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142.転売屋は利用方法を考える

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九月に入ってからの怒涛の忙しさを何とかやり過ごし、気づけば月も半ば。

念願の休業を経て、心身ともにリフレッシュすることができた。

やっぱり人間には休みが必要だ。

24時間戦えますかなんてのは、死ねといっているのと同じこと。

今考えればよくもまぁあんなキャッチコピーで許可が出たよな。

モーレツ社員とかが流行った時代だったし、それが世相に合ってたんだろうなぁ。

「でね、そろそろ土地をどうするか考えてほしいって催促されてるみたいなの。」

「俺に譲ったんならほっといてほしいんだがなぁ。」

「それだけ期待されているということではないでしょうか。」

「俺に何かしてほしいなら報酬を出せって話だ。」

「収穫が報酬じゃないの?」

「そうだとしてもだ、それを考える労力に報酬は出ないわけだろ?勝手に人を集めて早く計画を立てろなんざ、勝手もいい所だ。」

休みの翌日、冒険者ギルドに行ったエリザがニアにそんなことを言われて来たらしい。

直接言ってこない辺り切羽詰まってないんだろうが、まったくもって迷惑な話だ。

このままいつまでも放置してもいいんだが、もらったものを有効に使わないのはもったいない。

このもったいない精神をうまく利用されている気もするが、金になるのであればやはり利用したいよな。

「今から準備じゃ冬野菜には間に合わないわよね。」

「かなり広い土地だからな、それを使えるように準備するのはなかなかに大変だろう。水と土があっても耕さなきゃ食べ物は育たない。」

「耕すだけでなくそれを守る準備も必要です。食べ物はともかく薬草類に被害が及ぶとかなりの損失ですから。」

「それら全部を終わらせて初めて作付けができる。そのころにはもう冬が来てるだろうな。」

「むしろ寒くなる前に終わらせたいってところよね。」

「あぁ、雪は降らないまでもそれなりに冷え込む。寒い中作業するのは嫌いなんだ。」

「シロウはやらないんじゃないの?」

「そういうわけにもいかないだろう。手入れ全部を任せてたら金がいくらあっても足りないぞ。」

耕したり柵を作ったりするにはそれなりに人手がいるから、そこにかけるお金は惜しくない。

だが、自分で出来る範囲のことにお金をかけるってのは気乗りしないなぁ。

「ですが、お店を放っておくわけにもいきません。」

「そこなんだよ。あくまでも畑はおまけであって、メインじゃない。だからこそ金はかけたくないんだ。」

「作付けが終わったらあとは雑草抜きと水やりでしょ?それならそんなに人はいなくていいじゃない?それこそ、モニカの所の子供とかに任せれば喜んでやってくれるわよ。」

「薬草の手入れだけ我々ですればそこまで手間ではないと思います。中央の一角に囲いを作って、ここには入らないでねといえば守ってくれるじゃないでしょうか。」

「やっぱりそうするしかないか。」

金をかけたくはないが、かけなければならない場合もある。

今回はどちらかといえば後者だ。

自分でやれば金はかからないが、それだと儲けることはできない。

金をかけて稼ぐこともまた大切ということだな。

「では、具体的にどうしましょうか。」

「ぶっちゃけかなり広い土地だ、耕すとなったら大変だぞ。」

「魔道具を使えばいいじゃない。あれなら女性でも使えるわ。」

「一台じゃ無理だ、せめて五台はないと効率が悪い。」

「別に全てを魔道具で耕す必要はありません。女性には魔道具を、男性には通常通り農具で耕してもらえばいいのではないでしょうか。」

「ふむ、それもそうか。」

「もしくは男性に塀を作ってもらい、女性には魔道具で耕してもらう。分担することで耕し方は均一になります。」

耕し方なぁ。

確かに俺が耕したのとエリザが耕した所で土の固さが違ったんだよな。

事実それによって芋の出来が若干違う。

ただ耕せばいいってもんじゃない、品質を考えるのであれば同じであるに越したことは無いわけか。

「だがあれだよな、そんなに耕してどうするんだって話だ。収益を上げるために作るのであればそれは立派な農場であって、税金を掛けられる気がするんだが。」

「その辺りはどうとでもなるっていう話じゃなかった?」

「纏めて販売に出すから問題が出るのであって、チョコチョコ出せば大丈夫よ。」

「収穫はまとめてするだろ?全部倉庫に入るのか?」

「外に倉庫を造るとか。農機具を置くためにも必要なんだし、いっそのこと立派なの作ったら?」

いや、口では簡単に言えるがそこまで大型の倉庫になるとかなり金がかかるぞ。

なんせ周りに材料が無いんだ。

遠くからそれを仕入れることを考えると、どう考えても安くない。

「簡単に言うがなぁ、それにも金がかかるんだぞ?」

「出してもらえばいいじゃない。」

「個人用の畑にギルドが金を出す?羊男あの男がそれを許すはずないだろ。」

「いえ、言ってみる価値はあると思います。元はむこうの発案で、シロウ様にそれをやらせているのであれば多少の経費を出す義務があります。」

そう簡単に行くだろうか。

元々はアナスタシア様が勝手に土地を譲渡してきたんだ。

そりゃあ、そこから生まれる雇用なんかは期待しているかもしれないが、その為に経費をかけるほど安い男じゃない。

公平の天秤が傾かない限り動くことはないだろう。

逆を言えば、不公平だと声を出せばいいだけなんだが、あんまり借りを作りたくないってのが本音だ。

「何はともあれ土を耕して塀を作る事が先決か。」

「そうですね。全て終わらせるにはだいぶ時間が掛かりますから、倉庫の大まかな場所だけ決めておいて後は耕してしまっていいでしょう。いえ、その前にまずは整地でしょうか。」

「やる事は盛りだくさんってことだな。」

一つずつ潰していくしかないだろう。

まずは整地、それから区画確定と塀の作製。

それに並行して第一区画を耕し始めると。いきなり全部耕した所で雑草が生えるのは目に見えているからな、ちょっとずつやるしかない。

「何を植えるのかは決めたの?」

「いや、何も考えてない。その辺はミラに丸投げだ。」

「お任せいただきましたので、よさそうなものをいくつか調べて参りました。」

「さすがミラね。」

「かなり広い耕作地になりそうですので、区画を決めていくつかの作物を作ろうと思っています。こちらがその候補です。」

ミラが足元から図書館で書き写してきた紙を取り出す。

えーっと、何々・・・。

名前は馴染みのない物ばかりだが絵が描いてあるのでソレで把握する。

冬野菜の代表といえば、ホウレンソウに大根、白菜なんかも当てはまるが・・・。

人参なんかも行けるのか。

あれはラディッシュか?

「マジカルキャロットは収益性も高く、栽培も比較的簡単なようですのでお勧めです。また、グリーンラディッシュは売却よりも製薬に向いているそうですね。」

「そうですね、乾燥させて薬に混ぜると効能が高くなります。薬草感覚で使えるのもいい感じです。」

「あ、オニオニオン!」

「おにおにおん?」

「とっても美味しいのよ、サラダにしてもいいし炒めたら甘くなるの。一個が大きいから一人じゃ食べ切れないけど、四人なら余裕よね。」

「そうですね。出来次第では三日月亭や一角亭などに卸すことも可能かと思います。乾燥させれば日持ちしますし、行商にもっていくにももってこいかと。」

比較的簡単そうなやつばかりだ。

特に根野菜は手軽だと聞いたことがある。

なんせ俺達は素人だ、ローリスクハイリターンで行こうじゃないか。

「ならその三種でいこう。種は手配できるんだよな?」

「最初の二種に関しては問題ありません。」

「オニオニオンは任せて、ちゃちゃっと盗ってくるから。」

「ん?売ってないのか?」

「あれはダンジョンに生息するオニオーガが栽培している物なんです。」

「だから、巣に行って盗ってくるの。ダンジョンで食べる物が無くなった時は、畑から拝借したりもするかな。」

「何と不憫な。」

人間に押し入られ、大切な種と育てた野菜を奪われる。

だがそこに慈悲はない。

何故なら奴らは魔物、我々とは相容れない存在だからだ。

ってか、生活を営んでる魔物ってなんだか嫌だなぁ。

「さすがに私一人じゃオーガは手に余るから、フールに一緒に来てもらうね。」

「精一杯こき使ってやってください。」

「うん!ついでに目ぼしい物も探してくる。オーガの家には結構珍しい道具が眠ってたりするのよね。」

野菜だけでなく家の中まで物色するのか。

しかしエリザでもどうにもならないとは、余程強い魔物なんだろう。

「くれぐれも気をつけろよ。」

「うん、危なくなったら逃げるから大丈夫。」

「では種はお任せするとして、後は整地ですね。」

「人員はギルド協会が何とかするだろうが、あとは土の魔道具か。」

「隣町いく?」

「いや、今はまだ行きたくない。」

またあの女に目を付けられるのはごめんだ。

「じゃあどうしますか?」

「そんなときの専門業者だ、アインと連絡を取ろう。」

「アイン様・・・、そうですねその手がありました。」

「でも運んではくれるけど買ってきてはくれないんじゃ・・・。」

「ミラ、ブラウンマッシュルームの納品があったよな?」

「はい。次回は九月末の予定ですが需要はありますので受領して頂けるかと。」

「ブラウンマッシュルームの手配と一緒に念の為先方に連絡を取ってくれ、ギルド協会にいれば出来るよな?」

「もちろんです。」

「エリザはダンに連絡してアインに来てもらえるように言ってくれ。」

「は~い。」

ただ買い付けるだけなら金は出ていくばかりなので、多少の利益は確保しておきたい。

「ねぇ、何するの?」

「納品はアインに任せて、ダンに魔道具を買ってきてもらうんだ。そうすれば税金を減らせるし、俺達が行かなくても何とかなる。」

「買い付けが出来ないのは悔やまれますが、致し方ありませんね。」

「よっぽど会いたくないのね。」

「あの女はヤバい、絶対にヤバい。」

出来れば二度と関わり合いたくない人物だ。

それに、まだまだ忙しいので俺が向こうに行っている時間はない。

普通冒険者に大金を持たせることはしないが、この街に定住が有りかつ嫁さんと知り合いの俺達から金を盗むことはしないだろう。

依頼料をはずめば喜んでやってくれるさ。

「とにかくダンに連絡すればいいのね。」

「あぁ、よろしく頼む。」

出来るだけ本業の邪魔にならないように動きたいところだが、間違いなく無理だろう。

ならばせめて楽をしたい。

土地を利用するのも中々に大変だな。
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