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十二章明かされた過去と真実

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「まあ何にせよ、直はもうキミには手の届かない大きすぎる存在。もう返すことはおろか、キミに二度と会わせる事もない」
「会うなと言ってもこっちは会うんだよ!俺は意外にしつこい野郎だからな。これ以上直を不幸にしないためにも、お前のせいで人生を狂わせられる人間が出ないためにも、お前をぶっつぶしてやる!」

 俺が怒りの激情を見せると、それを冷ややかに嗤うバカ社長。悪役らしい余裕な態度だ。

「ふふふ。やれるものならやってみるがいい。キミがここへ侵入すると事前にわかっていたから、新兵器を用意しておいてよかったよ」

 社長がぱちんと手をはじくと、向こうから人影が現れた。

 あれ、この気配にあの顔って……

「理事長、か?」

 デジャブだ。先の校長と戦った事を思い出す。校長よりかは体長は人間の頃と変わらないし、見た目も「およよ」という口癖と共に変化はないように思えた。が、漂う殺気と無機質な雰囲気が人間味を感じられず、こいつも桐谷が言っていた通り改造されてしまったのかと察する。

「そう、この男は開星学園の理事長だった。自分の欲望に忠実なために、その甘言に騙されて人間を捨てた存在と成り下がった殺戮マシーンだ。キミを倒すための刺客として生まれ変わったのだよ」

 校長もだが、この理事長も哀れである。自業自得ではあるが、騙されて改造された部分においては少し同情するよ。

「早急に開発プログラムをいじっておいてよかったよ。キミや架谷一族を滅するために脳内の余計な記憶をいじったからね。もちろんロボトミー手術で感情をすべて消し去った。体は完全サイボーグだから痛みも感じないし血も出ない。ただ、髪と眼球と見た目だけが人間であった頃の名残として残してやったというべきか。霊薬の血の実験台にしてやったんだ。光栄に思ってもらわないと」

 霊薬の血の実験台……?その言葉に背筋がぞっとして俺は絶句する。

「っ……ま……さか……人間を捨てた連中の力の源ってのは……!」
「そう、直の血の成分を元に兵器として作られているのだよ。人間を捨てた連中のほとんどは。だからさっきも研究室で血を採取していたのだ。これからもたくさんの兵器を生み出すためにな。だが、ここ最近は過剰に採血したせいで、その反動で体が急激に弱くなってしまったようだ。それも致し方あるまい。研究に犠牲は付き物だからな」
「直が……それで……体が……」

 俺は言葉を失い、茫然とした。

 俺が今まで戦った刺客は直の血で力を得た奴らだった。今までこいつらの殺しの兵器として血を採取され続けていたのだ。否応なしに無理やり。

 その事実を知り、俺はショックで立ち竦む。


「霊薬の血はただでさえ寿命が短いとされる文献が残っている。見た目は普通の人間で運動量や知能も人間と変わらない。だが、特殊な血が流れているためか免疫力が低く、病気の抵抗力は弱い。血を採取され続け、負の感情が高まり続ければさらに体調も崩しやすくなり、寿命も縮む。あのガキはもっと使えると思っていたが、これではあと数年で寿命が尽きてしまうだろうな……はははは」

 それを面白可笑しく残念だとでも言わんばかりに鼻で笑う社長。俺は社長の言葉があまり耳に入らず、未だにショックで床を見下ろしている。
 
「だがしかし、霊薬の血を死ぬまで絞り尽くすに越した事はない。あの才堂祥子も血のおかげで若返る事ができた。まあ、あれは直と美に執着し過ぎて血を過剰に摂取し過ぎてしまい、逆に老け込んでしまったバカな女だったが、私はそんな失敗はしない。金のなる木をバカな失敗で逃したくはないからな。これからも少しでも延命治療をさせて長生きしてもらわないと」

 社長は無機質化したような理事長の姿を見て悦に入っている。次第に我を取り戻した俺は、怒りと悲しみと憎しみと憎悪でわなわな震えがあがる。いろんな感情がわきあがっては止まらず、あの城山とその下僕をボコボコにした時のように頭が沸騰していく。

「そんなクソみたいな事のために直は……」
「クソみたいな事とは失礼だね。人類の医療と化学の進歩のためだというのに。特に直の負の感情の元で血の効果は増すんだ」
「負の、感情……だと」

 俺の爆発しそうな怒りの感情は限界だった。

「負の感情が高まれば高まるほど、血液のPEAという血中濃度数値が少なくなり、霊薬の血の効果が増すことが研究でわかった。だからこそ、小さい頃から苦痛を感じる程の桎梏の日々を送らせてきたかいがあって、己の存在に罪の意識を感じつつ、絶望と悲しみにくれた最高の血が出来上がったわけだ。まさしく私の行いは正しかったという事!ふふふ。くくく……はははは。あーはっはっぐべgjtdはああ!」

 気が付いたら俺は、矢崎正之を渾身の力で殴り倒していた。社長は壁際に吹っ飛び、分厚い壁にめり込んでいた。

 普通の人間なら殺していたかもしれない威力だが、殴った瞬間の手ごたえがあまり感じられなかった。思った通り、社長も人間じゃないのかもしれない。だが、そんなのはもう関係ない。俺は怒りが爆発していた。

「貴様だけは絶対に許さねえ!どんな目にあおうが、貴様だけは刺し違えても……殺す!!」

 校長も理事長も最低で変態ではあったが、まだこいつほどではなかった。こいつこそ人権無視の下劣野郎という言葉がぴったりではないだろうか。

 甘い甘言で人間の心を惑わし、弄び、否応なしに勝手に脳内をいじくり、サイボーグに改造する。身勝手で傲慢で私利私欲のために人間の命を弄ぶ。罪のない者を邪魔だと知ればあっさり殺す。俺の愛する直すら現在進行形でこいつの悪の道具に利用されている。もうそんな事はさせない。

「ひいい」
「つ、強い!」
「こんなガキが……!」

 たくさんの社長の下僕達を怒り任せに蹴散らしていき、もう一度矢崎正之を吹っ飛ばそうと拳を構えると、横から何かの一撃のカウンターを頬にくらった。俺は呆然としながら吹っ飛び、螺旋階段の一部を破壊して壁に埋まった。

「およよよよ」

 改造されてもいつもの口癖を呟きながら、さらに追い打ちをかけるように俺に襲い掛かってくる。俺は間一髪それを真横に避けながら理事長に足払いをし、続けざまに渾身のかかと落としを見舞うが強靭なサイボーグの腕でガードされる。そのままかかと落としをした膝を掴まれてしまい、勢いよく振り回されて壁に放り投げられた。社長と同じように壁を半壊させながらめり込む。

 力もパワーも校長の倍はある。おまけにスピードまで俺と同等だ。さすがに分が悪いなと感じながらも、俺はボロボロになりながら木材の瓦礫の中から立ち上がる。理事長がすぐそこまで来ているのにふと反応するも遅い。

「が、はっ!」

 気が付いたら、理事長の腕は皮膚と同化した鋭利な刃物に変わっており、俺の腹部をあっさり貫いていた。俺は驚愕しながら思わず血を吐き、でもなんとか力を振り絞ってその刃物から逃れて間合いを取る。

「ふふふ、おやおや。先ほどまでの威勢はどこにいったのかな。いきなり苦戦し始めたな」
「……だ、まれ……っ!」
 
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