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静かな庭を眺めながら 5
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ほぼほぼ初対面の吉野様に遊ばれる七緒をみんなで笑いながら食事が始まるその前に
「お食事前ですがどうぞこちらを」
親父が言いながら吉野様へと依頼の品をお渡しした。
吉野様は両手で受け取り、それを蓋も開けずに
「お父さん、確認してください」
どういう繋がりか俺は知らないけどお父さんと呼ばれたこの店の主へとそのまま手渡せば頷きもせず受け取って蓋を開け
「砂凪」
掛け軸を取り出したと思えば女将さんにお渡しした。
女将さんはそのままお花しか活けてない床の間に向かい、矢筈を使って仕上がりを確認することなくそのまま床の間へと飾るのだった。
親父の仕事を疑ったことはないけど、こんなにも無防備に目の前で飾られるとは思わなくドキドキしていたが……
「次郎、綺麗になったな」
「次郎さんお帰りなさい。
この状態なら毎日とは言わないけどたまには掛けて眺めたいわ」
まるで孫を見るような目で二人は掛け軸を見上げていた。
仕上がりを疑わない二人に不安になるけど当の次郎さんは部屋の隅でちょこんと並んで座っているしいさんとこまさんの隣で寝そべっている。親の心子知らずと言った所だろうか。
「九条のも無理させたようで悪いな」
店主が言えば九条が少し頭を下げ
「無理を言ったのはこいつだし、こいつが言い出したら止められないし、油断も隙もないから放し飼いも出来ないけど勘だけは良い。乗り込んでまで頼む以上間違いない仕上げをしてくれると判断できたので」
吉野様はドヤ顔だ。
いや、これ誉め言葉なのだろうかと考えてしまうけど本人はご満悦なお顔なのであえて突っ込まない。いや、この場で突っ込む勇気がないだけだけど。
「皆様お待たせしました。
せっかくの料理が冷めてしまう前にいただきましょう」
そんな店主の言葉に七緒ちゃんはニコニコ顔だ。そして九条の所の子供たちもニコニコ顔。同レベルだと朔夜と小さく笑ってしまえば仲居さんによるお酌を受けて
「では、次郎さんの帰宅と二度と飾る事の出来ないと思っていた掛け軸を修復してくれた皆様に感謝の気持ちを、乾杯」
決して派手な乾杯ではないけど心のこもった挨拶にそっと杯を上げる。
友達や職場の人達との飲み会とは違い、こんな大人な世界がある事にこれはますます緊張してしまうと思ったけどそれもつかの間。
「あやとー!岩さん達は?」
「あやちゃん、ろくちゃんは?」
ジュースで乾杯をした後の九条の子供たち。
いきなり席を立って吉野様の背中に突撃。
「ああ、綾人さんごめんなさい」
九条の清楚系奥様が吉野様の背中によじ登る子供を回収しようとするけど吉野様そのまま二人をおんぶして
「大丈夫だよ。それよりも……」
そう言って二人にこちらには聞こえない音量の声で何かささやいた。
その途端二人はぱっと手を離し、自分の席に戻ってちょこんと座った。
いい子だ……
なんて普通は思うのだろうけど相手は吉野様。
はたきであの重苦しい空気の家を心地よい家に変えた九条も逆切れするいろんな意味で凄い人。
出された料理を黙々と食べる小学生低学年と幼稚園児かな?に何を言ったのか不安しかない。
だけどその親は何も言わずに席について出された料理に至福の顔で舌鼓を打つ様子。
「なれてるなー」
思わず声に出てしまうも
「お父さんの料理と飯田さんの料理が美味しいの知っている二人だからね。
お料理に向き合えないのなら二度とこの家の敷居を跨がせないぞって言っただけだよ」
「この家の人間じゃないのにまかり通る理不尽」
思わず心の声がこぼれ落ちてしまった。
だけど吉野様はそれはそれは素敵な笑顔で
「そこまでしても守る価値のある御家と言うものだよ」
見た事もないくらいの素敵な笑顔に九条家は黙ってしまい、女将だけは嬉しそうに
「あらやだ、綾人さんにそんなにも評価されるとますます頑張らないといけないわね」
女将さんはそれは品よくお料理を口へと運ぶ。
思いっきりもぐもぐと食べてしまう俺とは大違いだと思うも隣にいる親父は場数をこなしているだけあって女将さんや店の主同様同じペースで食べていた。
そして気付いた吉野様の俺をちらちらとみる視線。
ひょっとしてここは俺の勉強の場か?
