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十五章因縁の対決

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「友里香は行方不明だし、お兄ちゃんがこの辺りにいるんでしょ!?お母さん!」
「あーもう落ち着きなさいよ未来」

 誠一郎さんから情報を聞きつけた私は、架谷一家と誠一郎さんと久瀬さんとで大爆発があった場所へと車で急行していた。

 直の義父だった矢崎正之が真白ちゃんと甲夜ちゃんをさらって逃亡し、それを甲斐君と先生達が追いかけて、すぐさま直も追ってからしばらくして連絡が途絶えたのだという。

 それから友里香ちゃんまでもが行方不明だと聞いて、みんなして慌てていた所で都心から離れたこの辺で大爆発が起こったと連絡が入った。かなりの大きな爆発だったらしく、周辺の一帯が吹き飛び、大きなクレーターと瓦礫が山積みになっているらしい。

 みんな、無事でいて。

 もしも甲斐君達が巻き込まれていたらと思うと恐怖で足がすくむ。大丈夫だよね?



「かなりの人ですね。警察車両もたくさん来ているので車で現場まで向かうのは難しいでしょう」
「えーそんな~っ。早くしないとお兄ちゃんが心配だよおっ」

 久瀬さんが車を運転しながら山道を迂回したりする。警察がまわりにいるとなると探すのに苦労しそう。その隣で未来ちゃんが思うように進めなくてイライラしている様子だ。

「うむ……やはり陸からはうまく進めんな。ここからは徒歩で……ん」

 誠一郎さんが窓の外の浜辺の方の人影に気づく。未来ちゃんもそれに気づいて凝視したかと思えば身を乗り出した。

「あれはお兄ちゃんだ!」
「え」
「この気配お兄ちゃんだよ。警察共が張り込んでるから浜辺の岩場に隠れてたんだ」

 すぐにシートベルトを外してドアから飛び出していく未来ちゃん。さすが超ブラコンなだけあって行動も早い。私も慌てて追いかける。

「おにいちゃーん!!」
「甲斐くーん!!」

 一足早く飛び出した未来ちゃんは警戒心もなくすぐさまその影に近づいたら、ひょっこり甲斐君が手を振り返してくれた。やっぱり甲斐君だった。無事みたいでよかった。

「よくわかったな。未来も悠里も」
「お兄ちゃんの気配をあたしが間違えるはずないよ!」
「未来ちゃんが一番最初に気づいたもんね」
「「甲斐!」」
「「甲斐君!」」

「お、母ちゃんや親父、誠一郎さんや久瀬さんも。よかったー来てくれたか」

 甲斐君の両親達も甲斐君が無事な姿を見てホッとしている。なんだかんだ冷静でいながらも心配していた様子だったもんね。でも、娘ちゃん達や直や相沢先生の姿が見えない。

「怪我は大丈夫なの?頭から血が出てるよ」
「ああ。これくらい大丈夫だ。止血してるし。だけど南先生は足を撃たれちまった。弾は俺がナイフで摘出したけど、すぐに病院へ連れて行ってほしい」
「よしきた。すぐにヘリを手配しよう。久瀬、お前のご両親の病院とドクターヘリに連絡を」
「はい」

 誠一郎さんの一声で秘書の久瀬さんがスマホをかけている。横になっている南先生は今は疲れて眠っているみたいだけど、足に弾が貫通している時は相当痛かっただろうと思う。甲斐君もよくあんな太いナイフ一本で摘出できたものだと感心するよ。

 普通なら手元が狂って皮膚を傷つけたり、足を再起不能にさせちゃったり、下手をすれば患者の命を奪っちゃうことだってありえるのに。そこは修羅場経験に慣れている甲斐君だからこそできた神業だろう。医者じゃないのに適切に行動できるってすごい。

 それから、甲斐君が先ほどまでに起こった出来事を話してくれた。社長と戦ったが、直がとどめを刺そうとした瞬間に攻撃を受けて大爆発を起こした事。そのせいで負傷し、直と真白ちゃんと甲夜ちゃんと相沢先生が連れて行かれた事。すぐさま助けに行く事で意見は一致した。


「ふっふっふ。やぁっとあのバカ社長に借りを返す時が来た。長かったわ」

 ヘリが来るまでの間、これからの事を話していたらやはり話題はあの矢崎正之の事だった。甲斐君のお母さんが拳をボキボキさせて好戦的な表情を浮かべている。

「16年前の借りか。母ちゃんの恨みの強さが手に取るようにわかるよ」
「当然よ。愛する我が子達と離れ離れの生き別れにさせた怒りと報いを、早苗ちゃんと一樹さんに変わってあたしが返してあげるんだから。説教しながら何発か殴らないと絶対気が済まん」
「ぼくは唯ちゃんのサポートに徹するよ。ぼくの怒りの分も唯ちゃんが怒ってくれてるし」
「もー情けない事言わないでよお父さん!奴は因縁の敵なんだよ!頭が薄くなるのはいいとしてバカ社長に対する怒りは薄めないでよね!」
「ぐふっ!未来の一言に涙腺が薄くなりそうだよ……しくしく」
「もう太郎さんてばーっ」

 相変わらずの架谷一家の楽しいやり取りに自然と笑みがこぼれる。このほのぼのとした日常を壊したくない。平和を掴み取らなきゃ。

「正之の居場所がわかった」
「本当か誠一郎さん」
「ああ。久瀬がヘリの手配の電話をした後に、居場所も丁度わかったと部下から連絡が入った。ここから50キロ先の山奥の施設のようだ。正之の隠れアジトらしい」

 久瀬さんが地図とその施設の詳細をタブレットで見せてきた。山奥にぽつんと佇む大きな施設のホームページが掲載されている。見かけは普通の児童養護施設のようだ。

「そこは元々、児童養護施設でした。そう、どこにでもある普通の」
「でしたって事は今は違うのか?」
「ああ。元々は普通だった。これは最近青龍会からの情報で知った事だが、20年前に白井と隠れて繋がりを持ち始めた正之が、ある場所を買い取って自らの隠れアジトとして建設し直したらしいのだ。普通の児童養護施設をな。白井汚郎の命令かはわからんが。そして、その子供達を自社の専属スパイや暗殺者として育てるため、特殊な児童養成施設と化させたのだ。この20年の間ずっと身元が不確かな子や親がいない子を攫い、ここで無理やり殺しの技術やその訓練をさせ、自我を失わせて命令通り動く駒を作り上げるためのな。警察も白井相手だとなかなか手出しができず、いなくなった子供を不当に行方不明扱いにしてきた。まさかその施設がこんな近くにあったとは……」
「っ、そんな施設を作ってたの……最低っ」
「闇が深すぎるな白井も、矢崎正之が行ってきたことも」

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