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そわそわタイム? 4

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「主ー! 助けてー!」

 今日も悲痛な声が響く朱華のおうちの庭先ではどこからか現れたアライグマに真白が追いかけ回されていた。
「真白頑張って!おうちの中に入れば大丈夫だから!」
 なんておうちの中から玄さんと岩さんが大声で応援していた。
 まだ玄さんと岩さんは内の軒先で日向ぼっこタイムの出来事。
 だからすぐにおうちの中に入って難を逃れたけど真白はパトロールに夢中で気付くのが遅れて……
 朱華は真白が襲われている間に玄関から家の中に逃げ込むことに成功。
「真白ーっ!!!」
「ん、にゃーっっっ!!!」
「あ、食べられちゃった」
 見事捕獲されてあっという間にお口の中に消えていった真白をみんなで見送り……

「アライグマ嫌いー! いつも真白の事追いかけてくるんだもん!」

 直後、真白は真白の本当の姿が描かれた掛け軸からぴょんととびだしてきた。
「ひどい目にあったー!」
 ぷんす! ぷんす! と怒りながら真白は畳の部屋に戻ってきた。
「お帰りー!」
「またいつものアライグマだったね」
 玄さんが窓から外を見れば食べたはずの真白が口の中から消えてきょろきょろとしている様子。
 岩さんとそろって外を眺めていれば餌がない庭にいつまでもいるはずのない野生のアライグマ。すぐに森へと消えてしまった。
 そんな様子を真白はじーっと窓から顔だけを出して眺めながら確認して薄暗い部屋の中へと戻る。
 家の中はしんと静まり返って、寒い。
 暖かくて明るくて美味しい匂いに幸せがいっぱいで、そしていつもそばには大好きな主がいるおうちとは違いすぎて寂しくて涙がでそうだけど……

「ほら、怪我するといけないから気をつけろよ」
「まったく心配させやがって」

 なんて玄さんと岩さんが主を思い出して涙が出そうな真白を主がいつも言っていた言葉を使って慰めた。
 今にも泣きそうだった顔の真白はパーッと顔を花咲かせるように

「今日は主ごっこするの?!」
「ふふふーん。今日は主が言った言葉だけの勝負です!」
「負けたら主の物まねの罰ゲームです!」

 そんな玄さんと岩さんの提案。
 冷静になればどれだけ主が大好きなんだよと突っ込みたいけど悲しい事にここは突っ込み不在の主マニアの屋敷。
 主の知らない所で主の言葉を覚えた付喪神によって主がいれば赤面の物まね大会が繰り広げられていた。



 主大好き付喪神の主の物まねパーティをしていれば一台の車が家の前に止まった音が聞こえた。

「あれーお客さんだ」
「実桜たちはもうお庭のお手入れ終わったから来ないはずなのにね」

 なんて今日はアライグマが出たのでそろって警戒するように家の中から顔だけ外に突き出して外の様子を眺めていた。
 
「ええと、住所…… 見てもわかるか! 写真は、写真どおり。って、あ、お庭綺麗にしてくれている」
 
 車は玄関近くに止まり降りてきた主より若い男が車のドアを開けっぱなしのまま庭に回り込んで綺麗になった庭を散策していた。
 所要時間一分程度。
 庭の象徴と言うべき二本の梅の古木を見上げ、寒すぎてまだ蕾の固い梅の木だがもうすぐこの長い冬が終わりを告げるという様に淡い色をのぞかせていた。
 男はその梅の木に少し笑みを向けて車に戻り荷物を持って
「さてと」
 ポケットから鍵の束を取り出して
「お邪魔します」
 玄関ガラ堂々と家の中に入って来た。

「うおっ! 家の中に入って来た!」
「おい! ここは俺と主の家なんだけど!」

 なんて見知らぬ人間にしり込みし訴えるも小声で何とか伝えるだけ。
 姿かたちからわかる様に主がいないと小物になるのはここの家に来て以来命をかけての負けが続いているから。そして残念な事に主ごっこの影響がまだのこっていて普段使わないような言葉を使っている事にも気が付かないでいた主に似た口の悪さがちぐはぐな残念な付喪神になっていた。
 だけどビビって小声の朱華たちには気付かない男は鞄と段ボール箱を杉の無垢材で出来たフローリングのリビングに置いてルームツアーに出かけてしまった。
 トイレ、お風呂、キッチン、そして二階。他にも二つある部屋や納戸を確認したりしながら換気のために窓を開けてリビングに戻り、真新しさが残るリビングの杉の香りを胸に吸い込めば梁の走る高い天井を見上げふと視線は客間と言うか一つの和室へと視線を向けていた。

「やっぱり仏間なんだよな」

 主が新しく作ったのだろう床の間には掛け軸や置物が置いてあった。
 この家の主とゆかいな仲間たち四神セットと銘打っていることは知らないだろう。

「この家の大家さんの趣味だろうか」

 じーっと眺める男に朱華はどんな扱いをされるのかハラハラしていたが

「これ絶対俺じゃ買えないお高い奴だろうな。まあ、しばらくは眺めさせてもらおうかな」

 手を伸ばしかけた所ですぐにひっこめて一歩下がり
「やっぱりここって仏間なんだよな」
 いくら作りを変えても残る記憶の匂いと言うのだろうか。田舎の中古物件と縁が切れない何かの匂いを感じとればどこからか、家じゅうから視線を感じてしまう様に視線をめぐらせ……
 台所に向かい、朱華が言うには前の住人が置いて行ったコップを食器棚から取り出して、今朝水道屋さんが水道を開けていった台所でコップを洗っていた。
 何をするのか興味津々で隠れながらその様子を見ていれば、台所の机の上に置いた荷物からお菓子を取り出して菓子皿の上に置いて仏間へと向かっていった。
「本当ならお花があればよかったんだろうけどな」
 言いながら男は仏壇があった場所にお水とお菓子を置いて

「挨拶が遅れましたが、これからよろしくお願いします」

 手を合わせて何もない仏壇が置いてあった場所で挨拶をする男に

「いい人だね」
「主が言っていた新しいここに住む人かな?」
「だったら俺達の後輩だな」

 玄さんがそっと朱華に言えば朱華はこくこくと嬉しそうに頷き、真白はまだまだ主ごっこに影響され続けていた。
 そして男は簡単な荷物を片付けて久しぶりに大きく広げられた窓から濡れ縁に足を放り投げまだまだ早い春の陽気を受け止めながら
「早くなじめると良いな」
 少し疲れた様子のある男だけどお菓子とお茶を堪能する背後で朱華と緑青は台所に残されたお菓子のまんじゅうをこっそりと持ち出すのだった。
 

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