人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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一日一歩、欲張ったら躓くだけなので慌てる事は致しません 3

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 浩志を連れて家を戻ったらまずはウコ達の歓迎にあった。
 相変わらず車の音にビビって逃げまくり、その後何か美味しい物がないかとすり寄ってきて、それにビビる浩志に良いぞもっとすり寄って行けと言う様にミルワームを投げつけて絶叫させるのを楽しんだ。
 とは言えウコもチキン。
 絶叫にビビって逃げて行くチキンぶりにそれでこのチキン達と最近ではあまりしなくなった遊びに俺はほっこりと癒される。
 いつまでもそんな事で遊んで居られないので
「ほら、部屋が整うまではここでいいだろ」
 囲炉裏の部屋から土間を挟んだ元使用人のザコ部屋。 
 台所の隣、囲炉裏は塞いではあるがそれだけの部屋。
 後輩達を無事就職させてからはあまり使われる事の無くなった部屋を浩志に使わせる。
「そっからの2階も使っても良いけど階段が急だから落ちるなよ」
 病院は遠いからなと付け加えれば
「一度見に行っても?」
「ああ、そうか……。上に上らせてもらった事ないのか」
「うん。浩志は小さいから上がっちゃだめだって」
「見に行っても面白い物はないぞ」
 何か期待されても困るからという様に付け加える。
 ととととと……
 軽快な足音にどのあたりを歩いているのか見上げていれば窓の辺りでしばらく佇んだ後また軽い足音を立てて階段を下りてきた。
「畑が良く見えるんだ」
「眺めは良いんだけどな」
 そこは俺も思う所。
「なにもないね」
「後輩達や猟友会の人が泊まりに来た時にここで寝かせているから」
「客間……」
「お客じゃないから。ちなみに客間に客を泊めるとトイレまで遠いって不満があるから、お前の部屋を準備出来るまでここな」
「部屋って……」
「二階がいいんだろうけどさらにトイレが遠くなるからジイちゃんとバアちゃんの部屋を片付けるからそこでいいだろう」
 個室になってるからプライベートも確保できてるし何より寒くない。いや、土間横の部屋と比べてだけど。
「あのさ、爺ちゃん達の部屋は俺にはもったいないから……」
「勿体ないとかじゃなくってここは使うからお前の個室にはできないって話しだ」
「だったら二階の部屋でも……」
 居間の上を指さすが
「二階を散らかせたくないから却下だ」
 他にも貴重な貰い受けた物が置いてあるのだ。触らせたくないし見せたくもないから二階自体に上げるのを俺は拒絶をした。
「とりあえずベットのマットレスは交換しようか。ベット自体は十分使えるから別にいいよな?」
「うん、あ、はい」
 聞きながらスマホでポチポチとお買い物。
「あと、明日スマホ買いに行くぞ。ここじゃ連絡手段として必須だからな」
「ええと、だけど俺……」
「就職するまでは面倒見てやる。俺が言ったんだ。気にするな」
「なにからなにまでありがとうございます。
 住民票の移動から、年金まで……」
「年金は自分の為の物だから気が向いたら返してくれればいいから」
 居場所がないと言うように身を小さくしている浩志に俺は溜息を吐いて
「とりあえず今週は身の回りを整える事に時間を使う。
 後高認取るのに十一月までにはどう考えても間に合わないから来年の八月もしくは十一月を狙うぞ。そんでもって専門なり大学なり進学して高認卒の学歴に上書きする。高認だと結局の所は中卒扱いだから。そこまでがお前の当面の仕事だ」
 言いながら俺はお茶を入れる。
 浩志は物珍しそうに台所に入って使用感たっぷりの竈を見たりタイルの貼られた流しを懐かしそうに触ったりしていた。
「あとお前の生活は朝五時、慣れるまでは六時起きで畑仕事と山仕事を手伝ってもらうぞ。判ってるだろうがこの家では働かざる食うべからずだ。子供の頃は遊ぶ事が一番の仕事だったかもしれないけど、もう大人なんだから陽が出ている間はこの家の維持を手伝え」
 言えば苦労して来ただけあってすぐにはいと返事をする。
「お前の勉強は飯を食ってからみっちりやるぞ。後雨で外で仕事できない日もやるから。あと将来何をやりたいかはまだ考えられないだろうが一応やりたい事を考えておけ」
 食器棚の片隅からチョコレートやクッキーを取り出してそれを並べて出してやれば
「お菓子……
 婆ちゃんが好きだったやつ。来るたび何時もこれだったね」
 懐かしそうに目を細める浩志に俺は甘いチョコレートなはずなのに舌の上に溶けて行くのを苦く感じた。
 



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