13 / 41
佐藤善子の場合
クラス委員長佐藤善子の相談(13)
しおりを挟む
次の日、佐藤善子は何食わぬ顔で学校へ行く。
制服を着た姿を父親に見せた瞬間、父親が泣きそうになったのでダッシュで逃げてきた。母親にはメッセージアプリで自撮り写真を送った。まだ反応がないということは寝ているかもしれない。もしも見ていたら即電話か、メッセージが連投されるだろう。
自分自身はサボり以前と何変わらぬ日常。いつもの音楽を聞き、いつもの通学路を通る。
ちょっと違うとしたら、教室を目前にして入れなかったこと。あと一歩、踏み出せずにいた。
友達の声が聞こえる。自分の名前が出てこないことに寂しさとか怖さとかを感じる。
(大丈夫……たとえ、クラスの皆に嫌われていたとしても……一人だけは味方でいてくれる人がいる……)
一歩を踏み出す。この一歩は勇気ではなく信頼で勝ち取った一歩。
「おぉ、準備はしっかり進んでいるようで」
そう、すっとぼけた彼女を見るやいなやクラスメイトが彼女を囲う。
目を合わせられない。目をつむって未知の衝撃に備える。
「よっちゃーーーん! 元気してた!!?」
「みんな心配してたんだよー!?」
「メッセージもぜんぜん返してくれないじゃん!?」
歓迎ムード。勝ちを確信して、善子は目を開く。
「ま、まあ、ちょっと体調を崩しちゃってね。ほら、大事な時期だし、あの病気だと嫌じゃん? 慎重になれって両親からも止められてさ~」
すらすらと出る嘘。嘘が得意だったと思い出す。
女友達と手を握り合ったり、再会を喜んでいると、
「佐藤」
ぶっきらぼうな男の声。
「えっと……渡部くん?」
普段会話しない男のクラスメイトから声をかけられた。
「渡部だ! 同じ委員会の名前を間違えるな!」
「えっと、あはは、そうだった、ごめんごめん」
「謝ることないよー、よっちゃん。こいつクラス委員とは名ばかりで全部よっちゃんに仕事を押し付けたじゃん」
「押し付けてはいない。仕事の要領が悪すぎて任されなかったんだよ」
「もっとだめなやつ~~」
女子たちに小馬鹿にされ、明らかに悔しそうにするが何も言い返さない渡部。
「そうだよ、俺がだめだったばかりに……佐藤を傷つけることになっちまった。俺がもっとしっかりとしていれば、お前が休むことにはならなかったかもな」
「お、おーいー、渡部くん、出会い頭にその話するー?」
変に熱血な男のおかげで和やかな歓迎ムードがお通夜みたいな空気に。
(はっきりと謝罪されるより、責任の所在を曖昧にしたままのほうが助かるんですけどー!?)
渡部、印象に残らない男から印象が悪い男に格下げ。
「だから佐藤。頼りないかも知れないがそれでも俺を頼って欲──」
「よっちゃん! こんな男より私を頼って! それと私もこないだは助けられなくてごめん!」
「体調不良は嘘なんでしょう!? 今度からは正直に言ってね!?」
「お見舞いも! 本当は行くべきだったよね!? お詫びとはいっては何だけどいつかチョットイイアイスを奢らせて!」
渡部が格好良く決めようとしたが女友達に遮らてしまう。
しかし結果的には彼の行いが最善の理想的な方向へと舵を切った。
「みんな。ありがとうね。それと渡部くんも」
「べ、べつに、お前のためじゃないが!? 俺はやるべきことをやったまでだ!」
「うわあ、これまたべたなツンデレ……もしかして私に気があったりして」
「はああああああ!? 誰が、お前のような微妙に性格の悪い女なんか!」
「微妙ってのはどういうこと!? 中途半端なのよくないよ!?」
喧嘩の仲裁役が喧嘩を始めかけたその時、
「はい、みなさん。席についてください。ホームルームの時間です」
担任の足立康太郎が笑顔で教室に入る。
「またあとでね」
「元気に帰ってきてよかった」
「三日分を取り戻すくらい、おしゃべりしようね」
女友達は善子の肩を叩いて自分の席へ。
「ちぇっ」
渡部も渋々と言った表情で席に戻る。
「……先生」
善子は棒立ちになる。
つい昨晩のことだ。つい数時間前、目の前の教師と一線を越えた男が立っていた。
こちらはまだ引きずっているのに、まるで気にしていないような笑顔だった。
だから、
「……あの箱はどうしてますか?」
つい意地悪してしまう。
箱とはゴムのこと。お礼、お詫びといった形で、また体の良い不用品処分で、残りのコンドームを先生に譲渡した。
動揺を誘おうとする。善子は微妙に性格の悪い女ではない。普通に性格の悪い女だ。
しかし先生はいつもと変わらぬ笑顔で、
「箱というのは、クラスの目安箱のことでしょうか、佐藤さん」
いつもと変わらない先生に戻っていた。
(……まあ、わかってましたよ? 昨日のが異常だった。いいや、昨日のは夢だったんだ)
善子は首を振った。
「なんでもありません、先生」
自分の席に戻り、少し高い位置の先生の顔を見上げる。
「これで全員揃いましたね。とても素晴らしいことだと思います。先生はここからクラスのみなさんの顔を見る……何よりの幸せです」
届きそうなのに手が届かない距離。
なのに先生は恋心を何度も打ち砕く。
(あーあ、もっと性格が悪い女だったら良かった。もっと性格が悪きゃ、こんなに引きずらないんだろうな……)
きっとまた電話をすれば来てくれるのだろう。もっとハードなプレイにも答えてくれるのだろう。
しかし、それはできない。
(だって先生は、今の私を素敵だと言ってくれたもんね)
こうして佐藤善子の初恋は幕を閉じた。
────────────────────────────
これにて佐藤善子編は完結です。
ヒロインを変えて続く予定です。
もしよろしければお気に入り登録や感想をよろしくお願いします。
大変励みになります。ぜひともよろしくお願いします。
制服を着た姿を父親に見せた瞬間、父親が泣きそうになったのでダッシュで逃げてきた。母親にはメッセージアプリで自撮り写真を送った。まだ反応がないということは寝ているかもしれない。もしも見ていたら即電話か、メッセージが連投されるだろう。
自分自身はサボり以前と何変わらぬ日常。いつもの音楽を聞き、いつもの通学路を通る。
ちょっと違うとしたら、教室を目前にして入れなかったこと。あと一歩、踏み出せずにいた。
友達の声が聞こえる。自分の名前が出てこないことに寂しさとか怖さとかを感じる。
(大丈夫……たとえ、クラスの皆に嫌われていたとしても……一人だけは味方でいてくれる人がいる……)
一歩を踏み出す。この一歩は勇気ではなく信頼で勝ち取った一歩。
「おぉ、準備はしっかり進んでいるようで」
そう、すっとぼけた彼女を見るやいなやクラスメイトが彼女を囲う。
目を合わせられない。目をつむって未知の衝撃に備える。
「よっちゃーーーん! 元気してた!!?」
「みんな心配してたんだよー!?」
「メッセージもぜんぜん返してくれないじゃん!?」
歓迎ムード。勝ちを確信して、善子は目を開く。
「ま、まあ、ちょっと体調を崩しちゃってね。ほら、大事な時期だし、あの病気だと嫌じゃん? 慎重になれって両親からも止められてさ~」
すらすらと出る嘘。嘘が得意だったと思い出す。
女友達と手を握り合ったり、再会を喜んでいると、
「佐藤」
ぶっきらぼうな男の声。
「えっと……渡部くん?」
普段会話しない男のクラスメイトから声をかけられた。
「渡部だ! 同じ委員会の名前を間違えるな!」
「えっと、あはは、そうだった、ごめんごめん」
「謝ることないよー、よっちゃん。こいつクラス委員とは名ばかりで全部よっちゃんに仕事を押し付けたじゃん」
「押し付けてはいない。仕事の要領が悪すぎて任されなかったんだよ」
「もっとだめなやつ~~」
女子たちに小馬鹿にされ、明らかに悔しそうにするが何も言い返さない渡部。
「そうだよ、俺がだめだったばかりに……佐藤を傷つけることになっちまった。俺がもっとしっかりとしていれば、お前が休むことにはならなかったかもな」
「お、おーいー、渡部くん、出会い頭にその話するー?」
変に熱血な男のおかげで和やかな歓迎ムードがお通夜みたいな空気に。
(はっきりと謝罪されるより、責任の所在を曖昧にしたままのほうが助かるんですけどー!?)
