家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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飯田家の事情 7

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 それからみんなで電車に揺られてちょっとした旅行気分を味わった。
 若干一名顔色が悪いがそんな些細な事を気にする綾人ではない。
 新幹線で移動の間に綾人はしっかりと五人の利用のタクシーを予約して京都駅で新幹線を下りた後はまっすぐタクシー乗り場に向かい、そのまま飯田家へと直通で向かう。
 きょろきょろする植田や水野、陸斗の好奇心には申し訳ないが一刻も早く楽しく観光するのなら今にも吐きそうなほど顔色の悪い庵の問題を終わらした方が良いと脇目もふらずに足を進めた。
 乗り換えの駅でいつものようにおやつも買って新幹線の中で堪能したので綾人的には何も問題はない。
 強いて言えば伊勢名物なのに電車の乗り換えで遠く離れた場所でも購入できる赤福にはやっぱりそれなりに美味しいお茶が欲しいと思ってしまう所だろうか。
 一応お土産にも買ってあるので飯田さんに入れてもらおうという下心はある。
 ただこの流れだと美味しいお茶を淹れてもらえるだろうかそれだけが不安だった。

 そしてやってきた飯田家。
 タクシーは案の定お店側に寄せてくれたのでその立派な門構えを呆然と見上げる植田と水野、そして陸斗にやっぱりこれぐらいのリアクションが欲しかったんだよと少し満足げに笑みを零せばどこからかワンワンと言う鳴き声ではなく

「主ー!」
「主ー!突然の訪問いかがなされましたー?!」

 真っ白の首周りがふわふわな狛犬の付喪神のしいさんとこまさんが全力の駆け足でやって来た。
 おっかなびっくりと言うように門の内側に首を突っ込んで覗いている三人とそんな微笑ましいと思える姿にやっと笑みを浮かべた庵から少し離れた所で
「飯田さんにお話があって来たんだ。
 皆は居るかな?」
「揃っておいでです」
「お料理の下ごしらえをしてございます」
 確かにそんな時間だな。そしてもうすぐ飯田家の少し遅いお昼の時間。お仕事の邪魔をしないようにこの時間を狙って来たし、俺達の分は乗り換えの時に弁当を買ってあるのでそれで済ませるつもりだ。
 きっと飯田さんはいい顔をしないが、お父さんがすぐそばにいるのだ。仕事には飯田さん以上にシビアなので限られた時間の事を考えれば飯田さんには何も言わせないのだろと思っておく。 
「今日は視えない人たちばかりだからかまってあげれなくてごめんな」
「主のお顔が見れたので十分です」
「後ほど鈴さんと次郎さんを挨拶に向かわせます」
「ありがとう」
 そう言ってしっぽふりふり全開な二体に軽く頭を撫でてあげればすぐにしいさんとこまさんは鈴と次郎さんを呼びに家の中へと戻って行った。
 まあ、今回はお客様じゃないので
「おら、玄関に向かうぞ。
 水野と植田は庵を逃がさないようにしっかり掴んでおけよ」
「もちろん!」
「すでに捕獲済みです!」
 しっかりと水野が腕を首に絡めて逃げたそうな庵を捕まえていた。
 これはこれで逃げたいな、なんてかわいそうにと思いながらも俺は陸斗にこっちだぞーと呼び寄せて壁沿いにぐるりと回りこんで母屋の玄関がある方へと向かう。

 店側にも負けず劣らずの純和風の門構えのある家をまた水野達は口をぽかんと開けたまま見上げれば脇の通用門に設置してあるチャイムを綾人はピンポンと鳴らして通用門をくぐり、さらに玄関をがらりと自ら開ける田舎スタイルで突撃していた。さすが綾人容赦なし、感心を通り越してただ見守る事しかできなかった庵だった。

「こんにちはー、お邪魔します」

 素晴らしくいい声での挨拶に植田も水野も陸斗も何も思わない顔で綾人を真似るように『お邪魔します』と玄関に入っていくそれに引っ張られる形で家に入る形になった庵はさすがに目を点にして黙り込んだ。
 こういっては何だが自分の生家が数百年続くそれなりに歴史のある家で代々名をとどろかせる名店だという自負がある。
 母屋の方にだって訪れる人は門前に立って家人が顔を出すまで待っている位敷居の高い家だと思っていたのにだ。
 まるで駄菓子屋にでも足を運ぶようなノリで家に帰る事になるとはさすがに想定外だった。
 この段階で兄さんに怒られる事は決定だと俺の兄だと言うのに親父に似て迫力のあるあの眼光が子供の頃から苦手だった。
 今でこそにこにことした優し気な雰囲気を出しているのに一緒に暮していた頃は親父に似た無口で視線の鋭い人で正直怖かった思い出しかない。
 年も離れていたし、いつも店の板場にいた兄さんと遊ぶ事はなく、親父に似た同居人、それが俺の兄さんの印象だった。
 そんな兄さんの足音が家の奥から走ってきて
「綾人さん?!それに皆さんも、一体……」
 と言った所で兄さんは目を点にしていた。
 そんな目で見ないで。
 兄さんの全力の足音に反射的に逃げようと体が勝手に動いた事によって水野さんに立ったまま締め技を決められてる姿何て俺だって見せたくなかったよ……
 綾人さんも振り向いた所で無言になってしまったこの姿に陸斗だけがおろおろと心配してくれていれば
「あらあら、綾人さんいきなりって……」
 母さんもやってきて無言になってしまっていた。
 あまりに静かな様子についに親父まで来て
「なにいつまで玄関で遊んでいる。早く上がりなさい。
 お茶の準備と薫は座敷に座布団の用意をしなさい」
 こんな俺に驚く事もなくいつもの通りの親父の姿が今はこれ以上となく頼もしかった。
 水野はすぐに俺から手を放してくれてしっかりと植田と一緒にしんがりを務めるなか
「突然の訪問すみません。
 今朝うちにも突然来たのでその流れでお邪魔させていただきました」
 玄関を上がる前に綾人さんは親父に忙しい時間にお騒がせしてすみませんと頭を下げて手土産の赤福を渡していた。
 あまりにも無謀なこのスケジュールに親父も呆れたと言うように溜息を零していたが
「昼はどうした」
「お構いなく。途中で弁当を買ってきましたので」
 お時間は取らせませんと言う綾人さんなりの言い方だけど
「薫!何か汁物を用意しなさい」
「はい!」
 遠くから飯田さんの返事が聞こえた。
 この有無を言わさない声のままついてきなさいと言って客間へと案内する中俺は玄関で上がっていいのだろうかと戸惑っていれば
「庵、何ぼーっとしている。
 綾人達が連れてきてくれたのならちゃんとしなさい」
 厳しいながらもどこか心配を含む色合いの声に何かがあふれだしそうになったから声は出せずとも頷いて答えるのだった。



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