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十八章ならず者国家

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 白井の後に続いてヘリに乗ってからしばらく、どこかの飛行場に下ろされてからすぐにプライベートジェットに乗せられた。

 白井に一応どこへ行くんだと訊ねてもしらばっくれられて、だとかしか言わなかった。そのうちわかるだろうと窓の外を見ようとした所で目隠しをされ、身体検査も敢行され、私物も全て取り上げられた。

 目隠しをされたのはよほど隔離された地域なんだろうか。相田率いる青龍会ですら今まで影も形も情報を得られなかった事から、徹底的に情報規制をされた場所なんだろう。裏世界の人間にすら何一つ漏らされず白井の国が存在できたのは、白井の権力と財力と武力があっての事。
 
 罠だらけの難攻不落の居城か、それとも絶海の孤島か、あるいは険しい山々に囲まれた集落か……わからないな。

 もう二度と帰らない覚悟の上だろうからとスマホはその場で破壊されたし、勝手に死亡届などを出されて架谷甲斐の存在も抹消させたと聞いた。ちょっと悲しいけど、それをわかった上でにきたので失うものはない。

 ただ、俺は裏社会のど真ん中で生きていく。俺はもう二度と陽の光を浴びる事など許されないだろうな。


 数十時間経った頃、やっと到着したのか目隠しを外された。トイレや入浴や食事以外は常に目隠しを強要されたので、寝る以外はやる事が無くてとても退屈だった。かなり長い時間のフライトだったので、この長時間を考えると海外の相当遠い場所に存在するのだろう。外を見れば早朝なのか朝陽がよく見える。日本との時差は12時間ほどあるという事は日本とは正反対の場所にいるって事か。

 どこかの島か?着陸時は外の景色が見えなかったのでわからないが、周辺は海が見える孤島のようだ。やっと見れるようになった外を眺めていると、白井が偉そうに早く降りろと促してきたので、白井に続くようにタラップを降りる。

 外は異様に寒いな。コートを着ろと言われていたがそのためか。

「父上、お帰りなさい」

 牧田が頭を下げていた。

「それとの母上もようこそ、我が国へ」
「仮でも母親と思われるのは心外だっつうの。つかここがそのお前らの国なのかよ」
「そう、父上の建国した白い監獄ホワイトプリズン共和国とでもいいましょうか」
「ださ……中二病みてえな名前だな」

 たしかにこいつらのイメージ的に監獄だよな。勝手にEクラスのみんなはここに連れてこられたわけで、たしかに監獄である。名前負けしている気もするので改名してやりたいよ。白井と愉快なならず者国家ってな。

「お前も今日から俺の国の国民……いや、俺の妻になるのだから妃だ」
「嫁じゃなくて妃かよ。まあどっちでもいいけど」

 忠誠を誓ったフリをするのも楽ではなさそうだ。表向きは妃だか嫁だかの立場を受け入れるが、内心ではそんなものになるつもりは毛頭ない。これもEクラスのみんなを助けるために嫁としての立場から暗躍する。

 仲間も、家族も、愛する人も、架谷甲斐としての存在も――全て捨てた。全てを捨ててでもこの地を訪れたからには、絶対にみんなを助け出す。

 そして、必ずこいつらを……白井一族を斃す。

 今はまだこいつらには敵わないし、俺自身も白井に恐怖心がある。それを克服して力を蓄えて、刺し違える覚悟でこいつらの野望は全阻止してみせる。それが全てを捨てた俺のこれからの生きていく理由だ。夢も希望もない淋しい余生を過ごす事になるだろうけど、心の中で強い覚悟を決めて、俺は白井の奴らの背中を強く睨みつけながら後に続いた。


 しばらく白井達に着いて行きながら景色を眺めていると、なんだか不思議な程風を頬に感じるし、景色や雲が思ったより早く動いているような気もする。

「おい。この島……動いているのか?」
「気づいたようだなカサタニカイ」

 牧田が得意げにこちらを振り返る。

「そう、我々白井一族が統治するこの国は動く島だ。総面積は500km2で幅は30キロ程度。人口は約1000人。住んでいる者は主に日本人が五割、残りは白人から黒人までいろんな国の者がいる」
「へぇ……日本人だけじゃなくていろんな国の人が住んでいるのか。しかもそんな島が動いているなんて知ったら、どの国の連中も吃驚だろうな」

 動く島だなんて二次元みたいな話だ。しかも結構巨大な島である。

「今まで多くの軍事国家や世界中の裏社会の者が上陸しようとやってきたが、すべてやり過ごすか返り討ちにしている。周りは高い断崖絶壁に囲まれ、船での上陸は不可能。航空機も許可がないものは全て撃墜。その気になればこの島は海中に潜る事だって可能だ。常に発信機などの電子機器を妨害する電波を垂れ流しており、徹底的に外部からの情報を遮断している。あらゆる国などの干渉を何人たりとも受けず、非公式であるが独自の国家として我が道を進んでいる」
「他国の諜報員共に見つからないわけだ……」

 潜る事も可能なら見つけるのは容易ではないだろうな。長年蓄えてきた目が眩むほどの財産があれば島ごと作ってしまうのも納得できるものだ。

「今は南大西洋あたりにいる。フォークランド諸島より南の方にな。数日後には南極大陸が見えるかもしれんぞ」
「南極寄りか。ペンギンが見れそうだ」

 初海外が南大西洋や南極辺りなんて上級者向けである。どうりで寒いわけだ。

「まさしく絶海の孤島と言われる場所だろう。逃げ出そうと考える者などおらず、国民はここで骨を埋める覚悟でいる。むしろ、ここがユートピアだと皆が絶賛しているよ。お前もここでの生活に早く慣れて俺を支えろよ、我が妻よ」
「へいへい。言われなくてもそうしますって」

 本当に骨を埋める事になるかもしれない。でも、絶対にEクラスのみんなだけは助けてみせる。


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