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予想外は本当に無防備な想定外で俺を巻き込むなと言いたいけど何故あとヨロで済ますと怒りながらも付き合う俺素敵だと思う 3

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「所で綾人、そろそろあの城のコンサートの話ししてくれ」
 蓮司が翡翠餃子を独り占めしながらフランスの城の大ホールのリフォームが完了した時の話しを聞きたがった。
 あの出来事は語るまでもなく動画に上げて爆発的な視聴回数を誇り、初めてのランキングにも上がる事にもなった。しかも生配信を行い俺達の視聴者を始め、彩り鮮やかで豪華なオリオールの料理のファンからオリヴィエやマイヤーのファンは勿論他の奏者のファン、クラッシックの好きな方も覗きに来てくれた。
 なんの気のなしに相手が誰かも知らずに実桜さんがレストランでご招待した人達にも声を掛ければ家族友人職場の人達を集めてお祝いに駆け付けてくれて当然SPもおまけについてくる。他にもこちらで知り合った人達や工事に携わった人たち、そしてやっとロードを招待する事が出来たのだ。年齢からか中々長距離の移動がおっくうになっていたようだが、一度は見に行こうと言ってくれて念願叶った言う所だろう。 
 二人でゆっくりと木陰の散歩道を回り、裏の日の当たらない庭を楽しみ、そして日本庭園も楽しんでくれた。ただまだ作り始めたばかりのバラ園には今後が楽しみだなと言うに留め、いつの間にか育てていた鶏たちを見て小屋へと潜り込んで産みたての卵を手に取りおやつにとオリオールに茹でてもらってとろとろの黄身を幸せそうな顔で食べてくれたのを見て満足ができた。
 そんな大広間の完成には俺が求めたテーブルが連なり、オリオールが食べきれないばかりの料理をふるまい、ジョエルもジェレミーも飯田さんに罵倒されながらも最後まで料理を作りきりオリオールズキッチンのみんなで細やかな心配りの配膳は誰もが笑顔を溢れだす幸せな一時を与えてくれた。
 そして事件は起きた。
 植田と水野が専門学校を卒業した時にこの城に招待をした折に植田がしでかしていた。
 
「オリヴィエ、日本のゲームミュージックだけどバイオリンで弾いて聞かせて?」
 なんてスマホに落とした音楽を聞かせるも
「結構複雑だね。楽譜があれば弾けるから楽譜をくれたら弾くよ?」
 それから植田はすぐにネットを彷徨い楽譜を購入して手に入れて
「ピアノの楽譜しかなかったのですがこんな感じです」
「何この楽譜真っ黒じゃん!
 マイヤーの練習用楽譜と変わらないよwww
 でも、マイヤーより弾きやすいかも。マイヤーの楽譜は本当に意地が悪いんだ」
「へー」
 楽譜なんて全く読めない植田は何言ってるんだろうと聞き流していたがいくら天才とは言え一発で弾けるわけもなく

「オリヴィエー、日本に帰るんだけど」
「ああ!もう?!こんなの二日で弾けるわけないじゃん!ああ、また音が滑ったし!」
 珍しく大声を出して騒ぎながら弾く様子に植田はそーっと屋根裏の練習室の扉を閉め、逃げる様に日本へと帰った。
「植田ごめんね。折角楽譜まで用意してくれたのに満足に弾けなくって」
「俺こそ無理行ってごめんな。
 よかったら弾けるようになったら動画に上げてくれ。かんぞくいくまでまってるから応援してるよ」
 そんな気遣いできるお兄さんと言う顔でオリヴィエとハグをする物の心の中は逃げ出したいと言う様に大泣きだ。
 そんな植田とは違いオリヴィエも植田が弾いて欲しいと言った曲の他にこんな曲もあるんだと置いて行った楽譜を見て何だか泣きたくなった。
 齢六歳にしてプロの世界に飛び込み十年以上第一線でのキャリアを持つと言うのにいくらピアノの楽譜だかと言ってメロディラインだけを追いかけてもキレそうだった。
 情けない。
 たかがゲームミュージック、されどゲームミュージック。ほんの十年と少し前ぐらいに生まれた曲にこんなに翻弄されてどうするとジョルジュを抱きしめていれば
「最近何をしているかと思えばこの楽譜だな」
 言いながらマイヤーがプリントアウトされた楽譜をひょいと拾い上げ
「ふんふん、最近の音楽は随分攻撃的だな」
 クラッシックの業界に身を置けばほんの十数年前はまだ最近の内の様だ。
 ほうほう、なんて呟きながら楽譜ももって何処かへと行ってしまい、楽譜がないので記憶した部分を何度も繰り返す反復練習をしていれば何日かして
「オリヴィエ、前に借りた楽譜をオーケストラ仕様に編集したんだ。
 もうすぐ綾人の大広間の改装も終わるからその時にパーティを開くっていうからその時にお披露目するぞ」
 ポンと楽譜の束を渡された物を見て目が点になる。
「は?」
 慌てて広げてみた編集された楽譜に視線を落としている間にうきうきとマイヤーは仕上がった楽譜を何度もファックスであちこちに流していた。慌てて近くに置いてあった総譜を見ればどれもきちがいじみた様にオタマジャクシがお互いを塗りつぶすように並んでいる。特にパーカッションの所なんか大変な事になっていてこれは叩けるのだろうかと思うもやるんだろうなと思わず息が止まってしまったがすぐにスマホが騒ぎ出したから繋げれば
「オリヴィエ!今マイヤーから楽譜を貰ったが一体どうなってるんだ?!」
「俺だって判らないけどなんかマイヤーがやる気になってるとか?!」
 こんなマイヤー見た事ないと言うもここにジョルジュがいればこう言っただろう。
「こいつはこう言う奴なんだよ」
 寧ろどういう奴?!なんて言う合間に連絡用のチャットの方が騒がしくなってそっちに切り替えれば
「気がふれたのか?!」
「何で今頃になって狂気の指揮者が覚醒したんだ?!」
 なんて叫ぶ声が届くもここ十年ほどしか交流がないオリヴィエは何その狂気の指揮者って思っていれば他にもいたようで
「昔の話だが超絶技巧の曲が好きでこんな曲ばかり作ってはジョルジュに弾かせたりしてついに喧嘩になったんだよ。子供でも楽しく聞ける曲を作れと」
 確かにゲームミュージックだし子供でも楽しく聞けるけどと思っていたら
「なるほど。ついに時代がマイヤーに追いついたんだな」
 このゲームミュージックを知るマサタカの唸るようなコメントの後に動画のURLがリンクされていて
「オリジナルの曲が聞けるから一度聞いてみてくれ」
 そんなアドバイスがありこうなった。
 
