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Ⅳ 新しい朝

第36話 帝都の灯

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アーロン:魔法使いの助手兼用心棒をしている青年。
アリア:災厄の魔女と呼ばれた錬金術師。

ルイ:気品を漂わせる貴族の男性。25歳。
パティ:ルイの親戚の女性、分家の貴族。21歳。


 ──────宵闇。

 帝都陥落の報せを受け、学術都市・フリージアの執政官を務める有力貴族であるルイは、自身の従妹であるパティ、旅の途中だという魔女アリア、その用心棒アーロンを率いて、先遣隊を買って出たのだった。

 フリージアから帝都・グロリオーサまでの道のりはそう遠くない。日没から歩いたとしても、夜明けまでには到着するほどの距離である。とはいえ、死神の勢力がどの程度の規模なのか噂ほどにしかわかっていない今、街道のように目立つ道は使えない。一行は街道から外れ、地平線の向こうに見える灯りを目指した。

 道中。

アリア 「結局、ルイたちに同行することになるとはね。アーロン、キミがお人好しだということは、充分理解していたつもりだったが、足りなかったようだ」

アーロン 「……悪かったって。だけど、あの神様気取りのアルトリウスをぶっ倒すには、死神の力、ひいては神降ろしの力がどういうものなのか、知る必要があるんじゃねえか?」

アリア 「それはそうだが……」

アーロン 「フリージアを出る前にも話しただろう」

アリア 「わかっている」

パティ 「アーロン? あなたたちの事情はわからないけれど、彼女はあなたを心配しているのではなくて?」

アリア 「なっ、何を言う、パティ」

パティ 「うふふ、アリア、そんなにアーロンのことが好きなのね」

アリア 「な、なな……っ」

ルイ 「パティ、野暮だということがわからないのか?」

パティ 「ば、馬鹿にしないで。意味は知っているわ」

ルイ 「はあ……、2人ともすまないな、こんなときだというのに」

アーロン 「ま、いいんじゃねえの? こんな息の詰まるときときだからこそ、パティの能天気さに救われるってもんだ」

パティ 「アーロン……! わかってるじゃない!」

ルイ 「パティ、馬鹿にされてることもわからないのか?」

パティ 「えっ!?」

(SE 草が揺れる音)

アリア 「どうやら、楽しいおしゃべりの時間は終わりのようだよ」

魔物 「グガアウッ!!」

(SE 魔物がとびかかる音)

アーロン 「──────斬月!」

(SE 剣の一閃)

アーロン 「は、団体様のご案内か」

ルイ 「星辰一刀流せいしんいっとうりゅう、だと……?」

パティ 「きゃあああっ! ルイ、早く! 早く助けてぇえっ!?」

ルイ 「ち、世話の焼ける……ッ!!」

ルイ 「──────月華げっかさん!」

(SE 斬撃音)×何度か

魔物たち 「グガアアアッ!?」

(SE 魔物が消滅する音)×何度か

パティ 「あ、ありがとう、ルイ」

ルイ 「ぼやっとするな、そいつがラストだぞ!」

魔物 「ガアウッ!!」

(SE 魔物がとびかかる音)

パティ 「──────朽ち果てなさい」

(SE 時が加速する音)

魔物 「ガアアァァ……ッ」

(SE 魔物が消滅する音)

アリア 「……雑魚相手にそんな大魔法を……?」

パティ 「大魔法? まあ、確かに上級魔法ではあるけれど……」

ルイ 「雑魚相手に出し惜しみするようなものでもない。パティは時を操る魔法に長けているからな」

アリア 「上級……」

ルイ 「それにしても、アリアは下級魔法しか使っていないが、よもやその技量で上級魔法を使えないということはないだろう?」

アリア 「……な、なに?」

アーロン 「(小声で)お、おい、その上級魔法とやら、使えんのか?」

アリア 「(小声で)恐らく、それこそが旧ハルモニアの魔法なのだろう。私は皇族ではないからね、当然使えるわけがない」

パティ 「……どうしたの? まさか、下級魔法しか使えないの?」

アリア 「そ、それは……」

ルイ 「……それはまずいな。死神は、上級魔法しか効かないんだ」

アーロン 「今は壊れてるけど、対抗できるかもしれないもんは持ってるよな?」

ルイ 「?」

アリア 「……おい、アーロン!」

アーロン 「それくらい、見せてもいいんじゃねえのか? それを直す手がかりが見つかるかもしれねえだろ」

パティ 「……ルイ、今更だけど、この2人、大丈夫なの?」

ルイ 「隠しごとはあるが、嘘は吐いていない。そう、見えている」

アリア (視えている……? そういう魔法か?)

