隣の古道具屋さん

雪那 由多

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悲しいコイの物語 4

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 車に乗って件の古美術商へと向かう。
 それなりに大きな店で観光スポットにも近く、うちとは違い観光客が足を運ぶ店でもあった。
 最も今時の古美術はネットでの売買が中心でうちだってHPを持っているし、オークションにも出店をしている。
 外国人から購入されることも多いが海外に発送はしていないので主にお土産として購入されている古くはあるが小さい店だ。
 そう言ったお土産サイズの物から今時流行らないような大型家具も扱っている。
 まあ、家具なんて流行らないという様にコンパクトにリメイクして今時風に作り変えているが、うちは家具屋ではないので正直あまりぱっとしない分野だ。
 だけど親父がこの模様があまりにも素敵だったからな、この木材があまりに素晴らしかったからな、なんて経理をしているお袋に土下座をしながらすでに購入してしまった家具について説明をしている様子は正直親父を尊敬しているだけあってあまり見たくない光景だ。
 そんな我が家の事情とは違い、観光の途中にひょいと覗ける、そして年齢層関係なく購入したくなるようなアンティークとも呼ぶ西洋の骨とう品も取り扱うだけに今も足を止めた観光客でにぎわっている。
 相変わらずうちの客層と全く違うな。
 活気のある店内にぽつんと一人でいる俺は確実に浮いていた。
 勝敗の基準は不明だが経営として負けているsことは確かだった。
 若い女の子のグループにシルバーのカトラリーの年代や由来などを説明する店主のニヤけた顔。
 女の子たちもよくわかっているようで「すごーい!」「すごーい!」なんて当たり障りのない言葉を連発。
 いくらアンティークだからって誰かが使ったような食器を若いお嬢さんが使うわけがないと心の中で呟きながら俺は適当に近くにあった一輪挿しを手に取って眺める。
 まあ、それは店主も当然わかっていることで、うら若きお嬢さんとひと時の時間を過ごしたかった程度の会話だという事は見るまでもなく理解している。
 そんなお嬢さんたちも店主の話術にのせられて数枚のポストカードを買って店を後にした。
 京都に来てイングリッシュガーデンのポストカードを買う不思議。
 一体彼女たちは何をしに来たのだろうかと悩んでいれば

「ご無沙汰です佐倉の若旦那」

 一輪挿しを手にしたまま彼女たちの好みのちぐはぐさに悩んでいれば背後から声をかけられてしまった。
「ご無沙汰してます迪林堂の店主」
 ちょこんと頭を下げる。
 にこやかな顔とは別に早く帰れと言う視線を俺は気にせずに
「親父から勉強して来いと言われまして」
 ひくりと顔を引きつらせた。
「佐倉の旦那もまた……」
 しつこいという言葉は誤魔化したようだ。
 まあ、親父の言わんとする所も納得だしこの様子じゃ話を聞くのは無理だろうと速攻であきらめた。だけど
「話では一度買われたと聞いてましたが……
まだここにあるようなので安心しました。
 できるだけ早く適切な方に手放すか、手に負えなくなる前にうちに持ってきてくれれば、なんて思います」
 言えばサーッと顔を青くする。
「今日はお願いしてもまだ見せてくれなさそうなので帰りますが……
 佐倉が来た。どういう意味かお判りでしょう」
 脂汗をだらだらと流す親父と同じ年頃の店主ににやりと笑い

「この店、真っ黒ですよ。
 特に店の奥が黒が深くて……
 そして移動してきたという様に黒が糸のようにつながってます。
 縁を持ってしまった以上、何かがあった時は逃れないですよ」

 周囲にはまだお客様もいる。
 だけど俺は一輪挿しを手にそっと店主へとささやいた。

「店主、あなたも真っ黒な糸でぐるぐる巻きにされてますから。
 ご家族をまきこまないように、そして体調不良にはお気を付けください」

 そんなアドバイス。
 いや、朔夜に言えば脅迫だろうと言うかもしれないけど、こういったものは蒐集家垂涎の品。金に糸目は付けないという憑りつかれた人もいて……

 顔色の悪い店主に一輪挿しを返して店を出る。
 暗く重い空気の中に居たから少し街を歩きながら呼吸を整えて

「親父、さすがに話ができる様子じゃなかった。
 だけどもうあれはだめだ。店の中生臭くて俺ももう無理」
「そうか……」

 さりげない会話という様にスマホで話すも周囲の観光客の声も大きくて誰一人俺の事なんて気にしない。
 そんな賑やかな声の中に親父の落胆した声。
 分かってたというような声だけど俺はあの店に延びる黒い糸を辿るように足を運ぶ。
 足で移動できる距離ならいいなと思いながらもやっぱり無理だろうとため息を吐き

「親父、悪いんだけどさ」
「何だ?晩飯でも食ってくるのか?」
「うん、それもあるけどお守り、新しいの用意して。
 もうだめみたいだから」
「そうか、分かった」
 それだけを言ってスマホを切った。
 まあ、普段なら数か月持つお守りが立った一日で力を失うとはさすがお親父様も見抜けなかったようだ。

 だけどそれよりもだ。
 
 掛け軸の片割れのこの恨み。
 もう半分あるうちにある掛け軸の力がどうなってるか心配になってしまう。
 ひょっとしたら同等、最悪家でも同じような事が起きているかもしれない。

「困ったなあ。また頼まないといけないのか?」

 それは嫌だな、なんてこういう案件の時いつも頭を下げる相手はかつて俺を守ってくれた奴にまだこんな事に関わっているのかとばかにする目で見られる事を想像しただけで胃がキリキリした。




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