家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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深山 4

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 時間と言うのは常に無常だ。
 なのに、なんでこんな時ばかり遅く流れるのかと朦朧とした意識の中で大家さんが抵抗する間もなくぼろ雑巾のようになっていくのをただ何もできないまま涙を流し、手を伸ばして守る事もかばう事も出来ずに見ている事しかできない無力な自分ほど嫌いになれた。
 立ち上がる力のない大家さんは蹴られ、踏みつけられ、口元から、鼻からも血を流している。
 かろうじて体を丸めて防御を取っていたけど、痛みと続く暴力に力は尽きて手足はすでにだらりとして、もう言葉も出せない状態だった。
 それでもあのジジイは足りないというようになお大家さんを蹴っている。

「死ね!死ねっ!
 お前が死ねばあの龍が儂の物になる!
 この眼も耳もすべて、すべて元通りだ!」

 狂ってる……
 いや、憑りつかれていると言うべきか積もり積もった恨みは人を人でなくしていた。
 意識は正常ではなく朦朧としている俺だけど、何とかしないとと手を伸ばせばふいに目が合ったジジイはニタリと笑みを浮かべて次はお前だ、そんな事を言った気がして伸ばした手を引き戻して無意識に身を縮めて丸くなってしまう。
 最初の一撃以来俺には暴力はなかったがひたすら大家さんが酷い目に合うのを見させられたのだ。
 心折れるには十分だった。
 
 大家さんは最後まで一切弱音どころか悲鳴さえ上げなかった。

 多分それが俺がここまで正常でいられた理由だろう。
 だけどすでに虫の息だというのにぐっと歯を食いしばった口元に大家さんの覚悟も見て取れた。
 なのに折れた心の俺にはいつの間にか負け犬が住み着いていても

「止めてください。これ以上は大家さんが死んでしまいます!」

 呂律もあやしく、ぐるぐると回る視界の中、ジジイと一緒に乗り込んできた男の足を掴んで縋りながら懇願をすれば男達は視線を合わせて下卑た笑みを浮かべた。
 
「叔父貴、こいつは必要ないんだろ?」
「や、めろ……」

 大家さんのかすれた声に俺は自分の置かれた状況を悟ればそれより早く腹に強烈な一撃を覚えて、浮き上がった体が地面に叩きつけられると同時に体中の空気が抜けるようにすべてを吐き出した。
「かはっ!」
「うわっ!いきなり吐きやがった!」
「きったね!」

 男達は楽しそうに笑い声を上げる横で
「くじょ…… 止めてくれ」
 あれだけ痛めつけられたというのに大家さんの発した悲鳴にジジイはどろりとした気色の悪い笑みを浮かべ、大家さんから奪ったバールを手に俺へと振り下ろした。
「やめっ!」
「がっ!!!」
 俺はとっさに動いた腕で頭を守るも、バールは俺の腕に振り下ろされて信じられない痛みに悲鳴を上げてしまえば男達は俺よりも今まで黙って堪えていた大家さんのこの反応の方が面白いというように暴力の対象を俺へと変更したようだ。
 ジジイと若い四人の男達に囲まれる恐怖は言い表せなくて、大家さんに向かっていた暴力が俺に向けられたと思った途端に涙があふれてきて
「ごめんなさい!許してください!」
 まだ一度、二度殴られただけなのに恐怖からするりとそんな言葉があふれ出た。
 それに男達は笑いながらすぐさま頭を守るように、まるで土下座でもしているかのような態勢の俺を蹴り上げ始めれば

「やめろ!九条は何も知らない!」

 そんな大家さんの悲鳴に俺は痛みと恐怖から泣きながら
「大家さん!大家さん!!」
 縋るように名前を繰り返して呼ぶだけのただの小物だった。
「黙れっ!」
 まるでボールのように何度も蹴られてしまえば
「痛い!やめっ!許して下さいっ!」
 直ぐに自身を守るそんな泣きながら叫ぶ俺をあの人達は大家さんがよく見えるように引っ張ってきて

「九条は関係ない!」
「だったら、香炉のありかを吐け!」

 痛みと恐怖の中でも俺は理解をした。
 かわいくて大切だったあの幼い付喪神達がこんな人間の手に渡るなんて許せないと思っていたのに痛みと恐怖がそれを簡単に乗り越えていく。
「大家さん、助けてください……」
 ぼろぼろと涙を流し、血の味のする口で助けを乞うてしまう俺は本当に救いようのない人間だったらしい。
 腫れあがった顔は血まみれで、膝にさえ力が入らない大家さんにカルネアデスの板の様な究極に二択を押し付けてしまう。
 目の前で殺されそうになる俺か、花さんの所に居てまだ猶予のある無力な小さな付喪神か。
 選べない二択なのに目の前の状況を見せながら答えを求めてしまえば……

 大家さんは食いしばった唇から裂けた血を流しながら言う。
 
 緩慢な動作で玄関から正面の扉の奥にある苔むした階段を指さし

「あそこから登った先の道なりに一時間ほど進むと小さな祠がある」
 
 項垂れた顔で、でも歯を食いしばるように、目を瞑って吐露した無念さを含む声にジジイは

「そんな所に香炉があるのか!
 龍の香炉!儂の龍!」

 はーっはっはっはっ!
 完全な敗北を知らせる笑い声に俺は自分可愛さにまた緑青を、今度は玄さん達にもあの恐怖を教えてしまうのかと言う後悔に涙があふれればバールを持ったジジイは大きく振り上げて

「暫くそこでおとなしくしておれ。香炉を確認するまで逃げるなよ」

 力いっぱい振り下ろして……

 大家さんの足がありえない方に曲がったのを目の前で見てしまた。

「があっっっ!!!」

 ついに悲鳴を上げて足を抱え込むようにして土間を転がり蹲る大家さんに満足したのか

「続きは香炉を取ってきてからだ。
 行くぞ!」
「はーい」
「叔父貴、俺蛇の付喪神が欲しい。あの真っ黒の蛇」
「俺は亀でもいいぞ」
「まあ、狸より蛇が良いな」

 笑いながらジジイ達は大家さんが指を示した方へと扉を出て、苔むした階段を上がって行き、それでもこの恐怖はまだ続く事を悟った。



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