アリア 「……これだよ」

(SE 割れた魔石を取り出す音)

ルイ 「これは、魔石か?」

パティ 「でも、壊れてるわ。刻まれていた術式が焼き切れたのね……」

アリア 「これには、魔法を記録する術式が刻まれていたんだが、フリージアに着く前に壊れてしまってね」

(SE 魔法陣が展開する音)

パティ 「……魔法を無理やり暴走させて発動させたようね。……これ、あなたが作ったの?」

アリア 「い、いや……、拾ったんだ」

パティ 「拾った? どこで?」

アリア 「……」

アリア (……まさか未来のアルトの遺跡で拾った、なんて言えないしな)

ルイ 「どうした? 何か後ろ暗いことでもあるのか?」

アリア 「…………」

アーロン 「(小声で)……どうする?」

アリア 「……」

ルイ 「……ふ、すまない」

アリア 「?」

ルイ 「実は、お前たちを試していたんだ」

アーロン 「あ? どういうことだ? あんたに頼まれたから、俺たちは同行してるんだぜ? それを、試す? 試すんなら、誘う前にするべきじゃないのか?」

ルイ 「もっともだ」

アーロン 「否定しないのな」

ルイ 「なに、恐らく未来、それも上級魔法の技術が失われるほどの遥か未来からきた、となれば試したくもなる」

アーロン・アリア 「!?」

パティ 「その反応、やっぱり……」

アリア 「……その通りだ」

アーロン 「アリア」

アリア 「このまま黙っていたところで、時を操る魔法特性をもつパティを誤魔化せるはずがないだろう」

パティ 「当然よ」

アリア 「まあ、正直それはどうとでも誤魔化せるだろう、と思っていた……」

パティ 「なんですって!?」

ルイ 「ふ」

パティ 「え、鼻で笑った? 鼻で笑ったわよね!? 少しくらいフォローしなさいよ!」

ルイ 「何を言う? 事実なのだからフォローも何もないだろう」

パティ 「はあ!?」

アリア 「……だが、そちらのルイには、見破られてしまうのだろう? その瞳で」

ルイ 「ほう」

アリア 「これは私の仮説だが、ルイは、魂を観測できるんじゃないか?」

ルイ 「…………」

アリア 「魂を観測できる、ということは、魂の力である上級魔法の痕跡も辿ることができるのだろう?」

ルイ 「はあ、今更お前たちを試すような真似をしたことは謝ろう」

パティ 「ルイ……」

ルイ 「隠していても仕方ないだろう」

パティ 「それはそうかもしれないけど……」

ルイ 「アリア、お前の言う通り、俺の瞳は魂を見通す。お前たちの魂がどういうものなのか、それなりに見えている」

アリア 「……」

アーロン 「へえ、それじゃ、俺の力についても見えてるってのか?」

ルイ 「当然だ」

アーロン 「いいのか? 俺は、これから倒そうっていう死神の力を持ってるんだぜ?」

ルイ 「かまわない。アーロン、お前には……いや、やめておこう」

アーロン 「なんだよ、もったいぶるんじゃねえよ」

ルイ 「ふ、なに、お前たちが同行することで、今のところ未来が変わることはない、と思ったまでだ」

アーロン 「?」

アリア 「ほう」

ルイ 「それにアリア、お前の魂は……」

パティ 「ルイ、そろそろ帝都が見えてくるわよ!」

ルイ 「少し話し過ぎたようだな。行くぞ」

────────────

 帝都・グロリオーサ、郊外の丘。

パティ 「うそ……」

ルイ 「……」

アーロン 「戦闘は終わってるみたいだな」

アリア 「千里眼で見てみよう」

(SE 魔法が発動する音)

アリア 「…………ッ!!」

アーロン 「アリア、どうした?」

アリア 「……あのときと、似ている……」

アーロン 「あのとき? まさか……」

アリア 「……どこに行っても、どんな時も……、まったく、因果なものだ」

ルイ 「……魂の残滓が見えるな。それも、帝都を埋めつくすほどに」

アリア 「……」

ルイ 「どうやったらこの状況が作り出せるのか、知っているな?」

アリア 「ああ」

ルイ 「聞いても?」

アリア 「……恐らく、大勢のホムンクルスを消滅させたのだろう。それも、魂をもったホムンクルスを」

パティ 「ええ!? 魂をもったホムンクルスの研究は、魔素で構成されたホムンクルスに魂が定着しないからって凍結されたんじゃ……」

アリア 「人間の身体の一部から生体情報を抜き取ることで、簡易的に魂は錬成できる。そうして作り出した魂ならば、ホムンクルスの身体に定着する」

パティ 「……なるほど、それなら可能ね」

ルイ 「生体情報を抜き取る、か。少量ならまだしも、帝都を埋めつくすほどのホムンクルスを錬成するとなれば、莫大な量になるだろう。どれほどの人間を犠牲にしたんだ……!」

アリア 「いつの時代も、馬鹿な錬金術師はいるということか」

パティ 「……」

ルイ 「ああ。だが、今はそれを嘆いている場合ではない。問題は、帝都の火が貴族街から燃え広がっているということだ」

パティ 「え?」

アーロン 「それって……」

アリア 「帝国がホムンクルスを放った、ということか……」

ルイ 「ふ、死神が破壊していった施設はみな、平民を食いつぶすことを前提にしたホムンクルスの研究をしている施設ばかりだったし、滅ぼされた新興都市だって、限られた者しか出入りできないきな臭い街だった。はてさて、いったいどちらが悪なんだろうな」

パティ 「死神にはなにか、事情があるっていうこと?」

ルイ 「そうかもしれない、ということだ」

パティ 「…………」

ルイ 「たとえ死神が正義を掲げ、悪辣非道な帝国に抗っていたとしても、俺たちは死神を討たなければならない」

パティ 「そうね。私たちの街を守らないと……」

ルイ 「よし、行くぞ」

つづく
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