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十二章明かされた過去と真実

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「おい、直に何をしやがった!研究室ってなんだよ!」
「血の研究だ」
「……血の研究?なんでそんな事っ!」
「その反応は何も知らないのかな。ああ、きっと老いぼれもキミにはまだ教えてなかったんだろうね」
「だから何を……」
「直の体の秘密だよ」

 それを聞いてどくんと心臓が一際大きく高鳴った。

「直の体の秘密、だと?」

 確かに知らない事がいっぱいだった。体の事も含めて俺には言えない何かを隠している事がずっと気になっていた。自分が化け物で寿命が短いという事も、生きている事に罪の意識を感じていることも手紙に書かれてあった。

 一体何を意味するのか全く皆目見当がつかなくて、直接聞こうと思っていた所だった。

 しかしふと先日、浅井が言っていた言葉を思い出す。銀髪が研究室にいて血を採取されていたと話していた事を。

『その銀髪の男が研究室みたいな所でいろんな装置に繋がれてて、寝台の上でなんか血を採取されている最中って感じでしたね。しかも施術している奴らはなんか目がイッちゃってるようなヤバい奴らでして……』

 思い当たる節に背筋が冷えていく。

「っ……教えろよ。直を取り返しに来たのが一番の理由だが、それをあんたに聞くためってのも理由に入ってる」
「ふふふ……それならば教えてやろう。キミは直がどれだけ唯一の存在か、この世のあらゆる分野での発展に貢献する存在か、わからないで死んでいくのも不幸だろうからな。冥途の土産に聞くといい」
「メイドだろうが面倒だろうが知らねーが、直は直だ!唯一の存在には間違いないが、一人の人間には変わらねーよ!」
「一人の、人間、ねぇ。くっくっく、そう思えるのも今のうちだ」
「はいはい。ごたくはいいからとっとと話しやがれ」

 こいつ、まじ性格悪い。

「霊薬の血を知っているかな?」
「万能薬の血の事だろ」

 たしか、才堂祥子が若返りのために真白の両親に無理やり研究させていた血の事だ。

 世界には約40人ほどの、A型とも、B型とも、O型とも、AB型とも、違う血液型があって、その血液が流れる血の事を黄金の血と呼んだ。真白が黄金の血の一人で、そのせいで利用価値ありと才堂祥子に幽閉されていた。その黄金の血をさらに希少性を高くした血が「霊薬の血」だったと聞いている。

 霊薬の血をひとたび輸血すれば風邪をはじめとするあらゆる病気にかからなくなり、一生健康体でいられる万能の血そのものだと真白が言っていた。それ以外の用途にも応用でき、才堂祥子のように若返りの研究をすれば本当に若返り薬を作ることができるし、その気になればたった一滴の血が悪の破壊兵器を生み出すことも勿論ある。

 おかげで世界中の権力者が目の色を変えたように欲しがり、人を欲望に狂わせる。

「それはさすがに知っていたか。なんせ直の事だからな」
「……っやっぱり、直は……」

 その言葉に確信を得る。

「そう。キミが考えている通りだ。直の体に流れる血は霊薬の血なんだよ」

 直の体にそんな血が流れているなんて未だに信じられない。だけど、今までの事や浅井の言っていた事を考えれば妙に心にすとんとはまって納得せざるを得ない。

「霊薬の血が流れる直はこの世の唯一の存在だ。どういう原理でどういうタイミングで生まれるのかは解明されておらず、突然変異で生まれてくるのだよ。直の本当の血の繋がった両親や、一緒に生まれた双子の妹の方はごく普通の人間だったのだが、直だけが特別で異質な存在だったわけだ」
「突然変異……双子……直の本当の両親や家族は生きているのか?」

 直が双子だった事は初めて知った。もう一人の妹がいるんだな。

「ああ。生きているとも。だが、本当の両親なんて邪魔な存在だから私の口からは教えられないな。あの両親はなかなか直を渡そうとはしなかった反抗心剥き出しな存在でね、無理矢理さらって直を養子にしたようなものだ。いっその事あっさり殺そうとも思ったが、あの老いぼれの誠一郎が邪魔をしたので今は泳がせてはいるよ。それでもいつか霊薬の血の邪魔をしそうなんでそのうち殺すつもりだがね」

「っ……てめえっ」

 家族を無理やり引き離した上に邪魔だから殺そうってか。稀に見る最低最悪な悪人だ。

「本当の両親からお前は直を無理やり奪って引き離しやがったのか!しかも、そのうち殺そうと企んでいるとか……どれだけ外道のクソ野郎なんだよ!ドクズ野郎がっ!」
「ふふ、外道だろうがなんだろうが社長というものは非情なものだよ。金のなる木が目の前にある。手に入れないわけにはいくまい。直が霊薬の血だからこそ価値がある。価値があるから無理やり養子にしてやっただけの事。そうじゃなければ誰があんなクソ生意気な餓鬼などいるものか。最低でも最高でも霊薬の血という肩書きがなければ生きている価値がないゴミなんだよ。ゴミ!せいぜい矢崎の血となり肉となって、霊薬の血で次期矢崎財閥後継者として業績に貢献してくれないと我々の計画が台無しだ」

 直が霊薬の血でなければ生きている価値がないゴミだと!?久々にドタマがカチンとキて頭がカッと沸騰した。

「黙って聞いてりゃあ好き勝手な事ばかりほざきやがってっ!!何が霊薬の血だ!何が金のなる木だ!!直は直だろうが!普通の人間だ!!道具扱いすんじゃねえよっ!この強欲マジキチ馬鹿社長が!!」

 直が霊薬の血が流れる体なら、ずっとずっと小さい頃から狙われていたって事。

 その身で必死に己の血を隠しながら、お前は生きてきたのか。俺にも言わないでその重いものをずっと背負ってきたのか。

 だから……自分を忌み嫌っていたんだな……。道具として利用されながら生きている事に罪を感じていたんだな。
 
「あんまりだ。可哀想だ。直がてめえなんかに人生を滅茶苦茶にされてっ!!」

 俺は涙があふれてきた。直の事を思えば不憫で気の毒で可哀想で、俺は直がどんなにつらい立場だったか何も知らないでいた。幸せだと勘違いして思いあがっていた。

 生まれた時からその身のせいで狙われて、本当の家族と引き離されて、無理やり矢崎財閥の後継者に祀り上げられて、ずっと監視の目を気にしながら桎梏の箱庭で生活を強いられていたんだ。

 そして……どんどん生きる気力を失っていった……。

「ふふふ、霊薬の血のために泣いているのか。むせび泣くほど欲しいとはキミも案外強欲なのだな」
「てめえと一緒にするな!俺が欲しいのは、悲しんでいるのは霊薬の血なんかじゃない!矢崎直の事だ!」

 それ以外の肩書きなんてどうだっていい。たとえ化け物だろうがなんだろうが関係ない。

 俺にとって直は、美人でけな気でちょっと世間知らずで可愛い奴なんだよ!同じ生きている人間なんだよ!俺の愛する直を付け狙う奴は俺が許すかよ!!
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