転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア

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600.転売屋は石をあつめる

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石、石、石。

ここ数日街の至る所で石を見つける。

別に珍しいものじゃない、どこにでもあるタダの石。

『石。どこにでもある石。鉱物の含有は無し。最近の平均取引価格は銅貨1枚、最安値が銅貨1枚最高値が銅貨1枚、最終取引日は本日と記録されています。』

それがいたるところで取引されている。

それも老若男女問わず。

もちろん物がただの石だけにびっくりするような値段では取引されていないが、銅貨1枚から銅貨15枚で取引されている物もあった。

まぁ、石にどの値段をつけるかなんて個人の価値観からくるものだから、本人が欲しいと思えばそれでいいんだろうけど。

何でこんなことになったんだ?

「そりゃ世界の歩き方のせいよ。」

「あぁ、あの本か。」

「今回の特集は各地の面白い石。見たこともない色から模様まで様々なものがあるそうです。」

「それに触発され、我こそは!という石を皆で探し始めたみたいです。」

「確かに石なんてそこら中にあるが、面白いのか?」

「面白い・・・んじゃないですかね。」

どうやらうちの女達はあまり興味がわかないようだ。

「面白いですよ!」

「そうです!すっごく面白いです!」

とか思ってたら厨房から身を乗り出して抗議してくる影が二つ。

ハワードとジョンの年の差コンビはそうではないらしい。

「二人共、お館様の前ですよ。」

「あ、すみません。」

「ごめんなさい。」

「いや、個人の趣味を否定するつもりはない。ぶっちゃけ何が楽しいんだ?」

「加工をしないことを前提に、コレ!っていう色や形の石を集めるんですよ。」

「僕のは真っ白でスベスベで軽くてすごいんです!」

「俺のだって中心に一本ラインが入っていて中々だぞ。」

「確かにかっこいいですけど、でも僕のが一番です!」

つまりどちらかが譲らなければ一生勝敗はつかないわけだな。

いや、そもそも勝敗をつけるのが間違いなのかもしれない。

理解はできないが否定するつもりもない。

なんならもっと別の事を考えているぐらいだ。

「あ、シロウが悪い顔してる。」

「え、石ですよ?」

「ただの石だとしても儲けるすべを思いつくのがご主人様ですから。」

「今回はどんな凄い事を考えたんでしょうね。」

女達の期待の混じった目が一身に向けられる。

いやいやそんなすごい事じゃないから。

別に儲けようとか思ってないから。

「で、何するの?」

「そんなに石が欲しいなら集めてくりゃいいんじゃないかって思っただけだ。」

「集める?」

「馬車いっぱいの石を用意して、一袋詰め放題銅貨10枚とかで売れば儲かるかなって思っただけだ。確かチャイルドポケットの袋が大量に持ち込まれただろ?」

「そういえばそんなのもありましたね。」

「あれなら丈夫だし適当に押し込んでも破れないはずだ。買取ったものの使用用途は決まってなかったし、微妙に場所も取るからこれを機に売りさばいてもいいと思うんだ。」

「銅貨10枚であればギリギリ損はしませんね。でも石はどこから集めてくるんです?」

「まだ雑誌は読んでいないが、特集は『各地の面白い石』なんだろ?ならダンジョンしかないよな。原石を集めるついでに運んできてもいいが、わざわざ安い石の為に馬車を動かすのはめんどくさい。その点ダンジョンであれば冒険者に適当に持ってきてもらうだけでいい。この前の崖にも山ほどあったし、何かのついでに畑まで持ってきてくれって言えば手伝ってくれるだろう。」