純粋に堪能できない事に泣きそうになるけど祖に視線が隣に動く。
併せて俺も視線だけ横に動かせば見た事もないくらいまじめに箸を口に運んでいる朔夜。
女子かと言うくらいの少量を口へと運びながらじっくりと食べるその様子。
二度とないチャンスをものにしようと必死な様子が見て取れた。
うわ、お食事会だと聞いてたのに何この地獄絵図。
愛らしい子供たちは一生懸命ご飯を食べているし俺達の目の前の人はまるでお手本と言うくらいの綺麗な所作でご飯を食べている。
隣は必死に料理から何か持ち帰ろうと食べるさらに隣では「すごく綺麗ですね!SNS上げないので記念に写真撮らせてください!」なんて無邪気な従妹殿。そしてタイミングよく次々に運ばれてくる美しいお料理の味が一切わからないほどこの状況に飲み込まれている俺。
向かい側では吉野様がやれやれという様に呆れていたがその視線がすいと壁際でこの美味しい匂いに満ちた室内でもおとなしく座っていたしいさん達へと向かう。
それが合図、という様にしいさん、こまさん達は静かに歩きだして……
九条の子供たちの横にちょこんと座った。
九条は一瞬天井へと視線を向けたが、気にせずに食事を再開したあたりこれからの事は容認しているという事なのだろう。
となると何が起きるのかと思ってハラハラしてみていれば晴朝君と言った男の子が人参を手のひらに置いてそっとしいさんの前に出せば手のひらをぺろりと舐めるように人参を食べてしまった。
その途端嬉しそうな顔になる晴朝君と陽菜乃ちゃん。お母さまはすこしだけこまった顔をしていたけどあえて何も言わない。
それを見れば陽菜乃ちゃんも同じように人参を取り出してこまさんへと差し出した。
自然に湧きあがる子供の笑顔にこの場の空気がふっと軽くなって、視えないと聞いていた女将さん達もそちらに視線を向けて笑みを浮かべるその様子。
なんだか緊張するのがばかばかしく思えて
「そう言えば吉野様。
ご用意していただいた手漉きの和紙、見事でしたがどちらで入手した物かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ん? あれはな……」
そんなきっかけから生まれた会話。
入手方法に驚かされる話から盛り上がり、あっというまにじかんはすぎていくのだった。
「お食事前ですがどうぞこちらを」
親父が言いながら吉野様へと依頼の品をお渡しした。
吉野様は両手で受け取り、それを蓋も開けずに
「お父さん、確認してください」
どういう繋がりか俺は知らないけどお父さんと呼ばれたこの店の主へとそのまま手渡せば頷きもせず受け取って蓋を開け
「砂凪」
掛け軸を取り出したと思えば女将さんにお渡しした。
女将さんはそのままお花しか活けてない床の間に向かい、矢筈を使って仕上がりを確認することなくそのまま床の間へと飾るのだった。
親父の仕事を疑ったことはないけど、こんなにも無防備に目の前で飾られるとは思わなくドキドキしていたが……
「次郎、綺麗になったな」
「次郎さんお帰りなさい。
この状態なら毎日とは言わないけどたまには掛けて眺めたいわ」
まるで孫を見るような目で二人は掛け軸を見上げていた。
仕上がりを疑わない二人に不安になるけど当の次郎さんは部屋の隅でちょこんと並んで座っているしいさんとこまさんの隣で寝そべっている。親の心子知らずと言った所だろうか。
「九条のも無理させたようで悪いな」
店主が言えば九条が少し頭を下げ
「無理を言ったのはこいつだし、こいつが言い出したら止められないし、油断も隙もないから放し飼いも出来ないけど勘だけは良い。乗り込んでまで頼む以上間違いない仕上げをしてくれると判断できたので」
吉野様はドヤ顔だ。
いや、これ誉め言葉なのだろうかと考えてしまうけど本人はご満悦なお顔なのであえて突っ込まない。いや、この場で突っ込む勇気がないだけだけど。
「皆様お待たせしました。
せっかくの料理が冷めてしまう前にいただきましょう」
そんな店主の言葉に七緒ちゃんはニコニコ顔だ。そして九条の所の子供たちもニコニコ顔。同レベルだと朔夜と小さく笑ってしまえば仲居さんによるお酌を受けて
「では、次郎さんの帰宅と二度と飾る事の出来ないと思っていた掛け軸を修復してくれた皆様に感謝の気持ちを、乾杯」
決して派手な乾杯ではないけど心のこもった挨拶にそっと杯を上げる。
