隣の古道具屋さん

雪那 由多

文字の大きさ
上 下
4 / 44

悲しいコイの物語 4

しおりを挟む
 車に乗って件の古美術商へと向かう。
 それなりに大きな店で観光スポットにも近く、うちとは違い観光客が足を運ぶ店でもあった。
 最も今時の古美術はネットでの売買が中心でうちだってHPを持っているし、オークションにも出店をしている。
 外国人から購入されることも多いが海外に発送はしていないので主にお土産として購入されている古くはあるが小さい店だ。
 そう言ったお土産サイズの物から今時流行らないような大型家具も扱っている。
 まあ、家具なんて流行らないという様にコンパクトにリメイクして今時風に作り変えているが、うちは家具屋ではないので正直あまりぱっとしない分野だ。
 だけど親父がこの模様があまりにも素敵だったからな、この木材があまりに素晴らしかったからな、なんて経理をしているお袋に土下座をしながらすでに購入してしまった家具について説明をしている様子は正直親父を尊敬しているだけあってあまり見たくない光景だ。
 そんな我が家の事情とは違い、観光の途中にひょいと覗ける、そして年齢層関係なく購入したくなるようなアンティークとも呼ぶ西洋の骨とう品も取り扱うだけに今も足を止めた観光客でにぎわっている。
 相変わらずうちの客層と全く違うな。
 活気のある店内にぽつんと一人でいる俺は確実に浮いていた。
 勝敗の基準は不明だが経営として負けているsことは確かだった。
 若い女の子のグループにシルバーのカトラリーの年代や由来などを説明する店主のニヤけた顔。
 女の子たちもよくわかっているようで「すごーい!」「すごーい!」なんて当たり障りのない言葉を連発。
 いくらアンティークだからって誰かが使ったような食器を若いお嬢さんが使うわけがないと心の中で呟きながら俺は適当に近くにあった一輪挿しを手に取って眺める。
 まあ、それは店主も当然わかっていることで、うら若きお嬢さんとひと時の時間を過ごしたかった程度の会話だという事は見るまでもなく理解している。
 そんなお嬢さんたちも店主の話術にのせられて数枚のポストカードを買って店を後にした。
 京都に来てイングリッシュガーデンのポストカードを買う不思議。
 一体彼女たちは何をしに来たのだろうかと悩んでいれば

「ご無沙汰です佐倉の若旦那」

 一輪挿しを手にしたまま彼女たちの好みのちぐはぐさに悩んでいれば背後から声をかけられてしまった。
「ご無沙汰してます迪林堂の店主」
 ちょこんと頭を下げる。
 にこやかな顔とは別に早く帰れと言う視線を俺は気にせずに
「親父から勉強して来いと言われまして」
 ひくりと顔を引きつらせた。
「佐倉の旦那もまた……」
 しつこいという言葉は誤魔化したようだ。
 まあ、親父の言わんとする所も納得だしこの様子じゃ話を聞くのは無理だろうと速攻であきらめた。だけど
「話では一度買われたと聞いてましたが……
まだここにあるようなので安心しました。
 できるだけ早く適切な方に手放すか、手に負えなくなる前にうちに持ってきてくれれば、なんて思います」
 言えばサーッと顔を青くする。
「今日はお願いしてもまだ見せてくれなさそうなので帰りますが……
 佐倉が来た。どういう意味かお判りでしょう」
 脂汗をだらだらと流す親父と同じ年頃の店主ににやりと笑い

「この店、真っ黒ですよ。
 特に店の奥が黒が深くて……
 そして移動してきたという様に黒が糸のようにつながってます。
 縁を持ってしまった以上、何かがあった時は逃れないですよ」

 周囲にはまだお客様もいる。
 だけど俺は一輪挿しを手にそっと店主へとささやいた。

「店主、あなたも真っ黒な糸でぐるぐる巻きにされてますから。
 ご家族をまきこまないように、そして体調不良にはお気を付けください」

 そんなアドバイス。
 いや、朔夜に言えば脅迫だろうと言うかもしれないけど、こういったものは蒐集家垂涎の品。金に糸目は付けないという憑りつかれた人もいて……

 顔色の悪い店主に一輪挿しを返して店を出る。
 暗く重い空気の中に居たから少し街を歩きながら呼吸を整えて

「親父、さすがに話ができる様子じゃなかった。
 だけどもうあれはだめだ。店の中生臭くて俺ももう無理」
「そうか……」

 さりげない会話という様にスマホで話すも周囲の観光客の声も大きくて誰一人俺の事なんて気にしない。
 そんな賑やかな声の中に親父の落胆した声。
 分かってたというような声だけど俺はあの店に延びる黒い糸を辿るように足を運ぶ。
 足で移動できる距離ならいいなと思いながらもやっぱり無理だろうとため息を吐き

「親父、悪いんだけどさ」
「何だ?晩飯でも食ってくるのか?」
「うん、それもあるけどお守り、新しいの用意して。
 もうだめみたいだから」
「そうか、分かった」
 それだけを言ってスマホを切った。
 まあ、普段なら数か月持つお守りが立った一日で力を失うとはさすがお親父様も見抜けなかったようだ。

 だけどそれよりもだ。
 
 掛け軸の片割れのこの恨み。
 もう半分あるうちにある掛け軸の力がどうなってるか心配になってしまう。
 ひょっとしたら同等、最悪家でも同じような事が起きているかもしれない。

「困ったなあ。また頼まないといけないのか?」

 それは嫌だな、なんてこういう案件の時いつも頭を下げる相手はかつて俺を守ってくれた奴にまだこんな事に関わっているのかとばかにする目で見られる事を想像しただけで胃がキリキリした。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...