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立ち止まっても上を向こう 2
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背中をトントンしてくれる。
子ども扱いされているようで悔しいけど、実際アヤトから見たら本当に子供なのだから仕方がない。
アヤトの前では転んで、泣いて、雪だるまになって。
ほんと子供で相手にされないのが当然だと思った。
だけどこの腕の中が気持ち良くて、すぐに涙なんか引っ込んで。
「落ち着いたな」
「もう、子供扱いして。
それよりあやすの上手だよね……」
ひょっとして大人だから子供がいるとか……
いや、でも独身だし。
いやいや、結婚して離婚したと言う事も考えられる。
いやいやいや、離婚して独身になっても子供がいるって言う事も考えられるし……
母親に親権持たせて自分が留学ってとか……
一瞬にしてそんな妄想を掻きたてたカティだったが、アヤトに頭をなでなでされながら
「知り合いの子供が泣いた時こうやるとすぐ泣きやむんだ。
その後しばらく抱っこか肩車コースに突入になるけど。
抱っこも肩車もあれだ、負荷トレーニングとしては絶対落とせないから緊張があっていいよな。しかも動くから足の踏ん張りも半端ないしな」
ただの妄想で済んでよかった。
少し恥ずかしく顔を赤らめてしまうも、この様子なら子供とかは居ないだろう。
大学四年目になってから話をするようになったので周囲が当然知っている事を知らないと言うのは多々あるのが少しだけ悔しい。
その後落ち着いた私に綾人は紅茶を一杯淹れてくれて、それが悔しいほどおいしかったので今度は私が淹れようと思う。
「今の所カティは俺のお客様として滞在している」
という言葉から始まった会話に私は背筋を伸ばして正しい姿勢で話しを聞く。
「だけどカレッジも卒業して、働いて、自分を養わなければならない。
ご飯を食べる。当たり前の事だが、その為には稼がないとご飯は買えない」
「つまり私も働かなくちゃいけない」
そうだと頷くアヤト。
だけど卒業したらすぐ結婚の予定だったので、就職活動何てしていなかった。
一度は社会に出て働きたかったけど
『何も働く事をしなくても良いんだ。稼ぎは十分ある。家を守ってもらいたい』
何て当時は判らなかったが今ならわかる。社会的に孤立させ、人と距離を置かせ、飼い殺しにしようとしていたのだろう。
一緒に住むわけでもないのにと思ったけど、それさえ聞けなかった私が一番悪い。
ギフテッドの子供達は何かが突出している分、何かが欠如している場合が多い。
私の場合は自分の事を上手く表現する事が出来なかった。
お母様はこんな私に社交性を身に付けさせる為に寄宿学校に入れたと言っていた。
でたらめなお父様はその言葉を信じてと言うか、めんどくさい事は一切考えない人だったからそんな言葉をうのみにして反対の一つもしなかったし、私も嫌だが言えずに言われるがままの人生だった。
そんな言われるがままの人生だったのでここにきて改めてアヤトに正面から言われた。
「九月からカティは無職になる。ニートって奴だ。
ようこそニートの世界に」
「くうっ!せめて家事手伝いって言って欲しい」
「現実を見ろ。
この城に家事手伝いの頭数は揃っている。そこを増やすつもりはない」
あまりの無情に涙が流れるけど
「エドガーに研修として仕事を教えてもらってたはずだがどうだ?」
「ええと、この城の財政の管理だよね。今月から一人で収支計算とかやってるよ?
あとオリオールの店の帳簿も付けさせてもらってる。
関係ないけど保険料高いと思うんだけど、何こんなにつぎ込んでるの?」
数字しか見てないので何を買ったのだと言う視線に
「オリヴィエのバイオリンだ。
オリヴィエの師のジョルジュ・エヴラールから晩年買い取ったんだ。
まだオリヴィエに管理するだけの収入はないから。税金も安くはないから俺が購入する事でオリヴィエの成長を待ってる。
さすが世界指折りのバイオリニストって感じだな」
別に音楽が得意じゃなくても知ってるジョルジュ・エヴラールのバイオリンがあるとは思わなかった。
「じゃあ、いつもオリヴィエが持ってるバイオリンって……」
「曲によって変えてるらしいけど、みんなジョルジュのバイオリンだ。
この城よりバイオリンの総額の方がぶっちぎってるからな。バイオリンとオリヴィエの為にこの城はある。
これは一切値切らないようにしてもらいたい」
酷く冷徹な視線にきっと何よりも大切な物なのだろう。
薄ら寒ささえ感じながらも頷けば感情を殺した顔で一つ頷いた。
「そしてこの城は常に人手不足だ。何が必要かって常勤の経理がいない。今の所エドガーがやってくれているが、エドガーだってそれなりの数の顧客を持つ嘘くさくても敏腕な弁護士だ。いつまでも頼ってるわけにはいかないから」
じっと私の瞳の奥そこまで見て
「カティに引き継いでもらいたい。
もちろん仕事としてだ。他にも色々な備品が足りなかったりあるだろうからネットで探して購入してもらいたい」
それなら城を出る必要はないだろう。
その言葉は隠して
「やってもらえないだろうか?」
そんな風に言われなくても私はもう決めている。
アヤトのお役にたちたいと、この数か月何も言わずに滞在させてくれた恩は何かアヤトの為にしたいと言う気持ちで膨れ上がっていた。
だから
「もちろん。エドガーとはすでにそのつもりで仕事を引き継いでいるんだから」
