家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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深山 5

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「待てっ!行くなっ!」

 恐怖に脅えた心でも、それでも緑青達の所に行かせないというように、今さらながら自分が口にした言葉が終わりを告げるものではない事にぐらぐらと回る視界でも這って追いかければ痛みに脂汗を流す大家さんはそれでも通り過ぎようとする俺の足を掴んだ。

「もういいんだ。
 あれでいいんだ……」

 痛みに歪む顔で、涙をこらえるかのような瞳に映る感情なんて俺にはわからない。
 だけど土間に転がりながらあのジジイ達が苔むした階段を上がって山の中に入っていくのをただ眺めるなんて出来なくて。
 だけど大家さんは言う。

「その扉を閉めてくれ」

 意味が分からなかった。

「一体、何を……」

「早く扉を閉めろ!」

 痛みをこらえた代わりに大きな声のそんなよくわからない指示でも恐怖に負けた心はその強い声にさえ竦んでしまい、俺は言われるまま何とか扉に指先をひっかけてあれだけ動かなかった扉をするりと閉ざしてしまった。
 全く意味は分からない事だったけど……

 なぜかこれ以上とないくらいほっとした大家さんの顔にもう安心しても良いんだというように力が抜けてしまった。
 だがそこは人使いの荒い大家さん。

「悪いが食器棚をもとの位置まで戻してくれ」

 更に訳の分からない指示が続く。
 足を折られて脂汗が流れる大家さんは這いずりながらスマホだったものを手に取るも画面が罅だらけどころか歪に曲がっている全く動かないそれを投げ捨てて、何かを探すように意地だけで腕を動かしながら移動をし、玄関に無造作に置かれた段ボール箱から古めかしい電話を取り出した。電話機から延びたケーブルを掴み腕を伸ばすも届かないモジュラージャックを見てまっすぐ歩けなくてもまだ大家さんより自由に動ける俺が代わりに差し込み、そして電源も入れた。
「悪い。それよりも早くあの食器棚をもとの位置に早く戻してくれ」
 指さす閉められた扉に振りむくもそこで気が付いた。

 一見柱のように見えたそれは土壁に埋められた鳥居で、それは見慣れた朱色ではなく真っ黒で……
 あまりにどこか縁起が悪い、とまではいわないけど異端なその姿にぞっとする気配を覚える中「早くしろ」と言う痛みと出血からか顔色の悪い大家さんの言葉に上がり框に手を添わせながらなんとか食器棚の方へと移動が出来て、力を入れれば痛みの走る腕に体重をかけて言われた通り扉の全部を隠すほどの大きな食器棚を元に戻した。
 中身が入ってないから体重をかけるだけで動くけど、この家の出入り口はいっぱいあってここを閉ざしただけでどうするんだよと訳の分からない指示に不安を覚えるけど大家さんは土間に寝ころびながら救急車を二台手配していた。
 その間に無事食器棚を戻せたので一息ついていれば宮下さんにも掛けていたようで、何か話していたけど途中から静かになってしまったのでふと大家さんを見れば意識を失っていて受話器を持ったまま倒れていた。

「大家さん!目を開けてください!」
『九条なの?九条いるの?綾人はどうしたの?!何があったの?!』

 受話器から聞こえた宮下さんの声になんて言い返そうかと思ったものの
「あの、足が折れて、出血がひどくて……」
 説明する言葉がまとまらなくて、改めてこの状況を直視すればどうすればいいかパニックになって涙まで出て来れば

「今から行くから!すぐ行くから待っててね!」

 叫び声をあげる宮下さんの背後からも何があったという心配そうな声がいくつも聞こえてきたけど電話はすでに切られていて静かになったこの家にあの男たちがいつ戻ってくるのかと言う恐怖を覚えてしまえば

「ふむ、主もこんな事になるのなら妾を呼べばいい物を」

 その声に顔をあげれば逆光で顔こそわからなかったけど、背筋の凍るようなぞっとする存在が俺達を見下ろしていた。
 落ち着いた穏やかな美しい声のはずなのに男達と違う恐怖に無意識にガタガタと震えてしまう。

「あとは任せておけ。おんしも少し休むと良い。
 そうそう、一つ頼まれごとをしてくれ。
 あ奴らは任された。ゆえに妾に任せよと伝えよ」

 そう言って伸ばされた手は俺の頭を一撫でして、それすら恐怖を覚えたと同時にくらりと意識が遠のくのだった。



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