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四章急接近
4ー10
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「なあ、矢崎はなんか好きなモンあるのか?」
「直くん?んー……直くんはなんだろうね。なんか作業したりしてるのとかあんまり見た事ないや」
「そうなのか?いつも一緒にいるのに」
「いつも一緒って言っても境遇が似てるからただ連んでるだけだよ。直くんといえばいつも暗い顔して外眺めてるだけだったし。ハル君以上に根暗で陰キャなんだよね」
「……そうか」
あいつは趣味とかないのかな。なければそれも生きがいがないみたいで淋しい。
何かのめり込める趣味があれば死をあまり意識しなくなるだろうし、あいつの弱ったメンタルにも効果がありそうなんだけどなぁ。
「甲斐くんて……直くんの事をよく気にかけているけど、直くんの事どう思ってるの?」
穂高がシルバーを抱き上げて問いかけてきた。シルバーの銀の毛並みが矢崎に似ているように見えた。
「どうって……そりゃ更正させるって約束しちまってるから、少なくとも友人に近い存在とは思ってるよ」
「ふーん……」
なんだか納得していない様子なんだが……なんで?
「なんか言いたそうだな」
「んー……前よりよく気にかけるなぁとか、仲良くなったんだなあって今日の様子見て思っちゃった。今朝も一緒に登校してたみたいだし、直くんも甲斐くんといて楽しそうだったし」
「あれは矢崎が朝に俺の家の前を張り込んでやがったから仕方なく一緒に来たんだよ。だから成り行き」
「仕方なく成り行きって事はないでしょ。少なくとも直くんに対しては好意を持ってるから一緒に来たんだよね。じゃなかったら一緒に登校しないでしょ」
穂高はよく見ているなあという感想だ。あと一緒に登校した事がもうばれてんのか。
「ま……まあ、そうなんだろう……けど。最初よりかは嫌ではなくなったし」
「もー直くんずるいなあ。あれだけ甲斐くんの事貶してたくせに」
「ん、ずるい?」
「だって甲斐くんに気にかけられているのがずるいよ」
それの何がずるいんだよ。俺みたいな貧乏キモオタに気にかけられて嬉しいなんてゲテモノ好きだぞ。自虐的だけど。
「別にずるくないだろ。気にかけているというか従者だから一緒にいる時間が必然的に増えるし、更正させたいし……」
「それもずるいよねー。ぼくだって甲斐くんと一緒に………」
不満そうな穂高の言葉尻がよく聞こえなかった。
「え……なんだって?」
「なんでもないよーだ。ま、甲斐くんと直くんがお互い相思相愛みたいでゴチソウサマってこと。じゃーね」
なんだか不貞腐れたような穂高は猫と遊び終えて手を振って去っていく。なんだあいつ。
「相思相愛って誤解されるよーな言い方すんなよな」
頬に熱がこもるのを感じながら穂高の後ろ姿を見送った。
俺は矢崎の事を変な感情で見ているつもりはなかったんだけど、でも……どうもそれは違うような気がしてきた。
顔、なんか熱いな。それに胸も痛い。
風邪でもないし、先ほどの嫌な激しい動悸とは違って、今は苦しいというよりどこか切なくて、ちょっとだけ胸が締め付けられていた。
「ふうー……これでよしっと」
世話を終えてから俺のメンタルも猫のおかげですっかり元通りとなり、これならいつ誰に襲われても対処できるだろうと安堵していた。
しかし、それはあくまでメンタルが回復しただけにすぎなくて、根本的なトラウマの克服にはなっていなかったのだ。
「架谷くーん!」
これからバイト先へ向かうという所で背後から大声で呼ばれた。
「どうしたんだ宮本くん」
息を切らせて切羽詰まった様子の宮本くんは全速力で来た様子だ。それに半泣きである。
