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三章Eクラスのヒーロー

3ー2

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 矢崎が帰った後、俺はふうっとため息を吐いて片付けを行う。
 全く、大変なトラブルメーカーな奴ですこと。
 朝一緒に寝ていたせいで未来に「お兄ちゃんがホモになっちゃった」と大騒ぎされて弁解するのに疲れた。俺はホモじゃねーのに。しかも両親も一緒になって「息子もお年頃だからな」とか「二次元しか興味のなかった我が子にも春が来そうだな」とかほざいてやがった。

 女どころか男が御相手な時点でまずありえないので、俺の春が当分来ることはない、残念だったなと返してはおいたが、あんな美男子ならお母ちゃん喜んで甲斐の恋を応援するわ~と母ちゃんのイケメン好きが猛発症していらん世話まで受けそうになった。もちろん妹は発狂して「お兄ちゃんは春どころか冬なんだから。誰にも渡さないの!お母さんのわからず屋ー!」と、ケンカになった。これぞ不毛な争いである。春だの冬だのとで勝手に俺の季節で争ってんじゃねーよ。

 む、そろそろ猫のカイの餌やり行ってバイト行かないと。
 それと矢崎が拾ってきた子猫も猫の家で飼うことになったから二匹目ゲッツ。穂高がそれとなく準備をしてくれたのでこれで二匹いればお互い寂しくはないだろ。




 本日は祝日なので開星学園は部活以外はお休み。カイの家の扉と柵を開けると勢いよくカイが飛びついてきた。
 飛び付いて俺の顔や手をペロペロすりすりしてだしてくすぐったいったらありゃしない。ははは、やめろってこいつめー。このもふもふ感がたまらんではないか。

 ちなみにカイはメスだって聞いている。さては俺に発情しておる様子か。全くいけない子だ。俺がお仕置きしてやろう……なんて二次元の展開を妄想する。

 カイとじゃれついていると、物陰に隠れるように銀髪の毛並みがこちらを窺うように見ている。矢崎と一緒にいた子猫だ。カイよりかは生後間もないのでまだ小さい。
 俺がおいでという仕草をするがぶるぶる震えてなかなか来ない。矢崎には結構なついていたんだけどやっぱまだだめかなー。そう考えていると、カイがとことこ銀髪猫に近寄って銀髪猫の毛繕いを始めていた。銀髪猫は気持ち良さそうにしている様子で、銀髪猫もカイの耳などをぺろぺろ舐めている。猫同士だと可愛いのに人間同士のちちくりあいになると腹立つのはなぜだろうな。

 相思相愛みたいだ。二匹同士仲よしになれそうでよかった。それをしばらく眺めていると、二匹一緒に寄ってきて俺に同時にすりすりしだした。うおお。
 カイはもちろんの事、銀髪猫も俺を警戒しなくなったようである。おーいえーす!二匹同時に好かれるってやっぱ嬉しいもんだ。

 猫の部屋をさっと掃除して二匹分の皿に餌を盛り付ける。キャットフードと水は穂高が用意してくれたもの。俺の財布には痛い高級な猫まんま食えてラッキーだぞおまえらと言っておいた。この猫まんまの金額を見たら貧乏人には痛い出費で、人間の料理に例えたら鰻重とかすき焼きレベルの価値はあるキャットフードだ。くそ、俺も鰻重やらすきやき食いてーよ。この頃はモヤシ料理ばかりでさすがに飽きてきた頃だ。給料もらったらぜってー鰻重くったる。

 二匹は勢いよくバクバク食べまくる。ひたすら食いまくる。そりゃあ高級キャットフードだからな。鰻重が目の前にあるのだ。食べている様子も可愛いので動画で撮って未来と穂高に送りつけておこう。ついでにカイがうんこしているシーンも動画付きでな。ぶりぶりという爆音付きだ。きっと喜んでくれることだろう。


 猫二匹の世話を終えた俺は猫の家を後にしてバイト先へ向かった。
 バイト先はパンチラ博士のいるオンボロバラックの小屋だが、その場所へ行く最中に見慣れた顔を繁華街で見かけた。