 パーティ当日。カジュアルで来てくれと言う案内にも拘らず俺達は正装して淡いクリーム色の壁紙に金色の装飾が施され、連なるシャンデリアの下マイヤーの指揮による煌びやかな曲を奏でていた。
 出演料はオリオールの料理の食べ放題。前日からマイヤーの別宅と合わせて泊まり込んで最終調整。みんな一度は来てみたかったと言うオリヴィエの屋根裏の練習場は打楽器奏者達は楽器を運べずにお預け。マイヤー監修のもとで出来た部屋なのでこの設備がプライベートで使い放題なのを羨む人はほぼ全員。
 出だしさえそろえば何とかなるを合言葉でいざ本番。
 政治家とか貴族とかがいて緊張するけど何故かカメラマンもいた。
 ガチで撮るようにレールの上にカメラをセットしたり幾つものライトやカメラが周囲を囲っていた。
 これはなんだろうとオリヴィエは小首を傾げていたが
『多紀さん本当に来てくれてありがとう!間に合ってよかった!
 こんな豪勢な演奏会を俺のカメラで撮ったら世界中のファンから殺されちゃうところだったー!!!』
『僕は綾人君に貸を貸す為なら南極大陸だってついて行くからね!
 それにしても豪勢だね。朝からずっと撮っていたけどドキュメント番組が撮れちゃうよ。色んな人にもインタビューを取ったし、飯田君のお師匠様にもご挨拶で来て感動だよ。綾人君の方は生配信の方を撮ってもらえばいいから、編集した奴は後で渡すから連絡待っててね』
 二人が話している意味は分からないが綾人も多紀も嬉しそうだから問題はないだろう。
 それよりも集中して演奏を続ける。
 二曲目、三曲目となると大人はともかく子供達は飽きてきて外でサッカーボールをけって遊びたそうにしている。
 だけどそこでマイヤーが最後にと言って古い城がよみがえる様に我々の新たな挑戦と言って件の曲が始まった。
 すっと持ち上げたタクトが振り下ろされると同時に揃って始まった曲はそこから狂気の演奏会へとなった。
 怒涛の押し寄せる音に優雅で煌びやかなクラッシックで慣れた耳ではただただ目を見開き、息を詰めてその最初から全速力のスピードと誰もが休む間もなく手を動かす狂気の沙汰。だけどそれがただの音の暴力ではないように数ある楽器の音は揃いこれだけの情報だけどマイヤーのタクトに従がわせれて総て音は揃っている。
 これがマイヤーの実力。
 これがマイヤーの本気。
 世界で三指に数えられる天才コンダクターの真骨頂。
 正直に言えばマイヤーのタクトの指示が総ての頼み綱。
 楽譜は頭と体に叩きこんでどうしても走りがちになる弓はマイヤーの細やかな目配りで留められる。
 これだけの音の洪水の中を総て聞き分ける耳を持つマイヤーこそ天才と言うべきだと天才ともてはやされてここまで来たオリヴィエはまだまだ駆け上がる事が出来ると確信してマイヤーについて行く。
 ここでくじけないからこその天才だがそれに気付かなくかけて行けるからこその天才。
 この演奏会で全員がまた一つレベルアップをしたのは当然だろう。
 だけどそれよりも嬉しい事があった。
 演奏会に飽きて外に遊びに生きたそうだった子供達が最前列で隣に立つ大人の服にしがみついて真剣に聞いていてくれた。
 キラキラした瞳で耳を傾け、そのせいで口が半開きになっていたのが印象的だったが音楽に飽きた子供達の心をもう一度引き寄せる事が出来た。これ以上の嬉しい事はないだろうと喜びを集中力に変えてさらにスピードが上がり盛り上がる後半を駆け抜けて行った。
 最後はマイヤーもやりきったと言う様に汗をまき散らしてタクトを喜びに任せて放り投げる始末。それに合わせてブラボーと拍手喝采。やりきった奏者達は隣の奏者達と手を握りしめ、または抱き合って無事終わった事の喜びの表現は側で聞いていた人達をも巻き込むドラマとなっていた。

 綾人はこの時の興奮を余す事無く伝えてみた。
 かつてぼろくそに言われた表現力だったがイギリス留学で学んだ会話力はこのテーブルに着いた人達がじっと耳を傾けるくらいに熱がこもっていて……
「あれはあの場で体験した人達を変えるぐらいのパワーがあったな」
「そうだね。僕も小さい映画をまた撮りたくなっちゃったよ」
 忘れがたい一日はまだ胸に熱を灯し、そしてそれを羨む様に広がって行くのを擽ったくも誇らしく思う綾人だった。

 


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