42 / 53
第四十二話(アンナ視点)
しおりを挟む
困りましたね。
まさか、ミリム様の身代わりとしてシャルロット様とアルフレート殿下の挙式に出席することになるとは。
いくら主の命令とはいえ、バレたらタダでは済まないでしょう。
エルムハルト様はまだ15歳になられたばかり。
公爵家の跡取りになったことで一種の万能感に酔いしれたのでしょう。
ミリム様の人となりも分からずに、自分なら出来ると信じていたのですから。
その結果がこれです。
ミリム様は私の着ていた服を着せられて、馬車で眠っております。
起きても馬車から出ないように手紙を残したとエルムハルト様は仰っていましたが、嫌な予感しかしませんよ。
ミリム様が間違ってこちらに来られたら全てが終わりなのですから、私は両手両足を縛って拘束しておくようにと進言したのですが、エルムハルト様ったら、「ミリムさんの美しい体が傷付いたらどうするのですか?」と言って聞いてくれませんでした。
こうなったら、彼女が起きないことを祈るばかりです。
「おや、公爵家はリーンハルトくんが跡取りではなかったのかね(通訳)」
「どうもお騒がせしてすみません。兄は我が家を継ぐには不適格だと判断されたものですから」
結婚式に出席する公爵家と縁があるアルビニア王国の有力者たちに、エルムハルト様は得意のスマイルを見せながら丁寧に応対していました。
「こちらの仮面の子が君の婚約者かね? 大層な美人さんだったが、悲惨な事故に遭ったと聞いたよ(通訳)」
「ええ、それはもう、酷い有様でして。ただ、姉の結婚式にどうしても出席したいと言うものですから。私も何とかお優しいアルフレート殿下のお許しを頂いた限りでして」
ペラペラと嘘を並べるエルムハルト様。通訳を通じての会話ですから、饒舌になっても問題はないのですが……。
案外、仮面での出席に対して嫌な顔を見せる者が居なかったのは、事前にアルフレート殿下が周知してくださったからでしょうか。
エルムハルト様は笑顔で話しながら、私に小声で「アルビニア語で挨拶とスピーチをする」ように要求しました。
この場にミリムの声を知る者が居ないからなのでしょうが、どうにもリスクが高い気がします。
……はいはい。わかりましたよ。
「わたくしはエルムハルト様の婚約者、ミリム・アーゼルです。今日という晴れの日をこのような形で出席しなくてはならない不運を嘆いていました。……しかし、そんなことは姉が幸せになることと比べると些事です。大変、見苦しい格好とは存じますが、お集まり頂いた皆様に姉に代わって感謝の気持ちをお伝え申し上げます(アルビニア語)」
なんとなくミリム様の声色に寄せて付け焼き刃のアルビニア語でスピーチをする私。
まったく、エルムハルト様は無茶ぶりをなさる。
ご自分は片言レベルなのにも関わらず、なんの見栄を張りたいのか、発音まで気をつけろとは……。
いや、拍手とか良いですから。本来、目立ってはいけないポジションなのですから。
エルムハルト様も得意気な顔をしないでください。ピンチなんですよ、今……。
「いやー、驚いたぞ。兄上の婚約者が才女だとは聞いていたが、妹もなかなかどうして優秀じゃないか(アルビニア語)」
あー、あー、私の語学力が間違っていて欲しいです。
今、目の前の金髪碧眼さんは、兄上って仰っていませんでした?