渡部、印象に残らない男から印象が悪い男に格下げ。
「だから佐藤。頼りないかも知れないがそれでも俺を頼って欲──」
「よっちゃん! こんな男より私を頼って! それと私もこないだは助けられなくてごめん!」
「体調不良は嘘なんでしょう!? 今度からは正直に言ってね!?」
「お見舞いも! 本当は行くべきだったよね!? お詫びとはいっては何だけどいつかチョットイイアイスを奢らせて!」
渡部が格好良く決めようとしたが女友達に遮らてしまう。
しかし結果的には彼の行いが最善の理想的な方向へと舵を切った。
「みんな。ありがとうね。それと渡部くんも」
「べ、べつに、お前のためじゃないが!? 俺はやるべきことをやったまでだ!」
「うわあ、これまたべたなツンデレ……もしかして私に気があったりして」
「はああああああ!? 誰が、お前のような微妙に性格の悪い女なんか!」
「微妙ってのはどういうこと!? 中途半端なのよくないよ!?」
喧嘩の仲裁役が喧嘩を始めかけたその時、
「はい、みなさん。席についてください。ホームルームの時間です」
担任の足立康太郎が笑顔で教室に入る。
「またあとでね」
「元気に帰ってきてよかった」
「三日分を取り戻すくらい、おしゃべりしようね」
女友達は善子の肩を叩いて自分の席へ。
「ちぇっ」
渡部も渋々と言った表情で席に戻る。
「……先生」
善子は棒立ちになる。
つい昨晩のことだ。つい数時間前、目の前の教師と一線を越えた男が立っていた。
こちらはまだ引きずっているのに、まるで気にしていないような笑顔だった。
だから、
「……あの箱はどうしてますか?」
つい意地悪してしまう。
箱とはゴムのこと。お礼、お詫びといった形で、また体の良い不用品処分で、残りのコンドームを先生に譲渡した。
動揺を誘おうとする。善子は微妙に性格の悪い女ではない。普通に性格の悪い女だ。
しかし先生はいつもと変わらぬ笑顔で、
「箱というのは、クラスの目安箱のことでしょうか、佐藤さん」
いつもと変わらない先生に戻っていた。
(……まあ、わかってましたよ? 昨日のが異常だった。いいや、昨日のは夢だったんだ)
善子は首を振った。
「なんでもありません、先生」
自分の席に戻り、少し高い位置の先生の顔を見上げる。
「これで全員揃いましたね。とても素晴らしいことだと思います。先生はここからクラスのみなさんの顔を見る……何よりの幸せです」
届きそうなのに手が届かない距離。
なのに先生は恋心を何度も打ち砕く。
(あーあ、もっと性格が悪い女だったら良かった。もっと性格が悪きゃ、こんなに引きずらないんだろうな……)
きっとまた電話をすれば来てくれるのだろう。もっとハードなプレイにも答えてくれるのだろう。
しかし、それはできない。
(だって先生は、今の私を素敵だと言ってくれたもんね)
こうして佐藤善子の初恋は幕を閉じた。
────────────────────────────
これにて佐藤善子編は完結です。
ヒロインを変えて続く予定です。
もしよろしければお気に入り登録や感想をよろしくお願いします。
大変励みになります。ぜひともよろしくお願いします。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる