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599.転売屋は召喚される

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「さて、いい加減あれを開けないとなぁ。」

「あ、やっと読む気になったんですね。」

「やっとってお前なぁ。」

「だってわざと見ないふりしていたじゃないですか。」

オリンピアが街を離れた翌日。

アネットの製薬を手伝いながら先延ばしにしていた事案に手を出す覚悟を決めた。

確かに見ないふりをしていた。

俺の手元に届けられた二通の手紙。

イザベラの方は早々に開封し中身を確認したのだが、もう一通はどうしても開ける気にならなかったんだ。

国王陛下がわざわざ俺に手紙を書いてきたんだぞ?

どうせろくでもない事を書いているにきまってる。

だから読みたくなかったんだよ。

「まぁ、その通りだけどな。」

「大事な話が書いてあったあどうするんですか?」

「そういう話であれば先にオリンピア様が釘を刺してくるだろう。それをしないってことはそんなに重要じゃないってことだ。」

「そうでしょうか。」

「そういう事にしておいてくれ。さて、こっちの作業は終わりだ。」

「お手伝い有難うございました。皆さん呼びますか?」

「そういう内容だったら声をかけるさ。」

わざわざ手紙の開封だけで皆を呼びつける必要はない。

といっても、今屋敷にいるのはハーシェさんとアネットだけ。

ミラは店だしエリザとキキは冒険者ギルド、マリーさんとアニエスさんはオリンピア様を送るために隣町へ向かった。

膝の上に積もったゴミを払い、自室へと戻る。

そのままベッドにダイブしたくなる気持ちをぐっと抑えて、事務机の引き出しから手紙を取り出した。

表面には俺の名前、裏には国王陛下の名前と王家の紋章が真っ赤な蜜蝋に押されている。

イザベラの手紙と同じ大きさなのになんでこれはこんなに重いんだろうか。

そう思いながら蝋をはがして中身を取り出すと、コロンと何かが転がり出てきた。

机の上を転がるのを慌てて捕まえ、確認する。

「は?」

そこにあったのは金貨。

見紛うことない金貨が一枚。

なんで手紙に金貨が?

とりあえず見なかったことにして、手紙に目を通す。

ふむふむ、なるほど。

うんわかった。

親バカだ。

それもとてつもないバカだった。

「失礼します、シロウ様お茶をお持ちしました。」

「ハーシェさんか、ちょうどいいこれを見てくれ。」

お茶を手に入ってきたハーシェさんが不思議そうに首をかしげる。

よっぽど変な顔をしていたんだろう。

いや、そんな顔にもなるって。

「どうされたんですか?」

「国王陛下からの手紙にこれが入っていた、なんだと思う?」

「金貨、なにかの代金でしょうか。」

「オリンピア様の滞在費だそうだ。」

どこの世界に年頃に育った自分の娘を見てもらうのに金貨1枚入れる親がいるよ。

いたわ、ここに!

開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。

「随分と気にかけておられるんですね。」

「一応はポケットマネーと書いてあるが、それでもやり過ぎだ。まったく、何を食わせろっていうんだよ。」

「お返ししますか?」

「さすがにそれは失礼だろう。まぁ、迷惑料だと思ってもらっておくさ。」

もう本人は帰ってしまったし、わざわざそれを聞くことはしないだろう。

「それで他には何が書かれていたんです?」

「半分はイザベラと重複する内容だった。俺の関係する品々が王都に流れてくる度に誇らしい気分になるんだとさ。要約すると一度顔を見せに来いと書いてある。」

「つまり王都に?」

「あぁ、正式な召喚状ではないがそれに近いものではあるだろう。あー、めんどくさい。」

「国王陛下自らのお願いにめんどくさいだなんて、他の人に聞かれたら大変ですよ。」

「だってそうだろ?俺は仕事で忙しいのに、わざわざ時間を掛けて王都まで行かされるんだ。移動と滞在で軽く一か月は掛かるだろうし、その間の仕事と書類の積みあがり方を考えると頭が痛くなる。」

「向こうで仕事をすれば半分で済みますよ?」

「せっかくの旅行なのに仕事するのか?」

向こうからの呼び出し、つまりは旅費滞在費はすべて向こう持ち。

そんなウハウハの状況で何故仕事をしなければならないのか。

あぁ、金の為か。

それと戻ってきた後の自分のメンタルヘルスを維持するためだな。

「報告書関係はギルド協会を通じて手に入れることが出来ますし、お店はキキ様とメルディ様がいれば十分回ると思います。幸い夏の始めはこれといって大きなイベントはありませんからむしろ行くのであればそこ以外にないかと。ただ、アネット様には冷感パットや夏風邪の薬、他様々な注文が入るためご同行頂くのは難しいかもしれません。」

