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十五章因縁の対決

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※グロ描写注意


 バカ社長のアジトは真夜中だから閑散としている。正面玄関前の門扉は当然ながら厳重に警備されており、人間じゃない奴らが通せんぼしている。俺と未来がゼロ気配と超スピードで静かに叩き伏せ、見つけた監視カメラに久瀬さんが細工を施していく。ずっと同じ画面を映し続けるという安っぽい仕掛けだが、しないよりはマシだろう。
 
 正面から入ると大騒ぎなので、裏の入り口に向かう。厨房が食材を搬入するための入り口があったのでそこから侵入。暗証番号で開くタイプの扉なので、久瀬さんがタブレットで事前に調べていた番号を入力。難なく開錠された。

 中は当然ながら真っ暗で誰もいない。全員が赤外線暗視スコープをつけ、妙な仕掛けや罠がないかを確認しながら進む。冷蔵庫や棚の中をなんとなく調べると、人間が食べていいものなのだろうかと疑いたくなるものをたくさん見かけた。

「ちょっ……こ、これ、人間の……肉!?」

 親父があわわわと真っ青な顔で口元を押さえている。親父はホラー耐性とグロ耐性ゼロだもんな。

 そんな冷蔵庫の奥には解体された人間の体や臓器と思われるものが宙づりになっている。その床にはアルミのバットにラップがされた赤い血液とその生の臓器が冷やされていた。おえええっ。

「ぎゃあ~なにこれっ!おええっ!」
「えーとここって屠殺場だっけ。床や壁もよく見たら血痕だらけだしっ!こわいんだけどっ!」
「しかも拷問するみたいな器具まで置いてあるな。ここは調理場兼拷問部屋かよ」

 わくドキゾンビのゲームでグロ耐性ある俺でも気分悪い所だ。拷問者を座らせる椅子には長年のこびり付いたいろんな者の血の跡が生々しすぎる。

「私グロ耐性ないんだよね。吐きそう。で、誰の?」
「おそらく、冷蔵庫に入っている損壊したモノの大きさからみて、ここで殺された子供のものでしょうか。普通の人間はまず食べないので、これは人間を捨てた者達の食料エネルギー源でしょうね」

 久瀬さんが顔色悪く説明する。さすがのいつも冷静な久瀬さんも気持ちが悪そうだ。

「子供を食料にとか……倫理観もくそもねえな」
「普通の豚肉だったらどれほどマシだったか……おえ」

 胸糞悪すぎる。スパイ養成している割には無慈悲に殺されているのか。ますます許せねえわ、バカ社長と白井が。

「ねえ……人肉の他におかゆかなんか知らないスープも冷やしてあるんだけど……なにこれ。こんなの食べてんのここに囚われている子達」
「それもおそらくエネルギー源かと。ここで育った南先生曰く、子供達はまともなものを食べていたようです。しかし、善良な児童養護施設と表向きは謳っていても、所詮はスパイ養成所。劣悪な環境下で育てるのも訓練の一端にしているんじゃないでしょうか」
「可哀想……はやく助けてあげたいよ」
「まだ普通の施設で育った方が数十倍マシに思えるほどの施設……いや、強制収容所レベルね」

 こんなひどい場所で南先生が育ったのか。そりゃあ病んだり記憶喪失にもなるわけだよ。だって子供が住んでいる場所で平然とこんな事殺戮が行われているんだから。

「とりあえずここは後で来る青龍会に任せて、我々は先を急ぎましょう」

 久瀬さんに促されてこんな不気味な場所を後にする。気配を立てずに薄暗い廊下を進み、途中で何人か見張りの奴らがいたのでノシた。大規模な施設だから中はとんでもなく広い。迷いそうだ。

「直君達や施設に囚われている子供達を探すために二手に分かれた方がいいわ」
「そうだな。それで見つけたら小型インカムで連絡を取り合おう。まずは直達や子供達を探す事を先決として、バカ社長と戦うのは人質の救出後だな」

 俺と久瀬さんと未来が西館の方。東館は親父と母ちゃんと悠里が向かう事になった。人質救出までは無茶はするなと約束し、それぞれが違う方角へ向かった。

「西館は先ほどの東館より薄暗いな」
「東館は最新の設備が充実している研究所風ですが、西館はひと昔の洋館風のようですね。灯りも大昔のモノをそのまま使用しているようです」

