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637.転売屋はごみを買う

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「それじゃあよろしく頼む。」

「清掃局からの情報によるとスライムの消化速度はおおよそ半日。下水があふれてしまう前に片付けてしまいます。」

「しかしアレだな、なんでアニエスさんが行く必要があるんだ?強い魔物はいないし新米たちでも十分だろう。」

「お気遣いありがとうございます。今回潜りますのは掃除とは別の用事を済ませるためです。そのついでに監視作業を請け負っただけの事、どうぞご心配なく。」

「それに関しては深く聞かない方がよさそうだな。わかったよろしく頼む。」

昨日と同じく日が昇ってすぐの冒険者ギルド前に大勢の人が集まっていた。

昨日は子供、今日は冒険者。

それもまだ駆け出しの新米冒険者達が大勢集まっている。

彼らの仕事はゴミの収集。

下水道に入り、スライムより吐き出された消化できなかった異物を回収して貰う。

汚物などは全てスライムが真水に分解しているものの、においだけは流石に取れないので消臭草をギルドが支給することとなった。

薬の成分が鼻の嗅覚にだけ作用してにおいを感じなくさせてしまうのだとか。

一種の毒ではあるのだが、ちゃんと解毒薬を飲むとすぐに戻ってくるので今回のような依頼にぴったりだ。

「それではコレより下水道の清掃を始める!各自支給された袋に入るだけのゴミを回収し、地上に持ち帰ること。下水内には低級ながら魔物も存在する、気を引き締めて作業に当たるように!」

「ゴミは一袋当たり銅貨30枚で買わせて貰う、回数制限はもちろんない。ガンガン回収して戻ってきてくれ。健闘を祈る。」

「「「おぅ!」」」

ゴミを回収してくるだけで銅貨30枚ももらえるんだ、そりゃやる気にもなるだろう。

よく見ると新米以上の冒険者の姿も見える。

実力的にはこんな雑用をする必要はなさそうだが、楽して金を稼ごうと思ってるんだろうな。

もちろんそういうのも大歓迎だ。

実力者がいれば不慮の事態にも柔軟に対応できる。

弱い魔物しかいないとはいえ、大量に出てきたら話が別。

大丈夫だとは思うが、彼らのような実力者が手伝ってくれるのは素直にありがたい。

彼らを見送り、今度はミラと共に別の場所へ。

「アナタ、準備できていますよ。」

「いい感じの広さだな、これならしっかり作業が出来そうだ。」

「子供達にもしっかり言い聞かせてあります。昨日のお仕事が余程嬉しかったようですね。」

「そりゃ現金に飯までもらえたんだ大喜びだろうさ。今日もしっかり頑張って働いて貰わないと。」

向かったのは大通りから少し外れた裏通りに向かう途中の広場だ。

本来は防災用の拠点として普段は子供達が遊びまわっているのだが、今日はそこを使用して回収されたゴミを仕分けることになっている。

運ばれてくるゴミを開封し、種類別に分類。

それを各所に積み上げる仕事だ。

刃物などの危険なものは一緒に参加している大人が対応、念のためを考えて治療薬も完備している。

ちなみに参加している大人はガキ共の親達。

もちろん彼らにも給金を出す予定だ。

「あー、全員注目してくれ。」

「はい、皆さん静かにしましょうね。」

ゴミがまだ来てないのでいつものようにはしゃぎまわっていた子供達がハーシェさんの一声で静かになった。

さすがだ。

「昨日はご苦労だった。今日は昨日回収したゴミを下水から回収してくるからそれを皆に仕分けして貰う。なに、似たようなものだけを集めてくれれば後はこっちで片付けるから気にせず分ければいい。骨、金属、装飾品。色々あるがくれぐれも持ち帰ったりしないように。下水に捨てられるようなものは呪われていることが多い、下手なことだけはするなよ。」

呪われていると聞いた途端にガキ共が怯えたのがわかった。

それと大人も。

あわよくば宝飾品などを持ち帰ろうと思っていたのかもしれない。

そのために釘をさしたのだが、それでも持ち帰る奴はいるだろう。

もちろんそれも想定内だ。

あくまでも今回の目的は下水内に落ちている素材を回収すること。

宝飾品などはおまけに過ぎない。

まぁ、金額だけで言えばそのほうが高いから狙いたいといえば狙いたいのだが。

「今日の日当は一人につき銀貨2枚、それに飯も付ける。手の空いた大人は奥の調理場で全員の料理を作ってやってくれ。食材はたんまりあるから好きなだけ作っていいぞ、余ったら持ち帰って貰うしな。ってことで美味い飯を食うためにもしっかり働け、わかったな。」

「「「「はい!」」」」

いい返事だ。

金はなくとも素直な子供ばかり。

うちの婦人会や孤児院のようにしっかり支援出来ればいいんだが、街がでかいとそういうのにも手が回らないんだろうなぁ。

金さえあればそれも解決できるんだが、その金を持っているのが財布の固い貴族ばかり。

エドワード陛下もその辺はわかっているんだろうけど難しい話だ。

「もう少ししたら仕事が始まる、それまでもう少し遊んでて良いぞ。」

「質問のある方は今のうちにどうぞ。」

「此方でも聞いていますからお気軽に。」

ガキ共は再び遊び始め、大人達はそれを静かに見守っている。

色々と不安がある大人はハーシェさんとミラのところに行って詳しい話を聞いているようだ。

俺の所?

