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佐藤善子の場合
クラス委員長佐藤善子の相談(12)
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「あ、先生。明日から学校行きます」
男女同室の着替えの真っ最中に善子は言った。
「よろしいのですか?」
「学校は、とりあえず行くところなので行きます」
「体調の話なんですけど……ですが善子さんが決めたのであれば先生は止めはしませんよ」
「なんて言ってるけど、先生的には来てほしいんでしょう? クラスから不登校児なんて出したくないでしょうし」
「そんなことはありませんよ。生徒が自分の意志で決めたことであれば尊重すべきと考えています。ただ……」
「ただ、なんです?」
「……クラスの皆さんは善子さんに会いたがっています。心配する声もあります」
「あははー、泥をかぶる役回りがいないと集団生活って回らないもんね、あははー」
おどけて笑う善子に、眉一つ変えない足立康太郎。
「せ、せんせ、どうしたん?」
「善子さん、先生は生徒の言うことに真摯に耳を傾けるべきであり無闇矢鱈に否定するべきでないと常々考えています」
「それが……どうかされたんですか?」
「ですが、今のお言葉は……先生としても、いや先生だからこそ聞き捨てなりません」
まだパジャマのボタンが外れたままの善子の肩を掴み、真正面に立つ。
「あなたの友達は、本当にあなたのことを心配されています。そして、もっと自分を大事にしてください」
不覚にも生徒に手を出す変態教師の言葉に心を打たれてしまう。
「あ、あはは、先生ってばずるいな……こういうところで大人を見せてきてさ……」
消えたはずの恋心がどこからともなく蘇る。
(あぁ、でも、こりゃ一度は真剣に惚れちゃうよね……)
間違いではあるが、間違いではなかった。
「また私を抱こうなんてそうはさせないんだから」
意外と厚かった胸板をどんと叩いて距離を取る。今一度この気持ちに別れを告げる。
「いやーせんせいのツメの垢、私の両親にも煎じて飲ませてあげたいよ。明らかなサボりなのに、叱りもしなければ何もしないんだから」
「……善子さん、ここだけの話なのですが実はご両親から、早退された日に先生まで会いに来てたのですよ」
「へえ、会いに……会いに!? 電話じゃなくて!?」
「はい、夜のことでした。だいぶ慌ていられた様子でした。こんなの初めてだったのでしょう、相談にきたのです」
「じゃあもしかして『いつまでも休んでて良い』ってのは先生の入れ知恵?」
「そうなりますね。本当は秘密だったのですが……ご両親の関係のためにもぶっちゃけちゃいます」
「……先生、絶対に秘密は守るとか言ってませんでした?」
「生徒との秘密は絶対に守ります……そういうことにしていただけると大変助かるのですが」
「しょうがないですねー、私はクラス委員長ですが融通効くほうですので? 今のは聞かなかったことにします」
「大変助かります……助かるといえば、これは私の立場上、あまり褒められたことではないのですが」
「次はなんですか?」
「先生は生徒のことを何よりも大切にしています。みんな可愛い生徒です。あなたたちの身体も心も守れるならどんな献身も厭わない、そのつもりです」
「……だからって生徒と一線を超えるのはいやなんでもありません、続けてください」
「ですが苦手なこともあります。立場上先生がやらなくてはいけないのですが、生徒が可愛すぎるあまり尻込みしてしまうことがあります」
「それってもしかして、喧嘩の仲裁?」
善子の勘が冴え渡る。
「はい、まさしく。どちらかが明確に悪いとしても、どうしても責める気にはなれないのです」
「あぁ、先生、あんまり怒り慣れてなさそうですもんね……まあちょっとギャップで良かったりするんですけども」
「その点、善子さんはすごいですね。その場を治めるプロです。生徒たちが頼ってしまうのも仕方ありません。ですが先生が頼ったり甘えてしまってはいけませんね」
珍しく影を落とす。笑顔の奥でずっと自責心に駆られていたのかも知れない。
「……別に、いいんじゃないですか。私達だって子供じゃないんです。生徒の力で解決できるなら、生徒の力で解決すべきですし。それが、クラス委員長ってやつじゃないですか」
善子のその言葉に足立康太郎の目が線から丸になった。
「ま、まあ、とはいっても生徒には変わりないので、だめなときはすぐ先生に頼りますので。だから今後もそういうことで末永くよろしくお願いします!」
ベッドの上とはまた違う照れくさい空間。言葉尻はマッハで駆け抜ける。
