

ま、終わったことを言っても仕方がないさ。

「普通に考えれば大金ですが、これから得られる利益を考えると安く感じてしまいますね。」

「大物も見つかったからなぁ、あれがでかかった。」

「金の塊なんていったいどこにあったんでしょうか。」

「さぁ、どこぞの盗賊が捕まる前に捨てたか。それとも貴族の隠し財産か。ま、今は俺の物だしどうでもいい話だ。」

ゴミの山から宝が見つかるなんて話はよく聞く。

もちろん今までは他人事だったが、今回はそうじゃなかった。

指輪や宝石などの貴金属を細々と回収していると、選別をしていたガキ共が大声で俺を呼んだ。

駆けつけた先にあったのは巨大な泥の塊。

大きさはバスケットボール程で持ち上げるとずっしりと重い。

恐らくは素材か何かだと勘違いして持ってきたんだろう。

だが鑑定をすると金と出るらしく、俺も鑑定してみたがやはり同じだった。

鑑定、しかも俺の相場スキルですら同じ結果だから間違いはないだろうということで削ってみると、1cm程削ったところでおなじみのイエローゴールドが姿を現した。

時価総額金貨30枚。

これだけで全ての経費を払ってもおつりがくる。

世の中何が出てくるかわからないものだが、正直これはマグレに過ぎない。

やっぱり手に入れた物でもっと稼ぎたいと思ってしまうんだよなぁ。

「あの・・・。」

「ん?どうした?」

巨大な山の前で悩んでいると今日の選別に参加したであろう女性が申し訳なさそうに立っていた。

腕には1歳ぐらいの乳飲み子を抱いている。

「今日は本当にありがとうございました。おかげでこの子にも美味しいお乳を飲ませてやれます。」

「それは何よりだ。」

「可愛いですねぇ、私ももうすぐ会えるんです。」

ハーシェさんが子供に人差し指を伸ばすと、その子は笑顔で指を掴んだ。

何ともほほえましい光景。

なのだが、母親の表情は暗い。

「何か心配事が?」

「本当に勝手な事を言っているのはわかっているんですが、明日も同じようなことをされるんでしょうか。この子がいると中々仕事にも行けなくて、今日の様にたくさんの人がいると誰かが見てくれるので働けるんですけど。」

「大規模な選別は明日もやるが、それ以降は正直わからん。ゴミ拾いが継続して行われるからそれに合わせて同じようなのはあるかもしれないが規模は小さくなるだろう。正直報酬も少なくなると思っていい。」

「そう、ですよね。」

返答を聞き、さらに暗い顔になってしまった。

そして母親の落ち込みを敏感に悟ったのか、楽しそうに指を握っていた子が今にも泣きそうな顔に変わる。

いくら王都とはいえ、乳飲み子を抱いての仕事はなかなか無いんだろう。

さらに言えば見た目にあまり綺麗じゃない。

いや、美しさの方ではなく身なりの方だ。

お金がなく且つ子供がいるため余裕がないんだろうが、これではなかなか仕事は見つからないだろう。

金銭的に余裕があればその辺も解消されるのかもしれないが、その為には仕事をする必要があるわけで。

今日の様にみんなでワイワイするような仕事であれば大丈夫なんだろうけど、そういう仕事はほかの同じような人が先にやってるんだよなぁ。

「援助などは無いんですか?」

「週に一度教会が炊き出しと援助品を下さるのですが、それぐらいです。」

「仕事の割り当ては無しか。」

「この子を食べさせたいのに、この子がいることでそれが出来なくて。つい、邪魔だと思ってしまう自分が嫌なんです。」

「心中お察しします。」

「すみません、せっかく良くしてくださった方に勝手なことを言いました。あの、今日は本当にありがとうございました。明日も宜しくお願いします。」

途中で我に返った母親が深々と頭を下げて去っていった。

残された俺達は何ともやるせなきもちで取り残される。

「何とかしようとか思うなよ、ここは俺達の島じゃないしさらに言えばそんなことできるならとっくにやってる。」

「わかってます、わかってますけど。」

「とりあえず今日明日良い思いが出来るんだから良いじゃないか。それに、彼女を助けたところで同じような人は大勢いるだろう。一人を助けるならばその他大勢も助ける仕組みを作らないと意味がない。俺が今やっていることも結局は意味がないんだ。」

「そんな事はありません。シロウ様のおかげであの方は今日と明日を生きられます。」

「そういう事にしておこう。」

金があれば何でもできる。

それこそ彼女のような人を生かすこともできるだろう。

だがそれをするだけの金が俺にはない。

国にはあるだろうけど、そういうのに回す金が無いんだろうなぁ。

だからこういう状況なんだ。

金があればエドワード陛下がさっさとやっている。

俺と違って自分の見えないところまでしっかりと意識できるからこそ、この街を、そして国を治めることが出来るんだ。

俺みたいに自分の利益しか考えていない男には到底できない仕事だ。

「さ、帰るぞ。」

「「はい。」」

夕暮れが空を赤く染め上げる。

願わくば今日ぐらいは幸せな気持ちで眠れますように。

そんな柄にもない事を考えてしまった。
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