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短期滞在の過ごしかた 3
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明るい室内には記憶の通り砂糖とバターの甘い匂いが広がっていた。部屋の至る所には庭で咲いていただろう花達が咲き乱れている。
甘い菓子と花のかおり、数か月前の記憶と変わらない様子に彼女が元気だった事に安堵している合間にも案内されたのは竈オーブンが鎮座するダイニングキッチン。
飯田さんは今さっきまで使われていたと言うようなぬくもりのある室内にスンスンと鼻を鳴らしながら
「パイを焼いていたのですか?」
どんなパイまでわかっただろうその嗅覚には何を焼いたのだろうか、料理の名前と香りが一致しない俺では習得できない世界に期待を膨らませてアビーを見上げれば
「ミンスパイよ。
ドライフルーツをたくさんもらったの」
言いながら味見をしてみてと試食をさせてもらうその合間に竈から灰を掻きだして新たに温め直し始める。
「ミンスパイもラブリーでしょ?
だけど綾人はレモンドリズルケーキを食べに来たのならいくらでも作るわよ」
チャーミングなウインクに俺は少しオーバー気味にやった後歓べば
「この間のケーキをロードと一緒に召しあがったのですって?
聞いたわよ~。
ロードがわざわざ私のこの家まで足を運んできて懐かしくって美味しかったって、一切れ貰うつもりだったのに沢山貰ってしまったって謝罪に来たのよ」
歌う様に笑いながらケーキを作る為の器具を次々に並べ、材料を計りで測り出す所で飯田さんが手伝いに入るのだった。
なんて気が利く子でしょう!ってアビーは大喜びでボールを三つ用意してくれた。
俺も飯田さんも一つずつ渡されて「?」なんて思っている間に卵を俺達のボールに割って入れた。
卵の重さを計ってアビーの指示の下、小麦粉、バター、砂糖、そしてベーキングパウダーを入れて飯田さんが軽量をしている間に俺はレモンの皮をすりおろしていた。
何で三つ?なんて思う合間にもアビーは軽量した側からボールにどんどん入れて行き、飯田さんが「うそでしょ?うそでしょ?!」なんて俺の期待を裏切らないリアクションで飯田さんは呟きながらも顔を引き攣らせその様子を見守っていた。
その後は手早くミキサーでかき混ぜて型に入れてオーブンへ。
待つ間に洗い物とお片付け、そしてアビーは庭から花を摘んできてテーブルをセッティング。
自分で刺繍したと言うテーブルクロスを敷いて中央に花を飾り、そして可愛らしいペパーミントグリーンのお皿の上に焼けたケーキを置いてレモンの香るアイシングをたっぷりとかけた。
「さあ!召し上がれ!」
晴れやかなアビーの笑顔はケーキを三つに切っただけの大雑把さに飯田さんの全身の毛が逆らったのを見た気がした。
ビジュアル的な面でそうなったのならまだ甘いぞ。
そう、このケーキの甘さを考えたらそんな事で驚くなんて甘々だ!
沸かしたばかりのお湯にたっぷりの紅茶の葉を入れ、しっかりと砂時計を使って時間を計って入れてくれたアッサムティーを最初に一口頂いて
「「いただきます!!!」」
どこかふるえているような飯田さんの声を聞きながら俺はこれ以上とない愛情という物を砂糖で表現したケーキを口に運んで、でもそこはプロ。驚きを総て美味しいと言う言葉で言い表すのだった。
ホテルのフロントでチェックインをすれば前回と同じ人が待ち構えてくれていた。
ただしその後ろにはにこにことした顔のしっかりと城主とした出で立ちのロードが居て
「綾人待ってたよ!
今回は友達も誘ってくれたと聞いて出迎えに来たぞ」
「ロード自ら!感激です!」
再会のハグ。
「先ほどアビーから今から綾人が向かうからと電話がかかって来てな」
元従業員であっただけにそう言った心づかいが温かい。
どこまでもアビーのふくよかな優しさに嬉しくて笑みが浮かべてしまう。
「あとアビーからあれを持たせたと聞いたぞ。
早速だが書斎で食べ比べをしようじゃないか」
飯田さんの顔が引きつり、そしてフロントの人の顔も笑顔が笑ってない素敵なお顔になる。
さすがにさっき食べたばかりでまたと言うのは今晩の食事に響きそうで……
「ええと、まだ見て回りたい所があるので。
そうだ!ロードには俺と友人の飯田さんが作ったケーキをプレゼントしたくあります!」
言えば目を見開き
「アヤト!君は永遠の友だ!」
「ロード、光栄です」
がっしと握手を交わすその横で神の舌を持つ飯田さんは鞄の中から二つのケーキを取り出してそっと魂の抜けた顔でロードに押し付けるのを見ないふりをする綾人だった。
甘い菓子と花のかおり、数か月前の記憶と変わらない様子に彼女が元気だった事に安堵している合間にも案内されたのは竈オーブンが鎮座するダイニングキッチン。
飯田さんは今さっきまで使われていたと言うようなぬくもりのある室内にスンスンと鼻を鳴らしながら
「パイを焼いていたのですか?」
どんなパイまでわかっただろうその嗅覚には何を焼いたのだろうか、料理の名前と香りが一致しない俺では習得できない世界に期待を膨らませてアビーを見上げれば
「ミンスパイよ。
ドライフルーツをたくさんもらったの」
言いながら味見をしてみてと試食をさせてもらうその合間に竈から灰を掻きだして新たに温め直し始める。
「ミンスパイもラブリーでしょ?
だけど綾人はレモンドリズルケーキを食べに来たのならいくらでも作るわよ」
チャーミングなウインクに俺は少しオーバー気味にやった後歓べば
「この間のケーキをロードと一緒に召しあがったのですって?
聞いたわよ~。
ロードがわざわざ私のこの家まで足を運んできて懐かしくって美味しかったって、一切れ貰うつもりだったのに沢山貰ってしまったって謝罪に来たのよ」
歌う様に笑いながらケーキを作る為の器具を次々に並べ、材料を計りで測り出す所で飯田さんが手伝いに入るのだった。
なんて気が利く子でしょう!ってアビーは大喜びでボールを三つ用意してくれた。
俺も飯田さんも一つずつ渡されて「?」なんて思っている間に卵を俺達のボールに割って入れた。
卵の重さを計ってアビーの指示の下、小麦粉、バター、砂糖、そしてベーキングパウダーを入れて飯田さんが軽量をしている間に俺はレモンの皮をすりおろしていた。
何で三つ?なんて思う合間にもアビーは軽量した側からボールにどんどん入れて行き、飯田さんが「うそでしょ?うそでしょ?!」なんて俺の期待を裏切らないリアクションで飯田さんは呟きながらも顔を引き攣らせその様子を見守っていた。
その後は手早くミキサーでかき混ぜて型に入れてオーブンへ。
待つ間に洗い物とお片付け、そしてアビーは庭から花を摘んできてテーブルをセッティング。
自分で刺繍したと言うテーブルクロスを敷いて中央に花を飾り、そして可愛らしいペパーミントグリーンのお皿の上に焼けたケーキを置いてレモンの香るアイシングをたっぷりとかけた。
「さあ!召し上がれ!」
晴れやかなアビーの笑顔はケーキを三つに切っただけの大雑把さに飯田さんの全身の毛が逆らったのを見た気がした。
ビジュアル的な面でそうなったのならまだ甘いぞ。
そう、このケーキの甘さを考えたらそんな事で驚くなんて甘々だ!
沸かしたばかりのお湯にたっぷりの紅茶の葉を入れ、しっかりと砂時計を使って時間を計って入れてくれたアッサムティーを最初に一口頂いて
「「いただきます!!!」」
どこかふるえているような飯田さんの声を聞きながら俺はこれ以上とない愛情という物を砂糖で表現したケーキを口に運んで、でもそこはプロ。驚きを総て美味しいと言う言葉で言い表すのだった。
ホテルのフロントでチェックインをすれば前回と同じ人が待ち構えてくれていた。
ただしその後ろにはにこにことした顔のしっかりと城主とした出で立ちのロードが居て
「綾人待ってたよ!
今回は友達も誘ってくれたと聞いて出迎えに来たぞ」
「ロード自ら!感激です!」
再会のハグ。
「先ほどアビーから今から綾人が向かうからと電話がかかって来てな」
元従業員であっただけにそう言った心づかいが温かい。
どこまでもアビーのふくよかな優しさに嬉しくて笑みが浮かべてしまう。
「あとアビーからあれを持たせたと聞いたぞ。
早速だが書斎で食べ比べをしようじゃないか」
飯田さんの顔が引きつり、そしてフロントの人の顔も笑顔が笑ってない素敵なお顔になる。
さすがにさっき食べたばかりでまたと言うのは今晩の食事に響きそうで……
「ええと、まだ見て回りたい所があるので。
そうだ!ロードには俺と友人の飯田さんが作ったケーキをプレゼントしたくあります!」
言えば目を見開き
「アヤト!君は永遠の友だ!」
「ロード、光栄です」
がっしと握手を交わすその横で神の舌を持つ飯田さんは鞄の中から二つのケーキを取り出してそっと魂の抜けた顔でロードに押し付けるのを見ないふりをする綾人だった。
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