人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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短い秋の駆け足とともに駆けずり回るのが山の生活です 4

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 再び竈オーブンの前で飯田さんと一緒に至福のご飯タイム。
「グラタン美味しいですか?」
「もうね!もうほんっと最っ高!」
 トローンと伸びるチーズにも負けず頬張りながら浮かべるし極上の笑みにこれは毎日だって作ってあげたいというもの。
 だけど飯田だって知っている。
 確実に毎日食べ続ける食生活は料理人として絶対推奨してはいけない食生活。
 そしてもっといろいろ美味しいものを知ってほしいと願うのはここの主の幸せがごく薄いもので成り立っているから。
 人間衣食住の環境さえ整えればいいと言うが衣食住の最初の衣類だってどんな高級な服が買えるようになっても基本スウェットやジーンズを愛用してしまうのは周囲が土埃の舞う畑に囲まれているから。
曰く
「いくらいい服着ても烏骨鶏が理解してくれるわけないじゃん」
 基本ファッションを他人に見せることがないために究極の地点にたどり着いてしまっただけの事。
 さすがにお出かけするときは人並みの服を選んでくれるけど、飯田が知る限りほとんどスウェットやジーンズが基本。小山の店に連れて行くときや青山の店に来る時こそそれなりの格好をしているもののそういった経験がなく大人になってしまったのだ。
 不本意だけどそういったことを教えてくれる人に出会えたようでTPOに合わせるようになってくれた。
 いたって不本意な顔をしているけど、城をポンと買って人を雇うよう人にはそれなりの風格をまず服装から整えてほしいと思う。
 油断するとスウェットとTシャツと言う本当にひどい姿。
 三十過ぎたというのにいまだ大学生でも通用する童が……顔立ちに多紀さんが綾人さんを諦めきれない所なのだろう。
 面白そうなのでぜひとも諦めてもらいたくない。
 圧倒的俺がファンなのだ。
 動画を配信する前から見てきたまだ子供らしさを残す顔立ちの頃から見守ってきた自負がある。
 そして何より忘れられない涙を流しながら食べたありあわせの材料で作った簡素な食事。
 直感でこの子は一人にしてはいけない、そんな感を信じて週に一度だけど会いに行く程度がせいぜい俺にできる事だった。だからと来て何ができるかと言えば……
「飯田さん、ごはんいつもありがとうございます!
 ごはん本当においしいです!」
 感涙と言うようにむさぼりながら食べる様にこの子供はきっと家庭で味わう暖かな食事と言うものを知らずに育ったのだろう。

「薫、彼が気になるのはわかるがそこまで入れ込む必要はないだろう」

 あくまでも恩人は彼の祖父母の為に気を使えどほどほどにと言う青山は気が付けば取り返しが付かないほどの恩を先行投資されいつの間にか

「薫、食材が余ったから何か作ってあげなさい」

 ここよりもお客様との交流に厳しい秩序を求める実家の経営方針を見て育った青山のはずなのにせっせと珍しい食材や季節の食材を少しだけ余分に購入して食べさせる方針に変えていたのには高遠から聞かされた時は笑うしかなかった。
 もちろん綾人さんはそれに対して自分が育てた野菜を山ほど賄いに使ってくださいと送ってくれる。
 うちでも食べきれないくらいの量を。
 開き直って俺も山ほど貰うがご近所の料理仲間の所にもおすそ分けをするぐらいもらってしまう。
 おかげで時々お返しを頂くが、大体は俺が山に行く時ではないので仕方がないと青山はそう言って俺達の賄として消費をしている。
 もちろん月餅など日持ちがするものは綾人さんの所に届けるようにする。
 大体が猟友会の方が消費をしているらしいが、そうやって持ちつ持たれつという関係を俺も綾人さんも身をもって体験して学び、孤立しがちな俺達は人との関係を築いていく事を学んでいくのだった。
 食に関しては最悪を極めていた。
 お金には困っていたので食べるものには困っていないようだった。
 なら最悪とは?
 すっかり食に関して興味を失ってエネルギーが取れればいいという考えになっていた綾人さんにはほんとどうすればそうなるのかと頭を抱えたくらい失った食に対する興味を持たせることに奮闘した。
 だけどありがたいことに祖父母との生活と言うかお婆様との生活が心のよりどころだったようでお婆様が作ったような料理をなぞれば綾人さんは嬉しそうに、そして懐かしそうに目を細めながらびっくりするぐらいたべてくれるのをヒントに興味を引き出すことに成功した。

 もちろんそこには綾人さんの大好物のポテトグラタンも存在する。

 しかしポテトグラタンには曰くもある事を彼は知らない。



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