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悲しいコイの物語 5
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「朔夜、なんか飯食わせて」
「藪から棒にいきなりなにを。っていうか今夜うちカレーだぞ」
「やった。朔夜のカレーライス大好き。
とにかくごはんも大盛りで温泉卵もよろしく」
「ったく、明日の俺達の昼飯を満足するまで食べるがよい」
いいながらまだ室内のカレーの匂いが残る所からご飯を食べ終えたばかりなのだろう。
耳をすませばシャワーの音が聞こえるあたり七緒はお風呂のようだ。微妙過ぎるタイミングに来てしまったなと思いながらも今はともかく空腹で胃がしくしくして匂いにつられて全力でカレーを求める状態。
勝手知ったる他人の家の食器棚からコップとスプーンぐらい取り出して準備する程度のお手伝いはする。
むしろそれぐらいはやれと言うのが朔夜の俺に対する躾。
いや、朔夜のじいさんの躾だけどそれは今も俺達の間で生きている俺と朔夜のじいさんの思い出だ。
「それにしてもずいぶんお疲れのようだな。って、この時間にその恰好、営業か?」
「んー、今回の仕事の下調べ。
親父が俺を外すわけだよ。思ったよりも性質の悪い案件らしい」
言えば朔夜の表情が硬くなる。心配の色をともした声音で
「そういうの久しぶりだな」
なんて冷蔵庫からレタスとトマト、キュウリを取り出しサラダでも作ってくれるようだった。
どの家の冷蔵庫にある野菜だけど俺は朔夜が合わせるドレッシングが好きでできるまでこれで待てという様にご飯をてんこ盛りによそってくれて、おかげで少ししかカレーをかけることが出来なく食べながらカレーを継ぎ足すスタイルを遂行させてもらう。
因みにこれは朔夜の家での食べ方なだけで、家では母さんが顔を歪めるからちゃんとお替りを繰り返している。これが親の教育と友人の教育との差だというように目の前にはまだたっぷりと残っている温めなおされたカレーが鍋に入ったまま鎮座していた。食べ放題、ありがとうございます!
「まあ、詳しくは言えないけど屏風絵だったものを息子さんが掛け軸に仕立て直したところから怪異が始まったらしい」
「なるほどねえ」
その絵が何かなんてそこは言わない。
高校時代、心霊スポットの廃墟巡りをして俺がこんな体質になった一端をこいつは今でも自分のせいだと思い込んでいる。
あまりクラスメイトとかかわりがなかった俺だけど、高校三年の夏休みを受験だけで終わらすのは寂しいからと言ってクラスメイト達のと思い出ではないが誘ってくれたのが朔夜だった。
クラスメイトは佐倉が来るのかよと言うように半信半疑だったようだが、半ば朔夜によって拉致られる様に参加されられたのをみてはクラスメイトもびっくりな当時のこいつの強引な所でクラスのリーダーみたいな性格のおかげだ。
もっともその後取り返しのつかない出来事が俺の身に起きたのだが
……
それはそれでうちの稼業的には問題ない。いや、やっぱり仕事の影響しているという時点で大問題なのだ。
古道具に憑りついたたくさんの思いを秘めたモノたちを癒してあげるなんて考え自体がおこがましい事で思い上がりもいい所だという事だろう。
あの事件の後変わってしまった体質に何度も倒れたり救急車で運ばれる様子を見るたびに浮かべる朔夜の後悔で死にそうな表情は今も思い出したくないくらい酷い物で……
そんなきっかけで大学の四年間は俺の変わった体質について何度も頭を下げる朔夜から逃げるようにアパート暮らしをして古道具の修復に集中することが出来た。
四年と言う時間から俺達に距離を置いてくれたように思え、それからは朔夜が負った心の傷をいやすように一日ずつ俺の無事を伝えるように幼いころのように友情を確かめていればある日俺たちの間に小さな女の子が飛び込んできた。
七緒。
突然両親を亡くし悲しみに明け暮れる彼女を祖父であり渡り鳥のマスターが数ある親戚の中で誰も引き取らなかった彼女を引き取ったのだ。
それからは女の子の育て方が分からないとお袋を何度も頼る様になり、俺はこの体質で朔夜に迷惑をかけないようにするために一定の距離を取っていたけど……
結局の所、俺が朔夜に顔を合わせづらいだけでいつの間にか渡り鳥の常連になっていた。
