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十三章Eクラスの団結

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 翌日、丁度学校が休みだったのでじいちゃんに指定された寺へ行く事にする。身支度を整えて家の外に出ると、案の定自分を見ている数人の気配と殺気を感じた。昨日からいる奴らも含めてざっと20人ほどか。ちょこまかとウゼーな。

 最近、こうして監視や暗殺者が多くなっているためか、気配に敏感になって聡くなった。家の中にいるゴキブリの気配すらわかってしまうほど俺の気配探知は研ぎ澄まされており、暗殺者からの不意打ち攻撃を先回りして攻撃するようにもなっている。こんな風に。

「おはようさん。さっそくだけどそこにいるお前。スナイパーのくせして照準がずれてんぞ。俺の頭をちゃんと狙ってんのか?あ?」

 俺がその場にいる中で一番実力がありそうな奴に向けて言い放った。傍から見れば独り言を言っているように見えるかもしれないが、ちゃんと隠れているそいつに向けて発言している。

「なっ、んだと」

 隠れているスナイパーが慌てながら俺と自分のライフルを交互に見て焦っている。どこか不備があったのだろうかとパニックになっている様子がもうお笑いだ。まったく。お前は新入りかよと敵ながら突っ込みたくなったよ。ていうか別に照準がずれているわけでも、不備があるわけでもなく、ただの俺からの挑発だってわからないもんかねえ。ようするにおちょくってんの。

「くっ、この!」

 ぱしゅっと一発の弾が俺の頬を掠めていった。今のでも俺を殺すには至らない一発だ。不意打ちでも俺は避けてしまえるだろう。こいつが大した事がないのは動きや慌てようで一目瞭然。俺を殺せなくてご愁傷様なこった。

「どこ狙ってんだ下手糞。ちゃんと頭を狙えよノーコンが。それでも俺の命を付け狙う社長の刺客共かよ。拍子抜けして興ざめだわ」

 俺があざけりながら蔑むと、スナイパーがさらにいきり立って俺に向けて何発も発砲してきた。挑発に弱いスナイパーだな。こんなんじゃ裏の世界ではやってけねーぞ。裏の世界なんてよく知らねーけど。

 最近の厳しい修行と気配に敏感になった俺は、銃弾を残像を見せるかの如く真横やしゃがんだりして避ける。これくらいは序の口になった。今なら機関銃すらも避けられるかもしれないと思うレベルだ。

「なんだと!」

 俺が人間離れした避け方をしたので、スナイパーは驚愕した様子だ。

「それくらいで驚くんじゃねぇっての。クソダッセーな。動揺しちまうならアサシンなんて今日限りでやめちまえ!向いてねーんだよボケカスが」

 瞬時にそいつの眼前に迫り、首に手刀を浴びせて気絶させてやった。

 全く。朝からずっと監視ご苦労さんなこって。俺のストレスでしかないな、こいつらは。

「ほら、お前らの同胞だろ。返すぞっと」

 そいつの仲間らしき奴らも近くにいたので、そいつら向けてそいつを放り投げてやった。そいつらがカエルがつぶれたみたいな声をあげたのに満足して俺は続ける。

「バカ社長やお前らの親玉に伝えな。直は必ず取り返しに行く!んでもって必ずお前らの醜い野望を打ち砕いてやるから首を洗って待っていやがれとな!」

 今はまだメンタルが本調子じゃないかもしれない。だが、必ず。必ずこの挫折や気の迷いを乗り越えて見せる。

 そして、必ず直を助ける。大好きな人のためなら……直のためならなんだってできるのだから。
 

 寺に行く途中でもアサシンやスナイパーなどの刺客が俺の背後を付け狙う気配がした。俺が駅前の人込みに入ると奴らも逃がさないように追ってくる。まあ、地の果てまでもついてくるのが矢崎財閥白井の刺客と言ったところか。

 地球の裏側からも追手を寄越すという執念深い奴らだと噂なので、俺はとっておきを刺客の皆さんにプレゼントする事にした。追手の気配が複数いるであろう場所にそのプレゼントを放り投げる。

「GYAAAAAA!!」
「ぎええええええ!!」
「ゴキブリだああああ!!」
「飛んでるううう!こっちくんなああああ!!」

 遠くの方で阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡ってきた。通りすがりの人々もその悲鳴になんだなんだと驚きに見に行けば、そこには武装したような怪しい奴らがゴキブリ数十匹に逃げ惑う謎な光景だった。

 当然ながら通りすがりの人々もゴキブリを見て悲鳴をあげて超大騒ぎ。その場に通りかかった全員がゴキおもちゃ恐怖に逃げ惑っており、関係のない人すまん、許せ。あいつらを撒くためには致し方なかったのだ。と、心の中で謝罪。

 巻き添えになった人には申し訳ないが、とりあえず警察を呼んでおいたのでそのうち騒ぎもおさまってくれるだろう。片付け大変だと思うけどがんばってくれ。

「これで刺客共あいつら今日限りで全員総辞職だな」

 人々に存在がバレた時点でアイツら日陰の存在の生業もおしまいである。あんなんでよく暗殺者としてやってこれたもんよ。ゴキブリごときで驚きやがってさ。

 それにしてもやっぱゴキは効果覿面だな。俺が開星で親衛隊相手によく投げつけた飛び道具がここでも役に立つとはさすがである。しかもこのゴキおもちゃ、飛ぶんだぜ。究極の恐怖を凝縮した作りになっており、振り払えば払うほど飛んでくっついてくる謎の仕様。ゴキ嫌いな奴が見れば卒倒するのは間違いなしだ。

 さすがは人類の敵ちゃん。どんなに強面な刺客でもやっぱりゴキ相手だと恐怖に慄くのが人間の心理というもの。三下程度ならこれ一発で追い払えそうで、殺気を出さなくてもこれだけで片付けられそうだ。

 これからもドンキで箱買い決定案件で早速注文っと。そして店員からさらにドン引きされる未来も想像にたやすい。しかしだ。これもみんなを守るため。これからもがんばってゴキおもちゃの製造がんばれよと激励のメールを後で送っておこうかね。あとそのうち奴らもバカではないので、おもちゃだってバレそうだからついでに本物もたくさん仕込んでおかないとね。

 ただ、人間を捨てたレベルの相手だとゴキ程度でビビらないと思うのでそこは別な対策が必要だ。という事でこの騒ぎに乗じて超スピードでトンズラ。

 それからすぐに新幹線に乗り、県外の山奥の村行きのバスにも乗った。あのゴキ騒ぎによって俺の周りにほとんど刺客はいなくなったので少し気を抜く。

 ただ、一人だけ微かに怪しい気配を感じたので、バスを降りて俺は誰もいなくなった森の方へ向かって足を止めた。あのゴキおもちゃに動揺せずに俺の超スピードについてくるとは、結構できるようだなと隠れている一人の実力を評価する。

「いるのはわかっている。そろそろ姿を見せたらどうだ。それなりに実力がある刺客さんよ」


 
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