「はあ……っ……か、神山さんが……城山って男から……追われてるみたいでっ。ぜーぜーっ。それにみんなも……城山が連れてる黒服に……た、対応しきれなくて……ぜーぜー」
話すのもやっとなほど宮本くんは息があがって目も涙目だ。なんとか自分が伝令係として必死で逃げてきたのだろう。
「大変だったな、宮本くん。ここまでよく来てくれた」
なんとなく今後もけしかけてくるだろう予想はしていたが、休むヒマもなく本日中の襲撃か。あれだけ殺気を放ってやったのにせめて来るなら明日とかにしろよと言いたいよ。こっちはいろいろと心の準備まだだしよー。あーくそったれめ。
「甲斐くん?」
俺らしくない苦渋な表情に訝しげにしている宮本くん。おっとすまん。不安そうな顔を見せないようにしないと。
「なんでもない。行ってくる。キミは安全な場所で待ってろ。神山さんは必ず守る」
たしかに今の俺なら正常だけど、一抹の不安は残る。
もしまたトラウマが再発したら……いや、とりあえず神山さんを保護して逃げればなんとかなるか。城山の姿を見ないようにしていればトラウマは発症しないはず。
俺は宮本くんに彼女がいるであろう場所を教えてもらって捜索に向かった。
どうか、俺のトラウマが出ませんように……。
「か、架谷くん!?」
繁華街で逃げ回っている神山さんを気配探知で探し、裏路地で身を潜めている彼女の腕をつかんだ。
彼女は青い顔をして戦慄していたが、俺の姿を確認すると次第にほっとした表情を浮かべる。その目は涙目だった。よほど怖い思いをしたんだろうな。
「大丈夫か。どこも怪我をしていないみたいでよかった」
「どうしてここが……」
「そんな事より、また城山がキミを狙いに来たようだな?」
神山さんは静かに頷く。情緒不安定な様子で震えていた。
「帰る途中にたくさんの人間をつれてやってきたんだよ。黒服の、人間味のない連中。私を無理矢理連れ去ろうとするために。学校ですぐ襲わなかったのは、四天王がいたから学園の外に出た隙を狙ったんだと思う。最初はなんとか由希ちゃんやEクラスのみんながオトリになってくれて私を逃がしてくれたけど、城山の引き連れている連中があまりに多くて、鈍足でひ弱な私なんかすぐ見つけられちゃって。抵抗したんだけど恐ろしくあいつらは強くて……みんなが次々暴力で屈伏させられていって……私、どうすることもできなくて……ここで隠れている事しかできなかった……っ」
神山さんは嗚咽をこらえながら、心配で心配でたまらないと言わんばかりに涙を流している。みんなが目の前でやられていく様子を見て、気が気じゃなかったようだ。
「みんななら大丈夫。あいつら結構悪運強いし、そんなヤワじゃない。今までEクラスいじめにも耐えてきたんだ。そう簡単にくたばらない事はよく知っているだろう?」
「……そう、だね……。きっと大丈夫だよね」
念のために母ちゃんとかにも応援を頼んでおいた。
どうせ今日は仕事休みでまずい料理を作ってヒマしてるだろうからな。Eクラスのみんなを見つけ次第助けてやってくれとも伝えておいたし大丈夫だろう。母ちゃんは言うまでもなく元世界最強の空手家だし、ばあちゃんも数日はこちらに滞在中で元最強の柔道家な上にどんな人間も更正させちまう包容力があるので、心配するだけ無駄だろう。新たな信者を作りそうでますます新興宗教サマサマである。
むしろ心配なのは俺だ。俺の精神状態である。
もちろんEクラスのみんなもそう簡単にはやられないと思ってはいても心配だが、今ごろ母ちゃんとばあちゃんが助っ人に行っているはずなので信じるとしよう。
俺の精神は猫の癒し効果で正常に戻ったはずが、Eクラスが城山一派に襲われた事実を聞いてからまた嫌な胸の動悸がし始めていた。まじかよ……くそっ。
「とりあえず、人通りの多い所を通って人混みに紛れながら母ちゃん達と合流しよう」
