上 下
299 / 319

新しい入居者がやってくるそうだ 3

しおりを挟む
 雪の降りが少なくなり、日差しも暖かくなりだすころ暁達は京都に帰ることになった。
 そして俺も一緒に行く予定をしていたが肝心の九条家の方で少々問題が起きたので少し落ち着いてから改めて訪問する約束になった。
 志月さんの事でいろいろ手をまわしてくれた暁のおばあさんの体調がすぐれずに入院という事となり、急遽お見舞いに行くことになってそのまま京都に帰ることになった。
 あわただしく連絡を受けたそのまま荷物をまとめて帰ることとなり
「晴朝帰っちゃうの?」
「晴朝また遊びに来る?」
「陽菜乃も帰っちゃうの?」
「陽菜乃もいないと寂しいね?」
「志月がいないのは寂しいけど暁はいなくても大丈夫だよ?」
 時々腹黒さを出す玄さんの言葉。思わず頷いてしまったが
「玄さん。暁がいなくても大丈夫だなんてことは心の中で思う言葉であって口に出して言ってはいけません」
「おい綾人。お前もたいがいだぞ」
 なんてだしにされている暁が半眼で睨むも
「なにを言ってる。本音と建前という事を学ぶにはちょうどいい教材じゃないか」
「だから俺を使うな」
「志月さんだったらいい?」
「俺を使ってください」
「だって。やったね玄さん!」
「やったね主!」
 いえーいと綾人の指先と玄さんのおててでハイタッチ。
「お前は、玄さんに何を覚えさせてる」
「普通に文化を教えてるだけだよ。
 コミュニケーションはまずは挨拶から、そして共感だ」
「お前が言えば言うほど白々しいな」
「ちゃんと人を選んでやってるだけだ」
「全員にやってくれ!」
 なんて騒々しい帰宅。
 三月となれば道路もだいぶ凍らなくなり綾人は四人を車に乗せて持っていけない荷物は宅配で届ければいいと段ボールに詰めたものも一緒に車につめて麓の駅まで送ることになった。
 突然帰ることになったので晴朝はともかく陽菜乃がいつまでも玄さんを抱きしめて離さなかった。
 騒々しい真白や朱華と違っておっとりした玄さんと玄さんのペースに合わせることのできる岩さんが陽菜乃のお気に入り。
 おかげで志月さんの蛇への苦手意識がすっかり、というわけではないが岩さんに対してはなくなったのは良い傾向だと思う。
 さりげなく傷ついていたけど最後は一緒におやつが食べられるようになってすっかり苦手だったころを忘れてしまったのは何よりの収穫。
 人が成長する瞬間に立ち会えるのは自分も成長した気になる素晴らしい瞬間だと思っている。それを見て自身も何か一つ乗り越えることができるのではないかと。
 まあ、それで俺の虫嫌いが克服できたわけでもないけど苦手意識は少しずつ薄くなってはいる。はず。
 まあ、深く考えるのはやめて
「陽菜乃、玄さんがかわいくて連れて帰りたい気持ちはわからないでもないが、玄さんは主の俺から離れたら強制的におうちに帰ることになるから。連れて行ってもバイバイする事になるんだぞ?」
「玄さんは陽菜乃と一緒に陽菜乃のおうちに行くの!」
 なんてぎゅっと抱きしめていれば
「じゃあ、陽菜乃が玄さん達と一緒にこのおうちに残ろうか?」
 そんな志月さんの提案。
「いや!」
 そういって玄さんを抱きしめながら志月さんの足に張り付く陽菜乃」
「これは手ごわい」
 なんて笑ってしまったけど俺はしゃがんで志月さんの足に張り付く陽菜乃に
「大きくなって陽菜乃がお嫁さんになってここに来ればいい」
「いや!」
 分かってた答えに思わず笑ってしまう。
 そしてものすごくいい顔の暁にムカつく。
「陽菜乃はお父さんと結婚するんだよな!」
 なんてどや顔の暁に志月さんも苦笑するその言葉に
「いや!」
 これには俺もバカな大人を見ていた晴朝も大笑いだ。そして
「玄さんとするの!」
 まさかの初恋は玄さんだった。
 いや、その前に玄さんが男の子か女の子かもわからないし。だけどその前に少し嬉しそうな顔をする玄さんと絶望的な顔をする岩さん。
 あ、これが三角関係か……
これはどうなると思ってみていれば岩さんが陽菜乃をよじ登って玄さんを抱きしめている腕へと絡みつく。
「岩さんもついてくる?」
「玄さんは岩さんの」
「じゃあ岩さんも陽菜乃のだね」
 三角関係ではなくまさかのジャイアニズム。
 みんな一緒と玄さんと岩さんを抱きしめれていれば
「だめー!」
 そういって参戦したのは緑青だった。
「ろくちゃんもうちの子になる?」
両手がっぱいの陽菜乃はキラキラしたおめめで一緒に行こうと誘うも
「玄さんも岩さんも主の子なの!」
 だからだめー!と必死になって玄さんと岩さんを抱っこする手を引き離そうとするも陽菜乃の力にも勝てない緑青。
 やがて
「玄さんも岩さんもこのお山の子なの!緑青と一緒に主のお世話するの!」
 ぽろぽろと泣きだす始末。
 さすがに玄さんも岩さんも一緒に行くとはもう言えなくなり
 「玄ここで陽菜乃とバイバイするね!」
 なんてポトリと陽菜乃の腕から飛び降りた。いや落ちただけだけど、それを見て岩さんも
「陽菜乃またね!」
 これまたあっさりしたものだった。
 そうしてめそめそと泣く緑青に一緒だから泣き止んでという玄さんと岩さんに今度は陽菜乃が志月さんの足にしがみついて「うええぇぇぇ……」と言葉もなく泣き出してしまった。
 仕方がないわねと志月さんが抱っこしてそのまま車に乗り込めば
「じゃあ、暁達駅まで送ってくるからいい子で待ってろよ」
「「「「「はーい!」」」」」
 そんな別れ。
 晴朝は陽菜乃の様子を見て一緒に行こう!なんて言え出せずに最後と言わんばかりに真白をもふもふして朱華の羽を頬ですりすりするという愛情表現。ほんの数歳の差がこうなるのかとチビ達に留守をお願いして駅へと向かうのだった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜
ファンタジー
 林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。  死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。  貧乏男爵四男に。  転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。  そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。

処理中です...