それがおかしくて、先生はいつもの笑顔を取り戻す。
「ええ、ええ、今後ともよろしくお願いしますね、善子さん」
男女同室の着替えの真っ最中に善子は言った。
「よろしいのですか?」
「学校は、とりあえず行くところなので行きます」
「体調の話なんですけど……ですが善子さんが決めたのであれば先生は止めはしませんよ」
「なんて言ってるけど、先生的には来てほしいんでしょう? クラスから不登校児なんて出したくないでしょうし」
「そんなことはありませんよ。生徒が自分の意志で決めたことであれば尊重すべきと考えています。ただ……」
「ただ、なんです?」
「……クラスの皆さんは善子さんに会いたがっています。心配する声もあります」
「あははー、泥をかぶる役回りがいないと集団生活って回らないもんね、あははー」
おどけて笑う善子に、眉一つ変えない足立康太郎。
「せ、せんせ、どうしたん?」
「善子さん、先生は生徒の言うことに真摯に耳を傾けるべきであり無闇矢鱈に否定するべきでないと常々考えています」
「それが……どうかされたんですか?」
「ですが、今のお言葉は……先生としても、いや先生だからこそ聞き捨てなりません」
まだパジャマのボタンが外れたままの善子の肩を掴み、真正面に立つ。
「あなたの友達は、本当にあなたのことを心配されています。そして、もっと自分を大事にしてください」
不覚にも生徒に手を出す変態教師の言葉に心を打たれてしまう。
「あ、あはは、先生ってばずるいな……こういうところで大人を見せてきてさ……」
消えたはずの恋心がどこからともなく蘇る。
(あぁ、でも、こりゃ一度は真剣に惚れちゃうよね……)
間違いではあるが、間違いではなかった。
「また私を抱こうなんてそうはさせないんだから」
意外と厚かった胸板をどんと叩いて距離を取る。今一度この気持ちに別れを告げる。
「いやーせんせいのツメの垢、私の両親にも煎じて飲ませてあげたいよ。明らかなサボりなのに、叱りもしなければ何もしないんだから」
「……善子さん、ここだけの話なのですが実はご両親から、早退された日に先生まで会いに来てたのですよ」
「へえ、会いに……会いに!? 電話じゃなくて!?」
「はい、夜のことでした。だいぶ慌ていられた様子でした。こんなの初めてだったのでしょう、相談にきたのです」
「じゃあもしかして『いつまでも休んでて良い』ってのは先生の入れ知恵?」
「そうなりますね。本当は秘密だったのですが……ご両親の関係のためにもぶっちゃけちゃいます」
「……先生、絶対に秘密は守るとか言ってませんでした?」
「生徒との秘密は絶対に守ります……そういうことにしていただけると大変助かるのですが」
「しょうがないですねー、私はクラス委員長ですが融通効くほうですので? 今のは聞かなかったことにします」
「大変助かります……助かるといえば、これは私の立場上、あまり褒められたことではないのですが」
「次はなんですか?」
「先生は生徒のことを何よりも大切にしています。みんな可愛い生徒です。あなたたちの身体も心も守れるならどんな献身も厭わない、そのつもりです」
「……だからって生徒と一線を超えるのはいやなんでもありません、続けてください」
「ですが苦手なこともあります。立場上先生がやらなくてはいけないのですが、生徒が可愛すぎるあまり尻込みしてしまうことがあります」
「それってもしかして、喧嘩の仲裁?」
善子の勘が冴え渡る。
「はい、まさしく。どちらかが明確に悪いとしても、どうしても責める気にはなれないのです」
「あぁ、先生、あんまり怒り慣れてなさそうですもんね……まあちょっとギャップで良かったりするんですけども」
「その点、善子さんはすごいですね。その場を治めるプロです。生徒たちが頼ってしまうのも仕方ありません。ですが先生が頼ったり甘えてしまってはいけませんね」
珍しく影を落とす。笑顔の奥でずっと自責心に駆られていたのかも知れない。
「……別に、いいんじゃないですか。私達だって子供じゃないんです。生徒の力で解決できるなら、生徒の力で解決すべきですし。それが、クラス委員長ってやつじゃないですか」
善子のその言葉に足立康太郎の目が線から丸になった。
「ま、まあ、とはいっても生徒には変わりないので、だめなときはすぐ先生に頼りますので。だから今後もそういうことで末永くよろしくお願いします!」
ベッドの上とはまた違う照れくさい空間。言葉尻はマッハで駆け抜ける。
それがおかしくて、先生はいつもの笑顔を取り戻す。
「ええ、ええ、今後ともよろしくお願いしますね、善子さん」
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