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五章仮面ユ・カイダー爆誕

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 思った通り、先生はそう簡単に教えてくれない。中学の頃も大人の事情に首を突っ込むなとか言われて子供扱いされたしな。

 まったく、こういうタイプはなんでも一人でため込んで、後でもっと大変な目にあうのが相場だと決まっている。漫画や小説でよくあるアルアル展開だ。
 たしかに余計なお世話かもしれんが、先生の様子がおかしいとこちらもやりづらいったらありゃしないんだよ。特に健一なんて好きな人のために首を突っ込みそうだしな。

「あなた達は早く家に帰りなさい」
「あ、うー……でもなんか胡散臭そうな男だったから心配で……」と、渋る健一。
「心配してくださるのは嬉しいですが、これは私の家の事情です。部外者がむやみに首を突っ込んでいい事ではありませんし、私もしてほしくありません。そんな事より、あなた達は早く家に帰って勉強しなさい。明日は数学の小テストをするって言いましたよね?」

 先生がにっこり悪どく笑う。小テストと聞いて俺と健一はゲゲゲと言わんばかりに顔をひきつらせる。
 そういえばそれを実施するとか数日前に先生が言っていたな。すっかり忘却の彼方だったよ。

 まーどうせ忘却どころか点数は5点以下なのは間違いないだろうし、やるだけ無駄ってやつなんだよなぁ。付け焼き刃でどうにかなるわけでもないし、わかりきった結果を思い浮かべてあせる必要もないなと考えていると、ポケットから不気味なお経が流れた。

 おっと、俺のスマホから電話だ。
 最近、妹の未来が幽霊や前世のオカルト的な話をするもんだから、ちょっと怖くなって気休めの意味で着信音を葬式用のお経に変えたんだった。忘れていたよ。そんな俺の不気味な着信が流れた途端、健一や先生から微妙な顔をされたが説明するのも面倒なので放置。

 ディスプレイを見れば相田拓実の文字だ。なんだこんな時に。とりえずスマホを耳に当てた。

「ん、相田?なんだよ急に電話なんて」
『甲斐ちゃん!今すぐそこ離れて!』

 用件を訊ねる前に相田が切羽詰まった声でそう促してきた。

「は……一体なんだってんだよ。意味がわからん」
『いいから早く外に……あ……!』

 相田がいるであろう電話口の向こうはザワザワと雑音が聞こえていきなり切れた。
 なんなんだアイツ。修羅場にでもあってんのか。それにここを離れろって一体……

「うわあああああ!!」

 突然、向こうの方から野郎の悲鳴が聞こえてビックリした。スマホから反射的に顔をあげると、さっきの先生と話していた男が青い顔をして戻ってきた。

「な、なんだよこれはあああ!!」

 男は恐ろしく怯えた様子でジャケットを勢いよく脱ぐと、上半身に赤いタイマー付きの計器が装着されているのを見せつけた。

 たくさんのカラフルな導線に繋がれた大きめのタイマーは、丁度二分を切るとゼロに向かって動き出しており、一番太い導線がタイマーの下の細長い物体に繋がれているのを見ると、もしかしてあの物体は……

「あれ爆弾……?ドラマとかでああいうの見た事ある!」
「え、うそ、本物?」
「どーせ番組のドッキリだろ。マジな爆弾がここにあるわけねーじゃん」
「でもあの野郎の怯え具合がマジそうじゃね?しかも結構本物っぽく作られているし」
「じゃじゃあ……本物の、爆弾……?」

 本物という単語を周囲の客達が理解した途端、一斉に店内の客達が悲鳴をあげて戦慄し始めた。
 店員が落ち着いてくださいと声をかけるが客達は恐怖でそれどころではなく、そのままタイマー男に距離を取りながらドヤドヤと店の外へ向かって行く。

「な、なあ、これどーすりゃいいんだよ!なあ!?トイレに行ってジャケット脱いだらこんなの付いてたんだよ!助けてくれええ!」

 逃げ惑う客達に助けを求めるが、そんな爆弾を抱えている男を構う者などおらず、男を次々「近寄るんじゃねえ」と言わんばかりに足蹴にしていく。下手にタイマー等に触って爆発なんかしてしまえばと、不安にかられて安易に触れる事さえままならない。
 数秒足らずで店内はがらんとし、店員含め客達は俺達以外誰もいなくなった。

「た、助けてくれよ!万里!」

 男は必死の形相で目に入った先生に駆け寄ると、両肩を掴んで揺さぶっている。先生は青い顔をしてどうすることもできずにされるがままだ。俺はとりあえず健一に先生を連れて外に出るよう促す。が、男は先生の手をなかなか放そうとはしない。

「なあ、たすけてくれよおお!!おれ、死にたくねーよおお!まさか爆弾がついてるなんてええ!」
「わ、私もどうしたらいいか……」
「おれってなんでいつもこうなんだよおお!ただ、見てはいけないもん見ただけで組織に追われるわ、殺されかけるわで散々で「黙れ」
「へ……」
「いいから黙れ。死にたくなければ動くな」

 俺が威圧感を込めて言うと男は押し黙った。俺は男の爆弾の構造を細かいところまで確認していたのだ。

「か、甲斐……わかるのか?」

 健一が俺の方を救いを求めるように見る。

「ぶっちゃけわからない。ただ、この回路は複雑すぎるが、爆弾が遠隔操作されているものかそうでないかはなんとなくわかる。ミリオタの友人や二次元で得た知識だけどな。だから……なんとか外せないものかって見ている」
「は、外せるのか!?」と、勢いづく男。
「やってみるしかねーだろがっ!こんな町中でドカンされて何人死傷者が出ると思ってやがる。できることなら外して人々に当たらない所で爆破させてぇんだよ!時間ねぇしな!」

 タイマーは残り一分を切ってしまう。やばいな。焦ってしまう。
 力付くで外して爆発なんてしないだろうか。と、よく見れば、この時限爆弾は簡素なベルトで繋がっているわけだから、衝撃や無理に外そうとして爆発というわけではなさそうだ。爆弾の構造は最新型なのに、こういう所は妙に中途半端だなと僅かなずさんさがありがたい。
 一か八か。俺は男の爆弾がついたベルトを両手で力付くで引っ張った。

「い、いたい!いたいいいい!」
「痛くても文句言うんじゃねえ!!ぐ、うおおお……っ!」

 このベルトは超合金ワイヤーか硬質合成繊維でも織り込んであるのか、俺の剛力でもなかなか引きちぎれない。ハサミやナイフ、炎で焼いてもおそらくは切れない材質だろう。
 だからあえて外せやしないこのベルト式にしたのか納得。だが、俺のじいちゃん譲りのバカ力を舐めんな。

「うおおおおおおりゃああああっっ!!」

 ぶちぶちぶちっと特殊繊維のベルトが俺の剛力によって裂け、俺はその爆弾を外して携えて一目散に走る。店の出口に向かって。
 タイマーは残り10秒、9、8、7……

「てめぇららどけぇええっ!!邪魔だ!!」

 俺は鬼の形相で店の外に避難している客達を追っ払い、50メートル以上離れろと促す。
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