「そうだよなぁ。俺とハーシェさん、ミラ、それとエリザが行けたらって感じか。」

「王都に行くのであればマリー様とアニエス様もご一緒すると思います。実家ですから。」

「出来れば全員でとも思うが、現実を考えるとそうなるよな。」

アニエスは今や街にはなくてはならない存在だ。

店はキキとメルディで十分回るから三人には残ってもらう必要がある。

本当は俺の代わりに決裁をする人間が残るべきなんだろうけど、ミラは絶対についてくるだろう。

ハーシェさんも子供が生まれたら動けなくなるし、今しかいくタイミングは無い。

エリザは・・・。

これは本人次第だな。

悪阻はそれほどでもないと口では言うけれど、実際の部分はどうかわからない。

無理をして何かあっては遅いからな、その辺はしっかりくぎを刺すべきだろう。

「王都かぁ。」

「あまりうれしそうじゃありませんね。」

「期待とめんどくささが喧嘩してる。」

「楽しみではあるんですね。」

「そりゃあな、冒険者からも色々と話を聞くし一度は見てみたいと思っている。ぶっちゃけ俺の知る世界が小さすぎてもっと見てみたいと思ってはいるんだ。だがそれを見たところで何かが変わるわけでもなし、今自分がいる世界だけでも十分に幸せなんだよなぁ。むしろそれ以外の世界を知ることで今の世界が壊れるのが怖い気持ちが強い。」

「私はシロウ様と一緒ならどこでも幸せですよ。」

そんな男を殺すセリフを恥ずかしがることもなく言ってしまうハーシェさんが恐ろしい。

思わず肩を抱き、おでこに口づけをする。

ようはビビらず一緒に行こうってハーシェさんは言っているわけだな。

「一応みんなの意見を聞いてから判断しよう。事務処理で忙殺されるのはごめんだ。」

「ではこちらでも準備をしておきます。新婚旅行、になるんでしょうか。」

「なるほど目的はそれか。」

「ダメですか?」

「いや、それを言われると行くしかない気がしてきた。子供が一人でも産まれたらいけなくなるしな。」

それならなおの事アネットにも来てほしい所だが・・・。

まぁ、それはそれとしてまた何か考えよう。

「よし、そうと決まれば王都で売れるものを探すぞ。」

「向こうでもお商売を?」

「当然だ。向こうで買い物するのなら向こうで商売しても問題ないだろ?」

「それはそうですね。」

「向こうにしか無いものがたくさんあるように、こっちにしか無いものもたくさんある。そしてそういうものは高く売れる。そう考えると行くのも楽しくなるな、ちなみに行くとしたら何で行くんだ?」

「陸路が一般的かつお安い方法ですが時間が掛かります。今回は呼ばれている立場ですので贅沢に船で移動して最後に馬車という流れでしょうか。」

「つまり港町までは自前の船で、その後船を乗り換える感じか。」

と、いう事はそれなりに物を積み込んでも大丈夫という事だ。

陸路に切り替わっても港からならばそれなりに大きな馬車があるだろうし、そもそも王都なんだからたくさんの荷物が到着して当たり前。

その辺は気にしなくてもいいだろう。

一応アインさんに話を聞いてみてから判断するか。

それよりもイライザに連絡を取って何が人気なのかを聞く方がいいかもしれない。

向こうの流行がこっちに来るのには時間が掛かるから、今のうちに仕入れておけば安く済む可能性もある。

色々楽しくなってきたぞ。

「ふふ、急に元気になられましたね。」

「そうか?」

「はい。生き生きとしておられます。」

「金儲けができると思うとどうしてもな。」

「シロウ様らしいですね。」

「産まれてくる子供に苦労を掛けない為にも今稼いでおかないとなぁ。なんせ人数が人数らしいから。」

「そうですね。大家族ですから。」

一人につき二人は産むと宣言している現状から勘案するに最低十二人、もしくはそれ以上の可能性が高い。

それに合わせて全ての経費が爆上がりするわけで、維持するにはかなりの金が必要になるだろう。

使用人だって今の五人じゃ到底足りない。

全員引っ越して来たら十人は欲しいとグレイスにも最初言われていたし、はやく彼らを買い上げる為にも金は必要だ。

世の中、金金金。

金があれば何でもできるのではなく金がないとしたいことが出来ない。

最低限の生活であればそうではないが、生憎と最低限で満足するのは止めにしたんだ。

せっかく新しい人生を楽しんでいるんだし、遠慮はしない。

だから俺は金を稼ぐ。

前までは自分の為だったが今は全員の為に金を稼ぐに考えが変わっている。

そう考えるだけでやる気が違うからだ。

この夏、王都でガッツリ稼いでやる。

それはもう軽く金貨1000枚ぐらい。

嘘です冗談です。

いくらなんでもそれは無理だ。

せいぜい金貨200枚ぐらいだろう。

それでも十分多いけどな。
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