来るわけないだろ。

走り回るガキ共の声を聞きながらボーっとする事30分ほど。

「持ってきました!」

「よしそこにぶちまけてくれ。全部出したらこっちに来て金を受け取るように。」

「はい!」

最初のブツが運ばれてきた。

広場の真ん中に中身を出し、ギルド職員から金をもらって再び下水道へと戻っていく冒険者。

終了する場合は袋を置いていく事になっているのだが、そんな事する奴がいるはずもなく。

ドンドン運ばれてくるゴミ、そしてそれを人海戦術で片付けていく子供達。

そして。

『金の指輪。金で作られた指輪、ガーネットが装飾されている。最近の平均取引価格は銀貨88枚。最安値銀貨50枚最高値金貨1.2枚。最終取引日は8日前と記録されています。』

『銀のイヤリング。銀で作られたイヤリング、ジェイドが装飾されている。最近の平均取引価格は銀貨10枚。最安値銀貨5枚最高値銀貨29枚最終取引日は昨日と記録されています。』

『聖銀の指輪。聖銀で作られた指輪。呪われている。最近の平均取引価格は銀貨77枚。最安値銀貨47枚最高値金貨1枚。最終取引日は12日前と記録されています。』

ゴミの山から見つかる装飾品。

俺とミラの二人がかりでそれらを片付けていた。

「ねぇ!これは!?」

「これはガーネットだな。当たりだ。」

「やった!」

「ハーシェさん、カウントしておいてくれ。」

「はい。そろそろ休憩されますか?」

「んー、まだこれだけあるし簡単に摘まめるやつを持ってきてもらえるか?ミラは休んでいいぞ。」

「私も同じものをお願いします。」

装飾品のほかにたまに見つかる宝石類。

石だけ流出したのか、それとも台座から外れたのか。

ともかく、そういった小さな石はガキ共の中で当たりと言う扱いになっているようだ。

せっかくの当たりなので、見つけるたびに数をカウントして一個あたり銀貨1枚のボーナスを出すことにした。

それだけで俄然やる気が上がり、選別精度も向上。

中には鑑定スキルを持っていた子もいるようで、素材関係の選別をする手間が省けるようになった。

いやー、楽だわ。

価値は二の次、とりあえずガンガン鑑定してもらえるのは非常にありがたい。

本人は鑑定スキルだなんて知らなかったようだが、それがあるだけで仕事先が増えるからなぁ。

あの子はこの生活から解放されるだろう。

貧しく、そういった選定を受ける機会すらなかった子供達。

これを機に新しい才能に気づけたのであれば万々歳だ。

「お待たせしました。」

「あれ、マリーさん?それにオリンピア様まで。」

「面白い事をされてると聞き、お父様に様子を見てくるように言われました。」

「エドワード陛下が?別に俺は下水道の掃除をしているだけだぞ?」

「私には掃除だけでなく慈善事業をしているように見えますが。」

「それは何かの間違いだ。なんせ俺は金儲けのために彼らを使っているだけだからな。たった金貨数枚の投資で大儲けが出来るんだ、それを慈善事業というのは違うと思うぞ。」

「そういう事にしておきます。」

いや、そういう事じゃなくて本当の事なんだが。

突然王族、しかも王女様の登場に場にいたガキ共の動きが止まる。

だがそれも一瞬。

「王女様だ!」

「オリンピア王女様!」

「綺麗だねぇ。」

「横にいるお姉ちゃんも綺麗だよ?」

「ほんとだ!」

お祭り騒ぎの大騒ぎ。

選別作業などそっちのけでオリンピア様とマリーさんを取り囲んだ。

流石に触ったりはしないようだが、キャアキャアと騒がしい事だ。

おーい、騒ぎ終わったら仕事に戻れよー。

金払ってるんだからなー。

「これじゃ仕事にならないな。」

「仕方ありません。ロバート王子亡き後国民の人気を一気に攫っていったそうですから。」

「ほぉ、それは初耳だ。」

「今や王子を超える人気になりつつあるのだとか。すこし庶民的な部分もあるそうで、そこが人気の秘訣だそうです。」

「庶民的?」

「王女様らしからぬアクティブさ、エリザ様を好きな所も魅力だそうです。」

「詳しいな。」

「嬉しそうにマリー様が教えてくださいました。」

なるほどそんな事があったのか。

最初の食事会ラッシュの後は自分の事の為にあれこれ動き回っていたので、あんまじっくり話が出来なかったんだよな。

その分ミラやハーシェさんが色々と情報収集してくれて助かった。

そうこうしている間にも冒険者はひっきりなしにやってきてゴミの山を積み上げていく。

さて、さっさとこっちを終わらせて向こうを片付けて来るかな。

向こうはまだまだ動きそうもないし。

子供たちに囲まれて嬉しそうなマリーさん姉妹を横目に俺達は再び鑑定作業に勤しむのだった。
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