依頼を出して運んでもらうという手もあるが、出せても銅貨5枚かそこらぐらいなものだ。

それでは誰も依頼を受けてくれないだろうから、何かのついでに運んでくれれば御の字ぐらいでちょうどいいんだ。

「そんな簡単に集まるかしら。」

「別に集まらなかったらそれまでだ。だって石だし。」

「お館様、俺達も買えたりしますか?」

「もちろんだ。」

「やった!お姉ちゃんにお小遣いもらったからそれで買うんだ!」

キルシュもまさか弟が石を買うために小遣いを使うとは思わなかっただろうなぁ。

まぁ人の欲しいものなんて山ほどある。

人にいえないものを欲しいって人もいるぐらいだし、人の価値観をとやかく言うもんじゃない。

俺は在庫処理が出来ればそれで十分だよ。

「ってことで、冒険者に頼んでみようと思う。エリザ、任せていいか?」

「適当に石を持ち帰ってきたらエールいっぱい無料、それでいい?」

「最後のは余計だが、そのほうが集まるか。」

「当たり前よ。エールのためならポケットに穴が開くぐらい詰め込んでくるんじゃないかしら。」

「そんなにはいらないんだが・・・。ま、いいか。」

そんな軽い気持ちで依頼を出したわけだが、翌日にそれを深く後悔することになる。


「嘘だろ?」

「コレが冒険者の実力よ。」

「実力って、アホだろ。」

「酒の力の方が正しかったかしら。」

「まさか一晩で山ができるとはなぁ。」

「このまま行けばもっと高い山になるけど、どうするの?」

「今日の昼で依頼は終わり、昼過ぎたら受け付けないってよく言っとけ。」

「は~い。」

畑に堆く積まれた石の山。

高さは2mを軽く超え、見上げるほどの高さになっている。

大小さまざま、物によってはこぶしを超える大きさもある。

よく見ると普通の石以外のものも混ざっているようだが、ほとんどはただの石だ。

いやー、よくもまぁ短時間でここまで集めたものだ。

「さて、売るか。」

「石詰め放題銅貨10枚だっけ?」

「あぁ、でもそれだけじゃないぞ。われこそはと思う石を持って立候補して貰い、皆で投票して貰う。一番得票の高い人には賞金を出す。ちなみに投票券は各商店で銅貨10枚以上購入したら1枚だ。ただし金額がいくら高くても一人につき一商店1枚のみ。ってのはどうだ?」

「え、詰め放題参加者にじゃないの?」

「それだと俺だけが儲かるだろ?それじゃ面白くない。まぁ、エントリーするにはつめ放題に参加して貰う必要はあるけどな。」

「こんなただの石で町中で買い物させようだなんて思いつくのはシロウだけよね。」

もっと褒めていいんだぞ?

さすがに何も言わずにやると怒られるので羊男にお伺いを立ててみたが、二つ返事で許可が下りた。

まぁ、町中に金が回るとなれば断る理由もないか。

「賞金のほかに商品も出すのはどうです?」

「俺は金しか出さないぞ?ちなみに銀貨10枚までだ。」

「シロウさんのわりには少ないですね。」

「思いつきだし、別に名前を売りたいわけでもない。正直この街じゃ十分売れてると思うぞ。」

「それもそうですね。わかりました、商品はこちらで募ってみます。」

「随分あっさり引き下がったな。」

「最近暇だったので、こういう催しがあるのは街としてもありがたいんです。なんていうか、最近はお金に余裕がありすぎてお金の使い方が荒かった印象なので。」

「そうおもうか?」

「物価はあまり変わっていませんのでどうしても。」

儲かりすぎるのも考え物というわけか。

でもまぁ夏になれば落ち着くだろう。

俺みたいな変な事をしでかす奴がいなくなるしな。

「そういえば王都に行かれるとか。」

「情報が早いな。」

「そりゃあアレだけ調べまくってたら嫌でもわかりますよ。で、いつです?」

「夏になったらを予定してる。一か月で戻るつもりだ。」

「一か月ですか・・・。でもまぁその方がいいですね。」

「さっきの話だろ?」

「はい、シロウさんのおかげで街は随分潤いました。でも消費する先がないんですよねぇ、ここって。」

「そういや賭場もないよな。」

「本来であればあるべきなんですけど、そこしか消費先がないのが目に見えているので作らないんです。もちろん個人間でする分には咎めません、あくまでも常設の賭場を設けないだけです。」

街が儲かるのは分かっていても、治安を維持するためには作るべきではない。

そういう話し合いがもたれたんだろうなぁ、きっと。

「供給が落ち着けば消費も落ち着く、なにまた戻ってきたら大騒ぎさせてもらうさ。」

「それはそれで勘弁してください。では、手筈はこちらで揃えますので。」

「おぅ、任せた。」

「しかし石ですかぁ、私にはわかりませんねぇ。」

「だよなぁ。」

ここにも石の良さが分からない男がいたか。

街中が盛り上がっているとはいえども、全員ではない。

それから三日後。

我こそは!という石を手に大勢の人たちがエントリーをして最高の石を競い合った。

因みに優勝はただの石。

いや、マジで俺にはその良さが分からなかったんだが好きな人にはドストライクだったらしく、総票の半分をもぎ取っていった。

わからんなぁ。

用意した畑の石も無事に引き取られたのだが、所詮は石ころ。

結局陽の目を見なかった石達は街の外に捨てられ子供達の遊び道具となったのはいうまでもない。

でもまぁ、たまにはこういうのもいいだろう。

たかが石、されど石。

物に価値を見出すのはその人次第ってね。

「ちなみに私はシロウのこだわりが分からないわ。」

「え?嘘だろ?」

「シロウ様には申し訳ありませんが、私にもわかりません。」

「同じくです。」

「エリザはともかくミラとアネットまで?マジかよ。」

「私は・・・やっぱりわかりません、ごめんなさい。」

「この艶、この輝き。金貨にも違いがあるんだぞ?わからないのか?」

「「「「わからない。」」」」

マジか・・・。

石に違いがあるように、金にも違いがある。

みろよ、この金貨の輝き。

傷の入り方だって他と違って・・・。

なぜ、理解されないのか。

わからん。
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