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春と共に駆ける 1

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 人と言うのは現金な事に新しい素敵な事に出会うとすぐに触発される生き物だ、と私は思う。
 先日知り合ったばかりの私とどこか波長の合いそうなお姉さまに勇気を絞って私の家にお招きした。
 そして一言

「なかなか前衛的というか……」

 言葉を見つけられなく一生懸命言葉を探す実桜さんは真さんのお庭のお世話をしてる方の上司だという。
 そんな方だったなんてと思っていればなんと我が家の坪庭や裏庭の植栽を整えてくれた方だというのだから大家さんの謎の人脈に感謝するしかなかった。
 折角ご縁が結べたのでお庭のメンテナンスの仕方を教えてもらったり、そんなお話から

「そうですね。せっかく町家造りの古民家に住んで居るのだから生け花とかやってみたいです。お花のある生活って素敵ですもの。
 燈火さんからお話を聞いたのですが、カフェの生け花は実桜さんが管理されているとか。
 生け花とかアートフラワーとかも興味があったけどダブルワークしていたから時間が取れなくて……」

 目の前で話をしていたはずの実桜さんの目が光った事にも気が付かず農協に売ってるお花がかわいい事をさんざん語って、その花を家で飾りたい事を割と情熱的に告白してしまった感じはあるが目の前の出来事を見ていなかった私は周囲の方達がそっと去って行く様子の意味を理解していなかった。

「だったらそれぐらい教えてあげるわよ。
 花器とかはこだわらず家にある食器から始めてみようか」
「食器からでもできるのですか?」
「なんだってできるんだから。
 そうやってお花に興味を持ってくれたら花瓶とかを結奈ちゃんのお家に似合ったものを一つ一つ買い集めて行けば楽しいんだから」

 少し遠くで「だからと言ってコレクションしすぎ」なんて声が聞こえたけど実桜さんとの話と関連しているとは知らない私は思いっきりスルーしてました。
 そんな出会いときっかけからついに遊びに来てくれる事になったのです!
 最近真さんが付喪神様達を連れて遊びに来てくれるので人をお招きする事にちょっとだけ慣れましたが初めて女の子をお迎えします。
 一回り以上年は離れていますが、社会人を一度でも経験すれば年齢なんて些細な問題な事を理解できます。
 なのになんで学生時代は先輩後輩をやたら強調するのかねえ、とそこは友達が少なかったのであまり考える必要はなかったけど、だからと言ってマウント取ってくる人は常に一定数いて残念な人だなと思ったりもしています。
 そんな私の乏しい人生経験の中で実桜さんは優良物件です。
 こじゃれた人と言うわけではないのですが、内から輝く人と言えばいいのか、私のような人間に視えてしまうオーラがいつも澄んだ輝きをしている人に出会うのは滅多になくこういう人の側は凄く居心地がいい事を知っているのでついつい吸い寄せられて行ってしまうのはこの厄介な体質的には仕方がない事だと思っています。
 ちなみにいろんな感情に合わせて色が変わる人のオーラが視えてしまいますがこの街に来て唯一視えなかったのが大家さん。
 この人生きてるのかなと思ったものの付喪神様達の主と聞いて分かりました。
 私より格上の人だったのですね。
 納得できました。
 私如きが推し量れる人ではなかったのですね。
 そう言えるのは大家さんみたいな人を何人か知ってますから。
 前に私が婚約者候補になったお相手様とその婚約者様の座に就いた方とその一族の方達。
 はい。化け物の集団でした。
 今思えばそんな方達と結婚しなくてよかったというか出来るわけないじゃん。格が違いすぎと理解したけど、その後あの甥っ子に

「俺ん所のおばさん婚約者に捨てられたんだって」

 なんて在校生自体少ない小中学校の同窓生にLIMEで暴露してくださいました。
 そう言えば私をいじる為だけに外面だけはよかったんだけど……ねえ、甥っ子よ。
 二十過ぎて小学生レベルで私をいじっても痛い奴だって言うのになんで気がつかないかなあって未だおこちゃまな甥っ子を叔母は生暖かい目で見守る事にした。
 そもそもそれを私に教えてくれたのはかつてあんたが告って振られた相手だよと教えてあげたい。
 いい加減皆さん甥っ子の腐った根性には気づいてくれたようで誰もこの話に乗らなかっただけ大人になったなあと時間の流れを感じていた。
 
 まあ、そんな昔の話はどうでもよくってかなりレベルの高い魂をお持ちの実桜お姉様をお招きするので家の中を綺麗にするという一大イベントが開催されました。
 まあ、二階には上がらないだろうしとベッドルームはかろうじて綺麗になったもののもう一部屋とウォークインクローゼットの状態は内緒だぜい?と多分一生誰にも見せられない部屋が爆誕しようとしています。
 ですが今回は総て一階でおもてなしするつもりなのでスルーして……
 目の前に坪庭を望むキッチンは明るくて私もお気に入りの場所となっております。
 IHキッチンだけど一人暮らしはそこまでガッツリ料理はしないので全然問題ありません。
 何より憧れのアラジンのストーブを土間に置けるこの家の造りがいとおしくて仕方ありません。
 はい。
 世間はかなり春が過ぎ去っているのにやっと春の足音が聞こえてきたこの地域ではまだまだストーブは必須アイテムです。
 会社勤めだったころ蚤市で買ったアンティークの古い大きな椅子に座って本を読むのにこれ以上とないくらい穏やかな時間で、やっとそれが似合う場所に来たと実感しています。

 そんな私の憧れを一階に詰め込んだお家に実桜さんが本日活ける予定のお花をもってやってきてくれました。
 春の女神って感じです。
 大福を頂いたのでお裾分けと言って持って来てくれた手土産でさっそくお茶を頂いて、既に我が家を知り尽くしている実桜さんと一緒に切り花に使うお花の水揚げの仕方から教えてもらいました。
 冷たい水で指先を真っ赤にしながらも実桜さんはとても丁寧な手つきでいらない葉っぱの処理まで教えてくれました。
 丁寧な手つきに感動しながらも私も隣で教えてもらいながら拙い手つきで真似をするすれば小さな笑い声が広がる素敵な空間になりました。

「じゃあ、活ける器見せてくれるかな?」
 
 なんて言葉に私は同じく蚤市で買ったかわいらしいお花の形をしたサラダボウルを用意すれば

「やだ!この器すごくかわいい!」
「でしょでしょ!蚤市めぐりが好きだからついつい買っちゃうのです!」
「判る!私もお家を解体をする時に時々掘り出し物があって、ついついもらってきちゃうんです!」

 何か恐ろしいほど言葉の距離がある様な気もして二人して一瞬言葉を失うものの

「これだけかわいい器だとテーブルのセンターに飾るようにしようか。
 高さはいつも使うコップより高くならない事が条件だよ」

 何もなかったかのように器を手にしてにっこりと微笑む実桜さんにここが人生経験の差かと心の中で突っ込みつつも用意してくれた色とりどりのお花を手にいざ鋏を入れてからの……

「なかなか前衛的というか……」

 この言葉に繋がった。


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