俺がトラウマを発症しなければ、城山やあの程度の奴らなどあっさり片付けられるというのに、今の俺は爆弾を抱えた状態だ。
「こっちだ」
神山さんの手を引いて表通りに出る。
通りすがりの他校の学生がたくさん歩いていたのでそれに紛れる事が出来た。似たような制服だからこれならバレにくいだろう。繁華街だからこんなに人混みが多いなら奴等も神山さんを探すのを手こずっているはずだしな。
ただ、デメリットも存在する。
人混みが多いと俺の気配読みが使えないということだ。不特定多数の人間が密集しているので、誰が誰のものかなんてさすがの俺でさえも見分けがつかない。
母ちゃんとは向こうの公園で落ち合う約束で、このまま学生に紛れて順調にいけば奴等に見つかる事なく目的地に辿り着けるだろう。が、向こうの方でたくさんの警察が検問らしきものをしているのか大量に張り込んでいた。
なんでこんな時に検問なんて……。
「ダメ」
急に神山さんが足を止めて俺に制止を促す。
「このまま行ったら……ばれちゃう。あそこにいる警察……さっきEクラスを襲った黒服の連中が化けてる。顔、あんな感じだった」
「な、まじか……てことは、あの警察モドキは城山一派の化けている姿って事か」
たしかに、さっきまでここら辺を検問する様子など全くなかったし、おまけにあの警察官をよく凝視すると、顔がシャブでもしてんのか老け具合が半端ないし出来物だらけだ。どいつもこいつもそんな顔ばかりで、雰囲気も正常とは言いがたい寒気がするようなもの。市民の味方である警察があんなんじゃ子供が見たら泣きそうである。ていうかあんな薄気味悪い雰囲気なのが警察だなんて普通は信じねーよな。
「怪しすぎるな。迂回しよう」
あの程度なら片付けることは全然容易いが、今は俺の精神状態がまた不安定になってきたので、何かのきっかけでトラウマ発症の理性崩壊ときては最悪な事態に陥ってしまう。
震えるほど悔しいが、母ちゃんと合流するまでは逃げ続けるしかない。
遠回りをする羽目になるが、裏路地を経由して公園に向かうことにし、検問を避けて左折。
裏路地なんて危ない奴が多いからあまり通りたくはないんだけど仕方がない。路地裏の奴らより城山一派に見つかる方がよほど危険だからな。
ここは運に任せるしかないだろう。と、思っていたのに……
「ねーねー超絶可愛いJKちゃん遊ばない?」
「邪魔なキモオタ野郎一匹いやがるがそいつ無視して俺たちと~」
少し歩いただけなのにもうチンピラに絡まれちまった……はあ。
ていうかよく俺がキモオタってわかったな。そんな正体を見破ったお前らはさてはただ者ではないな?無意識に放っているキモオタオーラを千里眼で読んだのか。まあ、わかるモンにはわかるのだろう。キモオタはキモいからな……あ、そういえば鞄に美少女ストラップやら美少女のエロキーホルダーつけまくってたな。これじゃあ俺がキモオタってわかっちゃうよねーとほほ。
「直くん?んー……直くんはなんだろうね。なんか作業したりしてるのとかあんまり見た事ないや」
「そうなのか?いつも一緒にいるのに」
「いつも一緒って言っても境遇が似てるからただ連んでるだけだよ。直くんといえばいつも暗い顔して外眺めてるだけだったし。ハル君以上に根暗で陰キャなんだよね」
「……そうか」
あいつは趣味とかないのかな。なければそれも生きがいがないみたいで淋しい。
何かのめり込める趣味があれば死をあまり意識しなくなるだろうし、あいつの弱ったメンタルにも効果がありそうなんだけどなぁ。
「甲斐くんて……直くんの事をよく気にかけているけど、直くんの事どう思ってるの?」
穂高がシルバーを抱き上げて問いかけてきた。シルバーの銀の毛並みが矢崎に似ているように見えた。
「どうって……そりゃ更正させるって約束しちまってるから、少なくとも友人に近い存在とは思ってるよ」
「ふーん……」
なんだか納得していない様子なんだが……なんで?
「なんか言いたそうだな」
「んー……前よりよく気にかけるなぁとか、仲良くなったんだなあって今日の様子見て思っちゃった。今朝も一緒に登校してたみたいだし、直くんも甲斐くんといて楽しそうだったし」
「あれは矢崎が朝に俺の家の前を張り込んでやがったから仕方なく一緒に来たんだよ。だから成り行き」
「仕方なく成り行きって事はないでしょ。少なくとも直くんに対しては好意を持ってるから一緒に来たんだよね。じゃなかったら一緒に登校しないでしょ」
穂高はよく見ているなあという感想だ。あと一緒に登校した事がもうばれてんのか。
「ま……まあ、そうなんだろう……けど。最初よりかは嫌ではなくなったし」
「もー直くんずるいなあ。あれだけ甲斐くんの事貶してたくせに」
「ん、ずるい?」
「だって甲斐くんに気にかけられているのがずるいよ」
それの何がずるいんだよ。俺みたいな貧乏キモオタに気にかけられて嬉しいなんてゲテモノ好きだぞ。自虐的だけど。
「別にずるくないだろ。気にかけているというか従者だから一緒にいる時間が必然的に増えるし、更正させたいし……」
「それもずるいよねー。ぼくだって甲斐くんと一緒に………」
不満そうな穂高の言葉尻がよく聞こえなかった。
「え……なんだって?」
「なんでもないよーだ。ま、甲斐くんと直くんがお互い相思相愛みたいでゴチソウサマってこと。じゃーね」
なんだか不貞腐れたような穂高は猫と遊び終えて手を振って去っていく。なんだあいつ。
「相思相愛って誤解されるよーな言い方すんなよな」
頬に熱がこもるのを感じながら穂高の後ろ姿を見送った。
俺は矢崎の事を変な感情で見ているつもりはなかったんだけど、でも……どうもそれは違うような気がしてきた。
顔、なんか熱いな。それに胸も痛い。
風邪でもないし、先ほどの嫌な激しい動悸とは違って、今は苦しいというよりどこか切なくて、ちょっとだけ胸が締め付けられていた。
「ふうー……これでよしっと」
世話を終えてから俺のメンタルも猫のおかげですっかり元通りとなり、これならいつ誰に襲われても対処できるだろうと安堵していた。
しかし、それはあくまでメンタルが回復しただけにすぎなくて、根本的なトラウマの克服にはなっていなかったのだ。
「架谷くーん!」
これからバイト先へ向かうという所で背後から大声で呼ばれた。
「どうしたんだ宮本くん」
息を切らせて切羽詰まった様子の宮本くんは全速力で来た様子だ。それに半泣きである。
「はあ……っ……か、神山さんが……城山って男から……追われてるみたいでっ。ぜーぜーっ。それにみんなも……城山が連れてる黒服に……た、対応しきれなくて……ぜーぜー」
話すのもやっとなほど宮本くんは息があがって目も涙目だ。なんとか自分が伝令係として必死で逃げてきたのだろう。
「大変だったな、宮本くん。ここまでよく来てくれた」
なんとなく今後もけしかけてくるだろう予想はしていたが、休むヒマもなく本日中の襲撃か。あれだけ殺気を放ってやったのにせめて来るなら明日とかにしろよと言いたいよ。こっちはいろいろと心の準備まだだしよー。あーくそったれめ。
「甲斐くん?」
俺らしくない苦渋な表情に訝しげにしている宮本くん。おっとすまん。不安そうな顔を見せないようにしないと。
「なんでもない。行ってくる。キミは安全な場所で待ってろ。神山さんは必ず守る」
たしかに今の俺なら正常だけど、一抹の不安は残る。
もしまたトラウマが再発したら……いや、とりあえず神山さんを保護して逃げればなんとかなるか。城山の姿を見ないようにしていればトラウマは発症しないはず。
俺は宮本くんに彼女がいるであろう場所を教えてもらって捜索に向かった。
どうか、俺のトラウマが出ませんように……。
「か、架谷くん!?」
繁華街で逃げ回っている神山さんを気配探知で探し、裏路地で身を潜めている彼女の腕をつかんだ。
彼女は青い顔をして戦慄していたが、俺の姿を確認すると次第にほっとした表情を浮かべる。その目は涙目だった。よほど怖い思いをしたんだろうな。
「大丈夫か。どこも怪我をしていないみたいでよかった」
「どうしてここが……」
「そんな事より、また城山がキミを狙いに来たようだな?」
神山さんは静かに頷く。情緒不安定な様子で震えていた。
「帰る途中にたくさんの人間をつれてやってきたんだよ。黒服の、人間味のない連中。私を無理矢理連れ去ろうとするために。学校ですぐ襲わなかったのは、四天王がいたから学園の外に出た隙を狙ったんだと思う。最初はなんとか由希ちゃんやEクラスのみんながオトリになってくれて私を逃がしてくれたけど、城山の引き連れている連中があまりに多くて、鈍足でひ弱な私なんかすぐ見つけられちゃって。抵抗したんだけど恐ろしくあいつらは強くて……みんなが次々暴力で屈伏させられていって……私、どうすることもできなくて……ここで隠れている事しかできなかった……っ」
