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九章それぞれの恋模様

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「甲斐、いつまで向こう向いてんだよ」
「お前がセクハラするからだろ」

 自分で脱ぐと言っても着脱の手伝いとか言って脱がしてくるし、手に泡をつけて素手で俺の体(特に股間)を洗おうとするしで落ち着かなかったのだ。最初からこれでは後が持たないような気がして逃げるように距離を置いた。

 別に恥ずかしいわけじゃない。お互いの体はもう見尽くした。見慣れたし、今更だ。

 だが、最後の心の準備くらいはさせてくれよと思うわけ。記念すべき脱童貞……ではなく、処女喪失の、だ。

 男同士のセックスの事は長年二次元キモオタ趣味に足を踏み入れていたために知らずと知識は得ていた。

 俺はBLやゲイは好きではないので腐男子ではないが、普通のサイトでさえNLやBL問わずエロい広告が簡単に見れる時代なので、よほどの鈍感無知や特殊な環境下でなければ今時の少年少女達はBLやらゲイの意味など誰でも知っていると思う。昔と比べてLGBTに寛容な時代になってきているのだろうな。

 そんな自分がまさかそれの仲間入りになる日が来ようとは思わなかったよ。まあ、好きになった相手がたまたま男だったってだけで俺はノンケだから、LGBTに当てはまるとは言い難いけどな。

 事前にさらに詳しい予備知識をネットで頭に入れておいたけど、俺のケツ穴にあんなの入るのかよって不安が尽きない。

 直の……結構大きいし……。俺のケツ穴が明日には死んでなきゃいいけど……。
 
 サイドの大きな窓からはお台場の夜景をこれでもかって見れる絶景が広がっているが、その夜景なんか見る余裕など俺にはない。

 卑猥な香りがする泡風呂というシチュエーション。動けない俺は、いつまでたっても背中を向けて縮こまっているだけで、直の方へ方向転換できないでいる。

 振り返ったが最期。俺は直に食われちまうんだ。

「心の準備出来たんじゃねぇのかよ」
「っいろいろ、不安でして……」

 ついにヤルと思うとドキドキなのだよ。

「そんなんじゃ明日の朝になっちまうぞ、と」
「わかってるよ。わかってるけど……お前が焦らせるせいでだな……」
「仕方ねーな。ちょっと強引だけど今更嫌ってのはナシだからな。こうでもしないと始まらん」
「え、あ……ちょっ」

 背後から直の手が俺の腹に伸びてきて、俺のうなじや耳にキスをして舌を這わせてきた。

「っぅあ……な、お」
「お前がこっち向いてくれないのが悪い」
「ひゃ、ちょそこいきなりっ……く、くすぐったい……まな板揉んでも膨らまないしっ」

 直の手が俺の乳首や胸を鷲掴んで揉んでくる。

「オレが揉んででかくしてやるよ。甲斐の胸」
「でかくなるわけねーだろ」

 俺のまな板の何がいいのかわからないけど、直は俺のならなんだってイイそうだ。女の胸よりそそられるってさすがに大げさな気がする。貧乳好きにはいいのだろうが俺は女ではない。

「いい加減こっち向けって、甲斐」

 耳元で色っぽく名前を囁かれて、俺はもう逃げ場がないなと覚悟を決めてゆっくり振り向く。

「や、優しく、お願い……します」
「野郎相手なんて初めてだもんな。それどころか童貞」
「お前は……野郎相手は初めてじゃないのかよ……」
「……さあ、どうだろうな」
 
 含みのある言い方にこれはきっと初めてじゃないんだろうなと察する。過去の事だから余計なことは突っ込みはしないけれど、ちょっとだけ胸がちりっとした。

 そんな俺の考えを察してか、お前だけだと言わんばかりに頬や耳や肩越しに唇を寄せて軽く啄んでいく。上半身全体にキスの雨を降らせながら、最後に唇も重ねて腰に手をまわされる。

「野郎相手なのに、甲斐を抱きしめていると幸せな気持ちになる」
「俺も……あんたの腕の中は安心する」

 居心地はいいものだ。女のように柔らかくはないけれど、好きな人との抱擁は世界で一番安らげる。たとえどんなにすごい美女に抱き締められても、決してこの人の代わりになんてなれないだろう。

 この人じゃないと、直じゃないとだめ。ただ、それだけなんだ。

「甲斐、もう止められねーからな」
「止める気なんて最初からないくせに」

 後頭部を引き寄せられて再度唇を重ねられた。始まりのキスは優しく振れるだけだったのがどんどん濃厚に求めてくるものに変わり、次第に従順になったように知らず知らずのうちに直の首に腕をまわしてせがんでいた。

「は……なお……」
「もっとしてほしい?」

 直の優しい問いにこくんと頷くと、直は俺をそっと横抱きにして持ち上げてバスタオルをかけてくれた。

「ベットに行く」

 軽くキスをされて、寝室まで運ばれる。水滴がお互いの髪や体に滴っているけど、それすらも気にならずに俺は直の首に腕をまわしたままぼうっとしていた。熱に浮かされた様子の俺に、濡れたお互いまで気が回らず直も切羽詰まっているのかもしれない。

 寝室の扉を器用に開けて、キングサイズのベットの上に優しく寝かされる。その上に直が覆いかぶさってきて、真剣な表情の直の瞳と目があう。そのまま何度めかのキスが降ってきた。



 
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