友達や職場の人達との飲み会とは違い、こんな大人な世界がある事にこれはますます緊張してしまうと思ったけどそれもつかの間。
「あやとー!岩さん達は?」
「あやちゃん、ろくちゃんは?」
ジュースで乾杯をした後の九条の子供たち。
いきなり席を立って吉野様の背中に突撃。
「ああ、綾人さんごめんなさい」
九条の清楚系奥様が吉野様の背中によじ登る子供を回収しようとするけど吉野様そのまま二人をおんぶして
「大丈夫だよ。それよりも……」
そう言って二人にこちらには聞こえない音量の声で何かささやいた。
その途端二人はぱっと手を離し、自分の席に戻ってちょこんと座った。
いい子だ……
なんて普通は思うのだろうけど相手は吉野様。
はたきであの重苦しい空気の家を心地よい家に変えた九条も逆切れするいろんな意味で凄い人。
出された料理を黙々と食べる小学生低学年と幼稚園児かな?に何を言ったのか不安しかない。
だけどその親は何も言わずに席について出された料理に至福の顔で舌鼓を打つ様子。
「なれてるなー」
思わず声に出てしまうも
「お父さんの料理と飯田さんの料理が美味しいの知っている二人だからね。
お料理に向き合えないのなら二度とこの家の敷居を跨がせないぞって言っただけだよ」
「この家の人間じゃないのにまかり通る理不尽」
思わず心の声がこぼれ落ちてしまった。
だけど吉野様はそれはそれは素敵な笑顔で
「そこまでしても守る価値のある御家と言うものだよ」
見た事もないくらいの素敵な笑顔に九条家は黙ってしまい、女将だけは嬉しそうに
「あらやだ、綾人さんにそんなにも評価されるとますます頑張らないといけないわね」
女将さんはそれは品よくお料理を口へと運ぶ。
思いっきりもぐもぐと食べてしまう俺とは大違いだと思うも隣にいる親父は場数をこなしているだけあって女将さんや店の主同様同じペースで食べていた。
そして気付いた吉野様の俺をちらちらとみる視線。
ひょっとしてここは俺の勉強の場か?
純粋に堪能できない事に泣きそうになるけど祖に視線が隣に動く。
併せて俺も視線だけ横に動かせば見た事もないくらいまじめに箸を口に運んでいる朔夜。
女子かと言うくらいの少量を口へと運びながらじっくりと食べるその様子。
二度とないチャンスをものにしようと必死な様子が見て取れた。
うわ、お食事会だと聞いてたのに何この地獄絵図。
愛らしい子供たちは一生懸命ご飯を食べているし俺達の目の前の人はまるでお手本と言うくらいの綺麗な所作でご飯を食べている。
隣は必死に料理から何か持ち帰ろうと食べるさらに隣では「すごく綺麗ですね!SNS上げないので記念に写真撮らせてください!」なんて無邪気な従妹殿。そしてタイミングよく次々に運ばれてくる美しいお料理の味が一切わからないほどこの状況に飲み込まれている俺。
向かい側では吉野様がやれやれという様に呆れていたがその視線がすいと壁際でこの美味しい匂いに満ちた室内でもおとなしく座っていたしいさん達へと向かう。
それが合図、という様にしいさん、こまさん達は静かに歩きだして……
九条の子供たちの横にちょこんと座った。
九条は一瞬天井へと視線を向けたが、気にせずに食事を再開したあたりこれからの事は容認しているという事なのだろう。
となると何が起きるのかと思ってハラハラしてみていれば晴朝君と言った男の子が人参を手のひらに置いてそっとしいさんの前に出せば手のひらをぺろりと舐めるように人参を食べてしまった。
その途端嬉しそうな顔になる晴朝君と陽菜乃ちゃん。お母さまはすこしだけこまった顔をしていたけどあえて何も言わない。
それを見れば陽菜乃ちゃんも同じように人参を取り出してこまさんへと差し出した。
自然に湧きあがる子供の笑顔にこの場の空気がふっと軽くなって、視えないと聞いていた女将さん達もそちらに視線を向けて笑みを浮かべるその様子。
なんだか緊張するのがばかばかしく思えて
「そう言えば吉野様。
ご用意していただいた手漉きの和紙、見事でしたがどちらで入手した物かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ん? あれはな……」
そんなきっかけから生まれた会話。
入手方法に驚かされる話から盛り上がり、あっというまにじかんはすぎていくのだった。
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