神山さんは嗚咽をこらえながら、心配で心配でたまらないと言わんばかりに涙を流している。みんなが目の前でやられていく様子を見て、気が気じゃなかったようだ。
「みんななら大丈夫。あいつら結構悪運強いし、そんなヤワじゃない。今までEクラスいじめにも耐えてきたんだ。そう簡単にくたばらない事はよく知っているだろう?」
「……そう、だね……。きっと大丈夫だよね」
念のために母ちゃんとかにも応援を頼んでおいた。
どうせ今日は仕事休みでまずい料理を作ってヒマしてるだろうからな。Eクラスのみんなを見つけ次第助けてやってくれとも伝えておいたし大丈夫だろう。母ちゃんは言うまでもなく元世界最強の空手家だし、ばあちゃんも数日はこちらに滞在中で元最強の柔道家な上にどんな人間も更正させちまう包容力があるので、心配するだけ無駄だろう。新たな信者を作りそうでますます新興宗教サマサマである。
むしろ心配なのは俺だ。俺の精神状態である。
もちろんEクラスのみんなもそう簡単にはやられないと思ってはいても心配だが、今ごろ母ちゃんとばあちゃんが助っ人に行っているはずなので信じるとしよう。
俺の精神は猫の癒し効果で正常に戻ったはずが、Eクラスが城山一派に襲われた事実を聞いてからまた嫌な胸の動悸がし始めていた。まじかよ……くそっ。
「とりあえず、人通りの多い所を通って人混みに紛れながら母ちゃん達と合流しよう」
俺がトラウマを発症しなければ、城山やあの程度の奴らなどあっさり片付けられるというのに、今の俺は爆弾を抱えた状態だ。
「こっちだ」
神山さんの手を引いて表通りに出る。
通りすがりの他校の学生がたくさん歩いていたのでそれに紛れる事が出来た。似たような制服だからこれならバレにくいだろう。繁華街だからこんなに人混みが多いなら奴等も神山さんを探すのを手こずっているはずだしな。
ただ、デメリットも存在する。
人混みが多いと俺の気配読みが使えないということだ。不特定多数の人間が密集しているので、誰が誰のものかなんてさすがの俺でさえも見分けがつかない。
母ちゃんとは向こうの公園で落ち合う約束で、このまま学生に紛れて順調にいけば奴等に見つかる事なく目的地に辿り着けるだろう。が、向こうの方でたくさんの警察が検問らしきものをしているのか大量に張り込んでいた。
なんでこんな時に検問なんて……。
「ダメ」
急に神山さんが足を止めて俺に制止を促す。
「このまま行ったら……ばれちゃう。あそこにいる警察……さっきEクラスを襲った黒服の連中が化けてる。顔、あんな感じだった」
「な、まじか……てことは、あの警察モドキは城山一派の化けている姿って事か」
たしかに、さっきまでここら辺を検問する様子など全くなかったし、おまけにあの警察官をよく凝視すると、顔がシャブでもしてんのか老け具合が半端ないし出来物だらけだ。どいつもこいつもそんな顔ばかりで、雰囲気も正常とは言いがたい寒気がするようなもの。市民の味方である警察があんなんじゃ子供が見たら泣きそうである。ていうかあんな薄気味悪い雰囲気なのが警察だなんて普通は信じねーよな。
「怪しすぎるな。迂回しよう」
あの程度なら片付けることは全然容易いが、今は俺の精神状態がまた不安定になってきたので、何かのきっかけでトラウマ発症の理性崩壊ときては最悪な事態に陥ってしまう。
震えるほど悔しいが、母ちゃんと合流するまでは逃げ続けるしかない。
遠回りをする羽目になるが、裏路地を経由して公園に向かうことにし、検問を避けて左折。
裏路地なんて危ない奴が多いからあまり通りたくはないんだけど仕方がない。路地裏の奴らより城山一派に見つかる方がよほど危険だからな。
ここは運に任せるしかないだろう。と、思っていたのに……
「ねーねー超絶可愛いJKちゃん遊ばない?」
「邪魔なキモオタ野郎一匹いやがるがそいつ無視して俺たちと~」
少し歩いただけなのにもうチンピラに絡まれちまった……はあ。
ていうかよく俺がキモオタってわかったな。そんな正体を見破ったお前らはさてはただ者ではないな?無意識に放っているキモオタオーラを千里眼で読んだのか。まあ、わかるモンにはわかるのだろう。キモオタはキモいからな……あ、そういえば鞄に美少女ストラップやら美少女のエロキーホルダーつけまくってたな。これじゃあ俺がキモオタってわかっちゃうよねーとほほ。
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