 あれは宮本くん、か?
 彼が慌てた様子で走っている。こんな派手な場所で彼がいるなんて珍しいな。ここら辺の飲食店でバイトでもしてんのかなと、急いでいるようなので声を掛けないで眺めていると、彼はすぐに裏通りの路地へ消えていった。
 む、あの裏路地か。いい印象がなさそうな場所だ。下品な看板とか立ってるし。以前、篠宮恵梨がいた危ないクラブと重なって嫌な予感がした。
 




「今日もよろしく、貴志くん。臨時ボーナスだすから」
「は、はい……店長」

 ピンク色の照明が店内を照らすこんな場所で、今日もぼくは年齢を偽って働く。いわゆる男がいやらしい格好をして働く男性版ソープのような所だ。
 なぜここで働くことになったのかは、校長が大事にしていた置物をぼくが壊してしまったからだ。壊してしまったから、その骨董代金の請求と共に校長に借金をすることになった。借金を返すためにはここで働けとなぜか店を指定してきたのだ。

 ぼくの家はそんなに裕福ではない。裕福ではないからこそ、嫌なことがあっても卒業までの辛抱だって思って我慢してきた。このお店で嫌々働くのだって、手っ取り早く借金をはやく返したかったからだ。家族に心配かけたくなかったからもあるし、借金があるなんてばれたくなかったから。でも自業自得だよね。だからこそ、自分だけで解決しようとこの場所で働くことに不服を申し立てなかった。

 とにかく借金を返すためにがんばらなきゃいけない。こんないかがわしい店で男達の餌食になろうとも、今だけ我慢すればって自分に言い聞かせて納得させている。たとえ、それが嫌いな相手を奉仕することになっても。

「宮本、久しぶりだなー。お前がここで働いてるなんて驚いたぜー。俺が管轄するエリアの店になんてなー」

 ぼくは露出度が高い下着のような衣装を着て彼を出迎えた。
 彼は無才学園の天草時雨あまくさしぐれという元同じ中学だった人。
 開星、百合ノ宮、無才の三つは金持ちご三家学園と呼ばれていて、無才学園もそのうちの一つ。そんな彼は現無才学園の生徒会長で、家が日本で一、二を争う矢崎財閥と柚木グループに匹敵する天草グループのご子息。容姿もいいことから生徒会長に選ばれたそうだ。ほぼ人気投票で決まったようなものだけれど、それが自慢なのかそれを鼻にかけて偉そうで傲慢。四天王の矢崎直とはまた違った俺様系な性格だけど、勝ち気な所がよく他の生徒会に注意されていて、そして少し頭がバカだと思う。これは言ってはいけない禁句だけど。

 ぼくも中学までは無才学園に通っていたんだけど、無才のあの閉鎖的な感じや、外見で生徒会役員が決まるというおかしな風習。そして女性がいないことで同性に走るという雰囲気がどうも馴染めなくて、中学卒業と同時に開星に移った。
 だって男なのに「抱いて」や「抱かせて」なんて言葉が飛び交う変な学校なんだもの。ぼくはノーマルだからこそ余計に生理的に受け付けなかったんだ。こんな店で働いているくせして何言ってんのって思われるかもしれないけど、基本的にぼくは同性には興味ないから。ちゃんと女性の方が好きだからね。

 それともう一つ、彼からのイジメが原因なのもある。イジメは典型的なものはほとんどやられたし、性的なものもやられた。屈辱だった。毎日泣いた。それと、天草会長が可愛がる男子生徒がいて、ボクはその男子生徒の引き立て役としてもいじめられた。

「まさか開星なんかに移るなんてなー。てめえは俺様に恥をかかせたようなもんだって自覚はあるか?よりにもよって開星とか、俺が大嫌いな矢崎財閥がいることを知っての嫌がらせか。あ?」
「そんな事は……ない、です」