 廊下は昔のホラー映画とかに出てきそうな気味の悪い館みたいである。

「なんかお化けでも出そうでやだなあ~。私グロ耐性もあまりないしお化けも苦手なんだよね~」
「お化けはさすがにいないだろうけど、変なのはいそうだよな~。あのバカ社長の怪しいアジトなわけだし」

 しゃきん、しゃきん

「ねえ、なんかしゃきんって音、今しなかった?」
「……そういえばするな。それに気配がする」

 しゃきん、しゃきん

「ほら、なんかハサミを切るような音がする!」
「一階の厨房で見たあのグロイ人肉とか拷問器具とか置いてあるくらいだ。頭のおかしいのはいるだろうよ」
「そういう人間を捨てた連中の中に、霊薬の血の実験で失敗した半人間のような異形の者が徘徊していたり」
「ひいいいいん!久瀬さんは笑顔でそんな事言わないでよーっ!あたしグロイのやだぁ!」
「いやだとか言っても、近くに来てるぞ」
「……へ?」

 未来がギギギと機械のように振り返ると、すぐ近くには二匹のゾンビみたいな奴が迫って来ていた。巨大なハサミを持った廃人みたいな顔の奴と、全身の半分の皮膚がえぐれてるグロい奴。

「ぎやああああーーっ!!」
「ていっ!」

 未来が悲鳴をあげている横で、俺は颯爽とハサミ野郎を気功で倒し、久瀬さんももう一匹を颯爽と撃ちぬいている。もちろん、銃弾は人間を捨てた連中に効く特殊な弾丸で。

「ハサミ持ってるヤツは某ホラーゲーのシザーマンかよ。ゲームを参考に作ったんじゃねえかってくらいそっくりだな」

 ゾンビを斃すことになろうとは……人生は二次元と紙一重なのだろうか。

「あ、あそこに明かりが見えるよ」
「人の気配もたくさんする……もしかして」

 慎重に明かりのついた部屋の中を窺うと、たくさんの厳重な牢屋が連なっている。その牢の中にはいろんな年頃の子供達が囚われていた。

 怯えている者、無気力になっている者、やたらとハイテンションな者、ここに連れてこられたばかりで泣いている者など様々だ。しかも、年端も行かない少年少女どころか乳幼児まで囚われている。

「囚われの子供達のようですね」
「すぐ助けよう。もう南先生のような者達を増やさないためにも。でもかなりの人数がいるようだから何往復かはしないとな」
「おい、なんだぎゃ。お前らは」

 薄暗い向こうからでっぷり太った肉だるまのような物体がのしのし歩いてきた。気配でわかっていたが、こんなデブだとは思わなかった。

「げっ!何あのキモいデブ!!体重300キロはありそ」

 顔をしかめる未来。たしかに醜いゾンビ顔に丸々したデブい図体だ。おまけにブリーフ一枚だけを穿いた変質者のような格好をしている。右手に皮の鞭を持ち、左手には蝋燭……。

「SM豚野郎かよ。吐くわ」

 肉だるまみたいな奴が鞭と蝋燭をもっている時点で秘密の花園を思い出してしまった。ここでもそういう事がまかり通っているのか知らんが、子供達があまりに不憫である。一刻も早く助けてやらなければ。

「貴様らは何者だぎゃ。わしはここを任されている看守だぎゃ。侵入者なら容赦せんだぎゃー!」
「ギャーギャーうぜー喋り方だな」
「黙れだぎゃー!」

 そいつはいきなりダンゴムシのように体を丸めてゴロゴロ転がってきた。こっちに向かってきやがったのでとりあえず俺達は避ける。

「この肉だるま、元人間じゃないだろうな」
「あの図体の大きさも霊薬の血によるキメラ化でしょう」
「もう見た目がキモすぎだし。我慢ならんからあっち行けーー!!」


 未来がゴロゴロ迫りくる肉だるまをサッカーボールのように蹴り返す。未来の強烈な蹴りにより肉だるまは「ぎょえーーー!!」と叫びながら窓を突き破って外へ飛んで行ったのだった。

 さすが妹だな。柔道だけやらしておくのが勿体ないほどのキック力である。母ちゃん直伝か。


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