アルビニア国王の子は三人、長男のアルフレート殿下、長女のアイリーン殿下、そして次男のアウレール殿下。
ということは、この方はアルフレート殿下の弟――
「「アウレール殿下!」」
私の挨拶を聞いて、拍手をしながら近付いて来られたのはアルビニア王国の第二王子、アウレール殿下でした。
これは良くない展開です。よりによって王子様が私に興味を持たれるとは。
対応を間違えると面倒なことが起こってしまいそうです。
「これから親戚になるんだ。どうだい? エルムハルトさんもミリムさんも、式まで時間があるし、ちょっと話さないか? エゼルスタ王国の話を聞かせてくれよ(通訳)」
エルムハルト様、断るのです。
理由は何でも良いので、断りなさい。
変に目立ってしまうと嘘がバレるリスクが――
「ぜひお話させてください。公爵家の跡取りとして、殿下と交流させて頂きます」
これは、駄目ですね。完全に跡取りモードになって浮かれています……。
再就職を心配するどころではなくなってきました――。
まさか、ミリム様の身代わりとしてシャルロット様とアルフレート殿下の挙式に出席することになるとは。
いくら主の命令とはいえ、バレたらタダでは済まないでしょう。
エルムハルト様はまだ15歳になられたばかり。
公爵家の跡取りになったことで一種の万能感に酔いしれたのでしょう。
ミリム様の人となりも分からずに、自分なら出来ると信じていたのですから。
その結果がこれです。
ミリム様は私の着ていた服を着せられて、馬車で眠っております。
起きても馬車から出ないように手紙を残したとエルムハルト様は仰っていましたが、嫌な予感しかしませんよ。
ミリム様が間違ってこちらに来られたら全てが終わりなのですから、私は両手両足を縛って拘束しておくようにと進言したのですが、エルムハルト様ったら、「ミリムさんの美しい体が傷付いたらどうするのですか?」と言って聞いてくれませんでした。
こうなったら、彼女が起きないことを祈るばかりです。
「おや、公爵家はリーンハルトくんが跡取りではなかったのかね(通訳)」
「どうもお騒がせしてすみません。兄は我が家を継ぐには不適格だと判断されたものですから」
結婚式に出席する公爵家と縁があるアルビニア王国の有力者たちに、エルムハルト様は得意のスマイルを見せながら丁寧に応対していました。
「こちらの仮面の子が君の婚約者かね? 大層な美人さんだったが、悲惨な事故に遭ったと聞いたよ(通訳)」
「ええ、それはもう、酷い有様でして。ただ、姉の結婚式にどうしても出席したいと言うものですから。私も何とかお優しいアルフレート殿下のお許しを頂いた限りでして」
ペラペラと嘘を並べるエルムハルト様。通訳を通じての会話ですから、饒舌になっても問題はないのですが……。
案外、仮面での出席に対して嫌な顔を見せる者が居なかったのは、事前にアルフレート殿下が周知してくださったからでしょうか。
エルムハルト様は笑顔で話しながら、私に小声で「アルビニア語で挨拶とスピーチをする」ように要求しました。
この場にミリムの声を知る者が居ないからなのでしょうが、どうにもリスクが高い気がします。
……はいはい。わかりましたよ。
「わたくしはエルムハルト様の婚約者、ミリム・アーゼルです。今日という晴れの日をこのような形で出席しなくてはならない不運を嘆いていました。……しかし、そんなことは姉が幸せになることと比べると些事です。大変、見苦しい格好とは存じますが、お集まり頂いた皆様に姉に代わって感謝の気持ちをお伝え申し上げます(アルビニア語)」
なんとなくミリム様の声色に寄せて付け焼き刃のアルビニア語でスピーチをする私。
まったく、エルムハルト様は無茶ぶりをなさる。
ご自分は片言レベルなのにも関わらず、なんの見栄を張りたいのか、発音まで気をつけろとは……。
いや、拍手とか良いですから。本来、目立ってはいけないポジションなのですから。
エルムハルト様も得意気な顔をしないでください。ピンチなんですよ、今……。
「いやー、驚いたぞ。兄上の婚約者が才女だとは聞いていたが、妹もなかなかどうして優秀じゃないか(アルビニア語)」
あー、あー、私の語学力が間違っていて欲しいです。
今、目の前の金髪碧眼さんは、兄上って仰っていませんでした?
アルビニア国王の子は三人、長男のアルフレート殿下、長女のアイリーン殿下、そして次男のアウレール殿下。
ということは、この方はアルフレート殿下の弟――
「「アウレール殿下!」」
私の挨拶を聞いて、拍手をしながら近付いて来られたのはアルビニア王国の第二王子、アウレール殿下でした。
これは良くない展開です。よりによって王子様が私に興味を持たれるとは。
対応を間違えると面倒なことが起こってしまいそうです。
「これから親戚になるんだ。どうだい? エルムハルトさんもミリムさんも、式まで時間があるし、ちょっと話さないか? エゼルスタ王国の話を聞かせてくれよ(通訳)」
エルムハルト様、断るのです。
理由は何でも良いので、断りなさい。
変に目立ってしまうと嘘がバレるリスクが――
「ぜひお話させてください。公爵家の跡取りとして、殿下と交流させて頂きます」
これは、駄目ですね。完全に跡取りモードになって浮かれています……。
再就職を心配するどころではなくなってきました――。
99
あなたにおすすめの小説
見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます
珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。
そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。
そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。
ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。
婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。
アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。
もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~
希羽
恋愛
「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」
才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。
しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。
無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。
莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。
一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。
妹と婚約者は私が邪魔なようなので、家から出て行きます
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アリカが作った魔法道具の評判はよかったけど、妹メディナが作ったことにされてしまう。
婚約者ダゴンはメディナの方が好きと言い、私を酷使しようと目論んでいた。
伯爵令嬢でいたければ従えと命令されて、私は全てがどうでもよくなってしまう。
家から出て行くことにして――魔法道具は私がいなければ直せないことを、ダゴン達は知ることとなる。
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる