人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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今年もありがたい事にスケジュールがいっぱいになりそうです 1

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 結局多紀さんは蓮司が一週間滞在して帰るのと同時に強制的に連れて行かれるのだった。帰りたくないと大黒柱にしがみつく多紀さんと三人の助手さんによる運搬と多紀さんの奥さんによるスマホからの脅は…… 説得。これがドナドナかというくらいの酷い別れの姿だった。
 もともと蓮司の事務所の社長さんからも蓮司の方にそう言われていたらしく、多紀さんも蓮司が来た事でそれぐらいの時間しか残されていない事と強制的連行も悟っていたらしい。通りで夜になると多紀さん達がぎすぎすしてたはずだと言うチーム多紀の恒例行事らしい。そんなもん恒例にするなと言いたかったがそこは何年も仕事をしていた者同士、口を挟まずともその条件だけで理解したと言うのならもっと早く言えと言う物だろう。
 この一週間の間に烏骨鶏小屋の二階の部屋に籠ったり、離れを独占したり、うちの飛び地の竹林や雑草畑、圭斗の家を始め内田さんや長沢さんの作業場を巡ったり、実桜さんと蒼さんのDIYしている家の見学や実桜さんの庭造り、炭焼き小屋から宮下の実家の店など陽のある時間はとにかく足を動かしてカメラを片手にうろうろとしていた。
 もうちょっと大人しくしろ、なんて言いたかったけど、理由が一週間しかない事が分れば納得だ。

「とにかく足を止める事がなくって大変だったんだ」
 くたくたになって帰ってすぐに五右衛門風呂からのご飯を食べたら少し寝て、深夜遅くまで執筆活動をするようにPCに向かってキーボードの音を響かせ、明け方今日はどこどこ行きたいと朝食の場はミーティングの場として無駄のない時間を過ごすのだった。
「まぁ、お前もフランスにいた時はそんな感じだったからな」
「ほんと一週間でそれを見終えた先生が羨ましい位の行動力でしたよ」
 呆れる先生と力強く頷く飯田さん。
 やだこのコンビ。いつの間に仲良くなったの?
 二人そろって俺をイジメに来るなんて聞いてない。聞かないけど。
「別に大してちょろちょろしてたつもりはないしー」
「たった一度の旅行でパスポートのスタンプを埋め尽くした人が何を言うのです」
「ページが少ないのが問題だと思いまーす」
 言われて振り返ればヨーロッパ周辺国はほぼ足を運んでいるのだ。オリオールの食器探しもあったとはいえカールの歴史の授業はざっくりとしか学ぶ機会のなかった世界史と比べてかなり偏った視点とは言え綾人にとっては初めて聞くことだらけで好奇心は止まらなかった。
「まぁ、それを見て先生はお前に生きた勉強を学ばせたいと思ったんだ」
 あ、話が変な方に向かって行った。
「はい。あの時の綾人君は物凄く生き生きとしていましたので。どうすれば止めれるのか頭を悩ませたし、ここで止めて良いのかも悩みましたし、結果見守る方にしましたが、まさか自給自足を目指していたと思っていたのにあんな爆買いをするとはさすがに想定できなかった結界なりましたので、今度は短期集中ではなく冷静に長期滞在型のスローライフが出来ればと思っております」
「その件については本当に申し訳ありませんでした」
 そして土下座。
 だって返って来た時沢村さんと樋口さんといつも通り鰻食べながらフランスからエドガーが送って来た領収書のコピーを見てお食事会から大反省会へと変化した。
 樋口さんとももう金額は数字上の数字でしかないと言う様に開き直って税金を計算してくれた。勿論資産価値として認められる金額なのでびっくりするほどの税金が今後も続いて行くとなり
「ランニングコストやベーwww
 これからもガチ稼せいでいかないとヤバいじゃんwww」
 これだけだと節税何て意味あるwww なんてどこか笑いのツボに嵌って悶える姿を見守りながら
「綾人君、そんな発想になるのは君だからだよ」
「この金額を見て動じない所かやる気を増すあたり若さだよな。
 我々の年齢になると残りの人生を数えて守りに入るからね」
 しみじみと言う二人に
「大丈夫です。ちゃんと二人の老後もお孫さんの大学資金と結婚資金ぐらい蓄えてもらうつもりなので」
 息子、娘を家から出してもまだ働けと言う事だろうか。
 なんとなく聞きたくても聞けなかった沢村と樋口だが、綾人の資産を他の人間に委ねるのは危険を通り越したレベルにあるのでいつ来るかわからなくなりかけている老後に向けてゴールはきっとあるともう少し頑張ろうと心で誓うのだった。

「それにいろいろ調べてみたんだけど、やっぱり知ると興味を持つって言うかさ」
 家を任せる事の出来る仲間を得て、そして好奇心のままどこにでも飛び出せることを覚えてしまった綾人は何処か大人びだ顔をして
「先生お薦めの大学行こうと思う。資料は俺も集めてるし、近いうち東京の塾に一度行って自分の学力を擦り合わせに行ってくる。そっちも手続きは終わったし、一週間ほど東京に滞在してくるから」
 勉強なんて高校以来だからどんなものだったか不安はあるし、まともに授業を受けた事もないので大学受験のレベルなんて正直言うと未知数だ。
 チーム北部の奴らを大学に入れる為にある程度のレベルは判ってはいるけど留学先の大学自体が分らないから
「多紀さんの人脈で留学した人がいるって言うから話も聞いてみたいしね」
 雪の問題が落ち着けば一度向こうに行って様子も見てきたい。
 なんだかんだ言って楽しみにしているような気がして恥ずかしいのもあるから言えないけど。
「良い傾向だ」
 それだけ言った先生は多紀さん達一行が居なくなって静かになった部屋の中で囲炉裏の炎を見つめながら
「折角勉強に行くんだから、勉強以外の事も沢山学んで来い」
 例えば学友とつるんだり、年相応にはしゃいで来いと願いつつそれはかなり困難な壁が立ちふさがっている事をすっかり忘れている三人だった。



 




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