隣の古道具屋さん

雪那 由多

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愛すべき時を刻む音 11

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「分かった。
 お前が何を思ってあの一族に憑いているかは知らないけど、そこまでして一緒に居たいというのならずっと一緒に居られるように手配するよ。
 大丈夫。
 内部の取り換えが初めてだから怖いかもしれないけど、お前を修理してくれる人たちは大切にレイヴァースを取り扱ってくれるから。
 むしろ現役で働いてる事を知ったら誉めてくれる人達だから」

 言いながら時計を一撫でしてから親父を見て
「佐倉さん、それでよければ持ち主の方に交渉してください。
 星崎さんだっけ? 仕事辞める覚悟あるのならまずはお試しで時計を運ぶのをお願いしてもいいですか? 精密機械なので手で運んでもらうのが一番時短なので」
 聞けば満面の笑みで即答。
「もちろん!それでどちらに?!」
 食い気味で、そしてはたきの人の手を握って期待に満ちた笑みは

「イギリス。知り合いにその手のプロフェッショナルがいるんだ。
 そこで学んで来い。海外メーカーの事詳しいのなら英語はそれなりにできるだろ?」

 一瞬でフリーズ。
 まさかの海外。
 脳内では理解できていたけどそこ何処?という様に俺も目が点になっていた。
 予想の斜め上と言うか、確かにあっちならその手の職人が居そうだなと思いながらも遠く離れたイギリスでそんなつてがあるのかと驚かずにはいられない。

「今回はOKが出たらラッキーだぞ。なんて他人の金でイギリスに行けるんだからな。
 さらに向こうでやって行けるか下見もできるししっかりお金も貯めているのなら長期滞在も問題ないしな。向こうは物価高いけど独立するぐらいに貯めてるなら資金面は安心だな。独立は先延ばしになってもアレを理解出来たら大きなスキルになる。こんなチャンスめったにないぞ?」

 なんて意地の悪い顔をしていた。
 聞いているだけで酷いと思ったけど

「OKが出たらぜひよろしくお願いします!」

 それ以上に星崎さんの迷いのない決断の速さ。これは止められない奴だと親父は苦笑していた。
 にんまりと笑うはたきの人の笑みは欲しい答えがもらえた人の顔。星崎さんが何か確実に手にしたそんな空気がぶわっとあふれ出していた。
「パスポートは去年更新してあるので問題ないかと思います!」
「まるで準備してた様な展開だな」
「チャンスは逃したくないので」
 その言葉にはたきの人は満足げな笑みを浮かべ
「だったらあとは返事待ちだな」
 なんて親父を二人そろって見上げるから苦笑塗れの親父は
「せめて10時になってから電話をしようか。そのあと星崎は少し話をしよう」
 そう、まだ開店前のこの時間。
 それよりも
「ほら、開店準備を始めなさい」
 親父が手をぱんぱんと叩けばそれに合わせて皆立ち上がり
「じゃあ、みんなそろそろ帰ろうか」
 声をかければいつの間にか姿が消えていた次郎さん達が壁を通り抜けて現れた。
「主よ、太郎と菖蒲のおうちを見せに行っていた」
 なんて次郎さんが誇らしげにこの家を案内したことを胸張って教えてくれた。
「工房とか倉庫とか主が好きそうな場所がいっぱいあったのを発見した」
「ぼろぼろの家具いっぱいだった」
「お世話になっているお家にも似た家具一杯あった」
 なんてしっぽをふっさふっさ揺らして教えてくれるしいさんとこまさんに
「なんて素敵なお家なんでしょう……」
 思わず俺もうっとりと呟いてしまう
 倉庫にある家具は本当に良い物ばかりだけどそれをいまだに現役で使っているなんて持ってる家は持ってるんだなあと改めて付喪神の生まれた家の豊かさに驚いてしまう。
 太郎と菖蒲ははたきの人の周りを泳いで何やら何かを取り込んでいるようにも見えて心配してしまうも
「ああ、あれか。
 あれは付喪神と言うか使役が主から霊力を分けてもらってるだけだ。
 太郎たちはまだ生まれたばかりだからな。
 ああやって安定するまで補給しないと消滅するからな」
 なんて恐ろしい事をさらりと言う九条に
「それ、大丈夫なのか?」
 すでに離れて暮らしているのにと思えば
「大した量は必要じゃないんだよ。ただ逆にあいつの霊力が濃厚だから取りすぎないようにある程度距離を置いておく方がいいんだ」
「なんか実感こもってるなー」
「こもるさ。その結果とんでもない付喪神が生まれまくったんだから……
 そっちの方が頭が痛い問題だ」
 それこそ見てみたいと思うもあまり関わり合いがない方がいいだろうとそこは突っ込まずにいる。
「とりあえずあいつが素直に帰る気になったから素直に帰るよ」
 なんてふらふらしながら車のカギを取り出してちゃっかりうちの駐車場に停めた車を店前に回してきて

「ほら、帰るぞ」
「うーっす。おじゃましましたー。
 また明日ー」

 そんな不吉な宣言をして帰る一行の姿が見えなくなるころには

「親父、今日はもう店閉めない?」
「馬鹿者。今日はこれからだ」
「なんかどっと疲れたんだけど……」
 言えば
「なにを言ってる。
 星崎が辞めるとなるともっと大変だぞ」
 そんな突っ込みに
「あ、店長。イギリスから帰ってきたらまた雇ってください。独立資金また貯めたいので」
 俺達が想像する以上に我が道を行く星崎さんに親父は苦笑して
「スキルアップしたらいつでも帰ってきなさい」
 そこはちゃっかりしている親父。星崎さんの腕を信じているからこその言葉に星崎さんはにぱっと笑みが花開いて
「じゃあ、とりあえずみんなにも話してきますね!」
 なんて走っていった後ろ姿に親父はため息を吐きながら
「先方に承諾を受けてからだって言うの分かってるのかあいつは……」
 やれやれと言って台所にお茶をもらいに行く親父。
 ほんとやれやれだ。
「どさくさに紛れて俺一人に開店準備させるとか酷い社長だ」
 一人ぶつぶつ言っていれば次郎さんが静かに近くの座布団の上で丸まった。


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