まあ、昔は勝手口から入っていただけで今は店側から入ってるだけの違いだけど。
今もあの日の出来事に負い目を感じる朔夜に気にするなという様に俺は常連になった。あいつの作る飯を食べに来ることであの日の出来事をなかったことにはできないけど少しずつ俺達が向き合う様にするようにしている。
そして今日みたいな日、障りに触れると俺みたいな体質の人間は何処か生臭い臭いを体に纏わせてしまう。
数時間程度の問題なのだが、この臭いを持ち帰るとうちに保管してある何かが憑いた古道具たちに悪影響を与えるのですぐには帰らないようにしている。
下手な所でうろつくとこの古都に住み着く目に見えないモノたちに影響を与えてより匂いが強くなってしまうので家のすぐそばの公園で時間をつぶしていた所を朔夜に見つかり、それ以来こういった仕事の後は朔夜の家で待機することにしている。
隣の家同士なのでどんな影響が出るのか心配だったけどありがたいことに古道具を保管しているのはうちの敷地内でも朔夜の家とは反対側にあり影響がほとんどなく、そして心配するお親父とお袋のお願いもあって朔夜の所で待機するようになった。
まあ、最近じゃ甘えすぎだなと反省してファミレスとかで時間をつぶしていたけど、悔しい事に朔夜の料理スキルが高くてほかの所で待機するという選択が出来なくなった俺の卑しい胃袋を叱ってやりたい。
とはいえ……
「ごちそうさまでした」
「今日も見事食べつくしたな……」
「大変おいしゅうございました」
何時もの通り夢中になって食べるものがなくなった所で手を合わせて感謝をする。
「まあ、おばさんから夕食代後からもらうからいいけど」
苦笑する朔夜はいつこうやって俺が来ていいようにと必ず明日の昼ご飯分を用意するようになったぐらい厄介になる俺達は高校時代のあの一件をもう許し許されたと思うのだった。
そんな簡単な話ではないという事を俺達は知りもしないでいのに……
「嘘、なんで取れないの?!
いったいこれ何よ!」
頭からシャワーを浴び続けて指先がふやけているのに足に浮かび上がる模様を消そうと何度もごしごし洗い落とそうとするもそれは消えることなく……
「ほんとに何なのよ!!!」
自分の身に起きた異変に目元から流れ落ちたのはシャワーのしずくかかそれとも……
「シャワーのお湯が熱いだなんて、お水じゃ体冷えちゃうのに!!!」
こんなの誰に相談すればいいのかなんて、体を抱きかかえて震えるのは恐怖か水の冷たさか顔を真っ青にして一人震えていた。
「藪から棒にいきなりなにを。っていうか今夜うちカレーだぞ」
「やった。朔夜のカレーライス大好き。
とにかくごはんも大盛りで温泉卵もよろしく」
「ったく、明日の俺達の昼飯を満足するまで食べるがよい」
いいながらまだ室内のカレーの匂いが残る所からご飯を食べ終えたばかりなのだろう。
耳をすませばシャワーの音が聞こえるあたり七緒はお風呂のようだ。微妙過ぎるタイミングに来てしまったなと思いながらも今はともかく空腹で胃がしくしくして匂いにつられて全力でカレーを求める状態。
勝手知ったる他人の家の食器棚からコップとスプーンぐらい取り出して準備する程度のお手伝いはする。
むしろそれぐらいはやれと言うのが朔夜の俺に対する躾。
いや、朔夜のじいさんの躾だけどそれは今も俺達の間で生きている俺と朔夜のじいさんの思い出だ。
「それにしてもずいぶんお疲れのようだな。って、この時間にその恰好、営業か?」
「んー、今回の仕事の下調べ。
親父が俺を外すわけだよ。思ったよりも性質の悪い案件らしい」
言えば朔夜の表情が硬くなる。心配の色をともした声音で
「そういうの久しぶりだな」
なんて冷蔵庫からレタスとトマト、キュウリを取り出しサラダでも作ってくれるようだった。
どの家の冷蔵庫にある野菜だけど俺は朔夜が合わせるドレッシングが好きでできるまでこれで待てという様にご飯をてんこ盛りによそってくれて、おかげで少ししかカレーをかけることが出来なく食べながらカレーを継ぎ足すスタイルを遂行させてもらう。
因みにこれは朔夜の家での食べ方なだけで、家では母さんが顔を歪めるからちゃんとお替りを繰り返している。これが親の教育と友人の教育との差だというように目の前にはまだたっぷりと残っている温めなおされたカレーが鍋に入ったまま鎮座していた。食べ放題、ありがとうございます!