 天草会長は矢崎財閥を嫌う。それはライバルグループだからというのも大いにあるんだろうけど、何かと世間では比較対象にされてはいつも矢崎財閥に業績などでも負け続けているというイメージがついてしまって、そのおかげか異常なほど矢崎財閥と矢崎直に執着しつつ嫌っている。無才学園でも会長より四天王のファンがかなりいるし、四天王は全国的にもアイドル並みの人気なのでそれも原因ではあるんだろうけど、それで八つ当たりにされるぼくや平凡生徒達はたまったものではない。

「じゃあなんで移ったんだよ。矢崎グループに乗っかろうってか?俺の会社の方が最近勢いついてるっつうか矢崎グループなんてオワコン」
「お、親の事情で……」

 本当はお前らが嫌だからなんて言いたくても言えない臆病な僕。

「親の事情だ?お前の家は出張も何もないただの公務員の家だろ。そう言って逃げんだろ。俺様を出し抜きやがってよ」

 そう苛立ちながら天草会長はボクに迫ってくる。そのまま強引に腕を引っ掴んで、一番奥の部屋へボクを引っ張っていく。

「奥の部屋は空いてるか?」
「はい。ただいま空室でございます。なんなりとお使いください」

 店長が頭を下げている。天草グループがこの店のバックの権力を傘下にしているため当然天草会長に逆らえない。一番奥の部屋はこの店で一番豪華な部屋で一番広い部屋。言わずもがな、行為をするためのその手の寝室。今日我慢すれば臨時ボーナスをくれると店長が言っていたから、歯を食い縛る覚悟はできているつもり。本当は嫌でたまらない。たまらないけど……我慢するしかない。家のために、借金の返済のために。

 奥の部屋を天草会長が蹴り開けると、その勢いでボクを広いベットに押し倒した。いやらしい音楽とミラーボールで照らされた七色の照明が雰囲気を煽る。ぼくにとっては最悪で屈辱な雰囲気でしかない。

「お前がいないとこうして憂さ晴らしもできねーんだよな。俺の天使の天弥もなかなか俺になびいてくれねーし。でもまたお前にあえてよかったぜ。性欲処理としてまた使ってやるよ」
「っ……」

 天弥テンヤとは久しぶりに聞いた憎き生徒の名前だ。天草会長を惚れさせ、副会長も落とし、会計や書記まで落とす天然タラシ。と、言われているけど、本当はわざとなんじゃないかって思うくらい確信犯な所も垣間見えたりする天使。ボクはその名前を聞いたからか無意識のうちに天草会長を睨んでいたようで、会長の視線が鋭くなった。

「なんだその眼は。俺様に逆らうってのか。俺様の権力にかかれば誰だろうとねじ伏せることは可能なんだよ。そう、あの矢崎でさえもいずれ這いつくばらせてやるつもり。そんな俺様にその気にくわない面見せるってことは、痛いのも覚悟できてんだろうな。ならお望み通り今日は痛々しく抱いてやるよ」
「い、いや……」

 ぼくはやってしまったと後悔した。黙って無表情で耐えていればすぐ終わると思っていたのに。つい、態度を露にしてしまった。

「いやじゃねーだろ!これは仕事。仕事ならヤるのも仕方のないことなんだよ!」

 天草会長がボクの首筋に舌を這わせ始めた。
 やっぱり嫌だ。気持ち悪い。吐き気がする。見知らぬ男ならいざ知らず、こんな男に支配されるというのが。こんな男に自らの体を弄ばれるのが。

「やめて……っ!やめてくださいっ!」

 そうして抵抗し始めるも会長は無理矢理ぼくを押さえつけて全身をくまなく撫でる。ああ、力では敵わない。ぼくはてんでひ弱なモヤシだから。こんな事なら、開星に入る前に格闘でも習っておくべきだった。これじゃあ同じことの繰り返しじゃないか。情けない。

 このまま会長の汚いキンタマなんて見たくない。そんでもって尻を掘られたくないよっ!いやだーーっ!
 涙目で激しく拒絶していると、扉がバンと勢いよく開かれた。

「宮本くんに汚い真似してんじゃねーー!このヤりちんホモ野郎!!」

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