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エピローグ『冷たい夜の中で』
しおりを挟む風が吹き抜けるたびに、体温が少しずつ奪われていくのを感じた。僕たちは、コンクリートの隅に座り込んでいた。夜は静かで、遠くで聞こえる車の音だけが、僕たちがまだこの世界にいることを教えてくれているようだった。
逸喜は僕の隣で小さく震えていた。裸足のままの足が真っ赤になっているのを見て、なぜか少しだけ申し訳ない気持ちになった。
「……寒いな。」
僕は小さな声で呟いた。それを聞いた逸喜が、少しだけ身を寄せてくる。
「幸くんも寒い?」
逸喜の声は、普段と変わらない無邪気なトーンだった。だけど、その手が僕の袖を掴む力が妙に強い。
僕は自然と逸喜を抱き寄せていた。彼の肩越しに見える夜空は、月も星も隠している。ただの黒い空が広がっているだけだった。
「お腹……空いたな。」
「うん、僕も。」
逸喜の返事は簡単だった。けれど、その声に少しの弱さが混じっているのが分かった。僕たちはどこにも行けない。何も持っていない。そんなことは、最初から分かっていた。
ふいに、逸喜が僕の体を強く抱きしめた。その力が思っていたよりも強くて、僕は少しだけ息を呑んだ。
「……お前、力強いな。」
思わずそう言うと、逸喜は顔を上げて僕を見た。その表情は、どこか得意げだった。
「幸くんが逃げないように、ちゃんと掴んでおくんだよ。」
幼い口調のまま、彼はそう言った。その無邪気さに、僕は何も言えなくなった。
逸喜の腕の力が、僕を逃がさないと言っているようだった。彼は普段、幼い言葉や仕草で僕を惑わせるけれど、こうして体を寄せたときにはっきり分かる。逸喜は僕よりも年上の男なんだと。
「お前、本当はガキじゃないんだな。」
僕はそう呟いた。逸喜は何も言わなかった。ただ、その腕の力がさらに強くなったのを感じた。
僕たちは何も話さず、ただ体を寄せ合っていた。寒さは変わらない。お腹も空いている。それでも、逸喜の腕の中で感じるその力強さに、どこか安心している自分がいた。
「……もう、逃げられねえな。」
自嘲するように呟いた僕の言葉に、逸喜は静かに笑った。その笑顔が見えなくても、彼が満足しているのが分かった。
僕は目を閉じた。この夜が終わる頃には、僕たちの体も心も、すべて冷え切ってしまうのかもしれない。それでも、逸喜の腕の中にいる限り、少なくとも僕は、今ここにいることだけは確かだった。
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