「まあ、詳しくは言えないけど屏風絵だったものを息子さんが掛け軸に仕立て直したところから怪異が始まったらしい」
「なるほどねえ」
その絵が何かなんてそこは言わない。
高校時代、心霊スポットの廃墟巡りをして俺がこんな体質になった一端をこいつは今でも自分のせいだと思い込んでいる。
あまりクラスメイトとかかわりがなかった俺だけど、高校三年の夏休みを受験だけで終わらすのは寂しいからと言ってクラスメイト達のと思い出ではないが誘ってくれたのが朔夜だった。
クラスメイトは佐倉が来るのかよと言うように半信半疑だったようだが、半ば朔夜によって拉致られる様に参加されられたのをみてはクラスメイトもびっくりな当時のこいつの強引な所でクラスのリーダーみたいな性格のおかげだ。
もっともその後取り返しのつかない出来事が俺の身に起きたのだが
……
それはそれでうちの稼業的には問題ない。いや、やっぱり仕事の影響しているという時点で大問題なのだ。
古道具に憑りついたたくさんの思いを秘めたモノたちを癒してあげるなんて考え自体がおこがましい事で思い上がりもいい所だという事だろう。
あの事件の後変わってしまった体質に何度も倒れたり救急車で運ばれる様子を見るたびに浮かべる朔夜の後悔で死にそうな表情は今も思い出したくないくらい酷い物で……
そんなきっかけで大学の四年間は俺の変わった体質について何度も頭を下げる朔夜から逃げるようにアパート暮らしをして古道具の修復に集中することが出来た。
四年と言う時間から俺達に距離を置いてくれたように思え、それからは朔夜が負った心の傷をいやすように一日ずつ俺の無事を伝えるように幼いころのように友情を確かめていればある日俺たちの間に小さな女の子が飛び込んできた。
七緒。
突然両親を亡くし悲しみに明け暮れる彼女を祖父であり渡り鳥のマスターが数ある親戚の中で誰も引き取らなかった彼女を引き取ったのだ。
それからは女の子の育て方が分からないとお袋を何度も頼る様になり、俺はこの体質で朔夜に迷惑をかけないようにするために一定の距離を取っていたけど……
結局の所、俺が朔夜に顔を合わせづらいだけでいつの間にか渡り鳥の常連になっていた。
まあ、昔は勝手口から入っていただけで今は店側から入ってるだけの違いだけど。
今もあの日の出来事に負い目を感じる朔夜に気にするなという様に俺は常連になった。あいつの作る飯を食べに来ることであの日の出来事をなかったことにはできないけど少しずつ俺達が向き合う様にするようにしている。
そして今日みたいな日、障りに触れると俺みたいな体質の人間は何処か生臭い臭いを体に纏わせてしまう。
数時間程度の問題なのだが、この臭いを持ち帰るとうちに保管してある何かが憑いた古道具たちに悪影響を与えるのですぐには帰らないようにしている。
下手な所でうろつくとこの古都に住み着く目に見えないモノたちに影響を与えてより匂いが強くなってしまうので家のすぐそばの公園で時間をつぶしていた所を朔夜に見つかり、それ以来こういった仕事の後は朔夜の家で待機することにしている。
隣の家同士なのでどんな影響が出るのか心配だったけどありがたいことに古道具を保管しているのはうちの敷地内でも朔夜の家とは反対側にあり影響がほとんどなく、そして心配するお親父とお袋のお願いもあって朔夜の所で待機するようになった。
まあ、最近じゃ甘えすぎだなと反省してファミレスとかで時間をつぶしていたけど、悔しい事に朔夜の料理スキルが高くてほかの所で待機するという選択が出来なくなった俺の卑しい胃袋を叱ってやりたい。
とはいえ……
「ごちそうさまでした」
「今日も見事食べつくしたな……」
「大変おいしゅうございました」
何時もの通り夢中になって食べるものがなくなった所で手を合わせて感謝をする。
「まあ、おばさんから夕食代後からもらうからいいけど」
苦笑する朔夜はいつこうやって俺が来ていいようにと必ず明日の昼ご飯分を用意するようになったぐらい厄介になる俺達は高校時代のあの一件をもう許し許されたと思うのだった。
そんな簡単な話ではないという事を俺達は知りもしないでいのに……
「嘘、なんで取れないの?!
いったいこれ何よ!」
頭からシャワーを浴び続けて指先がふやけているのに足に浮かび上がる模様を消そうと何度もごしごし洗い落とそうとするもそれは消えることなく……
「ほんとに何なのよ!!!」
自分の身に起きた異変に目元から流れ落ちたのはシャワーのしずくかかそれとも……
「シャワーのお湯が熱いだなんて、お水じゃ体冷えちゃうのに!!!」
こんなの誰に相談すればいいのかなんて、体を抱きかかえて震えるのは恐怖か水の冷たさか顔を真っ青にして一人震えていた。
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