確かな決意を持って言えばアヤトは良かったと言う様に笑う顔はさっきの感情のないアヤトとは別人の、私がよく知るアヤトで少しだけホッとした。
子ども扱いされているようで悔しいけど、実際アヤトから見たら本当に子供なのだから仕方がない。
アヤトの前では転んで、泣いて、雪だるまになって。
ほんと子供で相手にされないのが当然だと思った。
だけどこの腕の中が気持ち良くて、すぐに涙なんか引っ込んで。
「落ち着いたな」
「もう、子供扱いして。
それよりあやすの上手だよね……」
ひょっとして大人だから子供がいるとか……
いや、でも独身だし。
いやいや、結婚して離婚したと言う事も考えられる。
いやいやいや、離婚して独身になっても子供がいるって言う事も考えられるし……
母親に親権持たせて自分が留学ってとか……
一瞬にしてそんな妄想を掻きたてたカティだったが、アヤトに頭をなでなでされながら
「知り合いの子供が泣いた時こうやるとすぐ泣きやむんだ。
その後しばらく抱っこか肩車コースに突入になるけど。
抱っこも肩車もあれだ、負荷トレーニングとしては絶対落とせないから緊張があっていいよな。しかも動くから足の踏ん張りも半端ないしな」
ただの妄想で済んでよかった。
少し恥ずかしく顔を赤らめてしまうも、この様子なら子供とかは居ないだろう。
大学四年目になってから話をするようになったので周囲が当然知っている事を知らないと言うのは多々あるのが少しだけ悔しい。
その後落ち着いた私に綾人は紅茶を一杯淹れてくれて、それが悔しいほどおいしかったので今度は私が淹れようと思う。
「今の所カティは俺のお客様として滞在している」
という言葉から始まった会話に私は背筋を伸ばして正しい姿勢で話しを聞く。
「だけどカレッジも卒業して、働いて、自分を養わなければならない。
ご飯を食べる。当たり前の事だが、その為には稼がないとご飯は買えない」
「つまり私も働かなくちゃいけない」
そうだと頷くアヤト。
だけど卒業したらすぐ結婚の予定だったので、就職活動何てしていなかった。
一度は社会に出て働きたかったけど
『何も働く事をしなくても良いんだ。稼ぎは十分ある。家を守ってもらいたい』
何て当時は判らなかったが今ならわかる。社会的に孤立させ、人と距離を置かせ、飼い殺しにしようとしていたのだろう。
一緒に住むわけでもないのにと思ったけど、それさえ聞けなかった私が一番悪い。
ギフテッドの子供達は何かが突出している分、何かが欠如している場合が多い。
私の場合は自分の事を上手く表現する事が出来なかった。
お母様はこんな私に社交性を身に付けさせる為に寄宿学校に入れたと言っていた。
でたらめなお父様はその言葉を信じてと言うか、めんどくさい事は一切考えない人だったからそんな言葉をうのみにして反対の一つもしなかったし、私も嫌だが言えずに言われるがままの人生だった。
そんな言われるがままの人生だったのでここにきて改めてアヤトに正面から言われた。
「九月からカティは無職になる。ニートって奴だ。
ようこそニートの世界に」
「くうっ!せめて家事手伝いって言って欲しい」
「現実を見ろ。
この城に家事手伝いの頭数は揃っている。そこを増やすつもりはない」
あまりの無情に涙が流れるけど
「エドガーに研修として仕事を教えてもらってたはずだがどうだ?」
「ええと、この城の財政の管理だよね。今月から一人で収支計算とかやってるよ?
あとオリオールの店の帳簿も付けさせてもらってる。
関係ないけど保険料高いと思うんだけど、何こんなにつぎ込んでるの?」
数字しか見てないので何を買ったのだと言う視線に
「オリヴィエのバイオリンだ。
オリヴィエの師のジョルジュ・エヴラールから晩年買い取ったんだ。
まだオリヴィエに管理するだけの収入はないから。税金も安くはないから俺が購入する事でオリヴィエの成長を待ってる。
さすが世界指折りのバイオリニストって感じだな」
別に音楽が得意じゃなくても知ってるジョルジュ・エヴラールのバイオリンがあるとは思わなかった。
「じゃあ、いつもオリヴィエが持ってるバイオリンって……」
「曲によって変えてるらしいけど、みんなジョルジュのバイオリンだ。
この城よりバイオリンの総額の方がぶっちぎってるからな。バイオリンとオリヴィエの為にこの城はある。
これは一切値切らないようにしてもらいたい」
酷く冷徹な視線にきっと何よりも大切な物なのだろう。
薄ら寒ささえ感じながらも頷けば感情を殺した顔で一つ頷いた。
「そしてこの城は常に人手不足だ。何が必要かって常勤の経理がいない。今の所エドガーがやってくれているが、エドガーだってそれなりの数の顧客を持つ嘘くさくても敏腕な弁護士だ。いつまでも頼ってるわけにはいかないから」
じっと私の瞳の奥そこまで見て
「カティに引き継いでもらいたい。
もちろん仕事としてだ。他にも色々な備品が足りなかったりあるだろうからネットで探して購入してもらいたい」
それなら城を出る必要はないだろう。
その言葉は隠して
「やってもらえないだろうか?」
そんな風に言われなくても私はもう決めている。
アヤトのお役にたちたいと、この数か月何も言わずに滞在させてくれた恩は何かアヤトの為にしたいと言う気持ちで膨れ上がっていた。
だから
「もちろん。エドガーとはすでにそのつもりで仕事を引き継いでいるんだから」
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